第111話 さぁ! お祭りだ! ②

 ニヤリと笑ったダディが、もったいぶるように口を開く。


「まず、このクリアーポイントを見て」

「ん?」


 仲間がそれぞれ自分のクエストボードを呼び出し、ダディが言っている部分を確認する。


「普通にクエストをクリアーすると、貢献度が五ポイント、それプラスクリアー報酬の功績ポイントが付与される。ここまでは良い?」

「おう」

「で、クエストボードにイベント限定で追加されたフィルター、お助けマンっていうフィルターを選択してみて」

「フィルター……ああ、この一番上にあるプラスマークをタッチすりゃいいのか……ああ、あるある、これをタッチ、っと……なるほどねぇ~」


 ダディに言われるがままにお助けマンフィルターを選択すると、彼が説明に使っていたクエストの貢献度ポイントが二十まで増加した。


「ヘルプに入った方のプレイヤーはクリアー報酬の、ノービスとYAKUZAだと経験値やお金関係、DEKAだと功績ポイントがカットされるけど、貢献度ポイントは爆増するんだ。で、各区画のフィクサー影響度なんだけど、これ、クエストの難易度で減少幅が増減する訳じゃなくて、どれだけ多くのクエストを消化したか? が重要になってくるんだわ」

「……なるほどなぁ、つまりは先駆者プレイヤーは親切な先輩面して、後輩の初心者プレイヤーのサポートをせえよ? イベント限定のアイテムを買えるポイントを一杯報酬として出すからよ、って感じか」

「オフコース」


 ユーヘイの身も蓋もない言い方に苦笑を浮かべながらも、ダディがその通りだと頷く。


「だから自分達、第一分署の方針としては、困っている初心者プレイヤーのサポートを中心に動いた方が効率的だと思うんだ。それにこれまで大きな事件ばかり……いや、中規模なクエストも気がつけば大規模になってたかもしれないけど……こほん! 一般市民NPCの皆さんの生活を守る事もDEKAの仕事と言えるんじゃなかろうか!」

「いや、言い直さなくても……でもそうか、確かにその方がいいかもな」

「もっと言えば、ヘルプに入った初心者プレイヤーも貢献度ポイントが増加するんだ。だから相手側からしても、メリットはあってもデメリットは無い。だから積極的に介入しても問題は無い」

「なーほーねー、運営も考えたもんだ」


 ユーヘイやヒロシがうんうんと頷く。それを見ていたノンさんは、呑気ねぇ~と心中で呟く。


 ノンさんの見立てでは、運営のこの方針は、ある意味自分達有名な配信者を使った人気取りであると思っている。


 一番多くの初心者を抱えているだろうノービスには、黄物怪職同盟に親愛なる隣人の友という二大ギルドがあるし、そこの知名度もかなり高い。DEKAは自惚れでもなんでもなく、客観的なLiveCueのランキングという観点から見ても自分達第一分署がぶっちぎりの知名度を誇る。YAKUZAも先のクエストで多くのギルドが紹介されたし、スタープレイヤーとして此花このはな なつめという分かりやすいプレイヤーもいる。


 今やLiveCueというメディア媒体で、数百万単位でこのゲームが視聴されている訳で、そこで一位やら二位を簡単に独占しているプレイヤーがどのように見られているか、など考えるまでもなく理解出来るだろうに、とノンさんは苦笑を浮かべた。


 今や大田 ユーヘイと縦山 ヒロシは黄物の代名詞、顔として君臨しているのだ。それを全く自覚してないのが、なんともまぁらしいと言えばらしいのだが。


「まぁ、だからこその一位と二位なんでしょうけど」


 自称エンジョイ勢と自称一般プレイヤー。有名になろうとも、視聴者数が爆増しようとも、あの二人のスタンス、ゲームをただただ楽しむスタイルで有る限り、その地位が安泰なのがなんとももお、という感じだ。


「でも、どうやって困ってる初心者プレイヤーを探すんですか? まさか街を車で流して回るって訳にも行かないですよね?」


 そんな運営の方針をつらつら考えていると、トージが問題点を疑問という形で聞く。


「そこはナビゲーションを使えば大丈夫」

「ナビゲーション?」

「そう。初心者プレイヤーには救援要請というイベント限定のシステムが用意されているんだって。その救援要請が発信されると、ナビゲーションマップに、ヘルプっていうアイコンが表示されるんだ。だからそれを見て自分達が助けに行けば良い、って感じ」

「なーほー……おい、何かマップがスゴい事になってんだが?」


 ダディの説明を聞いて、自分のナビゲーションマップを見ていたユーヘイが、ヒクリと口の端を震わせながら、ちょいちょいマップを指差す。


「スゴいって何……えっ!?」


 ユーヘイの言葉にダディが自分のナビゲーションマップを見て言葉を失う。彼らが見るマップに、それはもう大量のヘルプアイコンがわさぁーと発生しているではないか。


「……これ、配信を見てた初心者プレイヤーが一斉に救援要請を出したんじゃ?」

「「「「……」」」」


 あははははと乾いた笑い声を出しながらトージが言えば、そんな彼に全員が錆び付いたロボットのような動きで彼を見る。


「何気に初心者用とか言いながら、黄物ってクエストそのモノの難易度は高い傾向にありますし」


 学舎の友人に聞いた話ですけど、そこで心が折れちゃうっていう初心者がいるらしいですよ、トージがそんな事を苦笑混じりに呟き、それを聞いたヒロシが頭が痛いと額を押さえた。


「……そっちを調整してくれって感じだなぁ……」


 至極もっともな事を呟くユーヘイに、ノンさんやアツミが頷く。そんな彼らを尻目に色々とシステムをいじっていたダディが、ほっほぉーという声を出した。


「あ、これヘルプ送ってくるプレイヤーが受けてるクエストの情報見えるな。ふむふむ、なるほどなるほど……よし! これなら! うん! 手分けしてやろう!」

「「「「はい?」」」」


 ダディがクエストボードのシステムをフルに使って、どうしてそれが効率的かの説明を始め、それを聞いた仲間達はなるほどと納得して動き出した。




ーーーーーーーーーーーーーーーー


「チュートリアルとか激甘だったじゃん!」


 チュートリアルを終わらせたばかりのプレイヤー達が、意気揚々と受けたイベントクエストに悲鳴をあげる。


「だって! ただのお使いクエストって分類だったじゃん!」

「それは一緒に受けたから分かってるけど! どうしてお使いクエストで銃撃戦が発生するんだよ!」

「知らねぇよ! んなの! クソ運営に言え!」


 彼らが受けたのは、所属するSYOKATSUからのクエストで、イエローウッド区を巡回して犯罪を未然に防げ、という内容だった。運営からの分類では簡単なお使い、それこそ割り当てられたエリアを歩き回れば終わるくらいの説明文だったのだが……


 彼らは同じ高校に通う友人同士で、それなりにVRゲームを遊んできた仲間同士だ。


 だから、単なるお使いクエストなら難易度イージーだろうと気軽な感じに受けた。そして、チュートリアルの延長だろうと、初心者丸出し状態で観光の延長という感じに巡回をしていたら、裏路地で妙な連中の怪しいやり取りを発見して声を掛けたら、ご覧の有り様である。


 最初は、ほいキタ! とバカスカ拳銃を撃ちまくっていたのだが、気がつけばチュートリアルクリアー報酬でゲットしたスタートダッシュのアイテム類が無くなり、心許ない残弾数にハラハラしながら遮蔽物に身を隠している所だ。


「こんなハズじゃなかったのに……」


 初期装備のノーススペシャル、リボルバーのグリップを握りしめながら、何となくいつもリーダーを任されてしまうダイチが呟く。


 学校でもネットニュースでも話題のLiveCue動画ランキング。そこに突然現れてランキングを席巻した黄物プレイヤー。華麗なプレイングでランキング一位と二位を独占している大田 ユーヘイに彼の相棒である縦山 ヒロキ。そんな彼らに勇気を出して仲間入りをした多分自分達と同年代である、ランキング十位以内に必ずいる町村 トージ。


 ダイチ達は第二の町村 トージになろうと黄物を始めた口だ。だからイメージ的には、自分達もトージのように華麗に活躍をし、あわよくばLiveCueランキング上位に入って、配信の収入でウッハウハとかを考えていたんのだが……


「世の中、うまい話なんてねぇよなぁ」


 ダイチの乾いた呟きに、仲間のソラタがそりゃそうだと頷く。


「そんなもんだよ。とりあえず、救援要請コールはしといた」

「情けねぇ……」

「そう言うなって、ここを切り抜ければ次があるって」

「正直、こんなクエストばっかじゃ、続けていく気力も湧かねぇよ」


 実際、今までやってきたゲームを思い出してみても、ここまで難易度の高いクエストなりミッションなりをやらせるゲームというのはなかった。何だかんだで運営がプレイヤーに忖度し、高難易度とは名ばかりでしっかり調整された普通難易度というのは、あるある話で、彼らも表記だけ高難易度をクリアー出来たと天狗になってた感じだ。


「どっちにしたって、ここを切り抜けないとログアウトもままならねぇよ! どうするよ!」


 どこまでも突撃兵気質なカイトが叫ぶ。それを聞いたダイチとソラタが顔を見合わせ、他の仲間達の様子を確認する。


「残りの弾数は!」

「あと三発!」

「こっちは二発!」

「残ってない!」

「ラス一!」


 仲間達の宣告に、ダイチは絶望的だと溜め息を吐き出す。


 何せ敵はデフォルトで無限弾倉持ちで、シャワーのように鉛の弾を降らせてくるし、下手すれば自分達よりも狙いが正確。この状況で仲間が持つ残り弾数が二桁に届かないとか、絶望しかない。


「ぜってぇ、これが終わったら辞めてやる」


 ダイチが暗い表情で呟くのを聞いたソラタが、少し呆れた表情で見ながら、これまでにない緊張感をくれるゲームに、さてどう切り抜けようと気合いを入れる。


『第六SYOKATSUに所属するプレイヤーさんの救援要請に、ギルド「第一分署」の縦山 ヒロキさんが応じました。インスタントダンジョンに縦山 ヒロキさんが侵入します』


 気合いをいれているとそんなクエストインフォメーション入り、その内容にダイチ達がギョッとした表情を浮かべた。


 ウォオォォン! ウオォオオォォン!


 吠えるようなエンジン音が響き渡り、その場へバイクが文字通り飛び込んできた。


「あらら、派手なパーティー会場です事」


 別に声を張ってる訳でもなければ、叫んでいるのでもないのに、その穏やかな声が不思議と良くその場に染み込む。


「ちっ! クソDEKAが増えた! 撃て撃て撃て撃て!」


 それまで自分達を狙っていた銃口の全てが、飛び込んできたバイク、それに乗る縦山 ヒロキ一人に集中する。そんな状況なのに、ダンディなその男は、薄く笑いながら軽くバイクを倒す。


 悪者達の銃弾が一斉にバイクの車体を叩き、激しく火花が散る。誰の目にも絶対絶命な状況なのに、バイクを囮にしたヒロキはいつのまにかバイクから飛び降り、軽い身のこなしで物陰に隠れると、軽く大型のオートマチックを構えてぶっぱなした。


「がぁっ?!」

「ぐがぁぁっ?!」

「げがぁっ!?」

「「「「はぁっ?!」」」」


 狙っている様子なんて無かった、本当にスタイリッシュに構えて、適当にぶっぱしたような感じなのに、たったその一回のアクションで三人の悪者が無力化されてしまった。


「ほらほら、君達、敵は浮き足立ってるよ、チャンスチャンス」


 白い歯をニッカリと見せ、ダイチ達に親指を立ててそんな事を言う。


「ダイチ!」

「っ!? 突っ込め!」


 いち早く正気に戻ったソラタの一喝に、ダイチが慌てて叫ぶ。その声に反応した仲間達が一斉に遮蔽物から飛び出す。


 そこからはあっという間だった。浮き足立った悪者を一方的に制圧し、最初の苦戦が何だったのかと思うレベルで、あっさりと終わってしまった。


『コングラッチュレーション! 第六SYOKATSUプレイヤーさん達が初めてクエストをクリアーしました! ギルド「第一分署」の縦山 ヒロキさんが救援要請を初めて成功させました! 双方に特別ボーナスがプレゼントされます! おめでとうございます!』


 そんなクエストインフォメーションを呆然とした様子で聞いていたダイチは、軽い足取りで近づいてきたヒロキに気づかなかった。気づいた時には目の前に立っていて、思わずギョッとした表情を浮かべてしまう。そんなダイチの表情に苦笑を浮かべたヒロキは、ダイチの肩にその大きい手を乗せて爽やかに笑った。


「お疲れ。良く頑張った。間違いなく良いDEKAになれるよ」


 耳に心地よいその言葉を残し、ヒロキは倒れたバイクを起こし、格好良く二本指を立てた手でピッと合図を送って、颯爽と立ち去って行った。


「……なんてぇーか、モノが違過ぎて言葉もねぇな」


 あっという間に去っていったヒロキの見えない後ろ姿を追うように視線を向けていたソラタの言葉に、ダイチは手を置かれた肩に自分の手を重ねて、グッと覚悟を決めた表情を浮かべる。


「良し! 一回署に戻ろう! 戻ってスキル関係を充実させよう! したらもう一回クエスト受けるぞ!」


 実に分かりやすいダイチの変貌に、ソラタはちょっと呆れた表情を浮かべながら、付き合うよと頷いて仲間達を見る。


「助けられっぱなしは格好悪いもんな」

「やっぱかっけーよ! あんなDEKAに俺もなりてぇ!」

「GMちゃんにも相談しようぜ。やっぱ、準備不足だったのは否めないからよ」


 仲間達も触発されたようで、やる気に満ちた表情を浮かべていた。


 分かりやすい奴ら、そんな呆れた呟きをしながらも、ソラタもヒロキのようなプレイヤーになれるかな、と考える程度には分かりやすい奴だった。

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