第251話・夢見た関係
茜や四季さんこと
「よし、これでOKっと……おっと!?」
るーちゃんへメッセージを送った次の瞬間、当の本人からメッセージが来てちょっと驚いてしまったが、俺はそのまま送られて来た内容を見た。するとそこには、『この前は急に帰ってごめんなさい。もう一度ちゃんとお話をしたいので、これからこの前の公園でお話できないかな?』と書かれていた。
その内容を見てすぐるーちゃんに返信をすると、返信内容を送った瞬間、またるーちゃんからメッセージがやって来た。そして新たに送られて来たメッセージには俺が最初に送ったメッセージに対する返答が書かれていて、その内容を見た俺はまたすぐるーちゃんに返信を送り、急いで家を出て指定の公園へと向かった。
× × × ×
以前よりも陽が沈むのが遅くなってきたとはいえ、まだまだ夏に比べれば陽が沈むのは早い。現に辿り着いた公園でるーちゃんを待っているこの瞬間にも、辺りは暗さを増してきているのだから。
公園に二つあるブランコの一つに座り、るーちゃんがやって来るのを待つ間、俺はじっと空を見つめて心を落ち着かせようとしていた。今回は前の様にモヤモヤした気持ちのままで終わるわけにはいかないし、絶対にお互いがスッキリする形にしたいからだ。
「待たせてごめんなさい!」
その声が俺以外に誰も居ない公園の出入口から聞こえてきた瞬間、心臓がドキッと大きく跳ねたのが分かった。落ち着かせていた気持ちが一気に揺り動かされ、焦りや動揺に変わっていく。
このままではいけない――そう思った俺はブランコから立ち上がって大きく深呼吸をし、その後でるーちゃんの方へと身体を向けた。
「来てくれてありがとう、るーちゃん」
「ううん、私の方こそ、来てくれてありがとう」
る―ちゃんのそんな言葉を聞いた俺は、自分の中にあった緊張感が少しだけ和らいだ様な気がした。
「えっと……るーちゃん、先に話をしてもいいかな?」
「う、うん……」
その言葉にるーちゃんが表情を強張らせたのが分かった。しかし緊張しているのは俺も同じで、きっとるーちゃんには俺の表情が強ばっている様に見えているに違いない。
「あのね、るーちゃん、俺はるーちゃんの事が好きだ!」
「えっ!?」
「好きだから戸惑ってしまったんだ、この写真が三学期初日の放課後に下駄箱に入ってて、もしかしたら俺以外に好きな人ができちゃったのかな――って思っちゃったからさ……」
俺はそう言って持って来ていた写真をるーちゃんに手渡した。
「これがたっくんの下駄箱に?」
「うん」
「……実はね、私の下駄箱にも三学期初日の朝に写真が入ってたんだけど、私それを見て、たっくんの好きな人ってこの人なのかな――って思っちゃったの。だからこの日にその事を聞こうと思ったんだけど、勇気が出なくて聞けなかったの……」
そう言って上着のポケットから写真を取り出すと、るーちゃんはそれを俺に手渡して見せてくれた。そしてその差し出された写真は霧島さんが見せてくれた写真と全く同じ物で、俺が
「そうだったんだ……この写真に写っている子はね、妹の杏子と同い年の従妹なんだよ。杏子と一緒でまだまだ甘えん坊な子でさ、こっちに遊びに来ると杏子と一緒になってこんな事をするんだよ」
「そういう事だったんだ……あっ、えっとね、たっくんの持ってた写真に写っている人はね、お母さんと再婚する予定の人の息子さんなの。結構前から家族間の付き合いをしてて、とっても優しくて良い人なの、私を本当の妹みたいに可愛がってくれてるし。それでね、ちょうどクリスマスイヴ前にたっくんに何をプレゼントしようか悩んでいる時があって、その時に意見を聞きたくて買い物に付き合ってもらった事があったの」
「そっか、これはその時に撮られた物だったんだ……」
お互いに嫌がらせの写真に踊らされていたとはいえ、俺がもっとるーちゃんを信用して話を切り出していれば――そう思うと悔やんでも悔やみきれない。
「ごめんねるーちゃん……俺がこんな写真に動揺してなければ――ううん、るーちゃんがクリスマスイヴに告白してくれた時に、俺がハッキリとるーちゃんの事が好きだって言えてればこんな事にはならなかったのに……」
「ううん、そんな事ないよ、たっくんは何も悪くない。だってそんな写真を見ちゃったら、自分の気持ちなんて言えなくなっちゃうよ。それに私だって、たっくんの写真を見た時に思っちゃったもん、もしもこの子がたっくんの好きな子だったら、どうして私と一緒にクリスマスイヴを過ごしてくれたのかな――って」
「そっか、俺達お互いに変なところで遠回りと誤解をしてたんだね」
「うん、でも良かった、小さな頃みたいにすれ違ったままで終わらなくて……」
「俺もそう思うよ」
そう言ってお互いに小さく笑顔を見せ合う。そしてるーちゃんが見せてくれた笑顔は俺の好きなとても柔和な笑顔で、それを見た俺はなんだか肩の力が抜けた気がした。
「……るーちゃん、改めて言うけど、俺はるーちゃんの事が好きだ。これからも俺の近くでその笑顔を見せてほしい、だから俺と付き合って下さい!」
「うん……うん……ありがとう……たっくん……」
俺の告白を聞いたるーちゃんの瞳から、
「ど、どうしたの!? 俺、何か泣かせる様な事を言った?」
「だって……だってたっくんに想いを受け入れてもらえるなんて思ってなかったんだもん……絶対にたっくんとは結ばれないって思ってたんだもん……私はたっくんを傷付けたんだから……」
るーちゃんにとってあの出来事は、本当に大きな傷だったんだろう。それは俺にとっても同じではあるけど、俺を守る為に心にも無い事を言ったりやったりした事でずっと後ろめたさを抱えていたるーちゃんの事を思うと、今はその事がとても愛おしく感じる。
「るーちゃん、前に少し話したけど、あの時はお互いに子供だったんだ、そしてるーちゃんはあの時の自分に出来る事を精一杯やってくれた、それは十分に分かってるから、もうそんなに自分を責めないで、ねっ?」
「うん……ねえたっくん、本当に私でいいの? 私なんかでいいの?」
「るーちゃんがいいんだよ、いや、るーちゃんじゃなきゃ駄目って言うのが正しいのかな。そう言うるーちゃんこそ、本当に俺なんかでいいの?」
「うん、たっくんがいい、たっくんじゃないと駄目」
「そっか、それじゃあこれからは、恋人としてよろしくね?」
「うん……私こそ、よろしくお願いします」
街を茜色に染めていた夕陽が落ち、辺りを闇が染め切った頃、輝き始めた星の下で俺達は恋人になった。
× × × ×
「どうしてお前がここに来るんだよ……」
るーちゃんとお互いに気持ちを確かめ合ってから二週間が経った。
俺は今日、るーちゃんとデートをする為に駅前のスイーツ屋の中で待ち合わせをしていたんだけど、なぜか俺の前にはるーちゃんではなく茜が座っている。ちなみに今日のこの待ち合わせ場所を指定したのは、他でもないるーちゃんだ。
「あー、龍ちゃんてば約束を忘れてるわけじゃないよね?」
「約束? 何かしてたっけ?」
「やっぱり忘れてる……ほら、相談料としてパフェを奢ってねって言ったじゃない」
「ああー、そういえばそんな事もあったな。でも今日はるーちゃんとデートなんだよなあ」
「知ってるよ、瑠奈ちゃんに聞いたから」
「えっ? そうなのか?」
「うん、とにかく瑠奈ちゃんにはちゃんと許可取ってるから、龍ちゃんは気にしないで私にパフェを奢ってくれていいよ」
――何だかよく分からないけど、るーちゃんが許可したならいっか。茜にも世話になったのは確かだし。
「分かったよ、好きなパフェを注文してくれ」
「よしっ! 食べまくるぞー!」
「おいおい、ちょっとは手加減してくれよ?」
「心配しなくても大丈夫だって♪」
大丈夫――なんて答えはしたが、茜はこの後すぐに三つのパフェを注文した。
――コイツ絶対に分かってないよな……。
俺はそんな茜を止める事なく、いつもの事だと諦めて小さく息を吐いた。どうせ止めたって止まらないだろうから。
「ところで龍ちゃん、瑠奈ちゃんとはどう? 上手くやってる?」
「上手くやってるも何も、まだ付き合い始めてから二週間だぜ? 色々と分からない事は多いよ、正直、上手くいってるのか今は分からない感じだな」
「でも、特に問題があるわけじゃないんでしょ?」
「まあな」
「それなら上手くいってるって事だよ」
「そんなもんか?」
「うん、そんなもんだよ」
あっけらかんとそう答える茜を見ていると、そんなもんなのかなと思えてくるから不思議だ。
そしてそんな話をしながら待つ事しばらく、注文したパフェが来ると、茜はそれを食べながら更に色々な事を聞いてきた。その内容は主にるーちゃんとの付き合いについてだが、女子って本当に色恋沙汰の話が好きなんだなと思った。
「――ああ~、美味しかった~♪」
一時間もしない内に注文したパフェを食べ終わった茜は、とても満足そうな表情をしていた。
「相変わらずすげーな……俺だったら一人でこの量は食えねーわ」
「女子ならこれくらいは平気な人が多いんじゃないかな? 甘い物が苦手じゃなければね」
「るーちゃんもこれくらい食べられるのかな?」
「さあ? でも甘い物は好きだって言ってたから大丈夫なんじゃないかな? あっ、でも彼氏の前じゃ遠慮して食べないかもだけどね」
「そういうもんなのか?」
「そりゃあそうだよ、だって彼氏の前でパクパク食べるなんて恥ずかしいじゃない」
「そういうもんなのか?」
「そうそう、だから彼氏は彼女のそういった欲求を上手く満たしてあげないと駄目なんだよ?」
こういった事については流石は女子だと思える。女子の気持ちは男には分からん部分も多いから、こういった機会に女子の心理というのを知っておくのも勉強になる。
「分かった、肝に銘じておくよ」
「よろしい♪ あっ、それじゃあ私はそろそろ行くね、瑠奈ちゃんとのデート、楽しんでね?」
「おう、ありがとな」
「……ねえ龍ちゃん、瑠奈ちゃんの事、好き?」
席を立って店を出ようとしていた茜が、俺の横へ来た時にピタリと止まってそんな事を聞いてきた。
「何だよ急に?」
「いいから答えて」
「……好きだよ、るーちゃんが大好きだ」
「そっか……うん! それならよろしい! 私も二人の背中を押した甲斐があったよ、それじゃあね!」
一瞬複雑な感じの表情をしたあと、それを打ち消すかの様な満面の笑顔を浮かべて茜は去って行った。あの質問と表情にどんな意味があったのかは分からないけど、俺の気持ちを聞いて茜が何かを納得してくれたならそれでいいと思う。
茜が去ってから数分後、俺はるーちゃんからメッセージをもらい、よく待ち合わせに使っている時計搭下へと向かった。
「――お待たせ!」
「あっ、今日はごめんね、何も伝えなくて」
「ホントにビックリしたよ、店にるーちゃんじゃなくて茜が来た時はさ」
「ごめんね、でも二人には気兼ね無く話をしてほしかったから」
「今でも気兼ね無く話をしてると思うけど?」
「もう、たっくんは相変らず鈍感だなあ……」
「そう? 言われるほど鈍感とは思っていないんだけどなあ」
「そう思ってるのはきっとたっくんだけだよ」
「そっかなあ……でもまあ、るーちゃんのおかげで茜との約束も果たせたから良かったよ、ありがとね」
「ううん、私も茜ちゃんには色々と話を聞いてもらってお世話になってたから」
これはるーちゃんと恋人になったあとに聞かされた話だが、茜は俺とるーちゃんの写真事件について色々と立ち回ってくれていたと聞いた。どうりであの日、都合良くるーちゃんから『話がしたい』なんてメッセージが来たわけだ。
「お互いに茜には感謝しないとね」
「うん、本当に茜ちゃんには、感謝してもしきれないくらいだよ……」
「そうだね」
「うん……あっ、たっくん、早く行かないと映画の時間に遅れちゃう、早く行こっ♪」
「あっ、ちょ、ちょっと――」
るーちゃんは優しい笑顔を浮かべてから俺の右手をギュッと握り、少し急ぎ足で歩き始める。そして俺もそんなるーちゃんの手をギュッと握り返し、その手の温もりを感じながら自然と顔を綻ばせていた。
アナザーエンディング・朝陽瑠奈編~Fin~
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