第5話 イエローウッド区へ
ゲーム内掲示板スレッド
【あいつは】ユーヘイ氏の事を語るスレ【おかしい】
1.おかしな一般人
とりあえずスレは立てたが、同氏に対する誹謗中傷はするなよ? フリじゃないからな? 絶対するなよ?
2.おかしな一般人
チートや! チーターや!
3.おかしな一般人
だからすんな! っつてんだよ!
4.おかしな第一分署のDEKA
脳波でチェックしてるんだから、ここに書き込めている時点でセーフでしょ
5.おかしな一般人
もちろんです! マジでリスペクト! なあーにあのプレイ! マジでチートかと思った!
6.おかしな一般人
微妙に仕草とか撃ち方とか、大柴下 キョージっぽい感じを出してるしな。あのダイナミックに動いてコミカルに、だけどスタイリッシュに動くのとかもお! ああ! サブスクで見直すか!
7.おかしな一般人
モノマネロールプレイじゃなくて、あくまでキョージ風なのも好感持てるよな。あれで言動とか行動とか、丸々モノマネだったらドン引きだし
8.おかしな第一分署のDEKA
がっちがちにモノマネロールプレイすると、このゲーム色々な場面で詰む……っていうか、私もGMに相談すれば良かったぁ……何よそのクエスト仕様、教えてよぉ~
9.おかしな一般人
そうそう! それそれ! あれって有りなの? GMって何かバグとか不具合とか見つけた時とか、ハラスメントの報告に呼び出すとかじゃないの?
10.おかしな第一分署のDEKA
ああ、案外知られてないんだっけ。有り無しで言えば有りだよ。さすがに中の人が運営の人間だとごめんなさいだけど、AIちゃんだったら結構親切に相談にのってくれる。彼ら彼女らは私たちの良き隣人だからね。
11.おかしな一般人
そうだったんだ! 俺、このゲームがVRゲーデビューだから知らなかった。
12.おかしな一般人
……結構な数のVRゲーやってるけど、初耳なんだが……
13.おかしな第一分署のDEKA
秘匿はしてないよ? 結構使ってるプレイヤーは多いはず。まぁ、ほとんどのVRゲーって攻略掲示板って禁止されてるし、あまり広まってはいないけど。
14.おかしな善良なYAKUZA
こっちの相談にも応じてくれるんだろうか?
15.おかしな一般人
うおっ!? 相反する枕詞ががががが!
16.おかしな一般人
善良とは一体……うごごごごごごご……
17.おかしな第一分署のDEKA
受けてくれるんじゃない? その場合は相手にしっかり敬意を払うのが必須だけども。
18.おかしな善良なYAKUZA
そこはAI法を叩き込まれた世代だから大丈夫だ。そうか、受けてくれるのか……最近のセントラルはヤバイからな、どうにかしたいと思ってた。その突破口が見つかると有りがたいが……
19.おかしな第一分署のDEKA
ああ……今、中央の駅って凄いんだっけ?
20.おかしな善良なYAKUZA
うむ。前からスリ師は多かったが、ならず者風のチンピラが面倒臭い位湧いてな。うちの組の若い奴らに巡回させたりはしてるが、正直焼け石に水でな。
21.おかしな第一分署のDEKA
あちゃー……でも駅ってDEKAじゃ介入できないのよねぇ
22.おかしな善良なYAKUZA
うむ。あそこは
23.おかしな第一分署のDEKA
がんばれ~
24.おかしな一般人
DEKAとYAKUZAの関係じゃねぇよ、これ。
25.おかしな一般人
いやまぁ、YAKUZAの仕事はダンジョン探索と開拓ですしおすし
26.おかしな一般人
YAKUZAの定義が乱れる……ごごごごごごご……
27.おかしな一般人
あれ? ユーヘイ氏を語るスレだったはずなんだが?
28.おかしな一般人
専用スレが雑談に早変わりするのは、い つ も の こ と。
29.おかしな一般人
ひ、否定出来ない! びくんびくん!
30.おかしな一般人
妙な癖を晒すな!
31.おかしな一般人
わぁーいつものスレッドの空気だー
32.おかしな一般人
うーん、この……
33.おかしな一般人
そろそろ本題に戻ろうな? ビキビキ!
34.おかしな一般人
うぇーい
35.おかしな一般人
あーい
36.おかしな一般人
そして再び雑談へ
37.おかしな一般人
伝説のドラゴン倒す旅に出すぞゴラァ!
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ふわんと一瞬の浮遊感を覚え、次の瞬間には賑やかな場所に瞬間移動していた。
「ひゅーっ!」
ガンガンに大音量で流れる有線の音楽。街行く若者達は時代を感じさせるカジュアルファッションに身を包み、軽快な足取りで楽しそうに歩き、特に女性達のファッションは圧巻の一言。
「そうそうそうそう! 肩パット!」
原色に近いカラフルな衣装を纏い、正面から見たら逆三角形に見えるシルエット、肩が尖って見えるくらいに詰めた肩のパットと、ユーヘイの小学校高学年か中学生くらいに流行ったファッションを完璧に着こなした女性達が、ナチュラルメイク? 上等じゃない! と決して濃い訳ではないが、キッチリパッチリしたメイクをユーヘイに向けて、セクシーにウィンクしてくれたりする。
「うっ?!」
これはのるっきゃねぇ! とばかりに胸を押さえて、矢が刺さったというジェスチャーをすれば、女性達はクスクス笑ってヒラヒラと手を振ってくれた。
「イケてるね」
そんな女性達に手を振り返しながらユーヘイはマップを確認する。
「あ、結構分かりやすいマップしてるわ」
イエローウッドリバー・エイトヒルズのマップを一言で表現すれば四角形、巨大な正方形をしている。
中央にセントラルステーションという超巨大な駅があり、そこを基点として大きな道路が一直線に四本東西南北に走っている。北から一号道路、東の二号道路、南の三号道路、西の四号道路と大動脈が貫いて行く。更に京都のようにきちりした碁盤の目ではないが、大雑把な碁盤の目と言った感じに横に道路が走っている。それが一条通りとか二条通りという呼び方になっているようだ。
市役所女性が言っていた二号二条通りとは、二号道路と二条通りの交差する地点という意味だったようで、マップで確認するかぎり、イエローウッド区の繁華街寄りに転送されたようだ。
「いやでも」
自分の現在位置を確認してから、ユーヘイはニヤニヤしながら周囲を見回す。
「凄いなこれ」
世の中がバブリーだった頃、いやそれは今でも好景気は続いているが、それこそ言葉は古いが、全員が全員イケイケどんどん状態で全力疾走していたような時代。自分が親に連れられて目撃した今まさに成長を遂げようとしている都市の脈動というか、異様に高揚する熱気というか、そういう気配を感じるのは素直に凄いと思う。
「あと匂いだよな」
人混みの様々な匂い。まだ少しだけ残っていた化石燃料で動く車の排気ガスの臭い。まだまだ分煙とかエチケットなんて考えがなかった時代だったから、結構な人が歩き煙草をしていたりする臭いだったりと、そんな様々な物が混じり合った空気は、まさにあの頃に感じた、子供時代の記憶を呼び起こす匂いであった。
「だからって良い香りって訳じゃねぇんだけどよ」
禁煙に成功した身としては煙草は勘弁してもらいたいところだが……苦笑を浮かべて、はたと気づく。
「あ」
煙草で思い出したが、ヤベェDEKAでは全員が凄まじいヘビースモーカーであった。結構な勢いで全員がスパスパ吸っていたのを思い出し、ユーヘイはうわちゃぁっと天を仰ぐ。
「いやまぁ、なんちゃってロールプレイだし……でもなぁ、リスペクトはしたい」
VRで煙草を吸ったからとリアルにニコチンやらが残るわけじゃない。だがユーヘイは知っている。VR喫煙はマジでヤバイという事を。こっちでスパスパ吸っていると、確実に現実でもその習慣に引っ張られ吸う数が増えるのだ。だからこそ、スパッと禁煙し煙草との縁を切ったのだから。
「どうすべ……」
無ければ無いで押し通せるだろうが、やっぱりちょっとぽさを出すために、白い棒状の物を口の端に咥えてみたいという欲求もある。似合う似合わないは別として。
うーむと腕を組んで悩んでいると、視界の端に妙にレトロ調の建物が目に入り、なんだろ? とマジマジと見ればそこは駄菓子屋であった。
「うわっ! なつっ! あんな駄菓子屋とかもうリアルで絶滅危惧種だよなぁ……おん? 駄菓子? お? あ! あれか!」
ユーヘイは手持ちの功績ポイントを現金化し、軽やかに駄菓子やへ駆け込む。
「おおおおお! レトロ! うっわっ! めっちゃ懐かしい! これ大好きだったなぁ! この妙に真っ赤な酸っぱいヤツとか!」
毒々しいまでに原色の赤色をした、中に結構大きめのすももが漬け込まれたパッケージを持ち上げて、子供のようにはしゃぐユーヘイ。そんなユーヘイに、店番だろうおばあさんがにこにこと笑顔を向け、それに気づいたユーヘイは、ちょっとバツの悪そうな表情を浮かべながら、ペコリと頭を下げてすももを元の場所に戻す。
「おねえーさん、ミントシガーある?」
「あらやだ! おねえーさんだなんて! 恥ずかしいじゃないかい。ミントシガーならそこだよそこ」
「まだまだ現役でしょ? 昔からブイブイ言わせてたんじゃないの?」
「ほほほほほほほほ、さぁ? どうだろうね?」
おばあさんに調子の良い事を言いながら、教えてもらった場所に視線を向けると、目的の駄菓子が置いてあった。しかも、より本物に近いタイプのちょい長タイプのモノも置いてあった。
ミントシガー。昔からある煙草の形をした駄菓子で、ミント以外にもココア味だとか炭酸飲料味であるとか、確か抹茶味とかもあったとユーヘイは記憶している。それを四箱程手に取り、ポップアップしたウィンドを操作して料金を支払う。
「兄さん良い男だから、もう一箱サービスでつけるよ!」
「え? いいの? いやぁ、さすがイケてる女は一味違う!」
「ほほほほほ、またどうぞ!」
「また来ます!」
コロコロと品良く笑うおばあさんに手を振りながら店を出て、早速とばかりに一本箱から取り出して口に咥える。
「おお! っぽく見える……かもしれない!」
まぁあくまでポーズだしね、ユーヘイはくいくいとミントシガーを振りながら、停めてあるレオパルドへ向かう。
「軽く街を流しながら、エイトヒルズ区にある警察署に向かう、って形で良いかな」
街も見れるし、この空気感の場所を探索出来るのも良きだし、ちょっとのんびりドライブもオツってもんだ、ユーヘイはそう思いながら運転席に乗り込み、しっかりシートベルトを装着してエンジンキーを回す。
ピピピピピピー! ピピピピピピー!
「うおっ?! え!? 何!?」
突然大音量の電子音が鳴り響き、ユーヘイは驚きながら電子音が鳴っている方へと視線を向ける。
「あ、無線か」
レオパルドにつけられた無線機のランプが点滅し、そこからけたたましく電子音が鳴り響いていた。
「えっと……ああ、使い方がちゃんと流れてくるわ。これを取って――」
無線機からマイクのようなモノを取り、そこについているボタンを押し込みながら声を出す。
「こちら分署303」
『第一分署より分署303へ。セントラルステーション近くの銀行で強盗事件発生。至急急行されたし』
「ワッツ!?」
自然と出てきたレオパルドのコールサインに驚き、更に落とされた爆弾にユーヘイが驚愕の声を出せば、まるでタイミングを見て待っていたように緊急クエストの情報が目の前に表示された。
「逃げる凶悪な強盗犯を追跡せよってもうイキナリかよっ!」
ユーヘイは助手席の足元に置いてある収納袋を持ち上げ、そこから着脱式の赤色灯を取り出すと、サンルーフにペタリと張り付けサイレンを鳴らす。
「こっちはまだ車の運転に不安が残るんだけどなっ!」
スキルアシストのお陰でスムーズにマニュアル操作を行いながら、一気にレオパルドを加速させる。
「頑張ってみるけど、これはちょっと厳しいかもしんない!」
ミントシガーのミントがちょっとだけ目に染みる、とプラプラ揺らしながらユーヘイは楽しげに口の端を持ち上げる。
「だけど、ホットスタートは嫌いじゃないわ! 嫌いじゃないわ!」
こういう展開もお好きな様子であった。
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