第132話 想定外と予想外、そして導かれるその先へ

 微妙な感じにダメージを受けているダディへ、多少の同情する視線を向けつつ、そんな愛しの旦那様を嬉々としてイジッているお嫁様に対応はお任せして、ユーヘイは自分の考えをまとめるように口を開く。


「確認するまでもなく、俺達の最終目標は四天王を排除する事、これは間違いない。んで、ICPOの自称敏腕調査員とかっつぅチャラいにーちゃんの言葉を借りれば、四天王はそれぞれ属している派閥が違い、敵対関係にあるらしい。んで、YAKUZAプレイヤーがやったような作戦が有効である、っていうのは間違いない……んだが、俺達にはデメリットがデカすぎる」


 デスクに置いた手で、タンタンとリズムを刻みながらユーヘイが言えば、カテリーナがうんうんと頷いて理由を語る。


「地域住民の皆さんへの被害ですわね?」


 まさにその通り、ユーヘイは分かってるねぇとカテリーナを指差し、その手でそのままコリコリと頭頂部を軽く掻く。


「おう。俺達DEKAは公僕な訳で、日常生活を送っている皆様方が健やかなる平穏の中で生活するためにこそ存在しているからな、サポート部隊同士をぶつけ合って擬似的抗争を引き起こす、なんちゅう鬼畜な所業は出来ん」

「もちろんですわ」


 そんな事は許されません、フンフンと鼻息荒く身を乗り出すカテリーナを、光輝と赤蕪が慌てて両肩を掴んで引き留める。


「安心しろ、やらねーから。それにもっと別の方法を使った方が現実的だ」


 ユーヘイはそう言うと、デスクに置いていた新聞を手に取って『お行儀の良いYAKUZA、地域を活性化させる』の見出しを指先で指し示す。


「折角YAKUZAギルドと同盟を結んだんだ、ここは共同戦線と行こうぜ?」


 ユーヘイはニヤリと笑って、トージに地図を持ってこさせた。


「はい、どうぞ」

「サンキュー」


 新聞を脇に寄せ、地図を広げてセントラル付近をぐるりと指先で囲む。


「現在YAKUZAプレイヤー達は、ここ、セントラルから離れていない商業区画を中心に観光をしている。それはここまでだったら、地域のNPCもYAKUZAモノに慣れてるって理由からだけども、これからはYAKUZAプレイヤーでも高レベル帯のプレイヤーを中心に、治安の悪い場所、奥まった裏路地なんかのスポットに観光に行ってもらう。もちろん『お行儀の良いYAKUZA観光客』としてな」


 ユーヘイのデスクに広げられている地図はDEKA用の地図だけあり、SYOKATSU的に警戒しなければいけない場所を色別に表記されていて、特に危険な場所とされている薄い赤で区分けされている場所を、順々に指先で叩いていく。


「ええっと、それにどんな意味があるんです? 先輩」


 トージがユーヘイの説明を聞いて分からんと首を傾げながら質問をする。話を来ていたメンバーのほとんどが理解出来ていない中、トージの真後ろ辺りに座っていた赤蕪が手を叩いて、感嘆の声を出した。


「星流会を利用するんやな?」


 赤蕪の言葉に、ユーヘイはニヤリと笑って指鉄砲を彼女に向けて撃つ仕草をする。


「当たり。多分一番の問題は、四天王のサポート部隊を見抜く方法だと思う。ちょろっとクエスト『粉砕』の様子を見せてもらったけど、サポート部隊って日本人風なアジア系の外国人を中心に作られているっぽい。良く見れば分かるが、それがフィクサーの構成員なのか観光にやって来た外国人なのか分からん」


 指鉄砲の指先を揺らし、ユーヘイがノービス・探偵プレイヤーのクエスト『終結』『結集』の難点を指摘する。


「せやけど、星流会の連中なら自動で判別してくれる上に、勝手に衝突をして相手の勢力を弱らせてくれる、っちゅう感じかいな?」


 赤蕪がニヘヘと悪い顔で笑いながら、にーやんも悪どいやんなーと腕を組んで頷く。そんな赤蕪に、ユーヘイは負けず劣らずな悪どい顔で笑う。


「プラス、こっからは皮算用ではあるが、その衝突の果てで星流会の連中にフィクサーが利用している拠点を見つけさせる。もしくは、その衝突をノービス・探偵プレイヤー達に観測してもらって、怪しい場所を割り出す。そっからは俺達DEKAプレイヤーの出番となる」


 にーやんの悪巧みに感服するわー、赤蕪が負けたと両手を挙げて、ユーヘイが大袈裟に右腕を回して右手を手に当てながら小さく礼をしつつ、それ程でもありますけどねーと笑う。


 妙に息が合った二人のやり取りを見ながら、全員がなるほどなぁと感心しながら頷く。


「……確かにそれなら自衛手段を持たないノービスプレイヤーも探偵プレイヤーも安全にクエストに貢献出来る、ね」


 そんなユーヘイの悪巧みに光輝が形の良い顎先に手を当て、虚空に視線をさ迷わせ具体的な動きをイメージしながら呟き、チロリとカテリーナに視線を送る。


「より安全に進めるのなら、自前で車を持っているノービスプレイヤーと探偵プレイヤーに街中を流してもらって観測、というのもアリですわね」


 光輝の視線を受けてカテリーナが微笑みながら呟く。


「観光目的のプレイヤーも、そこまで安全対策をしとんなら参加してくれるんとちゃう? もしくはうちらで募集をかけて、各区画を走っている役所のバスに乗って、少しだけ注意深く巡回してもらうのもアリやんな? 報酬は一回分の食事代くらいで行けそうやけど」


 そんな二人の話に、もう少し踏み込んだアイデアを赤蕪が言うと、カテリーナと光輝がそれは良いかもしれないと乗り気になる。


「確か、イエローウッドの繁華街の方々からいただいたクーポン券が結構な分量残ってますわよね?」

「ええ、あまりの分量にギルドメンバーへ分配しても、まだまだ在庫が残ってるわ」

「あれを使いましょう。有効期限もありませんし、繁華街の方々からも知人友人に手渡しても大丈夫だと言われてますし」

「良いわね。それなら食事の選択肢も豊富だから、観光目的のプレイヤーさん達も喜んで協力してくれると思うわ」


 赤蕪のアイデアに具体的な方針を付け加え、カテリーナと光輝が頷き合う。


「んじゃ、俺らはあれだな、しばらくは覆面パトカーで巡回かね」

「そうね。またぞろ妙な反応が起きても対応できるようにしときましょう」


 ダディのいじりに飽きたノンさんが、椅子をギシギシ回転させ、しばらくは本職のお巡りさんみたいな事をする感じかぁ、などと伸びをする。


「一応、観光目的のプレイヤーの皆さんに危険がないよう、俺達が立ち回るのも良いんじゃないか?」

「あー、そうですよね。本当に観光を目的にしてるだけっていう方々にお願いするんですから、そこはある程度の誠意というか対応をしてますよ、って姿は見せた方が良いですよねぇ」


 ヒロシが頬から顎先を手の平でさすり、視線をさ迷わせ考えながら呟き、それにトージが確かにと同意する。


「どんな反応が起こるか分からないから、一塊で行動するべきかな。もうここの運営なら、どんな無茶苦茶な事を引き起こしてもおかしくないからさ」

「あ、復活した」

「想定外で予想外だったけど、良く考えたら別に悪い事を引き起こしてる訳じゃないんだし、結果オーライじゃん! って納得した」

「想定外で予想外でゲーム全体に影響を撒き散らすユーヘイの類友が何か言ッテマース」

「うるさいよ! 山さん!」


 ニタニタと笑ってダディをからかう山さん。ちなみに彼が自分で引き起こした一大フィーバー、確定版イリーガル探偵になる方法、の産みの親である事を知らない。現在ゲーム内掲示板スレッドで、過去類を見ない速度、まさに爆速というレベルで激しく更新が繰り返されている事実も知らない。


 なんだかんだ、ギルド『第一分署』の面々が、大田 ユーヘイという特異点と同一存在、まさに『類は友を呼ぶ』を地で行っている事実を全く自覚していなかったりする。


 だからこそ、ゲーム全体へ大きな影響をポンポン産み出し、それを誇示するでもなく独占するでもなく、やっちゃった、で済ませて全体に公開してしまうから黄物というゲームがここまで盛り上がったのだろうが……彼らにその自覚は無い。


 そんな第一分署の面々でわいのわいのと話し合い、ある程度の方針が決まって、ユーヘイが同じく相談をしていたカテリーナに視線を向ける。


「んで? そっちはどう動くよ」


 ユーヘイに聞かれ、カテリーナは美しく微笑む。


「観光プレイを中心にされているプレイヤーの方々は、基本的にセントラルのカプセルホテルなどのリーズナルブなホテルを拠点として使っているとか。一旦、わたくし達はギルドホームに戻って、ホームに戻ってきているメンバーと一緒に、そう言ったプレイヤーの方々に説明をして協力してくれないか、打診してみようかと思います」

「オーケーオーケー、俺らは一旦アンダーグランドの同盟を組んだYAKUZAギルドに出向いて、協力してくれるように要請してくるわ。そのついでで、同盟関係のギルドが仲良くしているYAKUZAギルドがあれば、そいつらも巻き込めないかってのも相談してくるわ」


 カテリーナはなるほどと頷き、また協力して欲しい事があったらすぐに無線で連絡をいれます、と言って立ち上がった。


「ま、今回もそこそこうまく立ち回れたら、例の店で打ち上げでもやろうや」

「うふふふ、そうですわね。それはモチベーションが上がりますわ」


 カテリーナ達が頭を下げて立ち去った。それを見送り、ユーヘイは仲間達に視線を向ける。


「んじゃま、俺らも動きますか」


 ユーヘイが首をコキコキと鳴らしながら立ち上がる。それに続くように、ヒロシが同じく首を回しながら微笑む。


「そうだな、しかし、アンダーグランドに行く事になるなんてなぁ」

「んーっ! はぁ……」


 ヒロシの呟きにノンさんが大きく伸びをし、その勢いを利用して立ち上がって、肩を回しつつ苦笑を浮かべる。


「固定概念って怖いわよねぇ、なんというか同じゲームなのに、アンダーグランドって完全に別の世界だ、って考えがあったわよアタシ」


 ノンさんが肩を大きく竦めながら、怖いわねぇーと言えば、メンバー全員が苦笑混じりに頷いた。


「うし、行くか。山さんはどうするよ?」

「お? 俺は技研で生産活動。クエスト『粉砕』を見て、ちょっと思う事があってな。そっちの懸念関係をどうにか出来ないか、ちょいと試行錯誤をしてみたい感じ」


 いつもいつも留守番で少し悪いなぁと思い、山さんに水を向けたら返ってきた言葉に、ユーヘイ達はそこはかとない妙な胸騒ぎを感じる。


「……くれぐれも自重しろよ?」

「HAHAHAHAHA! じちょーだいすきデース!」


 滅茶苦茶胡散臭い表情と言葉遣いで返事を返され、ユーヘイが深くふかぁーく溜め息を吐き出しながら、ギランと山さんを睨み付けながら叫ぶ。


「く・れ・ぐ・れ・も! 自重っ! 自重だからな!」


 お前、分かってんだろうな? そういう威圧を乗せるも、元SIOプレイヤーとあってその程度の威圧屁の河童な山さんは、ヘラヘラと笑う。


「いえっさー! あいらぶ自重!」


 こいつ絶対分かってない、そう思いながらも、どれだけ言ってもこの変態を止めるのは無理だなと諦め、ユーヘイ達はアンダーグランドに向かって動き出すのだった。

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