第162話 プランB ③

 団長率いる『ワイルドワイルドウェスト』軍団が地下道を爆走し、ウィズの誘導をしっかりこなしている一方、エイトヒルズの対クロー作戦は完全にノンさんが受け持つ形へと変わっていた。


「なかなか、やるっ!」

「うっさい! 筋肉ダルマ! ちょっとは女性相手に忖度しなさいよ!」

「異なことを言う! そこまで優れた戦士としての資質を示して加減をしろと? 笑止!」

「アタシは戦士なんて名乗ってないわよ! こちとら国家公務員! 単なるDEKAなの!」

「戦う力を持っている以上、それは戦士と呼ぶべき存在だ!」

「あーもー! 面倒臭い!」


 妙にハイテンションなクロー相手に、ノンさんは丸太のような両手両足から繰り出されるパンチやキックを、山さんが強化改造した警棒でさばいている。


 警棒で受け流し弾く度に、ガッキンガッキンと生身の体を叩いたとは思えない音を出し、一発一発に込められた馬鹿力によってノンさんの体勢が崩されていく。


 だが、ノンさんはその流れに逆らわず、その崩される状態まで利用し、むしろ逆に攻める手数を増やしてクローの笑みを深める結果を産み出していた。


 当初は不動が受け持っていたが、彼ではクローの猛攻を防ぎきれず、ジリジリと体力を削られドロップアウトする寸前まで追い詰められてしまい、慌てて駆けつけたノンさんがスイッチする形で現在の形へと持っていった。どうやらこの場所で一番厄介な戦力であると認められたようで、今のところノンさん以外のプレイヤーにクローが意識を向ける様子はない。


 クローとノンさんの激闘を横目に見ながら、お役御免となってしまった不動は、現在旗色の悪いイリーガル探偵達を建て直すべく奔走している。


「チョースケ! 一旦下がれ! 左右ちょい前進! 各ギルド! 圧力が減ってる! もう少し弾幕を厚くしろ!」


 自分の不甲斐なさに、ついつい八つ当たり気味な指示だしになるが、出されている指示はまともなので誰もが文句を言わずに従う。そんな感じに何とか状況を整えていると、姿を消していたダディの支援射撃が始まった。


 フィクサーの支援部隊の中で指示を出している敵を中心に狙撃をし、押され気味だった中央の状況を押し返す。


「チョースケ前へ! 手の空いてる奴も中心に向かえ! 押せ押せ!」


 状況の変化に不動が鋭く指示を出し、何とかなりそうな空気感に溜め息を吐き出す。


「……これは予想外だったかもしれないな……」


 自分と同じイリーガル探偵達の奮闘と、ダディとノンさんの戦い、その二つを比較して不動は溜め息を吐き出す。


 ダディとノンさん、突出したプレイング能力を持つトッププレイヤー層と、まだまだ拳銃という武器に慣れていない、即席暴力装置であるイリーガル探偵を比較するべきではないが、それでもここまで明確な戦力の解離があるのかと、絶望的な気分になる。


 不動としてはDEKAやYAKUZAにはさすがに届かないだろうが、それでもそれなりに戦える職業である、という希望的観測があったのだ。それがどうだろうか、DEKAやYAKUZAの劣化なんてもんじゃない、絶望的に微妙なラインの戦闘能力だった事が判明した感じだ。


「これ、頑張ればどうにかなるレベルに届くのか?」


 クローの達人級のジークンドーを、レベルやステータス的補正があるだろうが、女性の細腕と頼りないくらい細い警棒で戦い続けるノンさん。ピンポイトに状況を一変させる狙撃をし続けるダディ。そのあまりに遠い高みに、不動は項垂れながら溜め息を吐き出す。


『不動、聞こえるか?』

「っ!?」


 そんなうちひしがれている不動に、テツから通信が入り、慌ててイヤホンマイクを操作する。


「聞こえてる」

『おう。ベイサイドの「ワイルドワイルドウェスト」がプランBを実行してる。もうすぐ地下道を抜けて、ウィズをそっちへ引っ張ってくるはずだ』

「……」


 テツの言葉に不動はますます落ち込む。


 作戦会議の時、あそこまで露骨な挑発をするんじゃなかった、とか遅すぎる後悔をしながら、何とかわかったと返事を返す。


『おう。それと団長からの提案で、エイトヒルズに予備戦力として投入していた初心者枠のDEKAプレイヤーに、そちらへ援護へ入るよう要請をした。それでそちらは状況的に落ち着くだろう。それまで耐えてくれよ』

「……」


 ますますイリーガル探偵の価値が落ちるような事を言われ、不動は何とも言えずに疲れた溜め息しか出なかった。


『聞こえてるか?』

「……聞こえてる」

『どうしたよ? 妙に暗い声出しやがって』

「……嫌、役立たずだな、って思ってな」

『……はぁ』


 不動のぼやきにテツが呆れた溜め息を吐き出す。


『お前は馬鹿か?』

「……悪いかよ」

『悪いだろ。お前、他の職業の連中がどれくらい苦労したか分かってねぇだろ? それこそDEKAプレイヤーがここまで活躍出きるようになったのって、本当に直近の出来事だぞ? イリーガル探偵が出現してから数日レベルで、その職業の強みやらテンプレート的な運用方法が見つかる訳がねぇだろうがよ』

「……でも」

『あー面倒臭ぇ……とりあえず、そこを支えろ! 悩むのはイベントが終わってからにしろ!』


 不動はやるせない表情で空を見上げながら、遠くの方から聞こえてくるサイレンの音をぼんやりと聞くのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーー


「なぁなぁ、俺達が戦力になるのかな?」


 作戦本部からの要請を受けたDEKAプレイヤー達が、作戦本部が用意した大型車両に乗り込み、『不動探偵事務所』とフィクサー支援部隊が戦っている現場に向かっている最中、一人のDEKAプレイヤーが不安そうに相席となった初対面のプレイヤーに問いかける。


「正直、不安、かも」

「だよね」


 分かる分かるとお互いの不安を告白し合っていると、前後の席に座っていたプレイヤーが身を乗り出して会話に参加してきた。


「でもさでもさ、一応、即席だけど、ブートキャンプに参加出来たわけだし、何とかならないかな?」

「どうだろう……確かに動画だと分からなかった部分を、ユーヘイニキから直接助言を受けた事で補完出来たとは思うけどさ……本番でも同じ事が出来るか不安だなぁ」

「あー、確かに」

「でも、主役は『不動探偵事務所』なんだろ? だったら俺達がやる事って、後ろからパンパン援護射撃する程度なんじゃ?」

「それなら安心か?」


 そんな不安を話し合っていると、周囲のプレイヤー達も巻き込み、話し合いがどんどんと大きくなっていく。


「なぁなぁ、ここに回ってるって事は、どこか特定のギルドに所属している訳じゃないんだろ? ならさならさ、このメンツでギルド作らないか? それならこのメンツで動けるし、心強いと思うんだけど」

「「「「あーそれ良いかも!」」」」


 不安を語り合い、それぞれが抱えているマイナスな部分を分かり合えたという一体感で、ギルドが発足される。まさに団長が誘導したような形へと落ち着いていく。


「これなら何とか戦える、と良いなぁ」

「そこは言いきろうよ」

「頑張ろう! 多分、色々とフォローはしてくれるとは思うけど」

「もっと上手くなりたいなぁ」

「それはもう訓練し続けるしかないよね」

「ゲームやってるだけなんだけど、もうほぼ仕事のようになってる不具合」

「そこはまぁ、VRゲームだからちかたないね」


 ソロじゃない、その認識は大きく、それまでどこか悲壮感が漂っていた車内に、どこか弛緩した空気が漂う。


「よし、頑張ろう」

「おう。ユーヘイチルドレンの実力を見せちゃる」

「そこまで深い師弟関係にないけどね」

「それは言わないお約束」

「「「「はははははは!」」」」」


 このようの現象は他の車両でも生まれており、思いきってギルドまで、というのは少数であったが、それでも多くのパーティーが誕生したのだった。

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