第192話 さようなら幸福感、こんにちわ艱難辛苦。 byユーヘイ

「そう警戒しないで下さぁい! こちらにお呼びしたのは皆様に手渡したいモノがあったからでぇす! はいどんっ!」


 いきなりの大舞台、いきなりの運営呼び出しに最高警戒体勢だったユーヘイ達に、マックス寺内は胡散臭い笑顔を向けながら、プレイヤーに向かって両手を広げた。


『大田 ユーヘイさん。貴方の元ネタこと大柴下おおしばした キョージ役を演じていた芝宮しばみや 勇兵ゆうへいです。こんにちわ』

「っ!? はぁいぃっ?!」


 ぶぉん! と異音がし、個人動画視聴モードが強制的に立ち上がったかと思えば、そこには物凄い格好良い、渋くて男の色気が漂う見慣れたお方が、それはそれはチャーミングに微笑みながらメッセージを送ってくる。


『毎回、貴方の配信を楽しみにしてます。貴方の活躍を見ていると、ああ撮影してた頃も同じような苦労があったなぁ、と思うような事もあります。どちらかと言えば、自分の立ち回りはコメディタッチで、貴方のように格好良い感じではなかったんですけども』

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやぁっ!? 十分格好良いですからねぇっ!?」


 多分というか絶対録画した動画だろう事は承知の上で、思わずユーヘイが叫ぶ。そしてそれは周囲のプレイヤーも同じらしく、悲喜交々な叫びやら悲鳴やらが聞こえてくる。


『今回も何やら一番ハードでタフなシナリオをクリアーされたと、エターナルリンクの担当の方に聞きました。見ている側としては楽しいだけでしたが、プレイしている貴方は大変だったと思います。そこでエターナルリンクの担当の方からの提案を受けまして、貴方の健闘を称え、こちらの映画で使用したブランドサングラス、大柴下 キョージカスタムモデルをプレゼントします。グラス部分に目立たないようにですけども、自分のサインを恐縮ながら書かせていただきました。愛用してくださると嬉しいです。これからも貴方達『第一分署』捜査課の活躍を期待しております。お体に気を付けて楽しく大暴れしてください。芝宮 勇兵でした。一気に行きましょうよ、一気に! なんてね』

「っ!? ふ、ふぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

『大田 ユーヘイさん宛にプレゼントが配布されました。インベトリにプレゼントは入ってますので確認をお願いします』


 ニヤリと笑って往年の最高刑事の表情でおどける芝宮。個人動画視聴モードが強制的に解除されるのと同時に、微妙に甲高い声を出しながら、ユーヘイはインベトリを震える指先で連打しながら開く。


「お、おう、うおう、おうおう」


 そこには確かにキョージカスタムサングラス(サイン入り 注:譲渡も破棄も出来ません。破壊不可アブジェクト)が入っており、直ぐ様それを取り出して顔にかける。


「おおおおおおおおおおおおおおおお」

「おおおおおおおおおおおおおおおお」

「「ん?」」


 サングラスをかけて感動に打ち震えていると、すぐ近くから相方の叫び声が聞こえ、そちらに視線を送れば、自分と同じようにブランドサングラスをしたヒロシがいた。


「「格好良いぜ」」


 お互いにお互いのサングラスを指差し、見事にハモる二人。その様子を、いつの間にか

近くに来ていたトージが見て、なるほどと頷く。


「先輩達はサングラスだったんですね」

「そう言うトージは?」

「僕はスーツの上下とネクタイでした」

「あ、それ見た事あるわ」

「うんうん。あれだよね微妙に安っぽいっていうか、妙に坊っちゃん坊っちゃんに見えるっていう」

「はい。ありそうでなかったんですよねこれ。量販店系のスーツだったら似たようなのがあるかもって探したんですけど、結局見つからなくて。だから嬉しいです。しかも裏地にサイン入りですよ。ほら」

「「……微妙にヤンキーの学ランみたいだぞ」」

「ちょっと自分も思いました。それはそれで、元ネタのお方のデビュー作品みたいで有りかなぁって」

「「ああ……ビーバッ――」」

「みなまで言わなくて大丈夫です。それです」


 微妙につんつるてんな感じに見える青いジャケットを、ちょっとドヤ顔でめくってサインを見せるトージに、ユーヘイとヒロシが突っ込みを入れると、トージも嬉しそうに笑いながら頷く。


「アンタらはそんな感じだったんだ。こっちはこれよこれ」


 そこへノンさんがやって来て、少し大きな扇子をバサリと開く。そこには筆で書かれた達筆な一文字で『茜』と書かれていた。


「これね、所持しているプレイヤーの脳波に反応して文字が変わるのよ。今まで表面と裏面で使い分けてたけど、これ一本で尋問は行けるわ!」


 ノンさんが嬉しそうに言うと、『茜』の文字が消えて、とんでもなく達筆な字で『素直に吐けぇ』と言う文字が浮かび上がる。


「優れモノっしょ」


 ニヘラと笑って自慢気に扇子を見せびらかすノンさんに、ユーヘイは何とも言えない表情を浮かべ、ヒロシは曖昧なジャパニーズスマイルを、トージは素直に感心して凄いですねと彼女に同意する。


「皆それぞれ贈り物を貰ったんだね」

「お、そう言うダディもトージと同じスーツの上下?」

「そうそう。地味な感じが良いよね」

「確かに元ネタの方は、劇中、目立たないような服装が多かったか」

「あっちゃんは……似合ってるけど、確かにそう言うヤンチャな感じの服装が多かったっけ」

「はい! 浅井さんの直筆サイン入りです!」


 ダディとアツミも合流し、それぞれの服を見せびらかす。ダディは灰色っぽいスーツの上下で、アツミはド派手な竜の刺繍が入ったスカジャンにだぼっとしたロングスカートという服装をしていた。確かに二人の服装は劇中で見た事のある衣装だった。


 何はともあれ、何とも気分がアガるプレゼントに、『第一分署』のメンバー全員が満足そうに談笑をしていると、マックス寺内が大きく両手を打ち鳴らす。


「皆さんプレゼントは行き渡りましたね! これは運営からの、今回イベントで積極的にイベントへ多大なる貢献した皆さんへの感謝の気持ちです! これからもイエローウッドリバー・エイトヒルズで大暴れし楽しんで下さるよう期待しております! これにてイベントの発表会は終了します! また次回の大型イベントを楽しみにしていて下さい! ではでは! ごきげんよぉー!」


 こうして色々とあった公式配信は終了したのであった。




ーーーーーーーーーーーーーーーー


「なかなか凄いモノをプレゼントしてくれたなぁ。これからますます頑張れちゃいますなぁ」


 イベントが終了し、再び強制的に移動させられた『第一分署』の面々は、それぞれがゲットしたアイテムを見ながらニヤニヤしていた。


 何より俳優さんご本人からのメッセージの威力は高く、ちょくちょく連絡を取り合っているノンさんや、それ程のめり込んでヤベェDEKAを見ていないダディを除いた全員が、ポヤポヤとした幸せな空気を纏っている。


「今日はもうこれで解散でも良いかもしれ――」


 ニヤニヤ笑って、いつもの軽口を叩こうとしたユーヘイはそこでふと、何かを忘れているような気分になった。


「ん?」


 あれ? 何を忘れていたっけ? 確か何かをノンさんとダディに言うような……とそこまで思い出し、妙に嫌な気分が沸き上がってくるのを感じた。


「何だか思い出さないようにした方が良いような気が……」


 そこまで口に出して、妙に背筋が凍えるような寒気を感じ、ユーヘイは思い出さなければそれはそれで地獄を見そうだ、と言う感覚を覚えて完全に思い出した。


「そうだったぁ……」


 パルティからの直接オファー。拒否権なぞ一切存在しないコラボの要請を思い出し、ユーヘイはガン! とデスクに額を叩きつけるように項垂れる。


「さようなら幸福感、こんにちは艱難辛苦……」


 多分、自分の人生史上、もっとも幸福だった瞬間から一気に絶望へ叩き込まれ、ユーヘイは悲鳴のような猿の叫び声のような、そんな絶妙な声色で悶えるように唸るのであった。

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