第247話 反撃 ④

 ヒロシ・ユウナ・らいち組――


 ヒロシが完全にフリーとなり、ユウナとらいちの護衛が完璧となって、探索のスピードは上がった。


 襲ってくるゾンビをヒロシが完璧に防ぎ、ユウナとらいちは二階の扉を片っ端から開いては、中にある仕掛けを逐一調べるという事を繰り返して六回目。


「全然当たりが出ねぇっ!」


 手前側の扉から攻めているのだが、どれの仕掛けも解いても罠ばかりで、外の化け物をどうこするギミックに当たらず、イライラした様子のらいちが吠える。そんならいちとは真逆なのがユウナだ。


「いやーヒロシニキが来てくれて本当助かったわ、だーははははははは!」


 罠に引っ掛かっては大量に出現するゾンビやらマスターキーを、ヒロシは片っ端から始末してくれる。なので全くこちらは生命の危機を感じずに集中できると、ユウナの方は気楽な感じである。


「頼ってくれるのは嬉しいんだけど、そろそろ当たってくれると嬉しいかなぁーって思うんだ」


 六回目の罠が発動して大量のゾンビが襲ってくるのをさばきながら、ヒロシは苦笑を浮かべる。何しろ外から聞こえる音が徐々に大きく激しくなっているのだ。ノンさんとダディの事は全く心配はしていないが、それでもあまり時間をかけ過ぎるのは、状況的によろしくないだろうなぁ、と感じていた。


 だが、急かす訳にもいかない状況なのも理解している。なんせ彼女達が担当しているモノが、絶対自分ではやりたくない類のモノであるからだ。心情的には、イライラしているらいちに物凄く同情していたりする。


 何せ――


「もっとこう! 簡単な仕掛けって無いのかなぁ! どうしてこう複雑怪奇な方法ばっか採用してるんだぁっ!」


 そう、元ネタのゲームをプレイした事があれば誰もが、『いやいやセキュリティにしたって何だってこんな面倒臭い手順の仕掛けを用意するんだ? 絶対これ間違う研究員とか職員とか続出すんだろ?』とツッコミが入れるだろうマニュアル必須手順書必須な仕掛けの数々に、らいちがアイドルに有るまじき表情で吠えている事からも一目瞭然だ。


「星座を数字に見立てたパスワードとか! そのパスワードが実は数字じゃなくてとか! 本当は部屋の絵画の裏に本当のパスワードが隠されてるとか! バッカじゃねぇのぉっ!」


 うがぁーっ! と吠えるらいちであったが、そのミステリー小説めいた暗号を紐解いたのはユウナだったりするので、実際に彼女は全く戦力になっておらず、ただただイライラしていただけだったりする。


「まぁまぁ、扉もあと三つだけだし、ゴールは見えてるっしょ」


 一人平常通りなユウナが、気軽にらいちの肩を叩く。


「ううぅぅ、頭使うのは苦手なんだよぉ」

「まま、そこは私が頑張るので」

「うううぅ、本当にごめーん」

「適材適所っしょ」


 二人のやり取りをチラ見しながら、大量に押し寄せてくるゾンビを間引きしつつ、ちょっとはこっちの事も手伝って欲しいなぁ、などと考えるヒロシだったが、そこはグッと堪えて良いおっさん、と出そうになる言葉を飲み込む。


 同情はするけども、状況は見て欲しいなぁと思うヒロシであった。


 バッコンバッコン、ゾンビを片していく背後で、らいちが切なげな声で呟く。


「本当に役に立ってない……」


 自分が役に立ってない自覚があるらいちが、しょんぼりした表情で呟くのを聞き、ユウナはそれならと両手を叩く。


「じゃぁさ、どの扉が良いか、らいちっちが選びなよ」

「うぇ?」


 ユウナがほらほらとらいちの背中を押し、三つの扉の前に押し出す。らいちはそんな事で役に立つの? みたいな表情を浮かべる。


「早く早く」

「うーん」


 ユウナに急かされ、らいちは唸りながら中央の扉を開く。中に入ればそこには、巨大なパズルのような石版があった。


「どうよ? わぁお」


 らいちの横から顔を覗かせ部屋の中を見たユウナは、そのパズルを見て感心したような呆れたような声を出す。


「これはまた面倒な感じが」

「だから何でこう面倒臭い仕掛けを準備するかなぁ」


 そのパズルは複数の円の中に正六角形状のピースがハマっていて、そのピースには何やら絵柄が刻まれており、円を動かしてピースを回転させて絵柄を揃える、という仕組みのようだ。何回か動かしていれば、やがては絵柄が揃って仕掛けは動くのだろうが、問題は――


「石版の上の方にある数字って」

「多分、制限回数、かなぁ」

「面倒臭い!」


 そう、パズルの上にカウンターのようなモノがついており、そこには『6』の数字が見える。


「まずピースがどう動くか確認しないと駄目かなぁ」


 面倒臭いと地団駄を踏むらいちを、優しく押し退け、ユウナはパズルの前に立つ。


「ええっと、外側の円を回すと中のピースが動く」


 試しにピースがハマっている円を動かすと、ピースが瞬間浮かび上がって、円を動かした方向に回る。そして円に触った段階で、パズル上方のカウンターが動いて『6』から『5』に減った。


「なるほどなるほど……だけどこれパズルの絵柄が、分っかんないなぁ」


 普通のパズルなら特徴的な部分と言うのがあるのだが、眼の前のパズルは幾何学模様っぽい感じで、どことどこを合わせれば正解か分かりづらい。


 あまりにベリーハーベストな難易度に、ユウナは乾いた笑い声を出しながら、やや呆然と呟く。


「たはははは、これを六回で揃えろと? マジで?」


 パズルの絵柄の完成形を何とか見抜こうと集中するユウナだったが、状況は待ってくれなかった。


「わぁい! マジかーっ!」


 ゾンビの相手をしていたヒロシが素っ頓狂な声を出す。


「何ご――うえいっ?!」


 そんなヒロシの声に反応して後ろを振り返ったらいちが見たのは、一階で出現したマッチョ大男が天井から二体落ちてくる様子であった。


「大変だ! ユウユウ! 空からマッチョが降ってきた! しかも二匹!」

「うぇいっ?!」


 一瞬硬直したらいちだったが、すぐに状況の不味さに気づいて叫ぶ。


「そんなの降ってくんなやっ!」


 思わずツッコミを入れるが、ツッコミを入れたところで状況は変化しない。


「何で?! どうして?!」


 ユウナがパズルと部屋の入口を交互に見ながら叫ぶ。自分が失敗して何かやってしまったのか、そんなやってしまった感に支配されてしまい、ユウナが慌てる。そんなユウナを見て、らいちも慌ててヒロシの方へ視線を向けた。


「ヒロシニキ大丈夫?!」


 らいちに聞かれたヒロシは、サングラスをインベトリへ投げ込み、ショットガンを取り出し、近場のゾンビを殴り倒してショットシェルを装填する。


「何とかするから、そっちは頼む」


 ショットガンのポンプをガシャンと動かし、ヒロシはゾンビを蹴り殴り、はっ倒してマッチョ男に向かって走る。


「第二回戦と行きますか!」


 超至近距離で二体のマッチョと戦い始めたヒロシを見ながら、らいちは部屋のドアを閉めて、パズルの前に立つユウナの元へ駆け寄った。


「ユウユウ?」


 右手の親指の爪をかじって、パズルを睨むユウナにらいちが声をかけると、ユウナは険しい表情で唸る。


「分かんねぇ」


 パズルの絵柄に規則性が全く見えず、ユウナはガジガジと爪に歯を立てる。そんなユウナの様子を見ながら、らいちがパズルに視線を向けると、ん? と小首を傾げた。


「ええっと?」


 唸っているユウナの横で、らいちはパズルのピースを指差し、これとこれ、こことここ、みたいな確認を始める。


 そんならいちの様子に気づいたユウナが、らいちが指差している場所を見るが、彼女が何に規則性を見ているか全く分からない感じで、むしろ逆に首を傾げるしかなかった。


「先輩、分かるんですか?」


 本当に何が見えているのか、そんな気持ちで問いかければ、らいちは不思議そうな表情でユウナを見る。


「え? これとこれが繋がってるんじゃないの? こことこことか」

「……」


 らいちが指差してくれるが、ユウナにはそれが繋がるようには見えず、これはもう彼女に任せるしかない、とその場から一歩下がった。


「先輩、お願いします」

「え!? 私っ!?」


 ユウナの言葉にらいちが、マジで? と言う顔をする。


「私には何が何だか分からないですもん。なら規則性を見てる先輩がやった方が確実ですから」

「いやいやいやいや、自信無いよ?!」


 らいちがアワアワとしながらユウナの申し出を拒絶するが、ユウナはらいちの両肩に手を置いて力強い目で見つめる。


「大丈夫です。やれます」

「うぇ?! でもでも」

「先輩なら出来ます。絶対大丈夫です」

「いやいやいやいや」


 出来ない出来ないとブンブン首を横に振るらいちを、ユウナはぐるりと体を動かしてパズルの前に押し出す。


「先輩のここ一番は絶対失敗しませんから! やっちゃえ! らいちっち!」

「マジで!?」


 らいちはパズルを前に、百面相をしながらピースを動かす円に手を当てる。


「失敗したらどうしよう?」

「そしたらごめんって一緒に謝りますよ」

「そういう問題じゃ無いような気がするんだけど」

「大丈夫ですって、誰も非難なんてしませんから」

「……」


 ひとしきり弱音を吐き出し、らいちは深呼吸をしてから、気合を入れるように息を吐き出しパズルを動かす。


「こうして……ここがこう繋がって……これとこれが一致して……」


 円を動かし、カウンターを減らし、ユウナからはさっぱり何と何が揃っているのか分からないまま、カウンターが残り『1』の時にガチャンとパズルが全てハマる音が響いた。


「揃った」

「……分っかんねぇ」


 どんな絵柄になったのか分からないまま、パズルは完成し、パズルのあった壁が動き出す。壁はゆっくりと観音開きのように開き、その先の空間に巨大なドラム缶がセットされたカタパルトが現れる。


「「きちゃあぁぁぁぁっ!」」


 待ち望んだ武器の登場に、ユウナとらいちはお互いに抱き合って、その場で飛び跳ねるのであった。

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