イエローウッドリバー・エイトヒルズ・セカンドライフストーリーズ ~ヤベェDEKAリスペクトロールプレイしてたらすげぇ事になった件~
第207話 拝啓、運営様。毎回この仕打ちはどうなんでしょう? 普通のクエストを返せ下さい。敬具
第207話 拝啓、運営様。毎回この仕打ちはどうなんでしょう? 普通のクエストを返せ下さい。敬具
「ここら辺か?」
「そう、みたいだな」
「うへぇ、結構雰囲気が怖いっす」
ユーヘイ達三人は、NPC情報屋からもらった情報をもとに、イエローウッドの治安が悪い場所へと赴いていた。それまでの長閑な住宅街という場所から、背の低い雑居ビルが集まっている場所へ。
イエローウッドは庶民の街というイメージが強く、どっちかと言えば古き良き日本の下町と言った場所が多い。それは言い換えれば生命力と喧騒に満ちた場所であるとも言える。
だが今、目の前に広がる場所は、生命力、いや生活感と言えば良いか、全く人の気配を感じさせない無機質な、まるでゴーストタウンのような不気味な気配が漂っていた。
今まで温かな、それこそ現実の街中を歩いていたような感覚だったのに、急に霊園へ来てしまったような居心地の悪さを感じ、サマーはしきりにむき出しの二の腕を抱き締めるように擦り、自分より平然とした感じの二人に視線を向けた。
不安そうな表情で、どこかすがるような視線を送るサマーに気づいた二人は、周囲を見回してなるほどと頷きながら近寄る。
「大丈夫」
ユーヘイが口の端を持ち上げて笑い、軽く勇気づけるようにサマーの肩に手を置く。
「あ」
サマーはVラブであり、大手事務所所属のタレントである。もちろんガッチガチにハラスメント対策がされており、脳波での判断であるが、異性プレイヤーは絶対におさわりは出来ない。しかし、この脳波判定には抜け道があり、子供のような純粋な悪意無い行動には反応しないようになっている。
つまり、ユーヘイは全く純粋で悪意無く、一切の下心を持たずに、本当にサマーを気遣って肩に手を置いた、と言う事である。
肩に伝わるじんわりと柔らかな熱に、妙な安心感と言うか、思わず『お兄ちゃん』と言いたくなるような頼り甲斐を感じて硬直するサマー。その様子を見て、まだ足りないのかな、と苦笑を浮かべてヒロシが動く。
「ま、気張らずにな。気楽に気楽に」
柔らかく優しく気遣うような口調で呟き、今度はヒロシがポンポンとサマーの頭を軽く叩く。
思わず『おいたん♪』と言いたくなる気持ちを強引に引っ込めながら、再び硬直するサマー。
「……落ち着け、落ち着け私……」
二人の心配りがとても嬉しくて、気を抜けばぐんにゃりした気持ち悪い顔で笑いそうになってしまい、必死に落ち着こうと深呼吸を繰り返す。
やや顔を赤らめて、胸を押さえながら『ふーふーふー』と激しく呼吸を繰り返すサマー。とりあえずは落ち着いただろうと、ユーヘイはぐるりと周囲を見回す。
「さて、まずは動物の仮面をつけた連中を探す訳だが……」
無味乾燥とした雑居ビル郡を見回すユーヘイと同じく、周囲を見回していたヒロシは面倒臭そうに溜め息を吐き出しながら口を開く。
「とりあえず、いかにもな場所から行くか?」
ヒロシがサングラスの位置を直しながら、くいっと顎をしゃくる。そこには壊れたシャッターがあり、人一人がしゃがんでやっと入れるような、いかにもな入り口があった。
それを見たユーヘイは、首を左右にゆっくり大きく傾げ、首のコリをほぐすような動きをしながら、何とも言えないような表情を浮かべる。
「……行くって言うか、あれは逝くって感じじゃなかろうかと」
良くない何かを感じ、思わずユーヘイがぼやくような感じに呟くと、ヒロシも大きな唇に手を当てながら苦笑を浮かべる。
「俺もそうは思うが、な」
そうだよなぁ、そんな感じに二人で顔を見合わせていたが、他に入れそうな場所は無い。二人はやれやれと肩を竦めながら、深呼吸を繰り返しているサマーに視線を向けた。
「と言う訳で、あそこへ入るよ」
「え?! あ、えっと?」
ユーヘイの呼び掛けで正気に戻ったサマーは、二人のやり取りを全く聞いておらず、少し焦ったようにキョドる。
「あそこに怪しい感じの入り口があるだろ? あそこに入ろうかって話」
ヒロシが壊れたシャッターの場所を指差しながら説明する。サマーは指差された、壊れたシャッターを少し嫌そうな表情で見ながら、他に目ぼしい場所はないし行くしかないか、そう覚悟を決めながら頷く。
「入ってすぐに戦闘とかって事にはならんだろう、とりあえず覗いてみる感じで」
それフラグっぽくないですか? と思いながらも、二人に続いて壊れたシャッターへと近づいていく。
まずはユーヘイが警戒しながら中へと入り、かけていたサングラスを少しずらして周囲を見回してから、シャッターから腕だけ出して手招きをする。
その合図を受けてヒロシが、先にどうぞ、とサマーに合図をする。サマーは緊張しながら頷き、ゆっくりとシャッターをしゃがんで通る。
「……うわぁ」
シャッターを抜けた先は、本当に何も見えない暗闇であった。所々にある小さな明かり取り用の窓があるにはあるが、そこから差し込む光に照らされて細かなホコリが舞っている様子が見える以外は、本当に周囲が見えない。
あまりにも臨場感たっぷりな雰囲気に、サマーは『ごきゅり』と唾を飲み込み、それが小さな悲鳴のように微かに空間を揺らす。
「ちょっと失礼」
「あ、すみません」
雰囲気に圧倒されて固まっているサマーの横を、大きな体を器用に小さく縮めて、ヒロシがするりと通り抜ける。
「こいつはまた……」
ヒロシはかけていたサングラスを胸ポケットに突っ込み、周囲を警戒しているユーヘイの横に立つ。
「気配は?」
「……奥にいるな」
じっと暗闇の向こう側を睨むように見ているユーヘイに声をかければ、そんな返事が帰ってくる。
「数は?」
「……八、いや九人」
二人のやり取りを聞きながら、そんな事まで分かるの? と驚いた表情を浮かべるサマー。暗闇の中でそんな様子が見える訳も無く、二人はこの後どうするか作戦をひねり出す。
「タテさんはどれくらい見える?」
「うっすらと障害物の輪郭が見える感じだな」
「じゃ、俺が先行するしかないか……ちょっと様子を見てくる」
「じゃ俺はレディのエスコートか」
「よろしく」
そんな会話をすると、ユーヘイがするりと闇の中へと姿を消し、ヒロシは不安そうなサマーの横に陣取る。
「なんかおんぶに抱っこですみません」
ちょっと接待されているような気分になってサマーが小さく頭を下げると、ヒロシが笑う気配がした。
「適材適所って言うだろ。この先、いくらでも活躍してもらうさ」
「……出来ますかね?」
「出来るさ。全くの素人だった俺でも出来てるんだし」
「……タテさんは結構必死に努力してませんでしたっけ?」
「それ抜きでもやれる事はあるさ。何せユーヘイがいるからね」
「それは心強いですけど」
ユーヘイとヒロシの手際の良さに、ちょっと罪悪感を感じて気持ちを吐露すれば、そんなフォローをしてもらい、こっから頑張ろう! と気合いを入れるようにグッと拳を握り締める。
「ま、そこら辺は気楽に、ね」
「はい」
気合いを入れている様子が、実はぼんやりと見えているヒロシは、微笑ましい視線を向けながらクスリと笑う。
そんな事をしていると、暗闇の中からスルリとユーヘイが姿を見せる。
「OK、奴らがいる場所には灯りがついてる。このままタイホに向かおう……抵抗されなければ、だけど」
ユーヘイの説明に二人が苦笑を浮かべながら返事を返す。
「良し、こっちだ」
ユーヘイが手を差し出し、サマーがその手を掴む。それを確認してからユーヘイが動き出し、ヒロシも自然とその後に続く。
サマーには闇のせいで見えないが、ユーヘイは障害物をするする避けながら奥へ進み、光が漏れるドアの前まで誘導する。
「拳銃を」
ユーヘイが小声でサマーに指示を出し、サマーはインベトリからリボルバーを取り出して両手で握る。
サマーが拳銃をしっかり握っているのを確認し、ユーヘイがゆっくりドアを開く。すると酔っぱらっているのか、妙に陽気な声でゲラゲラ笑う男性達の声が聞こえてきた。
漏れた明かりに照らされたユーヘイが、ヒロシに向かってちょいちょいと指を差して指示を出し、ヒロシは小さく頷いて、身を縮めて先に部屋に入る。
「声は俺がかけるから、サマーは後ろで拳銃を構えて」
「りょ、了解っす」
ユーヘイは緊張した様子のサマーに笑顔を向けてから、ドアに蹴りを入れて開けて部屋の中に飛び込む。
「『第一分署』の大田だ。動くな」
ユーヘイがDEKA手帳を掲げながら鋭く言うと、一ヶ所に固まって酒盛りをしていた男達が固まる。
ユーヘイの後ろで拳銃を構えたサマーは、酒盛りをしている男達の方をチラリと見る。そこには無造作に動物の仮面が置かれており、男達が探していた犯人である事を物語っていた。
「君達がイエローウッドで色々悪さをしていた犯罪者でファイナルアンサー?」
固まっている男達にユーヘイが呼び掛けると、男達はゆっくりと立ち上がり両手を挙げる。
「はい、そうで――」
どこか未成年っぽい雰囲気が残る一人が、少し愛嬌のある表情で、てへへと笑うように頷こうとした時、急に男達の表情がスンと消えた。
「? おーい?」
突然様子がおかしくなった男達に、ユーヘイが首を傾げながら呼び掛け、それでも反応が無いので、サマーにそこで待機と合図を出しながらゆっくり近づく。
「「「「はイ、ハい、はハはいイハイ、そ、ソソ、ソウで、ででで、デデデ、そうデスデスデスDeath」」」」
そろりそろりとユーヘイが近づいていると、男達が狂ったような口調で同じ事を言い出し、まるでロボットダンスのような動きでカクカクカクカク! と激しく動き出す。
あまりの妙な動きに、ユーヘイが懐から拳銃を引き抜くと、まるでそれを合図にしたように男達が猿のような動きで襲いかかって来た。
「なんじゃそりゃっ!?」
おおよそ人間とは思えない動きをする男達に、ユーヘイが焦った声を出す。それを見ていたサマーは、不規則な動きで向かってくる男達に恐怖を感じながら、わたわたと拳銃を構えようとする。
「ちょちょちょちょっ――」
サマーの声にやべぇとユーヘイが振り返った時、まるで最初からいなかったようにサマーの姿が消えた。
「はぁっ!?」
なんぞそりゃぁっ!? とユーヘイがすっとんきょうな声を出し、それを物陰に隠れて見ていたヒロシも、あまりの事に口をぽかぁんと開けるしかなかった。
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