第208話 てめぇら! 出版社が違うやろがい!
ユーヘイ達が怪しい建物へ侵入していた頃――
トージとダディ、そしてユウナは予定通りに、暴走族がテリトリーとしているエリアを回り、次々とチーム同士をぶつけ合って消耗させていた。
彼らが予想した通り、その行動はドンピシャにはまり、互いに互いを潰し合うように争っている。ただまぁ、あまりに酷い絵面だが……
「良くもまぁ、バイクに乗ってケンカが出来るモンだわ」
そのあまりに酷い絵面を眺めながら、ダディが心底呆れた口調で呟く。
「まさに漫画の世界ですよね」
二人乗りした後ろの人間が、敵対チームのバイクに蹴りを入れたり、ギャリギャリとアスファルトを金属バットで擦りながら、木刀とちゃんばらをやりあったり、実に漫画的光景がそこに広がっている。
「ある意味感動ではある」
キャラキャラと腹を抱えて笑いながら、ユウナが目尻に涙を浮かべて断言した。
一般的な女性ならば結構クる光景ではあるのだが、ゲームはゲーム、リアルはリアルという区別が完全についているユウナは、これはゲームでの事だと心の底から楽しんでいる。実に豪胆な女性だ。
ちょっとおっさんが入った笑い方で、ヤンキーとヤンキーの戦いを食い入るように見るユウナ。そんな彼女に感心したような視線を向けながら、トージが視界内にマップを表示させながら口を開く。
「これで残り一ヶ所ですね」
今、向かっている場所を確認しながらトージが呟けば、ダディが溜め息を混じらせながらトントンと親指でハンドルを叩く。
「やっとか……本当に長かったなぁ、これで最後のワイルドキャットにこいつらをぶつければ何かが起こる、か」
すっかりボッコボコにへこまされた車体を切なそうに見ながら、ダディがそうあってくれと言う。
「だと思います、多分、恐らく、きっと」
「そこは断言しようよ」
二人のじゃれ合うような会話に、ケタケタ笑いながらユウナが、運転席と助手席の間から顔を出す。
「まぁまぁ、こんな特等席で見られるモンじゃないんだから、もっと楽しみましょう?」
「「馴染み過ぎじゃない?」」
「私、実際たのすぃーですから」
「「逞し過ぎへん?」」
やはり豪胆な女性である。
まぁ、コラボ相手が楽しんでいるなら大成功かな、そう口の中で転がしながら、ダディは視界内のマップを確認する。
「そろそろ合流ポイントだ。何が起こるか……いや、この光景の延長線だとは思うけれど……一応、注意して」
「はーい」
「そうですよね、一応注意をしときましょうか」
ダディの言葉にトージが懐から拳銃を抜く。それを見てユウナがウキウキした様子でインベトリから、かなり大口径のオートマチックを取り出す。
「このゲームでの数少ない課金要素で買っちったぁ」
ユウナはオートマチックをうっとりした目で見ながら、うっへっへっへっと笑う。
「あー、今回の小規模アップデートで課金関係のアイテムが増えたんでしたっけ?」
今回のアップデートで、ちょっとだけ性能が良い武器や、見た目が良い衣装、そして限定車両などがリアルマネーで購入出来るようになった。以前の課金要素は、観光的要素がほとんどで、直接攻略に役立つような課金アイテムと言うのは用意されていない。なので今回のアップデートは運営神と、多くのプレイヤー達から喜ばれていたりする。
彼女が持つのはそのアップデートで追加された、確実に世界で最も有名だろう、中二病患者が大好きな、そして映画の世界でも片手で扱うと言う非常識を必ず行わせる、象さんを殺せるマグナム弾を撃てる拳銃だ。
ユウナは事前告知配信で、多くのリスナーから黄物の課金ポイントをご祝儀として貰っており、そのポイントを使っていくつかの課金アイテム、彼女が格好良いと思う拳銃をゲットしていた。実にタイムリーな課金要素の追加であった。
「ちょっと良いですか?」
「ん? はいどうぞ」
トージはユウナから拳銃を受けとり、少し手の中で感触を確認し、ちょっと構えたりグリップを確認して、なるほどと頷く。
「確かに初期のリボルバーと比較すれば、ちょっとだけ性能は良さげですね」
「分かるんだ?」
「……分かると言うか、分かるように
「……ユーヘイニキのブートキャンプ……」
「強要された訳じゃなくて、自分から教えて下さいってお願いしたので……ただ、ここまで分かるようになるとは思いませんでしたが」
オートマチックをユウナに返しながら、トージは少しだけ恥ずかしそうに微笑む。それだけでユーヘイとの関係が良好なのが感じられて、ユウナは少し良いなぁと憧れに似た感情を覚える。
やはりゲームは、特に協力を前提とするゲームならば、お互いにお互いを信頼信用し合う戦友の存在は不可欠だ。そんな存在をゲット出来たプレイヤーを見れば、やっぱり良いなぁと憧れる。実に羨ましい。
そんなちょっと羨ましそうな表情を浮かべているユウナを、バックミラー越しにチラリと見ながら、ダディがトージに聞く。
「どんな感じだ? 課金武器」
ダディに聞かれ、トージは顎先を自分専用にカスタマイズしたリボルバー、ノーススペシャルカスタムモデルの銃口をヒタヒタ当てながら唸る。
「あー、そうですねぇ……最初のリボルバーって、こう、微妙にホップするじゃないですか?」
トージは説明をしながら、手で弾が上向きに跳ねるジェスチャーをする。
「そうだな、確かに上方向にズレる感じはあった」
「はい、あれにはそう言う癖が少ない感じがするって言うか」
「あー、そう言う方向かぁ……」
鑑識の山さん曰く――
『ここの運営、性格悪いんだよ。初期にゲット出来るアイテムって、ほとんと調整込みで何とかせーよ、ってモンばっかだし』
だそうで、そのまま素直に使える初期装備と言うのは、多分どのジョブでも支給されてないんじゃなかろうか、との見解をしていた。
つまり課金アイテムとは、そう言う運営性格悪い状態のアイテムじゃない、しっかりとした性能担保を持った装備が買える、と言う感じじゃなかろうか、そうダディは結論付ける。
「なら、ユウナさんの腕込みで心強い」
整備無しの状態でも普通に使える武器、それを持つのがシューティング系に強いユウナとあり、ダディが微笑みながら口を開く。
「え? そうですか?」
ダディの言葉に、ユウナが照れたように頭を掻く。そんな彼女に、ダディはうんうんと大きく頷いて同意した。
「シューティング系には強いって情報、奥さんから聞いてるから」
「あー、そこまで期待される程じゃぁ無いんですけども」
ガンガン誉められる状況に、ユウナがテレテレしていると、マップを見ていたトージが鋭く声を出す。
「そろそろ合流しますよ」
そうだったそうだった、そんな感じでそれぞれに警戒をしていると、遠くの方から爆音が聞こえてきた。
「……あれ? 何か、音が違う?」
聞こえてくる音に、トージがキョトリと首を傾げる。確かに聞こえてくる音が、周囲で迷惑騒音を垂れ流している連中とは違う感じがしていた。
ちょっとした違和感を覚えながらも、車は流されるままに合流ポイントへと吸い込まれていく。
そして合流ポイントへと入った時――
「「「「ひゃっはぁーっ!」」」」
「「「は?」」」
大気を震わせる奇声、と言うか独特なイントネーションで放たれた咆哮。特徴的な細く横長なサングラス、色とりどりな髪色をしている怒髪天をつくようなモヒカン。ほぼ半裸なムッキムキな筋肉質な体に、やたらとトゲトゲしたスパイクがついた肩パットやら、ジャケットやらを着用している男達の集団が、やたらと動物の骨などで装飾されているバイクに乗って登場した。
それだけではない、それまで登場していなかった世紀末仕様の車に、世紀末仕様なバギーまで登場し、ダディ達はあまりの光景に一瞬意識が飛んだ。
これって暴走族の抗争じゃなかったでしたっけ? そんな気持ちを無視するように、異常は周囲を侵食していく。
周囲のヤンキー達が、リーゼントからご立派なモヒカンへ。特攻服から世紀末仕様のトゲトゲした服装へ。お兄ちゃんだったはずが、ゴツい外国人のようなこゆいおっさんへとトランスフォーム。
気がつけば、そこは荒野のマッドなマックスな世界へ変貌していました……
「てめぇらぁっ! 出版社が違うやろがいっ!」
プルプルしていたダディが吠えると、助手席のトージが乾いた笑い声を出す。
「これがユーヘイウィルスの感染、か」
「言うてる場合かっ!」
トージの投げやりな言葉に、ダディが裏手でツッコミを入れる。それで少し余裕が出てきた二人であったが、変化は終わらない。
「ん? あれ?! ここどこ!?」
「車の中? 何これ……」
気がつけば後部座席にユウナの姿は無く、ノンさんとアツミに同行していたはずのジュラとスノウが座っていた。
「大田先輩、こんなところで仕事しなくても」
「いや、さすがにこれはおかしいからなぁっ?!」
困ったと目頭を押さえて、オーバーなリアクションで俯くトージに、さすがにこれは異常事態じゃぁっ! とダディがツッコミを入れるのであった。
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