第157話 作戦会議
鑑識の山さんが一人地獄を見、気がつけばユーヘイ兄貴のブートキャンプが開催されたり、そのブートキャンプにトージやヒロシまで巻き込まれたり、ノンさんが女性DEKAプレイヤーから『お姉様』呼ばわりされたり、アツミが良く分からない内に跳弾撃ちを完全にマスターしたりと、物凄いカオスなリアル二日間を挟んで、ついにその時は来た。
「『不動探偵事務所』はエイトヒルズの拠点確認。エイトヒルズにいるのはクロー、空手っぽいジークンドーの使い手。ICPOの捜査官の話だと、ベイサイドのウィズと敵対関係にあるらしいから、『不動探偵事務所』は他のノービス・探偵ギルドと協力してベイサイドへ誘導して欲しい」
カテリーナが借りたセントラルステーションのレンタルルームにて、ホワイトボードに貼られた黄物のマップをレーザーポインタで指し示しながら、ダディが『不動探偵事務所』ギルドマスター不動 ヨサクに向かって言う。
「なかなかハードなミッションだが、まぁ、どうにかやりましょう……うちのサブマスが」
いつもの赤いストライプが入った黒い中折れ帽を浅く被り、特徴的な丸いレンズのサングラスを両手で持ち上げながら、真剣な口調でサブギルドマスターのチョースケを生け贄に捧げようする。
「っざっけんなよ?! お前もやるんだよお前も!」
そうそうたる面々を前に緊張している様子だったが、あまりに通常通りな不動の物言いに、チョースケが瞬間湯沸し器のように顔を真っ赤に染めながら鋭く突っ込みを入れる。それを聞いた不動は、中折れ帽を脱いでパタパタ顔を扇ぎながら、椅子に両足を乗せて体育座りのような形で座り直し、嫌そうな雰囲気を隠しもせずに言う。
「うぇぇぇぇ? 面倒臭――」
臭いと続けようとする不動に、赤蕪 ヒョウ他が咳払いをして、ジットリとした目を向けながら忠告をする。
「不動ちゃん? 『第一分署』の同接な、毎回二桁万越えるんやで? 言葉にはきぃーつけや?」
赤蕪の言葉に不動は持っていた帽子をポトリと落とし、サングラスの位置と真っ赤なネクタイを直しながら、姿勢良く椅子に座り直してグッとガッツポーズを作りつつ胡散臭いまでに平坦な口調で言う。
「HAHAHAHAHA! この不動 ヨサクに任せておけば、完璧にこなしてみせようじゃないか!」
「そうしとき」
あまりに見事な手の平クルーに赤蕪は呆れたように頷き、チョースケはグーパンでガツンと音を立てるゲンコツを不動の頭に叩き込む。
「ってぇなぁ!?」
「お前はもう黙っとけ。すいません! 続けて下さい!」
サングラスを落とす勢いのゲンコツを食らい、涙目になった不動がチョースケを睨むが、彼はそんな不動の頭をガッツリ掴み、ぐいぐい頭を下げさせながら、すいませんすいませんと謝りながら、ダディに続けて続けてとジェスチャーをする。
そんな面白い『不動探偵事務所』のマスターサブマスターの様子に苦笑を浮かべつつ、ダディはレーザーポインタでベイサイドを指し示す。
「『不動探偵事務所』の誘導がもしも難しいようなら、ベイサイドを受け持つ『ワイルドワイルドウェスト』と同盟ギルドの方で誘導するようにお願いしたい。もちろん、無理のない範囲で。ウィズの説明は……するまでもないよね。ここまで彼らの情報が集まったのは団長達のお陰だし」
ダディが『ワイルドワイルドウェスト』の団長に視線を送り、深々と頭を下げて言えば、彼は無邪気な笑顔を見せながら、大した事じゃありませんと首を横に振る。そして、それよりもと口を開き、ジャケットのポケットに手を突っ込む。
「『不動探偵事務所』の状況は、新型の共通無線機で知らせてもらえるのかな?」
団長はジャケットのポケットから取り出した、見た目まんまガラケーな通信機を揺らして質問すると、ダディの横に立っていた金大平 水田がすずめの巣のような頭を掻きながら、上座に座っているテツを見ながら確認する。
「状況の確認は『黄物怪職同盟』さんが?」
水田の言葉にテツが力強く頷く。
「受け持つ。だから『不動探偵事務所』は自由に動け。状況がヤバそうに見えたら、ウチから『ワイルドワイルドウェスト』へ通信を入れる。それで良いか?」
テツが団長に視線を向けると、団長は嬉しそうに頷き、不動に微笑みかけた。
「状況的にはエイトヒルズが一番フィクサー部隊の数が少ないらしいので、頑張って下さい」
「うぇぇいぃぃ、頑張りまぁーす」
完全にやる気の無い、気が抜けた返事をする不動に、団長は苦笑を向け、『ワイルドワイルドウェスト』の三人のサブギルドマスターが目付きを鋭くする。それを見たチョースケが再びゲンコツを落とし、悶絶する不動の頭をガッチリ掴みながら、すいませんすいませんと頭を下げる。
「気にしてませんから。ほらほら、はじめての共同作戦なんだし、あんな見え透いたわざとらしい演技にいちいち突っかからないの」
剣呑な雰囲気を出すサブギルドマスター達をなだめる団長。そんな団長を見て、不動は意外な表情を浮かべながら、面白いと不敵な笑いを作って呟いた。
「……へぇ」
団長の言葉にチョースケは、激しい頭痛に襲われたような気分になりながら、ニヤニヤ笑う不動を睨み溜め息を吐き出す。
実は不動、かなりの負けず嫌いであり、密かに打倒大田ユーヘイを目標に掲げていたりする。彼の目標は、イリーガル探偵での『第一分署』化。イリーガル探偵のトップ・オブ・トップに成り上がる事が目的だ。
だから、ポテンシャル的にもギルドの人数的にも、いつでも『第一分署』を食える立場にあるはずの『ワイルドワイルドウェスト』をわざと煽るように挑発したのだが……修羅場を経験して、ギルドマスターとしては頭二つ分程成長している団長の方が上手だった。
「あー、ほどほどにね?」
不動の向上心のようなモノは好ましいし、ゲーマーならばそういう負けん気は、プレイスキル向上に大いに役立つ。だからダディはお父さんのような表情を浮かべ、微笑ましい子供を見るような目で不動を見ながら言う。
そんな視線を向けられた不動の方は、色々と見透かされているような気分になり、その照れ臭さを隠すように落ちた帽子とサングラスを拾って、格好つけるように身に付けた。
「あー、すいません。話を続けて下さい」
マジでギルドから抜けっかなぁ……わりと本気でそんな事を考えつつチョースケがダディに言うと、ダディは大変そうだなぁと苦笑を浮かべてながら、『第二分署』と『第三分署』の両ギルドマスター・サブギルドマスターに視線を向ける。
「『第二分署』と同盟ギルドはリバーサイドの拠点確認を、『第三分署』はイエローウッドの拠点確認をそれぞれお願いします。リバーはラング、イエローはロック。二人ともボクサースタイルで敵対関係。出来れば誘導してからの弱体化が望ましいけども――」
ダディが言葉を濁すのを見て、谷城が飄々とした笑顔を見せる。
「エイトヒルスからベイサイドは、誘導しやすい環境がある。けれどリバーとイエローにそんな環境は無い、でしょ?」
谷城が面白そうな口調で言い、ダディはその通りと肩を竦める。
「エイトヒルズからベイサイドには直通の地下道が繋がっていて、そこを使えば楽に誘導は可能。だけどリバーサイドは龍王会のシマって言う事が大きなネックになっていて、独立自治区のような場所になっている。だから誘導は現実的とは言えないからね」
そりゃ大変だ、と谷城は他人事のように呟く。
「いやいや谷城さん。そんな他人事みたいに」
いつも通り過ぎる谷城に、サブギルドマスターの村脇が突っ込みを入れる。そんな村脇に谷城は、ちっちっちっと舌打ちをして指を振る。
「最初から自分達で対処するって気構えが必要だよぉ? それこそが谷城式ってヤツ」
「いや、まぁ、確かにその通り過ぎてぐうの音も出ないっすけども……リバーのラングって四天王の中でも飛び抜けて強いっすよ? ね? 団長さん」
楽し気な谷城にジト目を向てから、ヘコヘコ頭を下げながら団長に確認する。
「強いっていうか……使ってくるボクシングのスタイルが高いレベルでまとまっているから、つけ入る隙が少なく感じるって感想かな」
ほらほら、先駆者の方も言ってますよ、そう村脇が谷城に言うと、彼はニヤリと笑う。
「遣り甲斐があって実に良い感じじゃないのぉ。楽しくなってきたねぇ」
「……そうだった、この人、こういう人だった……」
実は谷城、ノンさんやダディと同じ古参プレイヤーだったりする。二人のように啓蒙活動こそしていなかったが、一人でしぶとくしつこくクエストに食らいついていたタイプだった。
今でこそ『第一分署』の発見とかで便利で分かりやすく調整が出きるようになったが、谷城的にはかつての鬼畜な状況こそがノーマル的な感覚があり、困難なシチュエーションというのは遣り甲斐という風に脳内変換される困った人物なのだ。
「村脇君、だからこその『第一分署』だよ」
やべぇなぁ、という表情を浮かべている村脇に、松本が苦笑を浮かべながら、ダディを流し見る。
「『第一分署』の役割は遊撃、そうですよね?」
松本の言葉に、ダディは頷く。
「少数精鋭と言えば聞こえは良いかもしれませんけど、今回のイベントに関して言えば、我々は完全に戦力外です。今回のイベントはやっぱり数が必要ですから、我々はリバーとイエローに分散して、『第二分署』と『第三分署』をフォローするスタンスで動きます」
「いや、ありがたい限りですよ。村脇君、これなら大丈夫だろ?」
「一気に活路が見えた気がします! リバーには誰が?」
「あーっと、リバーには――」
運営ですら予想していなかった、ノービス・探偵巨大ユニオンと、全DEKAプレイヤー巨大ユニオンと言う二大勢力による大作戦が始まろうとしていた――
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