第170話 アーケード、立て籠り過ぎ問題
イタリアン、フレンチ、中華に果ては定食屋まで、アーケードのあちらこちらで立て籠り事件が発生しまくっていた。
「手が足りない」
『分かってる』
「追加の人手はどうした?」
『分かってるだろ? きっちり妨害されてるわ。車両で動けんから集団登校状態だ。しかもきっちり待ち伏せしてるから進みが悪い』
「かー」
『その気持ちは大いに分かる』
数件目の立て籠り事件を解決し、ヒロシは作戦本部に状況確認の連絡を入れる。しかし状況は悪いようで、対応しているテツの口調は鈍い。
つい先程解決した、懐石料理を出す料亭に立て籠っていたフィクサー構成員を、いつものNPC制服警官が連れ出す様子を眺めながら、ヒロシは後頭部を撫で付ける。
「なして立て籠るん?」
『知らんがな……え? おーおー……水田兄ちゃんによると、効率的に嫌がらせしつつ、少ないリソースでこちらを消耗出来るからって言ってるぞ』
「運営の馬鹿野郎、ビックリする程効果的で効率的な事しやがってからに……」
水田の推測にヒロシはうんざりした口調で呟きながら、周囲に視線を走らせる。
現在見えている範囲で、あと四店舗にフィクサー構成員が立て籠っているのは確認済み、そこは突入を経験したDEKAプレイヤー達が対応中だが、あまり捗っておらず割りと阿鼻叫喚状態だ。
『WWWのベイサイドに展開していた連中も向かっているから、頑張ってくれ、としか言えん』
「それは朗報だが、状況が着実に悪化するだろうなぁ」
『だよな』
「ノンさんとダディは?」
『エイトヒルズで後処理中。ちょっと色々あってな、不動が使い物になんなくて動けん』
「……何があったよ? 自信とプライドの塊みたいな奴だったろ?」
『まぁ……理想と現実は違ったって感じだ』
「なるほど分からん」
頼れる仲間が応援に来ない事に落胆しつつ、別の店舗に突入していたトージが無事に戻って来る様子を確認し、軽く手を挙げて合図を送る。
「イエローウッドのフィクサー拠点はどうなった?」
『予測していた場所は空振り、と言うかもぬけの殻。慌てて場所を移動させたのは確認出来た。目下探索中』
「そっちも上手く行かねぇか」
『どっちかっつうと、運営がハードル上げたんじゃねぇの? って感想しか出ない』
「……否定出来ねぇ」
『やりそうだよな』
「だな」
リボルバーから空薬莢を出し、ゴム弾を一発づつ込めながらトージがヒロシの横に立つ。
「人質は?」
「全員無傷です。と言うか、店内にいたプレイヤーが観光目的のプレイヤーだったので、凄く楽でした。縦山先輩の予想が補強された形ですね」
「それは朗報だな」
リボルバーのシリンダーを慣れた感じで戻し、ガンホルダーへ収めながら、状況説明をするトージ。それを聞いてヒロシは少し明るい表情で笑う。
一番最初に突っ込んで解決した時、観光プレイヤーが妙に保護されている様に感じたヒロシが、フィクサーの構成員は観光プレイヤーを本当の意味で人質に出来ないんじゃないか? と予想したのだが、それが当たっていたようで、ようやっと明るい兆しが見えた感じだ。
『聞こえたぞ。言ってた奴か?』
「ああ。まぁ、朗報っちゃ朗報ではあるんだが、被害が減るってだけで事件解決に役立つって訳じゃねぇのが、なぁ」
『いやいや、そこは素直に朗報で終わらせようぜ?』
「それで事件が解決するなら、素直になれるんだが」
『被害が減るだけ良いじゃねぇの』
どうしたもんか、そんな空気感で軽口を叩き合うヒロシとテツの無線を聞いていたトージが、アーケードを見回しヒロシの肩を叩く。
「縦山先輩、さっきテツさんがフィクサーの拠点がもぬけの殻って言ってましたよね?」
「ん? お、おう」
「もしかしてアーケードに来てません?」
「え゛?!」
『……おいおいおいおい! 観測班! チェック! チェック! チェック!』
トージの言葉にヒロシが唖然とした表情を浮かべ、無線越しに会話を聞いていたテツが慌てて指示を飛ばす。
「何でそう思った?」
「感覚的な話ですが」
「ユーヘイで慣れてる。んで?」
「誘導されてるって感じませんか?」
「……」
冷静になってトージに理由を聞いたヒロシは、かけているサングラスを外し、耳にかける部分を咥えながら、アーケードに視線を向ける。
「自分も運営の悪ふざけ的なサムシングかと思ったんですけど……ベイとエイト両ボス撃破でデバフが付きましたよね?」
「……恐慌?」
「思いっきり狼狽えた人間が、自分一人でもたすかろうって安全確保にがむしゃらに行動したら、って考えると……」
「賢い生物になりやがって」
「えへへへ」
あまりに説得力のあるトージの説明に、ヒロシは咥えていたサングラスで指し示しながら苦笑を浮かべた。
「テツ」
『確認した! アーケードの北側で妙な動きを観測!』
状況確認を行っているテツに呼び掛けると、すぐに返答があり、その言葉を聞いたヒロシは照れた笑顔のトージに拍手を送る。
「ただ問題は、ここを放り出してそっちに向かえないってトコなんだが」
「こっちもこっちで放置はマズそうですよね……ここの運営的な視点で見ると」
「減点位で許してくれれば御の字」
「下手すれば、こっち陣営に妙なデバフをしそうなのが怖いですよね」
「だな」
さてどう手を打つべきか、そんな会話を二人でしていると、ヒロシ達が来る前にDEKAプレイヤーをまとめていたギルドのマスターが近づいて来た。
「無線の会話聞きました。それと町村さんとタテさんの会話も。ここは俺らで頑張るので、アーケードの北側を頼めますか?」
「……大丈夫か? あ、いや君達の技量的な部分の心配じゃなくて戦力的な意味で」
「一応、二人でも頭数は頭数ですからね」
「正直、不安っていうか失敗したらどうしようって気持ちが強いです。でも、お手本はいっぱい見せてもらえましたから、やれると思います! 多分、おそらく、きっと」
「そこは言い切ってくれよ」
ギルドマスターの申し出に苦笑を浮かべ、こちらの様子を見ていた他のプレイヤー達の様子を見回し、ヒロシは横に立つトージの胸板を軽く叩いた。
「じゃ、ここは頼む。行くぞトージ」
「はい、縦山先輩。無茶をしないで頑張って下さい」
ここは彼らの意志を尊重しよう、そう周囲の雰囲気から心意気を汲み取り、二人はその場から走り出す。
そんな二人の背中を見送ったギルドマスターは、パァン! と勢い良く自分の頬を叩いて声を張り上げた。
「改めてギルド『
「「「「了解」」」」
頼もしいDEKA仲間の声を背中で聞きながら、ヒロシはニカリと白い歯を見せて笑う。
「大人数で協力して解決に向かう、劇場版かな?」
「大掛かりで豪勢という部分では、たしかにゲームのイベントとは似てるかもしれません」
「まさに祭りって感じだな」
「ですね」
二人はそんな軽口を叩き、ナビゲーションマップを見ながらアーケードの北側へと向かう。
「テツ、北側の状況は?」
『一応、平常通りだとは思う。ただ、北側の稼働時間は夕方からが本番なんだが、妙に人通りが多い』
「フィクサーの構成員か?」
『そこまでは分からん。ただ堅気っぽくはなさそうだって言ってる』
「注意は必要って事だな」
『ああ』
ヒロシはトージに目配せを送り、その意味を汲み取ったトージは別の道を走り出す。
「出来れば援軍の一部をこっちに回してくれよ」
『それはそうだが、到着するかどうかは向かってくる奴らの足の速さに期待してくれ』
「DEKAは走るもんだけどな!」
確かに昔の刑事ドラマは、やたらと犯人追跡で全力疾走する感じだが、それをデフォルトにしている若いDEKAプレイヤーはいるんだろうか? とテツは苦笑を浮かべた。
「兎に角、やれるだけやってみるさ」
ヒロシはそう言って、ひらりと裏路地の細い道に飛び込むのだった。
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