第116話 安定の黄物運営クオリティ(プレイヤー視点)
セントラル第二階層に、とんでもない化け物キャラクターが登場し、YAKUZAプレイヤーは一時期阿鼻叫喚状態であった。
ただ、その阿鼻叫喚は本当に一時のモノで、今では完全に落ち着きを取り戻し、瞬間的に落ち込んだ雰囲気の悪さも払拭され、今でもセントラル第二階層はお祭り騒ぎの真っ最中だ。
ごくごく一部のプレイヤーを除いて……
そのごくごく一部のプレイヤー、化け物キャラクター登場時に、嬉々としてその化け物に襲いかかった
「あれ、特殊イベントボスだと思う」
いつものような覇気はそこに無く、妙に可愛らしく見えるなつめに、ユーヘイは苦笑を向けながら、芋けんぴでペン回しをする器用な芸当をしながら、その心は? と聞いた。
「だってバリアー張ってるんだぜ? どう倒せと? これが特殊なイベントじゃなくてデフォルトでバリアー持ちの敵がいるってなったらさすがに暴動起きるわ」
「いやうんまあそうだな、正直すまんかった」
妙に迫力のある死んだ目を向けられ、芋けんぴを口に運びながら、悪い悪いと謝りながらなだめる。
なつめが何もやらせてもらえず、一方的に金髪碧眼のグッドなスマイルが似合うマイトガイにボッコボコにされる様子は、たまっちの野次馬ちゃんねるでバッチリ配信されているので、ユーヘイもその反則状態は知っているから、逆キレ気味に迫られても致し方無しというところだ。
「そうか……特殊イベントボス、なぁ」
第一分署捜査課のオフィスになつめを呼んだのはユーヘイである。セントラルで直接化け物キャラクターと交戦経験のあるなつめならば、何か攻略の糸口を掴んでないかと期待して呼び出したのだが……
現在のイエローウッドリバー・エイトヒルズの状況は、本当に色々あったが順調に救援要請を消化しつつ、現在イベント後半戦に突入して五日目となっている。イベント自体は残り二週間ほど残りがあるのだが、現在とある問題からゲーム全体にちょっと停滞した空気が漂っていた。
やさぐれてハムスターのように芋けんぴを噛るなつめを、困った人ねと見守るアップルという絵になる二人を眺めつつ、ユーヘイは困ったと顎先を撫でる。そんな三人の横を通り過ぎようとしていたトージが、なつめの姿に気づくと、ペコリと頭を下げた。
「あ、なつめさんだ。この前は心配をお掛けしまして」
「おう、トージ君、本当に何事もなくて良かったよ。その後は大丈夫?」
「あ、はい。家族に相談して、父がすぐに対応してくれたので。それとエタリンの法務部の方からも色々と対応をしてもらったので、似たような事は起こりづらくなると確約をもらいました」
「それは良かったよ」
やさぐれた状態から少し復活したなつめが、大体同じ歳位で気が合うトージと和やかに会話をしているのをぼんやり見ながら、ユーヘイは現在のゲームの状況を思い浮かべる。
なんでゲームが停滞しているのか、それは各区画でカウントをしていたパーセンテージが、ピタリと二十パーセントから動かなくなってしまったからだ。
そしてそれと同時に、それぞれの区画でとんでもない化け物が徘徊するようになった。
つまり、イベント二日目にセントラルでなつめを蹂躙したのと同じようなキャラクターが登場したのだ。
「えっと、セントラルに現れたのがネイガーでしたっけ?」
「おう、金髪のマッチョブリブリ野郎だ。名前もそうだけど外見もかなり寄せてあって、完全に『あいるびーばっく』だけどな」
「あー、寄せてるんですかね?」
「じゃね? 上の四区で徘徊してるのも、そんな感じなんだろ?」
「はい、僕はちょっと分からないんですが、先輩方は『まんまじゃねぇーか!』って言ってます」
そう、セントラルに続き四つの区画でも同じような外国人が出現した。
どうも往年のアクションスターをモチーフにしているらしく、リバーサイドには金髪短髪のロシア人っぽい風貌をしたラング、エイトヒルズには端正な顔立ちをした金髪ロン毛のクロー、イエローウッドには天然パーマの黒髪に特徴的な口許をしたタレ目のロック、ベイサイドにはパンチパーマのアフリカ系なウィズ、という感じにそれぞれ登場している。
天下のエターナルリンクエンターテイメント社だから、許諾関係はバッチリ行っているだろうが、元ネタの方々に凄い寄せていて、ちょっとプレイヤーが心配するレベルのクオリティをしていた。
「セントラルは完全にパワーファイター。リバーが格闘技なんだっけ? エイトが空手で、イエローがボクシング、ベイが拳銃だったっけっか」
「はい。ちょっかいを出さなければ決まったルートを徘徊してるだけなので心配はないんですが、今まで東洋人オンリーな世界に外国人が登場とあって、
「ああ……ここの運営、そういうギミックをシレッと突っ込む可能性大だもんな」
「はい、これで地域住民の方々からの好感度のような数値が減らないか、それが心配で」
「やりかねないのが怖いな」
トージが言う通り、ここの運営ならやりかねない心配事が多すぎて、今の停滞状態が本当にもどかしいのだ。
一応イベントとしては新人初心者歓迎ムードは維持されているし、それこそこのイベントを目的とした新加入プレイヤーも増加しているらしいのだが、古参プレイヤーの視点からすれば、今の状況というのは実に恐ろしい状態である。
「それでも果敢に挑戦するのが凄いけどな」
「ええ、先輩が焚き付けたワイルドワイルドウェストの方々なんて、前回のクエストで迷惑をかけたからって、真っ先に四天王に挑戦して返り討ちに会ってますから」
「ああ、俺の事を知ってるのに凄いなとは思ったが、そう言う事情だったんだ」
「はい。今じゃ彼らちょっとした勇者ですよ」
「だろうなぁ……俺でも怖かったもん」
こうやって管を巻いていても一定の情報が入ってくるのは、その化け物キャラクター相手に一方的に殺されながらも攻略の糸口を見つけてくれと戦い続けているプレイヤーがいるからだ。
ユーヘイが焚き付けた、という事になっている新生『ワイルドワイルドウェスト』のメンバーによって、戦闘検証動画が毎日アップされており、毎回毎回色々な手段や方法を試しては返り討ちにされる、という事を繰り返している。
「ユーヘイ兄さんでも無理なん?」
「ん? あー無理だろうなぁ。そもそも俺はバリアーを抜く方法をなつめが見つけてないか聞きたかった。あれがなけりゃ戦えなくはない」
「やっぱそこだよなぁー」
ユーヘイがなつめを呼んだ最大の理由。四つの区画に現れたキャラクター達にも、デフォルトでバリアーのような保護膜が存在し、ワイルドワイルドウェストの面々もそれを抜こうと躍起になって色々試してくれてはいるのだが、全く糸口が見えていない状況で、一縷の望みをかけてなつめを直接呼んだ訳だ。
「おっ、揃ってるね。よぉ、なつめ君、いらっしゃい」
「あ、ダディさん、チッス。あれ? お嫁さんは?」
「ああ、嫁は浅島さんとタテさんを連れて『タイホするぞ♪』の勧誘プラス適当に救援要請消化」
「ああ、あの婦警さんロールプレイしてたお姉さん達……ロックオンされちゃったんだ」
「良い娘達だったからね、仲間に引き込みたいようだよ。一応、彼女達のカジュアルなプレイでも、クエストの展開如何では激ムズに進む場合もあるから同盟は悪くない選択だと思うんだけどさ。まぁ、そういう説得の材料と、モノは考えようプラン、自分達が捜査課だから第一分署の交通課って形はどうだろう、という悪知恵は授けといた」
「どう足掻いても仲間です、ありがとうございます」
「いやいや、ちゃんと選択する余地は残してるじゃないか」
「……囲ってるじゃないっすか。いやまぁ、魅力的な提案だとは思うけど」
ダディがひょいっとユーヘイのデスクに腰掛け、広げている芋けんぴを一本掴み、それを口に運ぶ。
「それで? なつめ君を呼び出してるって事は、あの四天王の討伐の相談?」
「んー、討伐のしようがねぇってのは分かった。手出ししなければ襲われないし、今のところどうする事も出来ねぇからなぁ。ただ、トージの言葉じゃねぇが、ここの運営だからなぁ……放置は何より怖い」
「そうですよねぇ。めっちゃ怖いですよね」
芋けんぴを器用に手品のように手の中で回しながら、ユーヘイが困った表情を浮かべてぼやき、その言葉にトージが同意する。そんな二人に、ダディは懐からDEKA手帳を取り出し口を開く。
「ああ、そっち関係の聞き込みをしてきた。多分だけど、不安がってはいるんだが心配はしていない、普段とは違った風景になってるんだけど、そこまで不快感は無いっていう感じだから地域住民のパラメーター変化は多分無いと思う」
パタンと開いていたDEKA手帳を閉じ、芋けんぴをパキリと噛りながらダディが言いきる。それを疑うような表情で見ながら、ユーヘイがおずおずと聞く。
「……リアリー?」
「ヤー」
自信満々に答えるダディに、ユーヘイもなら大丈夫のかな、と納得する。
「となるとだ、なつめが言ってた特殊イベントボスっていう説が、一気に信憑性が出るな」
「ああ、確かに」
ユーヘイがピッと芋けんぴの先でなつめを差して言うと、ダディがなるほどと頷く。
「特殊なギミック有りって事ですよね? となると」
「住民感情が影響されないなら……時間経過?」
「もしくは、どこかにキーパーソンとなるキャラクターが用意されていて、そいつと何かしらのイベントをこなしてフラグを立てる」
「一定数のクエスト達成条件を満たして、キーとなるクエストが出現、なんて事もあり得るね」
四人でそれぞれが思い浮かべる条件を口に仕合い、お互いにお互いの顔を見合わせると、溜め息混じりに同じ事を口走った。
「「「「幅が広い……」」」」
そう、あまりに選択肢が多過ぎて、そもそもの取っ掛かりが無さすぎて、どう動けば良いかその指針すら出せない状況にお手上げ状態だ。
そんな重苦しい空気をユーヘイがパンパンと手を叩いて追い払う。
「ま、イベントなんだし、俺達もイベントだーって頭空っぽにして楽しんでりゃ、その内道が開けるんじゃねぇのかね?」
ニカッと笑ってユーヘイが言えば、それを聞いた面々もそれしかないかと諦め混じりに苦笑を浮かべる。
「それしか出来ない、って感じだぁねぇ」
「そうですね、僕もポイントは欲しいんで、これから救援要請消化してこようと思います」
「それっきゃねぇかぁ……ユーヘイ兄さんでも無理なら、俺も手出ししないで様子見に徹するかなぁ」
「少し上でデートでもしましょうよ」
「そうだなぁ、薄暗い地下に潜ってばっかだとまいっちまうから、調度良いかもなぁ」
結局、イベントを楽しみましょうという形で話がまとまり、それぞれがやれる事をする為にその場から立ち去ったのだった。
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