第165話 バディソウル効果
イリーガル探偵の立ち位置が判明し、彼らが渇望していた能力、DEKAプレイヤーのスキルをバフという形で獲得出来るバディソウルという状態に入り、状況が一気に動き出す。
「DEKA一、探偵二で拠点に突入。無理をしない範囲で制圧を開始。連絡は警察無線で行うように」
ネックマイクを操作し、ダディが今の状況を最大限活用する形の運用方法で指示を出す。着実にフィクサーを制圧する一手を打つ。
「DEKAギルドは
『『『『了解!』』』』
「パーティー単位も同じね。ギルドのやり方と同じ。ただ複数のパーティーで合同して動いて。無理しないで大丈夫だから、慎重に。何かあれば連絡を」
『『『『はい!』』』』
一気に形勢が逆転した今、本来なら探偵に指示を出すべき不動は、やや茫然自失な、完全に気の抜けた様子でダディの隣に立っていた。
「まだ気を抜く場面じゃないと思うんだけど?」
どうして不動がこんな、彼にとって醜態とも言える姿を晒しているか、その根本的な部分を察しながら、ダディが苦笑を向けて言う
と、彼は力無く片手を挙げて項垂れる。
「……気持ちは理解出来るけどね……」
かつてスペースインフィニティオーケストラでプレイしていた若かりし頃(今でも普通に若年ではあるが)、オンリーワンよりナンバーワン(※1)と思っていた時期が確かにあった。
自分は特別であり、自分こそが最強最高のプレイヤー也! なんて、今思えば『あいたたたたぁっ!?』みたいな、青春爆発しちゃっていた頃の自分が、上には上がゴロゴロいまっせーと言う現実にぶち当たった、そんなイケイケドンドンから転落した状態に不動の様子は酷似していた。
VRという特別な空間で、誰もが一度は罹患する、ある意味でのVR中二病のような病気。どういう訳か『自分は特別で最高な存在である』と思い込む瞬間があって、特に不動のように出来てしまうタイプの天才型プレイヤーは、その罹患期間が長くなり、その分長く伸びまくった鼻っ柱を叩き折られる凄まじい衝撃を食らう羽目になる。
幸いと言って良いのか、SIO時代には化け物・怪物・変態・勇者・魔王とバラエティーに富んだ人外プレイヤーがゴロゴロ存在し、ダディのVR中二病は速攻完治したので醜態を晒したのは一瞬だった。それでも『自分は特別な存在ではない』と言う現実は、夢溢れるVR世界のリアリティーをむざむざと見せつけられ、裏切られたように感じたモノだ。
不動にとって、イリーガル探偵というユニークジョブこそがオンリーワンであり、ダークヒーローとして活躍出来ると思っていたら、まさかまさかのDEKA有りきのサポート職業だったと……そこにショックを受けているのだろう。それプラス、これまで全く順風満帆過ぎたゲームライフが、突然スコーンと底が抜けたように裏切った、と感じてるだろう事も察する。
これがもしユーヘイだったら、彼ならば嬉々として試行錯誤思考錯誤して、自分から道を切り拓くだろうが……存外、天才型は脆い。ユーヘイは天才ではないのか? いやいや、彼は完全に秀才努力家タイプの、物凄く泥臭い男である。
それを踏まえて、ダディから見たイリーガル探偵は完全に強職業だと断言出来る。何しろ状況と条件さえ整えれば、その戦闘能力はDEKAとYAKUZAを超える可能性を秘めているのだから。
例を出すのならば、プレイヤースキル部分で拳銃や体術関係の扱い方を習熟し、しっかりキャラクターレベルも上げ、イリーガル探偵の内包スキルも上げた状態でバディソウルを発動させたら? 想像しただけでワクワクが止まらない状態へ持って行けそうだ。
だが不動は、自分が自分の自分だけの力で、トップに立ちたいという願望があるようだから、例を説明しても受け入れる事はないだろう。彼の天性のセンスがあれば、そしてトップに行くためなら多少の拘りは捨てられる度量があれば、ユーヘイ超え程度は簡単だろうに、とダディは思った。
まあ、超えるのは簡単だろうが、それで多くのプレイヤーから認められるかは別問題だ……自称『エンジョイ勢』はそれだけ最強なのだ。
『ダディさん、ギルド「ぷるぷるプリン」フィクサーの拠点に突入します』
「っと……こちらダディ、『ぷるぷるプリン』幸運を祈る」
『了解』
つらつら不動の事を考えていたら、チームを組んだプレイヤー達が行動を開始した。ダディは一旦、不動の事を棚上げして集中を開始する。
『こちらパーティー「となりの神社」と「僅差で勝つ奴ら」合同チーム。拠点内部に突入。サポート構成員を鎮圧しつつ、内部を探索中。ポイントロの二付近に重要な要素無し。引き続き、ロの三方面に向かいます』
「ダディ了解。ロの三方面で活動しているチームは、仲間を間違って攻撃しないようにね」
『『『『了解!(はい!)』』』』
バディソウル効果は絶大で、これまでの苦境は何であったのか、そんな虚無感が少し流れるが、それもプレイヤー達の勢いに押されて次々と拠点内部を制圧して行く。
「クローの弱体化までもうすぐ、かな?」
ナビゲーションマップの画面をチラ見してから、背後の様子を確認する。
まだ団長達がウィズを誘導出来きれてないが、かなり良い感じで消耗させているので、このままこちらでエイトヒルズのフィクサー拠点を制圧出来れば、クローの弱体化が始まる。そうすれば流れは加速度的に、こちらの有利に進む。そこからが正念場だろう。
「……出来れば町村に居て欲しかったなぁ……」
項垂れる不動をチラ見しながらダディが呟く。
ユーヘイと同じく、ダディも不動というプレイヤーを高く評価していた。何より彼が元ネタにしただろう、伝説的カリスマ俳優を良い意味で自然に雰囲気を纏っていたし、プレイングも素晴らしかったのだが……まさかここで、色々な事が折れるとは予想外であった。
ウチのワンコ(トージ)を見習えよ! アイツ、孟宗竹レベルでしなやか過ぎる柔軟性をもってるぞ! と内心でボヤきつつも、今は拠点制圧に全力を尽くそうと意識を切り替える。
「こちらダディ、問題は無いか?」
大きなグループのギルド中心に連絡を入れながら、ダディは自分の役割を果たして行くのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
エイトヒルズのフィクサー拠点。そこは放棄された雑居ビル街である。
多分モデルとしては東南アジアのマーケット、市場のようなイメージな入り組んだ迷路のような場所を、DEKAと探偵が進んでいく。
「気配は?」
先頭を進むDEKAが、背中を預ける探偵に問いかける。
「無し。もうちょい先から、少しザワザワしてる感じだ。本命はそっちだと思う」
「了解、助かる」
DEKAが片手を挙げて感謝をすれば、探偵はニヒルに笑って首を横に振る。
「気配察知もバディソウル有りきのスキルだし、俺らの手柄じゃないさ」
「そうそう、DEKAプレイヤーさんが居なきゃ、俺らじゃここまで来れなかったし」
探偵二人は卑下した感じな雰囲気で、まるで自分達はオマケみたいな様子の口調で呟く。その言い分もどこか卑屈だ。
この二人も不動程ではないが、ちっぽけなオンリーワン的野望を持っていたタイプで、あまりに限定的過ぎる自分達の職業を悲観していた。それこそこのイベントが終了したら、このゲームから引退して別のゲームを探そうかなレベルまで行っていた。
「え? イリーガル探偵、めっちゃ強職業じゃん」
「はっ?」
「え?」
二人の悲観的台詞に、DEKAプレイヤーはどこか信じられない表情で彼らを見る。
「だってキャラクターレベルにイリーガル探偵の内包スキルレベル、それを加算した状態でバディソウルが乗ったら、DEKAとYAKUZA超えるじゃんステータスもスキルも」
「「……」」
DEKAプレイヤーの説明に、探偵二人はフリーズした。
「確かに癖が強いけど、今回のイベントでDEKAはユニオン作ったし、あのユーヘイニキが旗振ってくれてる状態だから、今後も連携なんかやり易いじゃん。正直、裏山レベルだよイリーガル探偵」
良いなーと本気でうらやましがるDEKAプレイヤーに、探偵二人は『あれ? 勝ち組?』という認識を持ち始めた。
不動も気づいていなかったが、イリーガル探偵は完全に二時間ドラマ系探偵から逸脱した存在にシフトしていた。つまり自分達が望んだダークヒーロー寄りの存在に、ちゃんと進化していたのだ。
DEKAを補助すると言う事は、DEKAのクエストをDEKAと合同で受けられるという意味であり、一般人でありながら公権力寄り、だけど非合法な存在という実に中二病
増し増しな存在になっている訳だ。
「これからも協力して遊べそうだし、よろしく頼んまっせ」
実に楽しそうに笑うDEKAプレイヤーの姿に、探偵二人はちょっと情けない気分になりながら頷き返す。
ちょっとばかしイメージと違ったから、というだけで良い部分を全く見ていなかった事が、とんでもなく恥ずかしかった。
「頑張ろう」
「んだんだ」
一先ずはここの制圧。そこからイベントのクリアー。引退するとかしないとかは、もっと徹底的に遊び尽くしてから決めよう、二人はお互いにそんな事を考えながら、かつてない勢いでフィクサーの構成員を鎮圧していくのだった。
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『エイトヒルズエリアのフィクサーサポート部隊及び拠点の制圧が完了しました。エイトヒルズエリアボス、クローの能力が弱体化します。またウィズがエイトヒルズのクローがいるエリアに存在している為、両エリアボスに一定のデバフが入ります。条件修正、ルートが分岐します。グランドイベントクエストの特殊フェーズが進みます』
程なくして、全てのプレイヤーの脳内にクエストインフォメーションが流れた――
※1 ナンバーワンよりオンリーワン♪ という歌詞の名曲がありまして……
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