第174話 傍観者ではなく、プレイヤーとして
覚悟を決めたプレイヤーが呼び水となり、後方で固まっていた集団が一斉に加速する。
その様子をバックミラー越しに見ていた沙木は、思わずと言った感じに口笛を吹いた。
「ヒューッ♪ 向こうにもなかなかの馬鹿がいたようね」
沙木の言葉に後ろを振り返った木村は、ニヤリと笑って小さく手を叩く。
「そう言う馬鹿は嫌いじゃないっす」
「私もよ」
そうじゃなければ谷城を頂点としたギルドに参加してないっすよねぇ、と木村が苦笑を浮かべて言えば、沙木はムッとした表情でうるさいと一喝する。
「これで良い勝負が出来ますね」
「良い勝負どころか、勝ち筋が見えたわよ」
「でも、彼らの車両ってドノーマル状態じゃ? ボディとか初期状態だと体当たりとか厳しいのでは?」
木村の懸念に、猛スピードで加速した車両が答えを出す。
パパパパパッ!
フィクサーの外車に横並びで並走したかと思うと、助手席に座るプレイヤーが相手のタイヤへ向けて銃を乱射し、そして――
「わぁおっ!」
タイヤを撃ち抜かれた車が沙木と木村の目の前で、スピンしてバウンドし宙を飛んだ。
「思い切りが良すぎる!」
自分の車へ直撃コースをなぞる軌道に、沙木が苦々しい表情でぼやき、ハンドルを素早く切って、紙一重の距離で跳ねた車を回避する。
「ヒュゥーッ♪」
ほぼ真上を吹っ飛んで行った車を視線で追い、木村がひきつり笑いをしながら口笛を吹く。
「 あ、さっきの爆発炎上した車もそうですけど、あれって乗ってる人間無事なんですかね?」
神業を披露した沙木へ小さい拍手を送りながら、そう言えばと木村がバウンドし続ける車へ視線を送りつつ聞く。
「その為の『特殊フィールド』なんじゃないの? これでここも不殺前提とかだったら、さすがに運営にキレるわよ」
「インフォも無いし、オッケーって事なんですかね」
「もし仮にだけど、これでマイナス評価されて責められたら、お前らがやってみろよ、で行きましょう」
「あはははは……そうっすね。これで荒い方法以外で、ってなったらラングに逃げられるっすよね」
視線を前方へ戻せば、谷城のバンディ・プリンスはガンガン体当たりを繰り返しているし、谷城達の集団に混じっている他のプレイヤーも同じレベルでのぶちまかしを敢行しまくっている。さらに前方へ視線を送れば、助手席から身を乗り出したアツミが、バカスカとポンプアクションのショットガンを撃ちまくっている姿が見える。これでも逃げられている状態なのだ、沙木の言う通り文句を言われたら、お前がやってみろよ、と返すのが正解だろう。
「じゃあ木村君。私達もやるわよ」
「合点承知!」
木村は助手席の窓を開け、懐のガンベルトから拳銃を引き抜く。
「相手のタイヤを狙うから、通常の弾を使って」
「了解です!」
オートマチックタイプの拳銃からマガジンを引き抜き、インベトリから通常弾がフル装填されたマガジンを取り出して入れ替える。
「行くわよ!」
「しゃぁっ! 来いやぁっ!」
沙木はギルドの技術者、鑑識の人間が追加してくれた、オートマ車用の特殊ギアを、シフトレバーに追加でつけられたスイッチを押し込む。
エンジンが低く唸るような音に変化し、車体が押し込まれるようなGが襲ってくる。下手すればハンドル操作を誤りそうな状態で沙木は歯を食い縛り、谷城を後ろから狙っているフィクサーの外車へ並走した。
「木村君っ!」
「ショータイムってなっ!」
パパパパパパッ!
ジャストなタイミングで呼び掛けられ、木村が拳銃を乱射すれば、フィクサーの車の後輪がバーストし、蛇行とスピンを繰り返して最終的に吹っ飛んでクラッシュした。
「やったーっ!」
木村がガッツポーズをして喜び、次行くわよ、と沙木に言われ直ぐ様マガジンを交換する。
沙木・木村組のやり方を見ていた他のプレイヤー達が、一斉に彼女らの手法を使いはじめ、次々とフィクサーの車両が退場していく。
「これで谷城さん達のところまで行けますね!」
木村が無邪気にフィクサーが減って行くのを喜ぶ。しかし、沙木は微妙な表情で呟く。
「順調過ぎる」
「へ?」
順調なのは良い事では? そう小首を傾げる木村は、次の瞬間、脳内に響くクエストインフォメーションに絶望した。
『リバーサイド特殊フィールド「無限ハイウェイ」で一定数のフィクサー車両の撃退を確認。DEKAプレイヤーの消耗度・人的損失……軽微。フィクサーの増援が出現します。特殊フェーズが発生しました。DEKAプレイヤーの増援を要請出来ます』
木村があまりにあんまりな内容に、口をパクパクさせて沙木に視線を送るが、彼女はまるっとその視線を無視し、鋭く舌打ちをしてハンドルを切る。
「そうよね、そんな楽をさせてくれないわよね」
「ま、マジですか……」
沙木達がいたスペースに、軍事用の装甲車を思わせる巨大な車が突っ込み、左右の扉が開いてフル装備のヤツらがライフルを向けてきた。
「ちっ!」
「うっそだろっ?!」
地獄の新フェーズが始まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
特殊フィールドでとんでも展開が開始された直後、リバーサイドでカテリーナ達が救援へ向かうDEKAプレイヤーを集めていた。
「はいはーい、救援に向かう前にこれもってってやー」
準備を整えているDEKAプレイヤー達に、
「これは?」
トランクにぎっちり詰め込まれた弾薬ケースを見ながら、準備を整えていたDEKAプレイヤーに聞かれ、赤蕪はニヘラと笑いながら言う。
「第一分署の鑑識の山さん謹製『特殊貫通弾』やて」
「……なんでピンポイントで用意しとるねん」
「知らんがな。ただ連絡が来て、こんな事もあろうかと! って言われて渡されただけやもん」
「だけもん、って」
頭痛い、と額を押さえるDEKAプレイヤーに、赤蕪はケタケタ笑いながら肩を叩く。
「変態に理屈を求めたらアカンって事やね。使えるモンは使う精神が必要や」
赤蕪の言葉に、それもそうか、とDEKAプレイヤーが弾薬ケースをインベトリにしまう。
「はいはーい! じゃんじゃん漏ってってや!」
そんな赤蕪の横でカテリーナと光輝が、協力を頼んだライダープレイヤーに頭を下げていた。
「皆さん、ご協力ありがとうございます」
「ありがとうございます」
黄物世界で最も有名な美女二人に頭を下げられ、ライダープレイヤー達は慌てたように両手を振る。
「止めてくれよ。こっちは協力って言ってもバイクのデータコピーを渡すだけなんだ。こんなん協力って言わねえよ」
ライダーギルドのギルドマスターが苦笑を浮かべて二人の頭を上げさせる。
「出来れば運転でも協力してやりたいが……俺らは本当に普通の運転しか出来んからな」
「そちらは役割分担かと」
「すまんな」
ギルマスとカテリーナが見上げる先には、特殊フィールドが発生したタイミングで現れた巨大空中スクリーンだ。
ユーヘイ達が激しくチェイスを開始したタイミングで、モニターにフィクサー増援を示唆するテロップが流れ、それを見たカテリーナが懇意にしていたライダーギルドへ協力を要請。その間に光輝がバイクの運転スキル持ちの、いわゆるヒロシスタイルのプレイヤーをリバーサイドへ集結させたのだ。
「こっちは、ほぼほぼロハでステッカーとバッチを貰えるようなもんだし、本当、心苦しいんだがな」
モニターを見上げ、だからってあそこに飛び込んで運転出来るかって聞かれれば無理なんだが、とギルマスがボヤくように呟く。
「その分、アンタらの魂を連れてくさ」
そんなギルマスに、上下真っ赤なライダースーツを着た、仏頂面のイケメンDEKAプレイヤーが、ぶっきらぼうに言う。
「もぉ、もうちょっと柔らかく言わないと」
そんなイケメンの胸に柔らかく手を当てた、長い金髪をポニーテールにした物凄い美女が、ゆっくりしたのんびり口調で、駄目だぞと突っ込みを入れる。イケメンとは別ベクトルに注目を浴びそうな、パッツンパッツンなレースクイーンの衣装を着ている人物だった。
「うるさいぞ。今は大田の救援に向かうのが急務だ」
「それはそうだけど。協力してもらっているんだから、ね?」
「? 感謝しているぞ?」
「それを態度に出して欲しいんだけど」
「? 出してるが?」
ピクリとも表情が動かない相方に、美女は処置無しとガックリ項垂れた。
「何を問題にしているか分からんが、一番のじゃじゃ馬を頼む」
何やらショックを受けている相方を放置し、イケメンがギルマスに言う。
「じゃじゃ馬かどうかは別として、一番速度が出るのは、そこの赤いバイクだ」
二人のやり取りに目を白黒させていたギルマスだったが、イケメンの質問に、メンバーのバイクを指差す。
「
「全くもぉ……はいはい」
イケメンに名前を呼ばれた美女は、インベトリからスナイパーライフルを取り出し、さっさと赤いバイクに股がった彼の後ろに、背中合わせで座る。
「しっかり固定してね」
「ああ」
イケメンがインベトリから太いベルトを取り出し、それで美女と自分をしっかり締め付けて固定した。
「では皆さん、ごきげんよう」
スナイパーライフルを片手に手を振り、第一分署にも負けず劣らずな濃いプレイヤーが出撃していくのだった。
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