第154話 騒がしい街。あるいはもう一つの戦い。
ユーヘイの提案により、ほぼ全てのDEKAプレイヤーとギルドのユニオンが結成する流れが出来上がっていた頃、エトヒルズではイリーガル探偵を中心とした激闘が繰り広げられていた。
エイトヒルズの郊外、寂れた空白地帯のような場所で、フィクサーの部隊とイリーガル探偵達は対峙している。
「全く! ウチの所長はどこに行ったんだ!」
「いや、我々に言われましても」
「分かってるよ! 八つ当たりだよ! 分かれよ馬鹿野郎!」
「えぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇ」
イリーガル探偵ギルド『不動探偵事務所』サブギルドマスターのチョースケが、こめかみに青筋を立てながら、同じギルドのメンバーに八つ当たりをしていた。そしてそのあまりの理不尽に思いっきりドン引きされていた。
もっと格好良く作れば良いのに、見事なM字にハゲた頭髪をガッチガチにオールバックに固め、完全な三白眼で探偵と言うよりかはYAKUZAだよね? と言われそうな風貌をしているチョースケは、その強烈な眼光を血走らせ、銃口を向けている相手を睨む。
「どんだけいるんだよ!」
ベイサイドにほぼ全てのDEKAと、フィクサー部隊の大部分が集結しているとは言え、エイトヒルズに残っている数も馬鹿にならない。
「こちとら、拳銃を手に入れたのはつい最近なんだぞ! トーシロだぞトーシロウ! まだまだ練習も訓練も足りてねぇっつうのによぉ!」
チョースケの叫びに多くの仲間が、かなり実感がこもった感じに頷く。
『第一分署』の山さんが何と無しに言った一言で、一気にイリーガル探偵が増えた。だが、増えたは増えたがそれは即席の拳銃使いであり、戦力になっているかと問われれば、完全に微妙ラインを行き来していたりする。
これがDEKAであれば、各種スキルのパッシブ効果やスキルアシストで、もうちょっとましな動きが出来るだろう。だが、イリーガル探偵にその手のスキルはあまり充実はしていない。
例えばDEKAの拳銃関係のマスタリースキル。これは拳銃の命中精度を上げるパッシブ効果があったり、ダメージを軽減する手加減等々、色々とスキルの恩恵を受けられる。だがイリーガル探偵のスキルにマスタリー系のスキルは存在しておらず、拳銃に関係するアシスト系のスキルすら存在していない。あくまでもイリーガル探偵は、非合法に拳銃を所持しているだけの探偵でしかない訳だ。
それなりに戦闘スキルは充実した。確かに他の探偵職に比較すれば、イリーガル探偵というのはスキル構成から見れば荒事を専門とした職業だと分かる。だけど、探偵の本分はやはり暴力じゃなくて解決する能力なのだ。
荒事関係のスキル以上に、事件を解決する
「ったく、これ以上どうしろっちゅうねん」
チョースケが苛立ちながら適当に発砲する。だが、狙いもせず本当になげやりに撃った弾は明後日の方向へと飛び、誰も倒せずに地面に当たって砕けた。
「チョーさん、それまだ量産出来てないっすよ」
「うっせぇ! しゃべってねぇで撃て!」
「そんな無茶苦茶な」
「どっちにしたってあいつらの数を減らさない事にはどうにも出来ねぇ! 下手な鉄砲なら数撃ちゃならんだろうがよ!」
「そっちも無茶苦茶じゃないっすか」
「うっせぇ! うっせぇ! うっせぇ!」
もうこんなギルドは嫌だ! ウガー! と叫ぶチョースケに、周囲のメンツはまた始まったよ、と呆れた視線を向ける。
ギルド『不動探偵事務所』は、ギルドマスター
だが、蓋を開けてみればギルドマスターの不動は常にプラプラと出歩いてギルドの運営に関わっておらず、ほぼほぼ全てのギルドの運営をチョースケに丸投げしているという、まさに聞いてないよぉ、状態だった。しかも今回は完全に不動有りきの作戦だったのに、作戦開始から今までギルドマスターの姿が無いという状況である。
チョースケの叫びも無理はない事だが、それでも毎回毎回、同じように叫ばれれば、同情はすれどうんざりもするというモノだ。
「はぁ……何で俺はあの馬鹿に騙されたんだろう」
「そりゃぁ、腐れ縁って奴だろう? チョースケ」
「っ!?」
もう本当にこのギルドを辞めてやろうか、本気で考えて呟けば、その呟きに飄々とした口調で返事を返す人物が。
「てめぇ」
「嫌だな、そんな情熱的な目で見るなよ。照れるだろう?」
「~~~~~~~っ!」
黒に赤いラインの入った中折れ帽に、特徴的な丸いサングラス。棒付きのキャンディーを口に咥え、少し浅黒いその顔に人を食ったような笑顔を張り付け、怒り狂うチョースケの肩に腕を回して馴れ馴れしく胸を叩く。
「あんまり怒ると血圧上がるよ?」
「誰のせいだと思ってやがる」
「あははは、だから悪かったって、ごめんな」
「てめぇはいつもいつもそうやって軽く」
「だからごめんって」
いつも通り過ぎるギルドマスターとサブギルドマスターのやり取りに、周囲の面々が呆れた視線を向ける。だがそれと同時にそれまであった悲壮感のようなモノが消え去った。
これがあるから、このギルドは楽しくて辞められない、と実は多くのメンバーが思っているのだが、不動もチョースケも知らぬ事だったりする。
「いやいやチョースケが頑張って事務所の仲間達を引っ張ってくれたから、俺が好きに動く事が出来た。ありがとう」
「うるせぇよ! こっちは全然、どーにもできてねぇーんだよ! どーすんだよこれ! 折角、カテリーナさんところから協力してくれって頼まれたのによぉ! ただの案山子じゃねぇか!」
「いやまぁ、それは中嶋ぁっ! も悪いんだよ? こっちはつい最近、ようやっと拳銃なんて非合法なモンをゲットしたばかりのトーシロなんだし、彼女達と仲が良い『第一分署』と同じような動きをしてくれって言われても困るっちゅうもんよ?」
「そこまで分かってるならどうして依頼を受けたんだよ!」
「そりゃぁ……勢いとノリ?」
「そのドタマぶち抜くぞぉっ?!」
へへへと人を食ったような笑顔を浮かべた不動の額に、チョースケがぴったり銃口を当てる。
「まぁまぁ落ち着けって」
「うるさいよ?! お前が俺を怒らせてるんだよ!」
「あははははは、そうとも言うかもね」
「おーまーえぇーっ!」
「どうどうどう、落ち着けって」
もうフィクサーがどうだとか、この苦境がどうだとか、そういう空気はどこかに行ってしまい、完全に不動とチョースケのコントを見せられているような状況になっていた。
がんがんヒートアップし続けるチョースケを、不動がぽんぽんとその寂しい額を軽く叩いてなだめながら言う。
「いやまぁ、勢いとノリで受けたけども、そこはやっぱり成功させたいじゃない? 協力関係一発目の依頼な訳だし」
「プラプラしてるだけの奴が言うじゃねぇかよ」
「いや、ただプラプラしてた訳じゃないよ? 一応、あっちこっちで用事は済ませていたんだよ?」
「へーほー」
「うっわ、信じてないし。酷いなチョースケ。お前と俺の仲じゃないの」
「俺は今すぐその縁を切りたい」
「抜かしよる」
「本気じゃ馬鹿野郎!」
肩に回されていた不動の腕を振り払い、チョーサクが血走った目で不動を睨み付ける。
「まぁまぁ、俺がぷらぷらしてたのは、ちょっと星流会の幹部に挨拶がしたくてな」
「……は?」
「いや、
「マジで言ってんのかよ」
「マジマジ、
「……」
からからと笑ってトンでもない事を言い出した不動に、チョースケは額をペチリと叩いて押さえた。
不動 ヨサクというプレイヤーはこういう奴だ。経験と訓練、そして重ねた年月の化け物が大田 ユーヘイなら、こいつは感覚と雰囲気とノリだけでどうにかしてしまう天才タイプの化け物。張り合うのも馬鹿馬鹿しくなる、本物の天才。
「それだけのために、全てを俺に押し付けたのか?」
色々と突っ込みを入れたいが、それをしたってこいつには全く何も感じないだろうし、チョースケはそう諦めて話を進めると、不動は音を立ててキャンディーを口から出しながら、それでとある方向を指し示した。
「ただただプラプラしてた訳じゃないんだよ。やっぱりやるからには徹底的に叩き潰したやりたいじゃないか」
「……」
「俺らイリーガル探偵の手でやれれば良かったんだろうけど、それにはちょーと練度が足らない。だから――」
「だから?」
「お願いしてきた」
不動が指し示した方向から改造されたサイレンの音が鳴り響き、真っ赤な赤色灯が空を切り裂くように輝く。
「今の俺達には無理だけど、本職のDEKAならやれるだろ?」
不動はニヤリと笑ってキャンディーを再び口に咥える。
「レディースエンドジェントルマァーン! DEKAギルド『ワイルドワイルドウェスト』の登場だぁ! イィーッツ! ショォータァイムッ!」
不動が両腕を広げて掲げ、ジャジャーン! と自分で効果音を口に出しながら叫ぶ。まるでそのタイミングに合わせるように、先頭を走る車両から拡声器で声が響いた。
『こちらギルド「ワイルドワイルドウェスト」だ! フィクサーの諸君に告げる! 無駄な抵抗は辞めて大人しく投降せよ! 銃器を捨てその場に伏せろ! 抵抗の意思があると判断した場合、こちらも武力に訴える! 大人しく投降せよ!』
その拡声器の声に、不動が『ドヤァ』とムカつく表情でチョースケを見る。
「へいへい、ごいすーごいすー」
「うわっ、すんごい適当」
「うっせバーカ死ね!」
「酷くね?!」
チョースケは文句をマシンガンのように吐き出しながら、やっぱりこいつと張り合うのは駄目だな、と認識を改めるのであった。
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