第118話 国際警察刑事機構の方ですってよ
一番最初にオフィスに戻って来たのはユーヘイとトージだった。
オフィスを見回し、まだ誰も仲間が戻ってきてない事を確認しながら、ジャケットを自分のデスクに放り投げたユーヘイは、デスクに備え付けられている電話機の受話器を取り、技研に内線を繋げる。
『うぃ?』
「おう、イベントに新しい動きが出そうだ。そのまま生産を一人寂しく続けるか?」
『悪意を感じます先生ぃっ!』
「いや正直、鑑識作業がなけりゃお前戦力外だろ? 居ても居なくてもぶっちゃけ同じじゃね? と連絡したが思ってしまってな」
『HAHAHAHAHA、冗談きついぜジョニー。俺達ブラザー、ベストフレンズ(妙にネイティブ発音)じゃないか』
「お前のような変態と友誼を結んだ記憶はねぇが?」
『HAHAHAHAHA、冗談きついぜジェシィー。昔っからのずっ友じゃないか』
「俺はジョニーなのかジェシィーなのか、どちなんだ? つーかそんな名前じゃねぇが?」
『そこ、重要、違う。ハブる、ダメ、絶対。仲間、大切、労る。俺、お前、仲間。お前、俺、仲間』
「はいはい、とっとと来い。もうすぐ他のメンツも戻ってくるから」
『うぃー』
軽口の応酬をして受話器を戻したユーヘイと山さんとのやり取りに、その様子を生暖かい目で見ていたトージが、呆れたような溜め息を出して、自分の椅子に座る。
「なんだよ?」
向けられた視線がデキの悪い弟でも見ているような目線だったから、気になったユーヘイが突っ込むとトージがアメリカンな感じに肩を竦める。
「いえ、毎回毎回良くもまぁそれだけの語録がポンポンと口から出てくるなぁ、と感心してました」
「あー……なんちゅうか、アレに遠慮は基本的に無駄だからな、ほぼ無修正で罵声を浴びせてもアレなら落ち込む前に喜ぶ」
「それってド変態って事じゃないですか」
「だから言ってるじゃないか、アレは変態である、と!」
「可愛い後輩に何を力説してるんだ、何を」
「あ、タテさん、お疲れ」
「縦山先輩お疲れさまです!」
「お疲れさん。何の話をしてるんだ?」
呆れ果てるトージに力説をかましていたら、ウェスタンドアを開いてヒロシが入ってきた。どうやら二人の会話が聞こえていたらしく、薄い苦笑を浮かべて、どっかり自分の椅子に座り込みながら呆れ口調で突っ込む。
「いや、前の運営動画の時にさ、オフィス組はその場で解散したけど、山さんだけ技研に取り残されてブー垂れてたのを思い出したから、今回は内線入れて呼び出したんだけど、その様子を見てたトージが上から目線で突っ込みを入れたからな」
「ああ、確かにユーヘイと山さんのやり取りは遠慮が無いからな」
「そうですよね。妙に分かり合ってるようで分かり合ってない、実に微妙にすれ違ってる様子が面白くはあるんですけど」
「……君も言うようになったね? 町村君?」
「そこは頼れる先輩方に鍛えられているから、としか言えませんが?」
「「本当に言うようになったじゃねぇか」」
うおい! と二人に突っ込まれ、トージがえへへへと照れたよう笑う。そこでウェスタンドアが開きノンさんとアツミが入って来て、妙な様子の三人に訝しげな視線を向ける。
「何を盛り上がってるのよ?」
「楽しそう」
ショルダーバックを自分達のデスクに置いて、椅子をユーヘイ達の近くに引っ張り出し、ほら説明しなさいという圧をかけつつ、ノンさんが顎をしゃくった。
「いや、山さんがしょーもねー変態だって話をしてたら、トージが上から目線でちょいと生意気な事を言うから、俺とタテさんで言うじゃないかと突っ込みを入れた」
「……何してんのよ、アンタら……」
「楽しそうですねぇ~」
ちょっとはイベントの話で盛り上がりなさいよ、と最もな事を突っ込まれ、いやぁ~と三人で照れたように頭を掻く。
「誉めてないわよ」
「誉めてませんね」
本当、何でそんなに動きとか思考とかが面白いくらいリンクするのよ、と呆れるノンさんとアツミに、三人が顔を見合わせお互いに首を傾げる。
「そういうトコよ、そういう」
「仲が本当に良いよねぇ~」
呆れた深い溜め息を吐き出され、釈然としねぇなぁみたいな表情を浮かべるユーヘイ達。そのタイミングでウェスタンドアが開く音がし、藤近課長とダディ、KEN警の山根さんと見た事の無い、きっちりしたオールバックの鬼瓦のような無表情の男性が入ってきた。
「揃って、はいないな。山さんはどうした?」
いつもの厳めしい表情でオフィスを見回した課長の言葉に、ユーヘイがビシッと直立不動になってハキハキと返事をする。
「技研から呼び出しています、かちょーっ!」
「……お前は一々叫ばないと私を呼べないのか……なら山さんが来るまで、山根さん、節井さん、どうぞこちらへ」
呆れた表情で溜め息を吐き出した課長は、山根さんと鬼瓦のような無表情の人物、節井と呼んだ男性をパーティションで区切られた応接スペースに案内する。そんな三人を見送ったユーヘイが、ダディに視線を送ると彼は頷いて説明した。
「KC庁の節井警視正。国際警察刑事機構、インターポール、ICPOの日本の窓口担当。ばりっばりの警察官僚エリートDEKAで、政府の外交関係に強い結び付きのあるお方」
ダディの説明を聞いたヒロシが、唖然とした表情で彼を見返す。
「あいしーぴーおー?!」
「あーはぁん。何でもネイガーにしろ、四天王にしろ有名らしいよ。国際手配とまでは行かなくても、それなりの手腕を持つ調査員が派遣される程度には凶悪犯だとか」
苦笑を浮かべてヒロシの机に腰掛け、ダディは参ったよね、と少し疲れたような感じに呟く。
「随分と話がでかくなってるじゃねぇか」
ユーヘイが懐からミントシガーの箱を取り出し、それを口に咥えながら眉根を寄せて天井を見上げる。
何をそんな難しそうな顔をしてるのよ? と小首を傾げながらノンさんが、ダディを見上げるようにして聞く。
「構図としては外国の凄い犯罪者がこの街に来ちゃったって形?」
ダディへの問いかけだったが、それを遮るようにヒロシが手を口許に当てながら首を横に振って言う。
「いやノンさん、とある組織を忘れてる」
「とある組織……あ」
ヒロシの言葉に、今回のイベントの始まりを思い出したノンさんが、物凄く嫌そうな声を出す。そんなノンさんに、ユーヘイが咥えていたミントシガーを指に挟み、それを振りながら面倒臭そうに頭を掻く。
「フィクサーのバックに海外の犯罪勢力がバリバリに関係していて、そいつらがこの街を狙っているって状況だな」
「うわぁ」
ヒロシの説明にトージが嫌そうな声を出し、やっと話が見えてきたアツミも微妙な表情を浮かべる。
「つまりそれが動き出しそうだったイベントって事ね」
「……しれっと混じるな変態」
「HAHAHAHAHA、毎度毎回俺を罵倒する言葉に遠慮というモノが存在しないじゃないか、マイフレンズ(めちゃネイティブ発音)」
「はぁ……」
非常に重たいスタートを切りそうなイベント後半戦の後半の状況に、頭が痛いと思っていたら、いつの間にやら話に参加していた山さんに、呆れた視線を向けて辛辣な言葉を投げ掛けるユーヘイをさらりと受け流し、よっと片手を挙げてユーヘイのデスクに座った。
「ノリと勢いで分かった風な事を言ったが、もう一度詳しくプリーズ」
「「「「はぁ……」」」」
キリリとした表情をして、さぁ説明を! とのたまう山さんに、全員が呆れた表情を向ける。仕方なしにダディが説明をし、それを聞いた山さんが把握したと頷いた。
「トージ、課長に揃ったって伝えて来てくれ」
「あ、はい」
ユーヘイが何で山さんを粗雑に扱うか凄い理解したわ、と呆れたように呟きながら、ヒロシがトージに頼むと指示を出し、トージが頷いて応接スペースに向かう。
「藤近課長、揃いましたよ」
「そうか。山根さん、節井さん」
「はいはい、よろしいですか?」
「ああ」
パーティションから顔を覗かせてトージが声をかけると、課長と山根さんと節井がゾロゾロと姿を見せる。課長がこっち来いと手招きし、一同は課長のデスクの前に一列に並ぶ。
「吉田から説明はあったと思うが、KC庁で国際犯罪など、海外の警察組織との窓口を担当されている節井警視正だ。説明は節井警視正からしてもらう、お願いします」
厳めしい口調と表情で全員に向かってそう言うと、課長は椅子に座る。デスクの横に立っていた節井が一歩前に出て、まるで亀のような無感動な目をこちらに向けてきた。
「KC庁の節井だ。諸君の事は山根と青山田下から聞いている。優秀なSYOKATSUのDEKAであると」
口を真一文字に結び、職人か頑固親父のような表情で平坦に棒読みのように言われ、それは誉めてるの? 貶してるの? と一同はどう反応して良いか分からず、とりあえずの無表情で話を聞く。そんな一同に苦笑を浮かべた山根さんが節井の後ろですまんすまんと片手を挙げて頭を小さく下げる。どうやら節井のこの態度はいつもの事らしく、一応は誉めているようだと察した。
「諸君にはICPOの調査員と共に、街に出没している海外の犯罪者の対応と捜査をお願いしたい」
節井が淡々と機械のように告げる言葉を聞いて、ユーヘイが額をコリコリ掻きながら手を挙げる。
「どうした?」
「あー、対応と捜査は歓迎しますが……肝心の捜査員はどこの誰っすか?」
「……」
ユーヘイの言葉にグッと唇を結んだ節井。その様子を見ていた山根さんが、もさもさの頭を掻きながらすまんと頭を下げる。
「あー、予定ではもうこの署に到着してるハズなんだが……来てないんだよ」
「「「「は?」」」」
一同の唖然とした声を聞いた節井が、重苦しい吐息を鼻から抜いて、グググゥッと奥歯を噛んで口許のシワを増やす。どうやら節井としても困った事態のようだ。
「優秀な人物なんだ。ICPOの本部があるフランス、リオン出身で、それこそいくつもの国際犯罪の解決に貢献している捜査員なんだが……日本的な常識と、フランス的な常識は違うというか、あー……」
一同の微妙な雰囲気に山根さんがフォローを入れるがフォローになっておらず、ますます一同が微妙な雰囲気を醸し出していると、ウェスタンドアが軋む音が聞こえた。
そちらに視線を向ければ、物凄い迷惑そうな表情を浮かべる課長の秘書的なポジションのタエちゃんと、通信室にいつもなら詰めているカナちゃん二人の肩に手を回した、見るからにチャラそうな赤毛の外国人男性の笑い声がオフィスに響く。
「いやいや、グランマの故郷とは聞いていたけど、実に良いねぇ! 実に良い! 特に女性が素敵なのが素晴らしい!」
ハッハー! と陽気に笑う男性を胡乱な目で睨み付けたユーヘイが、そのままの目付きで山根さんに視線を向けると、山根さんは激しく頭を掻きむしりながら、力無く頷く。
「国際警察刑事機構の調査員、ケン・ヤマガタさんだ」
山根さんの言葉にユーヘイは呆れた溜め息を吐き出し、仲間達に視線を送って口を開いた。
「国際警察刑事機構の方ですってよ」
ユーヘイの言葉に、全員が頭を抱えるのであった。
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