第280話 雲間 ⑤

 方針は決まったが、聞き込みからはヤンチャをしているグループがいる場所は聞き出せなかった。これにはリョータとミーコも困ったのだが、そこに鶴の一声が。


「その手の不良一歩手前少年ってのは、本物の不良に憧れるってのがパターンでな。不良っぽいポーズと言うかムーブが出来る場所にたむろってるんだわ」


 甘栗を手を叩いて口に入れる、という遊びのような食べ方をしていたユーヘイが呟けば、甘栗の皮に道具で切れ込みを入れていたヒロシが、あったなぁと懐かしそうに言う。


「あー、確かに。俺が中学の頃のパターンだと――」


 ヒロシはユーヘイの顔を見て指を差し、ユーヘイもヒロシを見て指を差す。


「「ゲームセンター」」


 見事にハモったセリフで、その後に向かう場所が決定したのだった。


 だがこの一番古い商店街は、完全に生活に密着した店舗が軒を連ねる場所であり、ゲームセンターのような施設は存在しない。あっても駄菓子屋の前に十円や五十円で遊べるコインゲームや陣取りゲームのような、完全に子供向けのゲームが置いてある感じだ。


 なので、ユーヘイは素直に知人を頼る事にする。


『おーう、相変わらず飛ばしてやがんな? お前ら』

「開口一番随分なツッコミを入れてくれるじゃねぇの、とっつぁん」

『けっけっけっけっ、こっちはお前らをリアルタイムで見てる熱心なファンがいるんだよ。お前らがやらかした事は自然に耳に入ってくんの』

「随分と暇な人がいらっしゃる」

『案外、配信見ながら作業とかって効率が良いらしいぜ? 俺は無理だけど』


 『黄物怪職同盟』のギルドマスターであるとっつぁんに無線を入れたユーヘイは、世間話をしながら本題を切り出す。


「なら話が早いわ。今、その飛ばしてる原因とクエストやってるんだわ。んで、イエローウッド区域でゲームセンターとかある?」

『ゲーセンだぁ? 未来ある少年少女が行くような場所じゃねぇぞ? あそこは』

「……あぁ、大当たりじゃん」

『あん? あー、つまり不良共がいるような場所に用事があるってクエストか?』

「話が早くて助かる」

『マジでお前ら飛ばしてるなぁ』

「いつものいつもの、んで? 場所は?」

『はぁ、ちゃんと守ってやれよ? 場所は――』


 とっつぁんから場所を聞き出し、また今度ワンカップでも持って遊びに行く、と無線を切りリョータとミーコに視線を向ける。


「聞いた話、結構なアンダーグランド、ヤバい感じの場所っぽいんだが……行ける?」


 ユーヘイがサングラスをずらし、タレ気味の三白眼を向けて聞けば、ミーコは少し腰が引きながらも力強く頷く。


「お前は?」


 ミーコからリョータに視線を向けると、リョータはやや不安そうな表情を作りながらも、横にいるミーコを見て、覚悟が決まった表情を浮かべて頷いた。


「ふっ、上等」


 ユーヘイはサングラスを戻し、リョータに近づくと、彼の頭を乱暴に撫でて歩き出す。


「行くぞ」


 何で頭を撫でられたのか分からず、乱れた髪を整えてから、ユーヘイの背中に小走りで追いかける。その横でミーコも慌てて追いかける。


 そんなやる気がみなぎっているユーヘイを見て、トージが鉛のように重たい溜息を吐き出しながらヒロシに聞く。


「縦山先輩、何故でしょう、不吉な予感がするのです」

「するのですって、言葉遣いがおかしいぞ?」

「言葉遣いもおかしくなりますって、本当にビンビン感じますって」


 妙に楽しげな背中をしているユーヘイに視線を向け、ヒロシは苦笑を浮かべてトージの頭に手を置く。


「町村君、知ってるか?」

「何がです?」

「世の中には諦めが肝心っていう言葉があるんだよ」

「確定っ!?」


 ヒロシはひょいっと肩を竦め、歩いている三人を追う。


「ちょっ! 投げっぱなしは酷いですよ!」


 置いてかれそうになり、トージが慌ててヒロシの横へ駆け寄る。


「ていうか、マジで大事になりますかね?」

「そう感じてるんだろ?」

「いやまぁ、後頭部がチリチリするというか、妙な感覚がするっていうか」

「お前も大概おかしな方向に進化してるんだが?」

「うそーん?!」

「いや、完全にユーヘイの後追いだろ、お前」

「いやまぁ、最終目標ではありますが……出来れば色々引き寄せる方向はノーセンキューしたいのですけども……」

「無理だろ。お前も色々引き寄せてると思うぞ」

「マジですかぁ……」

「俺はもう諦めた。と言うか楽しむ方向へシフトした」

「マジですかぁ」


 確率の偏りというか、ある意味でのシステムバグを使ったグリッチのような裏技と言うか、それこそTASさんじみた調整を自然と行っているというか、もう回避するのは無理である、というのがヒロシの結論である。


 ユーヘイは既に全力で楽しむ方向で対応しているし、ノンさんやダディも文句を言いつつエンジョイしている。アツミもなんだかんだでユーヘイ色に染まってきているし、ヒロシとしては拒む理由がそもそもないし、なら楽しんでしまおうか、という結論になるのも当たり前だ。


「だから言ってるだろ? 諦めが肝心」

「何か大切なモノが失うような気がするようなしないような」

「んなもんねーよ。うだうだ言ってないで、諦めろ」

「ふへぇーい」


 トージが腑抜けた声で返事をし、それに笑いながらヒロシが背中に張り手を入れる。


「おーい、置いてくぞ?」


 遅れ気味のヒロシとトージに、車の運転席のドアを開けたユーヘイが声を掛ける。結構な力で背中を叩かれたトージは、ケホケホ咳き込みながら小走りで助手席に向かい、ヒロシはまだ消えていないバイクにまたがる。


「タテさん! マップに場所は表示されてるから!」


 しっかりヘルメットを被りながら、ヒロシは親指を立ててエンジンを動かす。


「んじゃまぁ、行きますか、ゲームセンター『ギャロップ』へ」




――――――――――――――――――


「っしゃぁっ! なんとか用事が終わった!」

「今日は別にログインしなくても」

「何を言ってるの? こんな面白そうな事、放って置く手はないでしょ?」

「いやいやいや、結構難しい問題だと思うよ? それに配信はプライベート条件が強くて出来ないから、今回のはアーカイブにも残らないし」

「収入はもう充分ゲット出来てるでしょうに、とにかく応援に行くわよ!」

「はぁ……」


 SYOKATUの捜査課のデスクにやって来たノンさんが、ちょっとダウナー気味のダディを引っ張るように連れ出そうとする。


「っ! 間に合った! 私も行きます!」

「およ? あっちゃん」

「あれ? 重要な用事があるとか言ってなかった?」

「速攻終わらせて来ました! 面白そうなのでこっち優先で!」

「「……」」


 そこへアツミまでログインし、まるでユーヘイのような事を言い出しので、ノンさんとダディはなんとも言い難い表情を浮かべて黙った。


「あれ?」


 微妙な空気感にアツミが小首を傾げると、ノンさんがポムリとアツミの肩に、凄く労るように手を置く。


「染まる相手は選ぼうね?」

「え? はい?」


 ユーヘイが悪いとは言わないが、なんでもかんでも面白さ優先なのはちょっとどうかと思う、そんな気持ちでアツミを見るも全く伝わらず、ノンさんは静かに溜息を吐き出す。


「まぁ良いわ。ほらほら行きましょう」


 色々と諦めてノンさんが促すと、関わり合いになりたく無かったダディも渋々ながら動き出す。


「ちょほぉいと待ったぁっ!」


 スイングドアを押し開け、外に向かおうとする三人に、鑑識棟から走ってきた山さんが呼び止める。


「あれ? 山さんじゃん。居たの?」

「扱いがざつぅっ!? ま、いつものいつもの」

「慣れていくのね、自分でも分かる」

「いや! 慣れるなし! もっと優しさプリーズ! 出来ればバファ◯ン以上はほすぃー!」

「要求低いな」

「今日も元気ですね、鑑識の山さん」

「おっちゃんはエブリディエイブリシング元気元気よー! じゃなくて!」


 いつもの調子で軽口を叩き合っていると、山さんが正気に戻って、三人に一通のメールを見せる。


「これ! 問題はこれよ! これこれ!」

「あん?」

「これがどうし……」

「……わぁお」


 山さんが見せるメールを見た三人は、それぞれしっぶい表情を浮かべながら、同じ事を考えていた。


 ――やっぱり特大の引き寄せるんだねぇ、ユー(さん)ヘイ(大田)ってば――


 結果的にログインしたのは正解だった、早々に割り切った三人は、メールを見せてくれた山さんに感謝の言葉を伝えながら、足早にSYOKATUから飛び出し、素早く車に乗り込むと最速でユーヘイ達の元へ向かうのであった。

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