第228話 お無事デッド ③
「手早く流れを説明する。このままゲートキーパーと決戦のバトルフィールドに入る。そこには本来ならゾンビ・オブ・ドライバーの車両に装備される銃器で作動させるギミック、自動装填されるカタパルトがあって、そいつには揮発性の高い液体が入ってるでっかいドラム缶が装填されている。そいつをカタパルトの射線上にゲートキーパーを誘導して、ヤツに叩きつける。元ゲームではどんな攻撃でも発火して一定のダメージは入ったから、こちらの銃器でも大丈夫だとは思う。以下これの繰り返し、と……これがこれからやろうとしている事の流れだ、OK?」
ダディがネックマイクを作動させながら早口で説明をすれば、ピックアップトラックの真後ろを走る村松のスポーツカーがクラクションを鳴らす。ちゃんと通じている事に満足そうな表情を浮かべ、ダディは説明を続ける。
「よろしい。次に注意点だ。決戦のバトルフィールドに入ると、それまで移動だけをしていたゲートキーパーが急にアクティブに攻撃をしてくる。攻撃方法は二つ。一つは遠距離からの大岩投擲。どこから取り出すのか知らんが無限に大岩を投げてくるから、こっちの車に合わせた速度で追跡してくれ、何気に命中精度が良くてヤバいからね。もう一つは短距離ダッシュからの近距離ブレス攻撃。これは腐食性の毒々しい息を吐いてくる攻撃で、これを食らうと車両が溶ける。うん、一撃必殺なんだこれ。これも距離感が大切だからこっちに合わせて欲しい、OK?」
再びクラクションが鳴った。ちゃんと理解してもらえたと判断したダディは『んじゃ、よろしく』と無線を切る。
「っていう感じだ。町村、任せた」
「任せたじゃないですって! いっちゃん難しいポジションじゃないですか!」
運転席の背中を軽く叩いて、実に軽い感じにダディが言えば、高度な事を求められたトージが悲鳴に似た声で叫ぶ。
「吉田さんが運転してくださいよ! 絶対そっちの方が確実じゃないですか!」
少し涙目になりながらトージが吠えれば、ダディはインベントリからライフル弾のカートを次々取り出しながら、冷静なツッコミを入れる。
「そりゃそうなんだけども……お前さん、走る車から正確なスナイピング出来る?」
「うぐっ!?」
空のスナイパーライフルのマガジンを取り出し、それを隣に座るスノウに手渡して、弾込めを頼みながらトージにジト目を向けて言う。
「粗品の方の粗撃だと詰むぞ?」
「うぐぐぐぅっ!?」
助手席のジュラにもカートと空のマガジンを手渡し、弾込めの手伝いを頼みつつ、唸るトージの頭を軽くポンポンと叩く。
「な? ちゃんと適材適所だろ?」
「おーもぉーっ!」
確かにその通りで反論する言葉も無く、トージが逆ギレ気味に叫ぶ。
「そら来た。あの緑色のガードレールが見えるだろ? あのガードレールに沿って進んでくれ」
唸り続けるトージに、廃墟だらけの町並みの中でやたら目立つ、蛍光色っぽい塗料が塗られた緑のガードレールを指差し、ダディが指示を出す。
「うぇーい」
やる気なさげな、かなりおざなりな返事に、ダディはワシャワシャとトージの頭を撫で回す。
「腐るな腐るな。それだけ信用してるってこった超大型新人君」
頭を撫でる手を払い、深々と溜息を吐き出して苦笑を浮かべながら、トージがバックミラー越しにダディを見て言う。
「もうそれ止めてもらえません? それだったら浅島先輩の方が新人じゃないですか」
「年功序列ってヤツだよ、町村君」
バックミラーに向かって様になるウィンクをするダディ。口では絶対に勝てる気がしなくて、トージは口を尖らせながら不満バリバリな声で叫ぶ。
「嫌な上下関係ですねっ!」
「ははははは!」
トージをからかって気分が上がったダディは、スナイパーライフルの調子を確かめながら後ろを走るスポーツカーをチラ見する。
「課長は……流石な腕前だ事、こっちの速度に合わせて動いてくれとる」
SIOが誇る
『遊戯人たちの宴』の奇人変人変態達の中では常識枠だったが、そこはそれ
「ただ問題は、狙撃出来るのが自分だけってのが、なぁ」
せめてタテさんはいて欲しかった、そんな事をボヤキつつ、ライフルからマガジンを外してスノウに手渡し、弾が込められたマガジンを入れ直す。
「そんなに攻撃頻度は高くないから、慌てずゆっくりで大丈夫だからね」
「「はい! 頑張ります!」」
「よろしく」
二人のアイドルのキラキラした笑顔を眩しそうに見ながら、ダディはパンパンと両頬を叩いて気合を入れ、窓から身を乗り出して窓枠に座る。その状態で運転席の窓を叩いて開けるようにジェスチャーをすると、トージが窓を上げてサイドミラー越しに目線を送った。
「このまま直進!」
運転席に向かって怒鳴ると、トージが軽くクラクションを鳴らす。
「さてさて」
進行方向からやや後方を、のったりゆったり体を揺らして走るゲートキーパーを睨みつけ、ダディはライフルを構える。
「そろそろ、かな」
ダディはそう呟くと、ゲートキーパーの眼球を狙ってトリガーを引く。
乾いた炸裂音が響き渡り、そのしばらく後にのったりゆったり体を揺らしていたゲートキーパーが、水ぶくれのように膨張した両手で顔面を叩くように押さえて吠えた。
『ぼああぁぁああぁぁぁあぁぁぁぁっ!』
怪獣映画の怪獣が吠えるような声が空気を揺らし、直後走っている車すら振動させる。あまりの叫び声にアイドル達は顔を青くしながら耳を押さえ、車体を揺らされて微妙にハンドルを持ってかれたトージと村松は、焦りながら車体の微調整を行う。
「良し。ちゃんとダメージは通るな」
顔面を押さえていた手が外れると、ゲートキーパーの左目から緑色の液体が流れているのを確認し、ダディはニヒルに笑ってボルトハンドルをコッキングして空薬莢を飛ばす。
「吉田さん! ガードレールが途切れます!」
叫び声の影響から脱し、少し安心したトージだったが、すぐに目印にしていたガードレールが途切れる事に気づいてダディに大声で報告する。
「そのまま直進! そしたら大きい広場のような場所に出る! ゲートキーパーの誘導はこっちが調整するから! カタパルトが見えたらカタパルトに向かって進め!」
ダディは怒鳴って指示を出し、再びライフルをゲートキーパーに向ける。そんなダディをサイドミラー越しにチラ見しつつ、トージは気合の入った声で返した。
「了解!」
トージの声に笑みを浮かべ、ゲートキーパーの動きを誘導する為の狙撃を始める。
一定の距離と速度を保つように、ゲートキーパーへチクチクと打撃を加えていく。
『ごあぁぁあああぁぁぁあああぁぁっ!』
今度の叫び声は明らかな怒気が混じり、ゲートキーパーの視線が、ヘイトが完全にピックアップトラックへ向かう。それと同時にゲートキーパーの走る速度が上がった。
「吉田さん! 広場に出ました!」
「カタパルトを探せ!」
「了解!」
それまでの廃墟と瓦礫のステージが過ぎ去り、荒野のような場所へと車が入った。そのフィールドに入った直後、ゲートキーパーの動きが完全に変わる。
「さぁて、こっからだぞ」
それまでの愚鈍な動きから、妙に軽快な動作へ変わったゲートキーパーの様子を見て、ダディはひりつくような緊張感で乾いたように感じる唇を、気持ちを落ち着けるように舐める。
「ゾンビ・オブ・ドライバーの車両じゃない、だから大岩の攻撃でも終わる可能性が高い……なんてクソゲーなんでしょ」
――こういう逆風が似合うのは大田だろうに……。
ユーヘイが聞いたら『ちょっと話し合いをしようじゃねぇか』と言い出しそうな事を心のなかで呟き、集中力を高めてスコープを覗き込んだ。
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