第160話 プランB ①
「テツさん! やべぇ! 不動とダディさんが同時に動いた!」
「もう?!」
四方面の観測を任されている『黄物怪職同盟』は、測量士というマイナーユニークジョブプレイヤーが、特別に製作されたゴツい双眼鏡でその任務をこなしていた。北側、エイトヒルズ方面を観測していたプレイヤーが、悲鳴に似た声でテツに叫んだ。
「水田の兄さん!」
「すぐに『ワイルドワイルドウェスト』のギルドマスターに要請を、エイトヒルズの『不動探偵事務所』がプランAを実行。作戦通りに団長達幹部を中心とした戦力で誘導を開始せよ」
「すぐに連絡を入れる!」
「慌てないで下さい。大丈夫、頼れる仲間がいます」
「っ!? ……ふぅ……悪い。俺が焦っても仕方がないわな。冷静に冷静に」
「はい、それでお願いします。リバーとイエロー方面のチェックを密に。多分そっちも動き始めますよ」
「「はい!」」
観測チームの司令塔を任された金大平 水田は、浮き足立つ仲間達をなだめながら、冷静に指示を飛ばす。
「ノンさんはどう動いてます?」
「プランAとして動き出したダディさんから個別に通信が入ったようで、もう既に動いてます」
「一応確認をして下さい。現在の状況も合わせて知らせて下さい」
「了解!」
水田は指示を飛ばしながら、測量士が表示しているマップを睨む。
「一応、トージ君とタテさんにイエローウッド方面の注意を促して下さい。ユーヘイさんに関してはフリーで。あの人はなら勝手に察して勝手に最適解を進むと思うので」
「了解!」
水田のユーヘイの扱いに周囲から笑いが漏れる。それが良い感じに緊張感を緩め、いきなりぶっこまれた不測の事態の空気感を打ち払う。
「ノンさんへの伝達完了しました。向こうの状況を教えてくれてありがとう、だそうです」
「トージ君とタテさんに通達完了。独自に動くと返信あり」
「ありがとうございます」
水田は礼を言いながら、マップに表示されているカラフルな光点の動きを追いかける。そんな水田の横にテツが並ぶ。
「団長達も動き出したぞ」
「ちょっと焦りましたね」
「ああ、まさかのインフォメーション直後のプランAだしな」
「やっぱり、直接的な戦闘技術は本職と比較すれば脆弱なんですかね?」
「さぁ……聞いた話だと、ノンさんなんかは格闘関係のスキルを一切持ってないらしいがな」
「え?」
「いや、むしろスキルのパッシブが関係すると手加減が難しいらしくてな、自分が扱う格闘系のスキルは一切習得しなかったってカラカラ笑ってたぜ」
「えぇぇえぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「トージ君なんかも空手と柔道を使えるらしいけど、スキルはゲットしてないって言ってたな。なんかリアルとヴァーチャルの差異が逆に難しいとかで、リアル技能だけ使いたいからスキルゲットしてないらしいぞ」
「……もう『第一分署』の方々は、そんなんばっかじゃないですか」
「あーね? 代表格が何せ最強最高の自称『エンジョイ勢』だしな」
「定義が乱れるって奴ですね」
「だな」
二人で苦笑を浮かべ合いながら、視線をベイサイド方面に向ける。
「うまい事やってくれると良いな」
「そうですね。ですけど『ワイルドワイルドウェスト』の皆さんに関しては、全く不安要素が無いんですよね」
「『第一分署』スタイルになってから強いからな、あいつら」
「ですね」
そんな事を言い合っていると、ベイサイドに四天王を表す真っ赤な光点が出現するのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「団長! 不動のトコ、プランAだってよ!」
ベイサイドの拠点包囲を終わらせて、次の相手側のアクションを待っていると、大きなサングラスをした
「思ったより状況判断が早かったね?」
団長がユーヘイモデルのミントシガーの箱を取り出しながら苦笑を浮かべる。
不動 ヨサクの配信の様子から、本職のDEKAやYAKUZAのような、完全に戦闘有きな職業と比較すれば、イリーガル探偵の戦闘能力は本職よりも格段に落ちる事を団長は見抜いていた。なのである意味、予想通りの展開であった。
「プランAって言うと、クローの相手をしつつ防備を固める、でしたか?」
「あれだけ散々挑発しまくってそれかよ」
随分と格好良いじゃねぇか、そう皮肉を言うタツキにリキヤが、落ち着けとなだめるように肩を軽く叩く。
「俺たちだって通った道だろ? 幸運にもやり直しが出来たけど、普通はあんなモンだって」
「……そうかもしれないけど」
「同族嫌悪同族嫌悪、人の振り見て我が振り直せ。僕たちは僕たちのなりたいヒーローを目指しましょ?」
「へーい」
団長がなだめるように言うと、タツキは不承不承頷く。
「さてはて、プランAとは言えど……こっちはまだウィズが出て来てないんだけども」
「四天王の中で一番の曲者」
「出来ればユーヘイニキが相手して欲しい敵なんだけどねー」
「ぶっちゃけるな」
「だって、あいつ面倒臭いんだもん!」
「分かるけどよ」
咥えたミントシガーの先をブンブンと揺らして、団長が口を尖らせてうんざりした口調で呟く。それを聞いた三人のサブギルドマスター達はやれやれと苦笑を浮かべる。
そんなまったりとした空気感の幹部達の前に、包囲網の指揮を任せている仲間が駆け寄り叫ぶように報告をする。
「団長! 次のフェーズに入ります! 協力関係にある同盟ギルドの皆と連携して包囲網の縮小を開始します!」
「はーい! 命第一! 安全第一! ヤバかったら逃げる事! 良いね!」
「了解! ギリギリの無茶しながら、ヤバかったら逃げます!」
「よろしく!」
ははっ! と良い笑顔で敬礼をする仲間に、軽く手を振りながら団長は伸びをした。
「そろそろ出るかな」
「多分な。タツキ、準備しとけよ」
「はいはい。シゲさんも今回は無茶する感じだし、気を付けてね」
「ははは、程々に頑張りますよ」
のんびりした空気を纏う団長とは裏腹に、三人のギルドマスターの雰囲気がピリリと引き締まっていく。その空気を背負いながらタツキが自分のバイクに向かって歩きだし、リキヤとシゲルも自分達の車両へと向かう。
「包囲縮小開始! 行くぞっ!」
そのタイミングで仲間達が包囲網を縮小する作業を開始し始める。まるで練習したかのように、一糸乱れぬ軍隊のような様子を団長はのんびり眺めながら、おもむろに懐から拳銃を取り出す。
「シィッ!」
鋭く空気を吐き出す音がし、団長の首元目掛けて白刃が駆け抜ける。だがまるでその攻撃が来る事を分かっていたかのように、団長は軽く抜いた拳銃で軽く叩くようにして軌道を逸らした。
「ちっ」
そいつはつまらなそうに舌打ちをし、ユラリと陽炎のように揺れながら、手に持つ日本刀をブンと振り払った。
「いい加減、復活するのはやめてくれないか? 不死身って言うのは俺の専売特許なんだがな」
頭の先から爪先まで、比喩的な意味では無く、本当に全て真っ黒。闇のようなロングコートを羽織り、夜を思わせる上下のスーツを着、当人も黒色人種とまさに黒一色な存在ウィズ。そんな彼に団長はニヤリと笑いかける。
「そろそろ君をタイホしたいと思ってね。今回は様子見じゃなくて本気の本気だから、ちょっと覚悟してくれよ?」
「ちっ、抜かしやがる」
ウィズは左手の日本刀を逆手に持ち、右手を突き出して引き金を引いた。
「団長!」
手品のように取り出した大型のオートマチックが火を噴く。団長は弾かれたように真横へ飛ぶと、受け身を取りながらお返しとばかりにトリガーを引く。
「無駄っ!」
ウィズが逆手に持った日本刀で、団長が放ったゴム弾を切り捨てる。これは鉛の弾時代も同じ事をしたので、格別の驚きはない。無いが、お約束かな、と団長が突っ込みを入れた。
「イシカワスタイルかよっ! と一応ね」
イシカワスタイルとは、スペースインフィニティオーケストラというゲームの近接戦闘職業のプレイヤーが当たり前のように使っていた技術で、光線銃から実弾までレーザーブレイドで叩き切っていたプレイスキルの名前である。ちな、相手の銃撃を反射して打ち返す、某宇宙な戦争の騎士様のようなスタイルも存在したりする。
「無駄な事をしてないで、今回も俺に切られろ」
ウィズがオートマチックの銃口を向けてくるのを団長は笑顔で見つめ、チッチッチッと指先を振る。
「油断大敵」
「? っ!?」
何を言ってるんだ? と胡乱な表情を浮かべたウィズだったが、すぐに顔色を変えてその場から横っ飛びで逃げる。
ぶおぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉん!
直前まで静かに近づいていたリキヤのスポーツカーが、唸りをあげて突っ込んできた。それをギリギリで避けたウィズは、舌打ちをしながらオートマチックを連射する。
しかし、『ワイルドワイルドウェスト』に急遽参加した鑑識系のプレイヤーが、鑑識の山さん仕込みの技術(鬼畜レベルでしごかれた)を使い改造したスポーツカーは、足回りまでも防弾仕様。ウィズの大型拳銃の銃弾を全て弾き、ドリフトを決めながら団長の前に停まった。
「お疲れ!」
「さすがリキヤ。格好良いぞ」
助手席に飛び乗り、しっかりシートベルトを締めた団長を確認し、リキヤがアクセルをベタ踏みした。
「小賢しい」
動き出したスポーツカーと交差する場所に移動したウィズが、フロントガラス目掛け日本刀を振り下ろそうとする。
「っ!?」
しかし振り下ろそうとした日本刀を引き戻し、ウィズは遮蔽物へと逃げ込む。ちょうどウィズが遮蔽物に隠れる時に銃声が轟き、ウィズがいた空間を無数のゴムの粒が駆け抜けた。
「ち、相変わらずユーヘイニキレベルの勘の良さしやがって」
バイクに跨がりショットガンを構えたタツキが舌打ちをしながら、すぐに片手でアクセルを捻るとバイクを走らせる。
「ち、面倒臭い事を」
自分を中心に車両を走らせる団長達へイラついた視線を向けるウィズ。そこに大型装甲車が突っ込んできた。
それはシゲルが乗る車両で、ウィズはロングコートを翻し、遮蔽物を利用しながら逃げる。
『シゲさん、そのまま誘導しちゃって』
無線機から聞こえてくる団長の指示に、シゲルはネックマイクを操作して了解と返信した。
ウィズは追い立てられるまま走り、やがてフィクサー達が使っていると思われる車やバイクが置いてある場所まで追い込まれる。
「ふ、今度はこっちから行くぞ」
ウィズはニヤリと笑うと、近くに停めてあった大型のバイクに跨がるとアクセルを捻った。
「プランB行くよ! タツキは無茶しないようにシゲさんの後ろな。リキヤ頼むね」
「了解」
団長の指示にリキヤは力強く頷き、突っ込んでくるウィズを誘導するように動き出すのだった。
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