第179話 LALAPALOOZA! ②
とあるフリーアナウンサーの配信チャンネルより――
「繁華街の一角がリングに早変わりした! ボクシングの試合会場が何故リングと呼ばれるか! それは観衆が作った輪の中でボクサーが試合をしていたことが、ボクシングのリングの名前が四角なのにリングと呼ばれるようになった由来であります! まさしく! まさしく! 昔ながらの決闘のステージが作られたと言えます! そしてそして、ならず者達の花道を軽やかなシャドーをしながら、往年のハリウッドスターを彷彿とさせるロックが入場してきます! コメントさん、彼の仕上がりはどうでしょうか?」
・山田 軽く流すようにシャドーをしてますが、実に切れてます。仕上がりは上々と見るべきかと。
「なるほど、ありがとうございます。そして相対するは、イエローウッドリバー・エイトヒルズ・セカンドストーリーズが誇る名物プレイヤー! サムライダンディ! 溢れるダンディズムは一級品! 大田 ユーヘイの相棒と言えばこの方! 縦山 ヒロシが困惑した様子で入場してくる! どうですかコメントさん?」
・せくしぃこまんどぉう 突発イベントは黄物名物ですが、ここまで個人を困惑させるレベルのイベントは初なので、歴戦プレイヤーであるヒロシニキでも困惑は隠せないでしょう。
「確かにそうですね。わたくしも『第一分署』の配信は追いかけてますが、彼らのギルドが巻き込まれるクエストでも、今回の突発イベントはとびっきりに厄介な感じがしますね」
・おおかみなの それもそうだけどさ。どう考えても階級というか、絶対的にタテさんが不利じゃん。体の大きさが違いすぎるじゃんか。
「そうですね。ロックがヘビー級、縦山がミドルかスーパーミドル級クラス。身長の差から考えても腕のリーチも相当ありそうです。これではボクシングと言うよりかは、異種格闘技の試合と言っても過言じゃありません!」
・渡りカラス ヘビーとミドルじゃ拳の重さも違うだろうから、タテさんが相当不利だよ。いくらゲームだからって『これはヒドイ』状態だわ。
「確かにこのままでは公開処刑になりかねませんが……おおっとここでレフリー役の男が入ってきた! これはちょっと本格的です! 本職のボクシングのレフリーのようにルールを説明してます!」
・マダムやぁん 犯罪者がバッティング・ローブロー・ラビットパンチなど反則行為はしないように、みたいなジェスチャーしてるの草
「本当に審判をする気があるか不安が残りますが……レフリーの説明中にロックが縦山を挑発! 体の大きさや身長などを馬鹿にしているようだ! おおっと! あからさまに猿のような動きで馬鹿にし始めた!」
・えいどぅりぁん おおい! 元ネタの人はそんな事しないだろうが! つーか叱られるぞ!
「そこは運営の方々の対応力に期待というところでしょう! ロックのあからさまな挑発に、縦山はクールに肩を竦めるだけで流すぅ! これはダンディ! サムライダンディは全てがお洒落!」
・さとうしお サムライダンディって……でもタテさんがキレるって、多分女性関係じゃないとあの方キレないんじゃないの? 病気じゃねぇかってくらいに女性に甘いし。
「確かに男相手に激昂するというのは想像が出来ませんが……どうやら試合が始まるようだ! 両者距離を取り、ファイティングポーズを取る! しかしその両手にはグローブは無く! むき出しの拳が握られるぅ! そしてここでゴングが鳴り響いたぁ! 両者共にオーソドックススタイル! しかしロックはやや変則的な右腕を中途半端な位置に構えているぅ! これには縦山、やりにくそうな雰囲気だぁ!」
・山田 右腕の位置が実に面倒臭い感じですね。しかもいつでも伸ばせる感じに構えているので、無視して突っ込んでもいつでも打ち込める感じがイヤらしいです。
「その通りのようです! 縦山、強引に懐へ入ろうとして軽い右のジャブをもらってしまった! 少したたらを踏んだところへロックの左ストレート! しかし縦山読んでたぁっ! 丁寧に右腕でパリング! すかさず踏み込み! リバーブロー! 入ったぁっ! 鈍い音を響かせロックの顔が歪むぅ! ここで畳み掛けるかっ! いや一旦距離を取る! そこへロックの左フックが空を切る! 縦山冷静です! クレバー! 実にクレバーサムライ!」
・山田 華麗なボクシングですね。インもアウトも使いこなせているように見えます。どちらかと言えば、ロック選手の方がストリートファイトのような雰囲気があるように感じますね。
「コメントさんの言うとおりです。ロックはどこか荒々しいケンカ殺法のような、粗削りな雰囲気を感じますが、縦山のボクシングは近代的な理詰めの暴力という印象を受けます。おおっと! ロックが強引に距離を詰めた! ガードを固めた縦山を殴る殴る! しかし縦山! 一つ一つを丁寧にブロックするぅ! だが素手での殴り合いのために響く音はどこまでも鈍くて痛そうだ!」
・よてち リアルだと一発で拳を痛めそうな生々しい音しとる件
「普通ならバンテージを巻いてガッチガチに拳を固めて、その上にグローブをつけますからね。それでもパンチ力のあるボクサーは拳を痛める危険性があります。そこはゲームという事で流しましょう!」
・せくしぃこまんどぉう 草草草草
「そこはご愛敬という事で! ロックの連打を丁寧にさばいていた縦山! ここで大振りの一発をパリング! ロックの体が流れたぁぁっ! ステップイン! おっと!? 足が滑った、いやっ! これは!?」
・山田 わぁおぉ、ガゼルパンチ。しかも最初からボディ狙い。
「ロックの体がくの字に折れ曲がるぅ! ボディはボディでも鳩尾近く、ガゼルパンチと言う一撃必殺レベルの拳でソーラー・プレキサス・ブローを放ったぁっ! 明らかにロックの表情が歪むぅ! 完全に動きが止まり顎が下がったぁっ! 縦山の体がもう一度沈み込むぅ! もう一発ガゼルパンチが飛ぶかぁっ! いやロックが意地で縦山の肩を殴って吹き飛ばしたぁっ!」
・渡りカラス ボクシングアニメかよぉっ! いいぞ! もっとやれぇ!
「素晴らしい攻防です! これだけでお金が取れる試合をしております! 吹っ飛ばされた縦山! ダメージはない模様! 殴られた肩を上下に揺らし、確かめるようにステップを踏む!」
・えいどぅりぁん すげぇ華麗にアウトボクサーしてるんですがこれが……
「確かに本職のボクサーのように美しいステップを踏む! それを見たロック、鬼のような表情で唾を吐き捨てるぅ! ロックの構えがボクシングの構えから解離していくぅ! しかし縦山の表情からは焦りは見えずぅ! ステップを踏みながら冷静にロックを観察しているぅ!」
・山田 完全に王者のような風格をしてますね。リアルでも良い成績を叩き出しそうな雰囲気があります。
「それはそれで見てみたいところだが、っ?! これはっ?!」
・えいどぅりぁん だから! 元ネタの人に怒られるって!
「ロック! ケンカ上等で足元の砂を蹴り上げたぁっ! 運営の方には頑張ってもらいたい! これはさすがに砂つぶてをまともに食らったかぁっ?!」
・渡りカラス いやいや、タテさん改造計画を御存知じゃない? まぁ、相手のチンピラがこっちの配信を見てるなんて事はねぇだろうから無理だろうけども。
・せくしぃこまんどぉう なー。こんなのでどうこうなるような特訓してないって。『第一分署』クオリティって言葉を知らなすぎる。
「読んでいたぁっ! ロックを中心に円を描く軌道で縦山避けたぁっ! そして今度はクラウチングに切り替えて前へステップイン! ロックの対応が完全に遅れるぅ! コンパクトに打ち込まれる左のボディブローが再びロックのリバーへっ!」
・山田 うーん、華麗だ。
「ロックがたたらを踏む! 縦山は大振りをしない! どこまでも冷静に丁寧に左のジャブを重ねていくぅっ!」
・えいどぅりぁん 階級差なんてなかったんや!
・山田 いや、ロックが遊び過ぎた。
・渡りカラス だな。初手から体格差で押し続けたら圧倒出来ただろうに。
・せくしぃこまんどぉう それでも対応してしまいそうなところが、あるよね。
「さぁ、どうするロック! どうするこのまま終わってしまうのかぁっ!」
・さとうしお まぁ、こんなんで終わったら黄物の運営は恐れられてないわな
・せくしぃこまんどぉう ですな。
「これは?! どうした事だ?! 縦山の様子がおかしいぞ?!」
・山田 いや、それは本当にどうなのよ。
・渡りカラス え!? え!?
・えいどぅりぁん 何が起こったし?
「縦山! ロックからの軽いジャブを受けて足が止まったぁっ?!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます