第191話 ちょっとしたサプライズって奴ですよ。 ③
YAKUZAプレイヤーのランキングが発表され、アンダーグランドでは悲喜交々色々なナニカがあっただろうが、配信はそれらを無視して進む。
次はノービスプレイヤーの編集動画が流れ、ランキングは順当に『黄物怪職同盟』『親愛なる隣人の友』が上位を独占したのを確認後、いよいよやってくるDEKAプレイヤーの順番。
『はーいはーいはーい! 皆様お待ちかね! 今回のイベントで一番輝かしい数値を叩き出した、イエローウッドリバー・エイトヒルズというゲームの綺羅星! なんとなぁんとぉっ! 海外の非VR系動画サイトを軒並みジャックしまくった! 世界を席巻しまくった動画の総集編が今ここに開かれるぅ! ではではではぁっ! どうぞぉっ!』
「「「「ん? 世界?」」」」
基本、自分達のゲームプレイにしか興味を持っていない『第一分署』の面々は、煽りに煽りまくるマックス寺内の口上に小首を傾げた。
メンバーの中でギリギリ一般的アンテナを持っているトージも、ここのところの充実していたイベントで、すっかりゲームにしか認識が行っておらず、情報収集をしていなかったので彼も説明が出来なかった。
そうした中で流れる動画に、『第一分署』の面々は、口が開きっぱなしになるのであった。
『皆で頑張って、皆でゴールを目指したら、それはとても楽しくて素敵な事だと思わないかな?』
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお……」
「「「「……」」」」
サングラスのフレームを唇に当てて、少しはにかんだような笑顔でのたまうユーヘイ。それは全DEKAプレイヤーに向けて、ユニオンを結成する時に言った台詞である。そして、それをドアップで見たご当人が羞恥にオフィスの床に転がった。
しかし仲間達はそれをからかう事が出来ない。この流れはつまり……
『そんな顔をするのは似合わないぜ、ベイベー』
「……ぐぅっ……」
元役者であり、自分の演技をモニター越しにチェックするなんて事はざらであったヒロシであるが、これは演技と言うより場の雰囲気に合わせた、あくまでごっこ遊びに近い。というか、最近はゲームが楽しくて仕方がなく、演技だとかそう言うのを抜きにナチュラルにやっているので、演技で何かのキャラクターの衣を纏ってない、わりと素な自分状態での発言に、静かに胸を押さえて悶絶し撃沈。
『やべぇなぁ……これって毒されてるって事だよなぁ……でも、ちょっと先輩に近づけて嬉しいって思っている、なんて口が裂けても先輩達には言えないよねぇ……ハハ』
「ノーッ! ノーッ! ノーッ! よりによってぇーっここーっ!?」
危機的状況下でニヤケながら口走る自分の姿に、トージは顔を真っ赤に染め上げて叫ぶ。
『口程にも無い。二度と剣を握らない事をお勧めするわ。百年早い』
『ふぅー、狙撃って言うか粗撃って言うか……自分もまだまだ、って感じかぁ……後で奥さんに叱られそう』
『ユーさん、はげしぃ……』
「「「いやぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!」」」
そして狙い撃ちにされる残り三人。今回イベントで中心的なギルドとして活躍した『第一分署』の映像分量は洒落にならないレベルで膨大だった。そして公開処刑されるユーヘイ達。
その羞恥は『ワイルドワイルドウェスト』が登場するまで続き、ガリガリと精神ポインツを削っていった。
「はぁはぁはぁ、な、何て恐ろしい」
「運営の規約に同意してるからなぁ、映像利用に関してこちらから文句言えない、んだよなぁ」
「うー……お婿に行けない」
「別のシーンにして欲しかったわ」
「もっと良いシーンあったでしょうに。なんでよりにもよって」
「それを言ったわ私なんて私なんて……」
ただただ動画を見ていただけなのに、謎に消耗する(イベントのラストよりも消耗していた)面々。
動画は他のDEKAプレイヤーの活躍も盛り込み、それはそれで映画のような仕上がりとなっている。
「しっかし、こうして見ると……とんでもなく濃いイベントだったよなぁ」
ようやっと精神力が回復してきたユーヘイが、自分のギシギシ鳴る椅子に座り直して苦笑混じりに呟く。
「俺はこのゲームがデビューだから他のゲームは知らんが、他もこんな感じじゃ無いのか?」
そんなユーヘイの呟きに、ヒロシが意外そうな表情で聞くと、疲れた様子のノンさんがペシンとヒロシの肩に突っ込みを入れる。
「こんな消耗戦みたいなイベント打つ運営がありますか」
「何だろう、周年とかの、すっごい記念すべきイベントで、一年間くらいの期間を使ってやるイベントくらいの内容、だったかな?」
ノンさんのうんざりした文句に、ダディが苦虫をしこたま噛み潰したような表情で説明すると、トージがマジですかと反応する。
「え?! そんなレベルだったんですか?! 今回のイベントって?!」
「そんなレベルかなぁ……でもここまで濃い内容だと、周年記念どころかサ終目前ラストスパート、ラストミッションレベル、かなぁ」
「うへぇっ」
驚くトージにアツミが、これまでやって来た(Vラブ活動中)VRMMOの内容を思い出しながら言えば、心底嫌そうに唸る。
そもそもVRMMOで、ここまで練り込んだストーリーを用意する運営の方が希少レベルだったりする。何せ、昨今の流行りはファンタジーモノが多く、無双するように敵モンスターをばっさばさ倒して行く、いわゆる脳死系コンテンツがメインで、ストーリーは二の次三の次みたいな風潮だからだ。
はっきり言ってしまえば、黄物のクエスト一本で他運営ゲームの大型イベント一本分くらいの濃さはある。
「ま、面白かったから良いじゃねぇの」
「「「「そう言えるのはお前(先輩)(ユーさん)くらいだからね?」」」
ヘラヘラ笑って、終わり良ければ全て良し、とまとめるユーヘイに仲間達が突っ込みを入れる。
やがて動画が終わり、再びマックス寺内の姿が映し出され、彼が両手を大きく広げて大きく口を開く。
『お待たせしましたぁ! ではでは! 皆さんも見たいと思っているはずのDEKAランキングを表示しますよぉっ! 日本はおろか世界も注目しているDEKAランキングをぉぉぉどうぞっ!』
「「「「だから世界って何だよ」」」」
もう一度繰り返される台詞に突っ込みを入れていると、画面にズラズラズラと順位が映し出された。
「一位がユーヘイなのは、まぁ予定調和よね。でも二位があっちゃんなんだ?」
表示されたランキングを見て、ノンさんが驚いた表情でアツミを見る。アツミの方も意外だったようで驚いて言葉を失っていた。
「え? 三位が僕ですか?」
そんなアツミの隣で自分が三位に入っていた事に驚くトージ。そんな仲間達の様子を見ながら、ヒロシがこめかみをトントン叩きながら呟く。
「ポイントってそれぞれそんなに差は無かったよな? って事は何のランキングだこれ?」
「でもでもポイントランキングって入ってましたよね?」
驚きから復活したアツミがヒロシに確認するように聞くが、ヒロシはうーむと唸って黙る。
「……これってもしかして――」
もしかしてという閃きが頭を駆け抜けたダディが、仲間達に説明しようと口を開きかけた時、『第一分署』の面々は強制的に移動させられた。
「「「「ふぁ?!」」」」
いきなりの転送に驚くユーヘイ達。それはこの場に転送させられたプレイヤー全てが同じで、全員が少々間の抜けた表情を浮かべながら固まっていた。
そう、転送させられたのはユーヘイ達だけではなかったのだ。
「ようこそいらっしゃいましたぁっ! ランキング一位から十位に入ったプレイヤーの皆さん!」
目の前にはマックス寺内が、胡散臭いオーバーリアクションで出迎え、困惑しかないプレイヤー達に笑顔を向ける。
そんな中、ユーヘイは素早く周囲を見回し、呼ばれたプレイヤーがほぼほぼ知り合いだという状況に安心し、放心している仲間達の背中をトントンと叩いて回る。それで『第一分署』は全員が平常状態になり、近くにいる顔見知り達を正気に戻していく。
「ハーハーハーハー! 驚きました? ちょっとしたサプライズって奴ですよ? ハッハー!」
面倒臭い感じにはっちゃけるマックス寺内に、呼ばれたプレイヤー達は胡乱な視線を向けるのであった。
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