第4話 リザルトの確認
チュートリアル……あれは本当にチュートリアルだったのだろうか? 超高難度クエストの間違いではなかろうか……そんな事をツラツラと考えながらリザルトを確認する。
「ええっと、タイホ……ああ、これがクエストクリアー時の基本ポイントなんだな。調査深度? 市民の支持? オーディエンスポイント? なんじゃこりゃ? つーかこの功績ポイントとやらの価値が分からん……へーい! GMちゃあぁん!」
分からないなら聞く! とばかりにさっそくGMちゃんを呼び出す。
「はいはい」
「ちょっと聞きたい。リザルトの内容と功績ポインツとやらの価値を」
「はい、お安いご用です」
GMちゃんは嫌な顔せずに説明をしてくれた。
・タイホポイント。正式にはラッシュパートと呼ばれる最終クエストパートを成功させる事によって発生する固定給である。
・調査深度。事件の情報をどこまで深く見つけられたか、用意されたヒントをどこまで読み解いたか、どこまで丁寧に情報収集したかを評価する。歩合制。
・市民の支持。イエローウッドリバー・エイトヒルズの市民からの支持。評価。好感度。歩合制。
・オーディエンスポイント。LiveCueに同時接続視聴している視聴者から送られる投票。いわゆる『いいね!』機能。
(同時視聴外、アーカイブなどでの投票は、同時視聴よりポイントは減るが、ちゃんとアカウント主へ送られるので安心してください)
・今回はチュートリアルなので無いが、本来なら一番最後に総合評価がされる。上記の項目の評価からふまえて総合的に評価される。これによって功績ポイントが変動する。
・功績ポイント。DEKAの経験値であり、ステータスやスキルのポイントへと変換出来る物であり、お金に変換できる物である。つまりは給料。
「なるほどねぇ」
面白い仕組みだなぁ、とユーヘイはふむふむと頷きながら功績ポイントのレートを確認する。
「……いやこれ、結構キツくないか?」
ユーヘイがうえぇと呻いた。
「スキル一ポイントに対して功績が千。ステータスは一に対して一万。レベルはまぁ経験値だから同額で、お金が一ポイントで百円換算って」
「ちなみにクエスト初級の最低評価クリアーで大体二千ポイントくらいですかね」
結構カッツカツやん! とユーヘイは天を仰ぐ。チュートリアルクリアーで貰えた功績ポイントが百万を超えていたので、これがデフォルトかと思ったがそうでは無かったようだ。
「基本的に欲しいスキルを一レベルで購入して、スキルレベルは地道に熟練度を稼ぎつつ上げるというのがよろしいかと」
「そりゃまぁ、スキル一レベルなら一ポイントで買えるからね」
「あ、それとですが、DEKAは安易に職業レベルを上げない事をお勧めします。理由は言えませんが、その方が何かとお得である、とだけ」
「……」
スキルは多く取れ、ステータスポイントをそれなりにゲット出来る機会であるレベルアップは考えてやれ、理由は自分で考えてね……そんな風に言われた気がしたユーヘイは、何となくその理由を察する。
「クエストが職業レベルによって難しくなる?」
「にこにこにこ」
ユーヘイの言葉にそれは見事な営業スマイルを浮かべたGMちゃんに、ああこれ図星や、と自分の推測が当たってる事を確信する。
「ありがとう。また分からない事があったら教えてね」
「はい。プレイヤーの皆様が楽しめる事が我々の望みです」
ペコリと一礼をしてGMちゃんはすぅっと消えた。ユーヘイはそれを見届けると、リザルト画面にある初回クリアーボーナスと表示されている部分に視線を向ける。
「……何より突っ込みどころは、サービス開始から今まで、このチュートリアルをクリアーしたプレイヤーがいないっていう事実が恐ろしいわ」
本当にプレイヤーを楽しませる気があるんだろうか? ユーヘイはぶつぶつと呟きながら、自己主張が激しい、ここをタッチ! と表示されている部分に指を伸ばす。
「おっと? これは――」
リザルト画面から取得アイテム画面へ移動すると、そこにはDEKAのサングラス、警察車両(専用レオパルド)、DEKAのおしゃれなスーツ上下、アイテム交換券五枚と表示されていた。
さっそくDEKAのサングラスを取り出すと、絶対にヤベェDEKAを意識しただろう、かなり大型のサングラスが出てきた。
「どらどら?」
ぐいっと装着してみると、フレームの構造が秀逸なのか、視界を遮る感じがせず、顔にジャストフィットして中々つけ心地は良い。
「いい感じじゃん! んで、おしゃれなスーツは? ああ選択すれば早着替えが出来るタイプの装備なんだ。ぽちっと」
サングラスと同じく項目から選択すれば、今まで着ていた可もなく不可もない、シャツとパンツから、ばっちり決まったスーツの上下に早着替えした。
「わぁお、ぜってぇ私生活では着ないタイプのスーツだこれ」
少しダボッとした感じで、体にフィットしていると言うよりかは若干あまり気味。そして何よりも色が真っ白。なのに中に着ているシャツはド派手な柄入りの黄色いYシャツで、ネクタイも派手派手な金のラメ入りな真っ赤なヤツと、これ絶対私服警察官が着る服じゃねぇよ! と突っ込み所満載なスーツであった。ただ――
「うん、ヤベェDEKAだとこれデフォルトなんだよなぁ……」
確か相棒はバリバリ海外の有名ブランドのスーツ着てたよね? 俺がリスペクトしてる方もなんだかんだでブランド物を着てた気がするけどさぁ、これ俺に似合ってんの? あれは中の人がセクシーだから通用したのであって俺だとなぁ……などとブツブツ呟きながら着ているスーツの確認をして、十分悩んでから大きく頷き宣言した。
「気にするな! うん! 気にしたら負けだ!」
そう言う事にしたようだ。
「次は警察車両だな。ポチッと」
項目から車を選択してタッチすれば、それは目の前にすぐ現れた。
「おおおおおおおおおおおっ! マジか! 車の種類とか知らんけど! 俺! これは凄い知ってる! ヤベェDEKAでキョージが乗ってる車だ!」
特徴的な長いボンネット、スポーティーなシルエットに、薄いシャンパンゴールド、まさに劇中で主人公コンビがぶっ飛ばす車レオパルドがそこにあった。
「うおおおおおおおおっ! すげー! え! これ乗れるの! うわーこれは嬉しい!」
嬉々として運転席側のドアを開けて、運転席に乗り込みハンドルを握り――はとと気づく。
「……俺、運転出来ねぇじゃん!」
いや、というか現実問題として、自家用の車を持ち、自分で運転して走らせるという事をしている人が少数派である、というのが正しい。
VR技術と平行するように進歩したのがAIの技術で、これを使用した自動化は社会の姿を一変させた。それの一端が、車の自動運転技術である。
以前から高齢者による判断ミスによる大きな事故というのが問題視されてきたが、この技術の導入により交通事故は激減し、もちろん人間が運転していないから交通マナーもきっちり守られるわけで……となれば、わざわざ自分から免許を取得して車を運転しようと考える人は激減するのは道理である。
なので現在は車の運転と言えば自動化した物を指し、趣味で運転してますという人間以外、車の運転免許証を持つ人口というのは少数派を通り越して希少レベルだったりする。
「マジかー……八十九十年代だと自動化なんかねぇし……自分で運転って言うと……ああ! スキルか!」
なるほどね! と声を出し、取得できるスキル一覧を呼び出し、車の運転に関係してそうなスキルを検索すると、あった。
「っしゃー! ドライブとチェイス、ドラテクか……うん、これは取ろう。そしてこれはアシストを入れておこう」
早速功績ポイントをスキルポイントに変換して、三つのスキルをゲットする。
「おお! 運転の仕方が分かる! 分かるぞ! 私にも運転の仕方が見える! それは違う人だっちゅーのん!」
妙なテンションになりながら、アシストに従い、エンジンキーを回してエンジンを動かす。
「おおおおおおおおお! すげー! 動いた!」
妙な所に関心しながら叫び、少しだけ前進させたりバックさせたりして、スキルアシストの感覚を確かめてから、エンジンを停止させる。
「良かった、ぎりぎりジャパニウム鉱石のシステムだ。これで化石燃料使ってますとかだったら、財布が死んでたぜ」
スキルが教えてくれる車の仕組みを確認し、燃料が必要ない事を知って安堵の溜め息を吐き出しながら運転席から出る。
「あとちょっと待ってね」
「お気になさらず、ごゆっくりどうぞ」
「ごめんね」
ずっと黙って立っている市役所女性に謝りながら、ユーヘイは最後のアイテム交換券とやらを確認する。
「おほー!」
アイテム交換券と言うだけあって、結構な種類のアイテムと交換できるチケットだった。
「やべ! テンション上がって来た!」
交換出来るアイテムの中には拳銃も含まれており、現在所持しているリボルバーじゃないオートマッチクもある。それもプレイヤー個人専用モデルまで用意されている充実さだ。
「良し! 決めた! 自分専用モデルを二丁。これは功績ポイントで改造が可能だから――」
海外の軍用モデル、コユト・ギャバメントを基本としたユーヘイフルカスタムモデルとして交換し、功績ポイントを突っ込んで弾倉拡張と軽量化、それと命中補正へポイントを入れる。それを二丁交換した。
更にその拳銃を入れるガンベルトも交換し、こちらも功績ポイントを入れてカスタムして、一丁は左脇の下のホルスター、もう一丁は腰の後ろ側へと入れられるように調整。更に右の脇の下に弾倉を入れられるケースを用意し、残り二枚のチケットを使って拡張弾倉が二本入れられるようにする。
「ふへ、ふへへへへ! これで使い難い敵の拳銃を奪ってやりくりする必要もなくなるぜ!」
チュートリアル中一番気になっていたのが、自分のリボルバーは使いやすいのに、敵から奪った拳銃は妙に癖が強くて扱い難かったという点。それでも無理矢理当てはしたが、あれだって極度の集中状態じゃなければ、あそこまでやれなかっただろう。それから解放されるなら、多分貴重であるだろうアイテム交換券を使いきっても悔いは無い。
「いやープレイヤーを楽しませてくれますなー! なりますな! 黄物!」
手のひらクルクルのドリルである。
「後はランナーと、これをゲットして」
スキルを幾つか習得し、全てが終わるとお待たせと市役所女性に声をかける。
「お疲れさまでした。チュートリアルクリアーおめでとうございます。これでチュートリアルは完了します。この後は直接警察署へ転送されるか、それとも希望があるようでしたらお好きな区画へ転送という形も出来ますが、いかがしますか?」
女性の言葉にユーヘイは少し考えて、ニヤリと笑って希望を口にする。
「イエローウッド区画へ転送してくれる? もちろん、愛車と一緒に」
「畏まりました。それではイエローウッド区画、二号道二条通りへ転送します」
「それでお願い」
ユーヘイは早速追加でゲットしたスキル、ナビゲーションとマップをアクティブにしながら、笑顔で手を振る市役所女性にクイッと指を振りながら笑顔を向けて転送されるのだった。
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