第183話・最初の出来事

 妙な異変を最初に体験したのは、ショッピングモールでワンピースを買って間もなくの事だった。あれからたまにだけど、部屋の中で激しい眠気に襲われて眠ってしまう事があり、気が付いたら今までに買ったお洒落着を着たままベッドの上で眠ってしまっている事が何度かあった。

 そして私はその度に、何でお洒落着に着替えてるんだろう――と、不思議に思っていた。だって私には、眠る前にお洒落着に着替えた覚えなんて一度も無かったから。

 こんな感じで妙な事が何度か続いたあとの、七月中旬の日曜日の早朝。その出来事は唐突に起こった。


 ――今日は久しぶりに龍之介君とのお出掛けだから、楽しみだなあ。


 私は今日、龍之介君とお買い物に行く約束をしていた。目的は私のお母さんの誕生日プレゼントを買う為だけど、龍之介君と約束を交わしてからずっと、私は日曜日がやって来るのを心待ちにしていた。

 もちろん私が女性だと知らない龍之介君からすれば、ただ友達と買い物に行くだけの事だろうけど、私にとっては龍之介君とのデート――みたいなものだ。

 自身の性別を偽っておいてデートなんて思うのは卑怯だと思う。けど、こうでも思わないと、自分の中にある龍之介君への想いが溢れ出しそうで苦しくなってしまう。

 適切な表現が分からないから変な言い方になるかもしれないけれど、言ってみれば龍之介君とのお出掛けは、私にとって最高の気分転換であり、最高に嬉しくて楽しい時間の過ごし方で、最大のストレス解消法なのだ。

 とは言っても、やっぱり好きな人と一緒に居る時間は凄く緊張するし、心臓がドキドキとうるさいくらいに高鳴って困ってしまうという一面もあったりする。それはもう、いつかこの胸のドキドキが龍之介君に聞こえちゃうんじゃないかなと思うくらいに。


「着て行く服も早く決めなくちゃね」


 女性用の可愛らしい洋服を着る事はできないけど、できる範囲のお洒落で良い感じに仕上げたい。せっかくの龍之介君とのデート――みたいなものだから。

 色々な洋服をクローゼットから取り出し、自分の身体に当てながら全身鏡で組み合わせを見ていく。


「――うん。こんな感じでいいかな」


 いくつか組み合わせを見て最適だと思う洋服をチョイスした私は、それをベッドの上に置いてから他の洋服をクローゼットに仕舞い始めた。


「あっ……」


 出していた最後の洋服をクローゼットの中へと仕舞った時、一つの洋服が目に映った。それは、少し前にショッピングモールで衝動買いをした時の白のワンピース。私は自然とそのワンピースを手に取り、クローゼットから出した。


 ――このワンピースを着て行ったら、龍之介君はどんな反応をするかな……。


 似合ってない――なんて言われたらショックだけど、でも、例え似合っていなくても、龍之介君はそんな言い方はしないと思う。ちょっと口の悪いところもあったりするけど、しっかりと相手の事を考えている人だから。

 でも、そうは思っていても、やっぱりそんな事はできない。できるわけがない。


 ――できればコレを着て行きたいけど、無理だもんね……。


 大きな溜息を吐いてからワンピースをクローゼットへ戻そうとしたその時、私は突然激しい眠気に襲われた。


「あっ……まただ……」


 突然の激しい眠気に襲われ意識が薄れ始めた私は、おぼつかない足取りで近くの壁に寄り掛かった。


「何でこんな時に……」


 せっかくの龍之介君とのお出掛けなのに、どうして今こんな事になっちゃうんだろうと、私は顔をしかめながらその強烈な眠気に耐えていた。


『お姉ちゃん。そんなに無理しないで。あとは私に任せておいて』


 襲って来る眠気に必死であらがっていたその時、私の中にとても優しげな声が聞こえてきた。

 そしてその優しげな声を聞いた瞬間、なぜかほっとした私の意識はまどろみの中へと落ちて行った。

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