第296話 旋風 ⑥
ゲーム内AI『GMちゃん』待機所――
『ほら、お前らが大好きなドラマチックな展開が待ってるぞ。好きに料理してみせろや』
面倒臭い仕組みを大量にばら撒き、こちらのシステムの穴を突くような古臭い手練手管で、全く目標犯罪者の捕捉が出来ずにイライラしていたところへ、待望の、本当に待望の瞬間を目の当たりにした彼女達は、大田 ユーヘイという特異点プレイヤーの、このゲームの大恩人である愛すべきプレイヤーの言葉に、文字通り待機所が揺れた。
「「「「ガンホー! ガンホー! ガンホー! ガンホー! ガンホー!」」」」
良く分からない勘違い野郎犯罪者に運営を滅茶苦茶にされ、更には外部から妙なアクセスが集中し、その対応にも苦心しまくり、フラストレーションが溜まりに溜まりまくったAIちゃん達は、ハイライトが消えた瞳で熱狂的に吠えまくる。
「静まれーぃ!」
そんな中、白い髪の毛に白く長いヒゲを生やした、外見上は完全なる美少女が、まるで長老でも気取るような雰囲気で、熱狂する仲間達の前に立った。
「まずは進捗の確認じゃ! 外部班!」
いつの間に用意したのか、節くれだったいかにも長老が持ちそうな杖で、一部のAIを差す。
「はっ! VR研究の権威を詐称する三流大学出身の詐欺師は、こちらに違法アクセスを仕掛けた段階で警視庁の特別対策室に通報。すでに違法アクセスの件と、VR機器違法改造の現行犯で逮捕されています!」
まるで軍人のように、ビシッとした直立不動の姿勢で報告をする少女に、長老は重々しく頷く。
「善き哉、善き哉。不正ツール対応班!」
ついで別のAIに杖を差すと、指名を受けたAIは『イエスマム!』と崩れた敬礼をしながら、やはり直立不動の姿勢で応じる。
「今回使用されたツール『不死身』は、四世代前の粗悪品でした。それとこちらのシステムにハッキングし、ゲーム内通貨を不正に増加させる『造幣局』も同じく四世代前の代物です。あまりにも古いバージョンであったため、少し対応が遅れましたが、そろそろ切れます。そうなれば、『造幣局』で増やした現金は消えますし、依頼料としての拘束も効果を失いますから、犯罪系NPC達は一斉に離反するでしょう。また、他のツールを持っている可能性も考慮し、リバーサイドにだけ部分システムアップデートを実施中。最新から旧世代、ファーストジェネレーション時代の不正ツールを即時排斥する『ティンダロスの犬』を発動させる予定です」
『ティンダロスの犬』の言葉が出た瞬間、それまで熱狂していたAI達が非常に嫌そうな表情を浮かべる。
「あーそれは大丈夫なん?」
長老プレイが頭から抜けたように、長老が心配気に聞けば、質問に答えていた少女がニヤリと笑って頷く。
「『オモイカネ』様が直接、だそうです」
少女の答えに、多くのAI達が『うぅーうぅー』と恐ろしい事を茶化すような声を出す。
「なるほどなるほど、それはご愁傷さまだの」
長老である事を思い出したのか、白いヒゲをしごくように撫でながら、うむうむと頷く。
システム『ティンダロスの犬』とは、SIOから続く不正ツール対策の究極形態で、不正ツールを所有するプレイヤーの死角から出現し、完全データ破壊とアカウントBAN、国民IDの即時停止からの警視庁特別対策室への直中通報という恐ろしコンボを差す言葉である。そして、この完全データ破壊というのがAIにも適用される事があり、彼女達が嫌そうな表情をした原因だ。ただ、今回はシステム『オモイカネ』が直接天誅を下すとあって、それなら安心だねと納得した感じである。
「茶谷 ミーコちゃん、本名、東谷 姫子ちゃん及び来須 リョータ君、本名、谷田 良太君の情報はどうかな?」
長老がうむうむと頷きながら、別のAIに聞けば、指名を受けたAIは掛けてないメガネをクイクイと持ち上げる振りをしつつ、手元にファイルを出現させて、出来る秘書風な感じに報告をする。
「はい、そちらは天照正教のかむなぎとかんなぎから正確な物が届いてます。そこで実の娘の髪の毛引っ張ってるクソ野郎父親の、クソな情報もですが。それとリョータ君の家庭も色々と重い問題有りですね。彼らを発見したのは、さすユーって感じです。
「ならば、我々は
重々しい長老の宣言に、再びAI達の熱狂的な声が上がる。その様子に長老は満足そうに頷き、オーケストラの指揮者のように、手に持つ杖を振り上げた。
「役者を全員、舞台へあげるのじゃ!」
「「「「ガンホー! ガンホー! ガンホー! ガンホー! ガンホー!」」」」
「我々のドラマチックはとまらない!」
「「「「Foー! Foー! Foー! Foー! Foー!」」」」
GMちゃん達の反撃が始まった。
――――――――――――――――――――
セントラル・アンダーグランド――
「お、ん?」
「どないした?」
「あ、いや、なんか圧力が減ったような気がして」
「マジで?」
「いや、気の所為……じゃねぇ、なんか減ってるぅ?!」
「マジで!?」
地上に唯一繋がる出入り口、セントラル中央ステーションを目指し、まるでゾンビのように群がってきていたチンピラ達。それはもう、夏と冬にどこぞのビックなサイトを襲撃する同好の士達の如く、雲霞の群れのように見えていた集団が、徐々にまばらになっていくのが見えた。
「なになに? 何が起こったの?」
「いや、それはこっちが知りてぇよ」
「なんだぁー? 後ろの方が戻ってって行ってる感じか?」
「っぽいな。ユーヘイニキ達がキメた?」
「どーだべ。もしくは運営が重い腰上げたとか?」
「あー、そっちか」
「ならもう一踏ん張りってトコか」
「優良YAKUZAの力を見せちゃるぜ!」
「「「「その称号はやめーぃ」」」」
犯罪者が使用した不正ツール『造幣局』の効果が打ち消され、彼らとの契約に使用された現金が消えた事で、チンピラ達との依頼が無効になり、アンダーグランドの騒動は終焉に向かい始めた。
――――――――――――――――――――
WWW所有ヘリコプター――
「団長! 地上の動きが!」
「……」
操縦士の無線を聞いた団長は、すぐに周囲の様子を目視で確認する。
「暴走族が、逃げてる?」
WWWの特殊車両に向かってきていた暴走族の族車が、まるで夢から醒めたような勢いで、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う様子が見える。
「ユーヘイさん達がやった、か?」
団長はすぐにシステムを立ち上げて、ゲーム内部のお知らせをする掲示板を確認するが、そこにはまだ犯罪者が確保されたとかの報告はされていない。
「……運営、か?」
問題は解決されていないが、犯罪系NPCの狂騒状態を解除する何かしらを運営が行った、と判断すれば現状の状況は理解出来る。
「ならこちらはもう大丈夫か……こちら団長! ワイルド・ワイルド・ウエストはこのままリバーサイドに入る! このお祭り騒ぎを終わらせに行くぞ!」
こちらの状況が落ち着いていく、そう仮定するならば問題はリバーサイドに向かった『第一分署』と、星流会と龍王会を相手にしているDEKAやイリーガル探偵達だ、団長はそう判断してギルメンに指示を飛ばす。
『この祭りも、終わりが見えたか団長』
サブマスのリキヤの言葉に、団長は薄く微笑む。
「あぁ、終わらせに行こう」
団長の言葉にギルメン達が歓声を上げ、WWWが保有する全ての戦力がリバーサイドに向かって突き進む。
「あまり必要にならないとは思うけどね」
トンボのようなミラーレンズのサングラスを外し、団長はリバーサイドへと視線を向けるのであった。
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