第184話 お腹いっぱいの運営クオリティ
「おかわりはのーせんきゅーっ!」
「来ちゃった♪」
「アンタは楽しそうだなぁっ!?」
「どんな時でも楽しんだモノ勝ちよぉ♪」
「無敵の人かよぉっ!?」
明らかに今いるフィクサーの車両よりも大きくてゴツい、完全にそりゃぁ軍用車両っちゅうカテゴリーに入るじゃろうがぃ、という車が二台、合流ポイントから出現し村脇が叫んで谷城が茶化す。
「冗談はさておき……あれにこっちの豆鉄砲でダメージが与えられるか」
「無理っしょっ!?」
「だよなぁ……となると、あの金田バイクっぽい真っ赤な三倍くらいで動けそうなのに乗ってるイケてる兄ちゃんと、やたらと男の琴線に触れる良い意味でのBBAちゃんが戻ってくるのを待つか」
「ボインボインアネキって谷城さんでも知ってるんですね」
「まーねっと、通さないよっとっ!」
「ぎゃーぁっ!?」
対策を考えながら呟く谷城の言葉に、村脇が突っ込みを入れ、その間に突っ込んできたフィクサーの増援車両の進路を妨害する。
暴走する巨象、いやマンモスにでも突っ込むような迫力に、村脇が本気の悲鳴を出す。それでも構わず進路を妨害し、激しい読み合いの末、何とか自分の車にダメージを与えずフィクサーの動きを止めてみせた。
「いやぁ~楽しいねぇ~♪」
「もぉーいやぁーっ!」
楽しい楽しいとうそぶき、密かに冷や汗を流す谷城に気付かず、村脇が涙目で叫ぶ。村脇の言葉ではないが、確かにそろそろ一人でフィクサーの猛攻に対応するのは無理がある。
「どうしたモノか」
これで村脇が超能力者も真っ青な予知能力を発揮し、予備で大口径の拳銃を購入していたり、もしくはショットガンやらグレネードランチャー、欲を言えばRPGやらロケットランチャーでも買っていたら話は違うのだろうが、このままではどう足掻いても押し負けるだろう。
DEKAらしくない銃器のラインナップだが、少なくとも、映画館で見た劇場版ではロケランもグレポンも使っていたはずだから、多分ショップにも用意されているだろう。(ノンさんがグレポンを使用していた事は、動画を見ていないので知らない)
誰かがそれらを購入している奇跡を待つ訳には行かず、増援のフィクサーが登場し、こちら優勢で動いていた状況が沈静化してしまい、他のフィクサー達が守りに入り始めた。
囲まれていた状況を脱出するために、冷静に弱い部分を攻め、その包囲を脱出して、ダメージを受け過ぎた車両を囲んで守る、みたいな陣形もしている。
「カウントも六台でストップ」
フィクサーの増援が到着する前に、何とかギリギリで沙木と『リッチー&マッチー』のグループで落とした一台から動いていない。
メタ的な見地になってしまうが、イベントのフェーズが進む、もしくはカウンターがゼロになる事で引き起こされるフィクサー側にとって不利な状況を産み出す事を回避するのならば、フィクサーが取るべき手段は一つ。
「まぁ、そう来る、わなぁ」
増援で来た二台を殿として大盾に見立て、何とか相手に出来ていた車両は、増援の二台に守られた形で一塊となって動かない姿勢を取っている。
谷城が指揮官だったらまんま同じ事を指示するだろう、予想を外れない亀の如き守りに苦笑しか浮かばない。
『谷城さん! 沙木さんが赤いバイクの二人を呼ぶべきだってっ!』
そこに木村の無線が入り、谷城はメソメソしている村脇の脇腹へ肘を叩き込む。
「ぐおっ?! なっなんすかっ!?」
「沙木の提案を飲もう」
「へ? あ、自分が要請しろって事です?」
「今、運転中」
「ネックマイクでもイケるでしょうに……あーあー、赤いバイクのカップルへ――」
谷城の指示に村脇がバイクの二人組に無線を入れる。これで挟撃が出来れば、まだ戦えるとイメージし、そっと静かに息を吐き出す。
「前方から襲い掛かれば、後六台ぐらいは――」
取らぬ狸の皮算用、ということわざが頭を過りながら、それでもそこに、あの二人組の片方が持つライフルの威力に活路を見出だすしか無い、そう思っていた谷城であったが、それは無惨にも叩き潰される。
『やべぇっ! 後方注意っ!』
「っ!?」
無線越しの警告に谷城がバックミラーを睨めば、後方の合流ポイントから新たなフィクサーの増援が合流してくる。その数、十台。
「ああっ! 楽しくなってきたっ!」
笑顔と言葉とは裏腹に、感情的にハンドルを殴り付けながら谷城が吠える。流石にこの増援は痛すぎだ。
『ごめんなさいっ! こっちにも新しいフィクサーの増援が来ちゃったのっ! すぐには向かえないわっ!』
「「クソがっ!?」」
そしてイケてるお姉ちゃんからの、あまりに痛すぎる無線に、流石の谷城も村脇と声を合わせて悪態を吐き出す。
「どーすんすかっ!」
「どーにかするしかないだろうがっ!」
村脇のキレ気味の問い掛けに、谷城が逆ギレレベルの態度で叫び返す。そしてそのまま勢いが止まらず、ガンガンとハンドルを両手で叩き、苛立ったように頭をガンガンとハンドルに叩きつける。
「こんな状況っ! 誰が予想出来たっ! こっちは凡人プレイヤーだぞっ! 誰も彼もが大田 ユーヘイになれる訳じゃないっ! 分かってるのか運営っ!」
かなり苛立っているのか、普段ならば絶対に見せない、まさかの運営への罵詈雑言を叫ぶ谷城。滅多に見る事がないギルドマスターの生の感情を目撃し、しかし村脇はどこか安心したように苦笑を浮かべた。
「谷村さんが凡人プレイヤーとか、どの口が言うんすか」
「俺は凡人だよ! ただただ諦めが悪い、泥臭いプレイヤーでしかないっ!」
「いやいや、十分ユーヘイニキに通じるあともすふぃあを感じるっすよ」
「はんっ!」
村脇の茶化しに苛立ちが収まり、谷城は大きく鼻で笑い飛ばしながら、更に落ち着くように大きく息を吐き出す。
『どうするっすかっ!? 後ろのフィクサー突っ込んで来るっすよっ!?』
『ギルマス!』
後ろの木村と沙木が悲鳴に似た無線を飛ばしてくる。それを聞いた谷城は、シニカルな笑みを口の端に浮かべた。
「こっちの車両が尽きるまで、相手に体当たりでも食らわせ続けるか?」
「それで倒しきれれば御の字ですが、多分、アイツら耐えそうですよね」
「……はぁ、辛いねぇ~」
谷城は大きく溜め息を吐き出すと、ネックマイクを操作して無線を入れる。
「さっき、大きい拳銃でフィクサーの強化ガラスを貫いたプレイヤー。その拳銃で増援で出現した新しい車両を相手に出来るか?」
『試したっ! 弾かれるっ!』
「……」
もしかしたらと思って、確認するとにべもなく否定され、谷城は重たい溜め息を吐き出す。
「体当たりしかないか?」
投げ槍に谷城が呟くと、村脇も頭をガリガリ掻きながら、それっきゃ無いっすかねぇ、とうんざりした口調で返す。
「……もう車をぶつけるしかアイデアが無い。他にこの状況を打破できるアイデアは無いか?」
谷城が問い掛けるが、誰もが沈黙で返す。この状況をひっくり返すだけの何かを、とっさに考え出せるプレイヤーはいなかった。
「バイク部隊の動きに合わせて車を動かす。ギリギリまで相手の動きを見極めて、バイクを乗り捨てよう」
『いやっ! それじゃぁ避けられてお仕舞いだ! 運転手一人を犠牲にして当てよう! まず最初に俺がやるから、その様子を見て次を繋げれば良い!』
『いや待て! 安易にリソースを消費するのは不味い! 体当たりという提案には賛成するが、まず車でやってみないか? 少しのダメージなら耐えられるだろ? そっからやり方を工夫すれば上手く行くんじゃないか?』
谷城が具体的な方法を指示すれば、それに対して他のプレイヤーが意見を言い、更に別のプレイヤーが別の提案をしてくる。それが呼び水となって、だんだん慎重な方向へと進み始め、収拾がつかなくなっていく。
「すまないが谷城の提案で行く! いくら『第一分署』のエースでもこれ以上の時間は命取りになりかねない! バイクと車の連携で行く!」
谷城の指示に侃々諤々の言い合いをしていたプレイヤー達が黙り、納得はしていないだろうが、了解と返答はもらえた。
「良し! 行くぞ!」
谷城の号令で仲間達が一斉に動き出したのだった。
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