イエローウッドリバー・エイトヒルズ・セカンドライフストーリーズ ~ヤベェDEKAリスペクトロールプレイしてたらすげぇ事になった件~
第176話 あの頃の一般的プレイヤーが、今ではすっかり逸般的プレイヤーになられて……
第176話 あの頃の一般的プレイヤーが、今ではすっかり逸般的プレイヤーになられて……
赤いバイクに乗った美男美女の助けを借り、ラングを猛然と追跡し始めたユーヘイ達が飛び出した、ほぼ同じタイミングで後方集団の近くの合流ポイントから、多くのバイクが飛び出して来た。
「おんやぁ?」
「今度は何なんすかっ!?」
その様子を見ていた谷城はニヤリと笑い、装甲車以上の驚異が登場したのかと村脇がキレ気味に叫ぶ。
『こちらは救援チームだ! 攻撃するなよ! それとプレゼントも持ってきた! 助手席側の窓を開けてくれ!』
無線機から聞こえてきた言葉に、谷城を含む後方で装甲車相手に苦戦を強いられていたメンバーが歓声をあげる。
「リョウ、無線で仲間に連絡。一旦、装甲車から距離を取り、援軍のプレゼントを受け取る」
「了解! あー、第二分署の村脇だ。援軍のプレゼントを受け取る為に、一旦、装甲車から距離を取る。繰り返す、援軍からのプレゼントを受け取る為に、一旦、装甲車から距離を取るぞ」
谷城からのオーダーを聞いて、直ぐ様無線で通達をすると、了承する返事が返って来た。
さて、唐突ではあるが目立つプレイヤーとそうではないプレイヤーの差、とはどこから生まれるか分かるだろうか?
目立つプレイヤー、黄物の場合であるならばユーヘイ達の第一分署が筆頭となるだろうが、そんな彼らと一般的プレイヤーとはどこが違うのか。
いわゆるスタープレイヤーと、言葉は悪いが平凡プレイヤーとの差は、一般的には『認識力』の差にあるという風潮がある。
では『認識力』とはなんぞや? と問われれば、現実の延長としてのゲーム、ゲームはゲーム、この二つがほとんどのプレイヤーが感じていると分類される『認識力』である。
意味不明と思うだろう。では言葉を少し変えよう。
『現実の延長線上にあるゲームなのだから常識も現実世界と同類である』という考え方と、『ゲームにはゲームの常識がありゲーム特有の文法が存在している』という考え方と言い換えれば理解出来るだろうか?
一般的にスタープレイヤーと呼ばれるようなゲーマーは、ゲームなのだからゲームの文法があり、その文法を上手く活用する事こそがそのゲームを楽しむ近道である、という『認識力』で最適解を導き出す。
ユーヘイの行動を見ていると分かるが、彼はこのゲームがヤベェDEKA世界の延長線上にあるゲームという認識で動いており、ヤベェDEKAで表現された事は全て再現出来る、という強固なイメージを持っている。とんでも行動に見えているが、あくまでもヤベェDEKA世界と同じ常識で動いているだけなのだ。それが運営、クエストやワールドを管理しているAI達の思惑にガッチリとハマっているから、あれ程の輝きが生まれている、という訳である。
何が言いたいかと言うと、現在活動しているDEKAプレイヤーは、漏れ無くユニオンとしてユーヘイの思惑、イメージ、思考等々が伝達されている。そう、いわゆるスタープレイヤーのスターたる源泉を伝授されている訳だ。つまり、今現在、この特殊フィールドにいるDEKA全員が、ユーヘイソウルインストール状態である、という状態だ。
それが意味するところは――
「お、ソロ?」
「え? あ、はい! ソロです!」
「隣、邪魔しても良い?」
「は? はあ、えっと?」
「いや、さすがにバイクに乗りながら拳銃を撃つってのは難しいから、助手席が空いてるならそこから攻撃したくて」
「ああ! そう言う! どうぞ! どうぞ!」
「サンキュー! バイクデータの持ち主さん! ごめんなさい!」
バイクで救援に駆けつけたは良いが、ソロだとバイクの運転をしながら攻撃をしなければならず、それはさすがにテクニック的にも難しいと判断したプレイヤーが、ソロで車を運転しているプレイヤーに協力してもらい、次々と助手席に乗り込んでいった。ここから完全にユーヘイ達の、ヤベェDEKA世界観に毒されていると言えるだろう光景だ。
「何か、すっかり大田ブートキャンプに染められたわよね……私達」
そんな普通のプレイヤーなら思い付いても絶対にやらないだろう事を、軽々曲芸でもするように行う仲間達を眺め、どこか遠くを見るような瞳をしながら沙木が呟くと、木村が乾いた笑い声を出す。
「いやまぁ……うちのギルマスとかもやりそうですけども」
「言わないで。絶対、今の光景を見てはしゃいでるハズだから」
はしゃいでいました。それも奇声レベルの叫び声を出しながら跳ねておられました。
「それで、援軍からのプレゼントって何かしら?」
自分のところのギルマスイメージを振り払いながら沙木が聞くと、木村は受け取った弾丸ケースを開きながらニヤリと笑う。
「第一分署の山さん謹製『貫通弾』ですって」
嬉しそうにケースから弾を取り出す木村をチラ見しながら、沙木はハンドルから左手を持ち上げ、白魚のような指先でこめかみを押さえる。
「どうしてそうピンポイントに役立つモノを作ってるのかしらね?」
頭が痛いと言わんばかりに苦々しい表情でうめくように呟く沙木。そんな彼女に木村は知りませんよと、あっけらかんとした口調で返した。
真実は、『こんな事もあろうかとっ!』と言う台詞を言いたいが為に、要不要関係なく、現在自分に作れる弾丸系を全て過剰供給出来るレベルで製造し、たまたま現在の状況にマッチする状況が来たから、嬉々として赤蕪を呼びつけて貫通弾を押し付けた、というのがオチだったりする。
「ま、でも、これでアイツら相手に戦えますね」
空のマガジンに貫通弾を詰め込めながら木村が笑い、沙木は溜め息を吐き出しながらそうねと素っ気ない口調で答えた。
「嬉しくないんですか?」
「釈然としないだけよ」
「割り切りなよ、じゃないと死ぬぞ」
「うっさい馬鹿!」
「さーせん」
どちらかと言えば地味な平凡プレイヤータイプである沙木は、どんどん自分達が第一分署方面、変態的な曲芸プレイをするような方向へと向かっている事実に、軽口を叩く木村へ八つ当たりをする。
それが別にイヤという訳ではないのだが、どうしても性分的に受け入れがたいという事もあり、沙木はちょっとうんざりした表情でハンドルを握り直す。
「とりあえず目の前の事を片付けましょう」
「はいはい」
「はい、は一回!」
「はい!」
沙木の葛藤を見て、『あのギルマス相手に色々と文句を言えるだけでも、既に沙木さんも普通におかしいレベルなんですが』とは思っていたが、言っても否定されるだけだから飲み込んだ。木村は色々と空気を読める男である。
「お、ギルマスも動き出した」
「そうね。先導はバイク部隊がするみたいだけど」
「二人乗りで戦うって、結構大変そうですけど」
「何とかするんじゃないの? バイク乗り系は縦山さんリスペクトでしょ?」
「いやまぁ、普通にあの方はバイクで両手離しでショットガンバカスカ撃ってましたけども」
タテさん改造計画での一幕である。
「ほらほら、うだうだ言ってないで準備して」
「はい」
まずバイク部隊が装甲車の隙間から前へ抜け、煽り運転をしながら後ろのプレイヤーが貫通弾を撃ちまくる。そこへ後方から猛然と車部隊が突っ込み、助手席のプレイヤーがタイヤを狙って撃ちまくる。
「よっしゃぁっ! タイヤ貫ける!」
普通の弾丸では弾かれていたが、山さん謹製の『貫通弾』は、その威力を存分に発揮し、防弾仕様のタイヤすら貫きバーストさせていく。
「良い感じね。じゃぁ、ガンガン潰して」
「うっす!」
薄く酷薄な笑顔を浮かべる沙木に、やっぱり沙木さんも十分ギルマスとかの側だと思うんですねよ、とは口に出さず黙って拳銃を撃つ木村なのであった。
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