二年生編・一学期前半

第43話・新ステージ開始

 ――ちっ、新学年早々忌々しい……恋人持ちリア充共は今すぐにぜろってんだっ!


 二年生に進級して二日目の昼休み。

 俺は携帯に送られてきたメッセージと一枚の写真を見ながら、心の中で思いっきり毒づいていた。

 そのメッセージと写真を送ってきたのは中学時代の友人で、俺とは別の高校へ通っている。だからこそ、最初は久し振りの連絡でテンションが上がっていたんだけど、途中から段々と女の子の話に移行していき、終いには恋人ができたという話になった。

 これで俺のテンションは一気に下がり、怒りのボルテージがMAXになったというわけだ。要するにコイツは、彼女ができた事を俺に自慢したかっただけなんだろう。まったくもって忌々しい。

 俺は携帯を胸ポケットに仕舞い込み、モヤモヤした気分で窓の外を見る。

 偶然にも俺の席は一年生の時と同じく窓際の一番後ろで、中庭の様子がよく見える位置だった。


「ちっ、こっちもこっちで忌々しいな……」


 中庭には相変わらず、青春を謳歌する恋人持ちリア充共がひしめき合っている。

 俺はそんなリア充共を、鋭い眼光で射抜く様に見ていく。今なら殺気に満ちたこの視線に目を合わせただけで、リア充共を抹殺できそうな気分だけど、残念な事に誰一人としてこちらに視線を向ける者は居ない。

 なぜならみんな、既にその視線を奪っている相手が居るからだ。


 ――くそっ、みんな楽しそうにしやがって……ああーっ、突然大雨が降り出してリア充共がずぶ濡れにならないかなあ!


「龍ちゃん龍ちゃん。そういうのは口に出して言わない方がいいよ?」


 その声に振り向いた先には茜が居て、若干引いた感じで俺を哀れむ様に見ていた。


「…………ど、どの辺りから口に出してた?」

「えっとね、『くそっ、みんな楽しそうにしやがって……ああーっ、突然大雨が降り出してリア充共がずぶ濡れにならないかなあ!』ってところまでかな」


 ――なんてこった……一番アカン部分を口走ってるじゃねえか俺は。


 そんな事を思いながら、自身の失態を誤魔化す様にコホンと咳払いをする。


「ま、まあアレだ。全てはリア充共が悪いって事だなっ!」

「龍ちゃん……」

「や、やめろっ! そんな目で、そんな目で俺を見るんじゃねえっ!」

「どうしたの茜ちゃん? また龍之介が変な独り言でも言ってたの?」


 まひろの中の俺は、変な独り言を言う奴――という認識なのだろうか。だとしたら結構ショックだ。


「まひろまでそんな事を言うのか? 親友なのに悲しいぜ……」


 俺は打ちひしがれたフリをしながら窓の外を見る。なるべく哀愁漂う感じに、背中で語るのがポイントだ。


「あっ、ごめんね、龍之介。そういうつもりじゃなかったんだけど……」


 ――よしっ! 効果は抜群だっ!


 窓に映るまひろは、とてもすまなそうな表情をして俺を見ていた。ホントにまひろはいい奴だ。


「まひろ君が謝る必要は無いよ。本当の事なんだから」


 まひろとは対照的に、窓に映る茜はニヤリと笑みを浮かべて俺を見ていた。

 残念ながら茜には、俺の哀愁攻撃は微塵の効果も無かったみたいだ。さながらロールプレイングゲームにおける魔王の如く、茜にはこの手の攻撃が一切効かないらしい。

 だが、このまま茜をのさばらせておくのも面白くない。俺は劣勢状態を打破すべく、茜の決定的な弱点を攻める事にした。


「はあっ……茜は相変わらず可愛げが無いよなー」

「な、何よ急に……そんなこと無いもんっ!」


 ――かかったな。


 俺の挑発に乗った茜を見て、思わずニヤリと笑みがこぼれる。

 コイツの決定的な弱点。それは、煽りに弱い事だ。まあ、普通に考えたら決定的と言うよりも、致命的とでも言うべき弱点だと思う。


「へえ~。それじゃあ、茜のどこに可愛げがあるのか教えてくれよ。俺にも分かるように、懇切丁寧こんせつてにねいにさ」


 俺は更に口角を上げながら茜に言い迫る。わざわざ自分から罠にかかってくれたんだから、このチャンスを見逃す事はできない。

 心の中でほくそ笑みながら茜を見ていると、当の本人は『えーっと、えーっと……』と繰り返しながら、生真面目に俺の質問に答えようとしていた。


「うーん? どうした茜~? 何も出てこないのか?」


 ここぞとばかりに、俺は茜を攻め立てる。

 弱みを見せた者はやられていく。それが世の中の真理というものだ。


「ぐっ……あ、あるもんっ! た、例えば…………」

「例えば~?」

「う、うさぎのぬいぐるみと一緒に寝てる――とか」

「えっ? お前、ぬいぐるみと一緒に寝てるのか?」

「そ、そうよっ! 悪いっ!?」


 どんな苦し紛れの発言が飛び出すかと思って楽しみにしていたけど、これはかなりの衝撃発言だ。


「ぷふっ! 高校生にもなってぬいぐるみと一緒に寝てるとか、どんだけお子様なんだよ。ぷぷぷっ」

「わ、笑わないでよねっ!」

「これが笑わずにいられるかってんだよ!」


 そこでまでで止めておけば良かったのに、俺はつい、止めの一言を言い放ってしまった。


「なっ!? 龍ちゃんの……バカ――――――――ッ!」

「ぐほっ!?」


 俺のお腹に茜の高速ボディーブローが炸裂した。

 最近の茜はパンチの鋭さと重みが増し、こうして俺の負うダメージは回数を重ねる度に増大している。

 しかし、最初こそお腹以外を狙わないのは茜の気遣いかと思っていたけど、それは俺の大きな勘違いだった事が最近分かった。なぜなら茜は、『傷やあざができても、目立たない所を狙わないとね!』と、先日言っていたからだ。


「く、くそう……今日も防ぎきれなかったぜ…………」

「今のは龍之介が悪いよ? いいじゃない、ぬいぐるみを抱いて寝るくらい。僕は可愛いと思うよ?」

「そ、そうか?」


 腹を押さえて立ち上がりながら、俺はまひろがぬいぐるみを抱いて寝ているところを想像してみた。


 ――うん! ありだなっ!


 自分の想像の中に居る、ぬいぐるみを抱いたまひろの姿を絶賛する。

 その姿はもう、言葉では言い表しようが無い可愛さで、俺の脳内まひろを映像として見せてやれないのが残念なくらいだ。


「今日も賑やかでいいですね」


 フラフラと立ち上がった俺のもとに、美月さんがいつもの優しげな微笑みを浮かべながらやって来た。


「茜さんと龍之介さんはいつも面白い漫才をしているので、見ていて楽しいです。先ほどの様なやりとりを、どつき漫才――って言うんですよね? 最近杏子ちゃんに教えてもらいました」


 ――いやいや。あれは圧倒的力の差による暴力って言うんですよ? 美月さん。それから杏子、俺の知らないところで美月さんに妙な事を教えるんじゃありません。


 当然そんな事を口にできるわけもなく、俺は美月さんの言葉に苦笑いを浮かべながら『そうだね』と答えた。

 こうしてまた、騒がしくも平凡な日々が始まった。今度こそ俺はこの平凡な日常を抜け出し、ラブコメの日常を手に入れられるだろうか。

 いや。もう高校二年生になったんだから、俺はこのセカンドステージで、今度こそ実現させてみせる。夢のラブコメストーリーを。

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