第180話 LALAPALOOZA! ③

「どうした縦山っ?! ここでまさかの棒立ちぃっ?! どういう事だ?! コメントさんで分かった方はいるかぁっ! わたくしには何も見えなかったぁっ!」


・せくしぃこまんどぉう 山田さん? 分かった風な反応してませんでした?


・山田 左手に何か持ってる感じがする。


・えいどぅりぁん ふぁっ?!


「……確かに何か持ってるか?! だがだがだが! わたくしの目には頬を掠めたようにしか見えなかったがぁっ?!」


角松かどまつ けん わぉ、本当に格闘中継の実況やってるし。


川中かわなか ショウ それよか説明するんじゃなかったのかよ?


内竹うちたけ アニぃ 俺がやっちゃうか?


・角松 健 説明しよう!


・川中 ショウ やれやれだぜ。


「おおっとぉっ?! イエローウッドで最も有名なYAKUZAプレイヤー、それも大親分のコメントが登場したぞぉ?!」


・角松 健 そんな大層なプレイヤーじゃねぇけどもな。


・山田 それよりも説明って?


・角松 健 おう。ボクシング系のスキルも多数あってな? 多分、ヒロシニキが習得してるのはボクシングだと思うんだが、ロックが持ってるのはもしかしたらダーティーファイターか闇拳闘か、多分そっち系だと思うんだが。


・えいどぅりぁん ダーティーファイター? 闇拳闘?


・川中 ショウ ダーティーファイターはボクシング系なんだが、どちからと言えば何でもありのストリートファイト系の格闘スキル。素手だと攻撃力が上がるっていう特徴がある。


・内竹 アニぃ んで闇拳闘はマジ何でもありの総合格闘技。これには不意打ちとか闇討ちとか、そう言う対戦相手に見えない系のアーツとか使ってくるんだ。だからロックはこっちだと思う。確かスキルのパッシブで、手の中に石を握る的な奴があったかな?


「闇拳闘!? そんなスキルを使っていたのか! だがその一撃で棒立ちになったのはどうしてかぁっ?!」


・角松 健 闇拳闘のスキルは、アーツをぶつけた相手をスタンさせるっていう効果があってな?


・山田 そうか! スタン! 不自然なくらいに棒立ちになったのってスタンしたから?!


「なななななんとっ! 確かにそれなら不自然なくらいに棒立ちになったのも納得だぁ!」


・せくしぃこまんどぉう でもそれってズルくない? ボクシングの試合形式なんでしょ?


・角松 健 外国のマフィア相手にして、試合形式守りましょう!(キリッ)なんて通用するとでも?


・せくしぃこまんどぉう おーぅ……


「確かにこれは正式なボクシングの試合ではありません! それっぽい事を前面に出されましたが、やっている事は完全に私刑! このまま縦山は殴られ続け倒されてしまうのかぁっ!?」




ーーーーーーーーーーーーーーーー


「がぁっ?!」


 タイミング的に避けられたと思ったジャブを、しかし紙一重で頬にかすらせながら、そのまま踏み込んでボディへ拳を叩き込もうとしたタイミングで後頭部に衝撃が走ったように感じた。


「ちっ、正統派ボクシングなんぞしやがって。こっからはお前に出番はねぇよ」


 完全に硬直した状態で聞こえてきたロックの言葉が何を意味するのか、それを次の瞬間には理解する。


「フン!」


 ガツンと右頬に衝撃が走り抜け、だが体は動かず全ダメージをまともに食らい、視界に見えているヒットポイントバーが、ガクンと減少するのが見えた。


「散々、ボクサーっぽく戦いやがって……クソが」


 ガツンと左頬に衝撃が走り抜け、やはり体は動かず全ダメージを食らう。


 ロックにひたすら罵倒されながら、なぶられるように殴られ、ヒロシはこの状況を打破する方法を必死に考える。


『あーそうそう。実際にやられそうなパターンとして、相手がボクシング勝負みたいなのを仕掛けて来て、実際はボクシングに見せかけた別の格闘スキルで攻撃してくるっていうぱてぃーんもある……いや、ここの運営なら絶対に狙って来そうな不安感がヒシヒシと……』


 必死に考えていると、特訓をしていた時のユーヘイの台詞を思い出した。


『ボクシング系統のスキルの派生が結構あるんだが、正統派のまま成長させるのと、別系統で成長させるのとだと全く気色が違くなるんだわ。正統派だと完全にダメージディーラーで、他系統だと状態異常にして有利に戦うトリックスター的な戦い方って感じな』


 ニヤニヤと笑ってこちらを殴るロックに視線を向け、ヒロシはなるほどと納得した。つまりこいつは別系統のボクシングスキルを持っていて、そのアーツを使って自分を状態異常にしたのだろう、と。


『現状、状態異常、プレイヤーが受ける状態は三つ。出血、衰弱、そしてスタン。この中で一番ヤバイのがスタンね。こいつだけは完全に対抗する手段が無い。出血と衰弱は治療方法が確立してるから大した事は無いんだけども、スタンだけは現状回復させる方法が無い。まぁ、時間経過で回復するのを待つのが常套手段なんだけども、質の悪い事に別系統のボクシングスキルには、このスタンを付与するアーツが豊富なんだわ』


 完全に失念していた、ロックに殴られながらユーヘイの言葉を思い出し、ヒロシは自分の迂闊さに苦笑を浮かべる。


「何笑ってやがんだオラァ!」

「っ!?」


 ガツンと頭を殴られ、その衝撃でユーヘイが言っていた言葉を思い出す。


『スタンを食らったら、とりあえず相手に殺意を向けよう。いやいや、そんなざんねんないきものを見るような目で見ないように。実際有効なんだって。何かね、この手のVRゲームってそう言う感情も拾ってくれるらしくて、殺気で相手が勝手に怯む事があるんだって、マジで』


 グングン減っていくヒットポイントを横目に、段々とこの理不尽な状況にイライラし始め、自分の中で何かがキレる音が聞こえた。


 ――オマエ、コロスゾ?――


「っ!?」


 それまで調子に乗って自分をサンドバッグにしていたロックが、何か見えない力に弾かれたようにバックステップを踏んで距離を取った。


 ニヤけていた顔を硬直させ、まるで猛獣を相手にしているような緊張感を出しながら、ロックはジリジリとこちらをうかがうように距離を取りながら様子を見る。


『相手が勝手にビビったら、殺意を向けたままスタンが抜けるのを待つ。後は冷静に徹底的に完全にぶち壊す感じで報復すりゃぁ良いよ。今のタテさんなら余裕で出来るから』


 ユーヘイがサムズアップしてナイスな笑顔を浮かべているシーンを思い浮かべ、ヒロシは自分の体が徐々に動けるようになっていくのを感じる。


「てめぇ、何をしやがった」


 完全にこっちの殺気にビビったロックが、亀のように体を丸め、ガッチガチのピーカブスタイルで防御を固めて、冷や汗をダラダラと流しながら聞いてくる。ヒロシはそれを完全に無視し、ゆっくりと体の調子を確認していく。


「無視かよ。ならもう一度っ!」


 ピーカブスタイルでステップインし、ヒロシの懐へ潜り込むようにロックが突っ込んでくる。その勢いのままロックが左からのボディブローを打ち込んできた。


「……なるほど、これが別系統ね」


 ヒロシは冷めた視線をロックに向け、左のボディブローをエルボーでガードしつつ、ロックの右手から投げられた石を軽く受け止める。


「あがぁっ?!」


 タイミングぴったりに入ったエルボーブロックが左手をグシャリと潰し、苦悶の表情を浮かべてロックが逃げる。それをつまらなそうに眺めながら、ヒロシは受け止めた石を地面へと捨てた。


「つまり、これはボクシングじゃなくて、たんなるケンカの延長線上なんだな、お前にとっては」


 レフリーっぽい奴が出てきたり、ゴングが鳴ったり、それっぽい演出で完全にボクシングの試合のノリで対応してしまった自分が馬鹿馬鹿しいと思いながら、ヒロシはゆっくりとロックとの距離を詰める。


「悪いが、終わらせるぞ?」


 ヒロシがファイティングポーズを取ると、ロックは苦悶の表情で周辺を取り囲む構成員達に合図を出す。


『特殊イベント「炎の対決」が「仕組まれた罠」へと変化しました。ロックの状態が変更されます。特殊フィールド消失、新しいフェーズへと進行します』


 構成員達が拳銃を取りだし、ヒロシに狙いをつける。それを横目に見ながら、ヒロシはニヤリと口角をつり上げた。


「俺だけを見ていて良いのかな?」


 その言葉を残してヒロシはロックへと突っ込み、ヒロシを狙い撃とうとしていた構成員達は、背後からのゴム弾一斉射を受ける事となる。


「く、来るなっ!」


 構成員の邪魔は無い、そう確信しているヒロシはロックを射程圏内に入れると、腰の入ったリバーブローを叩き込み、体が流れて浮いた顎へスマッシュを決め、そして完全に死に体となったロックの前で、体を無限の軌道に乗せる。


 ユーヘイとダディが悪ノリして教え込んだ、ボクシング漫画好きならば誰もが一度はやりたいと思うデンプシーローブが炸裂した。


「あびっ!? ぶぉっ!? ぐべっ?!」


 無限に叩き込まれる必殺のブローの連打を食らい、ロックは妙な悲鳴を出しながら、やがて地面へと倒れ込んだ。


『テンカウント! イエローウッド区画のボス、ロックをノックアウトしました。イエローウッド区画にいるフィクサー構成員の居場所がマップに表示されます。このままイエローウッド区画にいるフィクサー構成員を掃討してください。ロックのノックアウトにより、リバーサイドのラングの状態が変化します』


 クエストインフォメーションを聞いたヒロシは、大きく息を吐き出して、ゆっくりと拳を天へと掲げる。その勝利宣言に、構成員の背後から襲いかかったDEKAプレイヤー達は雄叫びをあげて、更に士気をあげるのだった。

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