第155話 変態劇場
「うひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ! ふふふふふふふふふ! ふはははははははははは! あーはっはっはっはっはっはっ! 皆! 皆! この俺様の色に染まって行く! ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!」
技研の自分用作業室にこもった
「こんな事もあろうかと! YAKUZAの死闘を見た感じ、絶対に他のDEKAプレイヤーとか拳銃持ちの探偵に必要になるだろうと思ったのだよ! 我! 特製のゴム弾こそが勝利の鍵になると!」
山さんはユーヘイ達とは違い、DEKAプレイヤーが苦労している部分、銃撃戦での苦労をしっかり把握していた。そしてそれは、YAKUZAの『粉砕』の様子を見て、こりゃ絶対DEKAプレイヤーが押し負ける、と正しく予想した。
だからダディから使う事を許されたギルド共有資金を大量投入し、いつでも他のDEKAプレイヤーから要請されても良い様に、これはもう店を開くレベルだろと言う分量の『特殊ゴム弾』を製造して準備万端整えていたのだ。
全力で準備をしていたそれらを、『第二分署』『第三分署』『ワイルドワイルドウェスト』へ渡し、そこから彼らと同盟を組んでいるDEKAプレイヤーに渡り、結果として大きな成果を上げている状況を見れば、確かに山さんの予想は慧眼だったと言えるだろう。
「総黄物プレイヤー三分の二、鑑識の山さん依存計画……ふっ、計画通り」
完全モブおっさんアバターで、妙なイケメンオーラを出しながら、ニチャリと笑って絶妙な気持ち悪さを出す山さん。
「それ、いつまで聞いていればよろしいのかしら?」
「……止めてくれると嬉しいかな?」
「いや、ウチらユーにーやんみたいな辛辣コメント、おっちゃん相手に言えへんやんな。そこは自重してくれへん?」
「あのぉ、ガチトーンでそういう事を言われると効くんですが……」
「知らんがな。ウチ、関西弁っぽい口調でしゃっべってるけど、別に純粋関西人ちゃうねんで? それとウチら相手にツッコミ性能を求められても困るんや。こっちのねーやん達、そんな技術あらへんもん」
「……」
自分用作業室の応接スペースで呆れた表情を浮かべながら、結構、ガチ目のツッコミをいれる
圧倒的な癖強キャラクター山さん劇場に、その場にいるカテリーナ・中嶋と
「こほん、えー、山さん。『不動探偵事務所』へのゴム弾製造技術の提供、ありがとうございます。お陰で圧倒的な修羅場を潜り抜ける事が出来ましたわ」
「あー、はい。大した事はしてないので、そんな畏まれても困るんですけど」
「それでも、ですわ」
「は、はぁ」
とりあえず普段のノリで会話をすると駄目そうだと理解した山さんは、常識人っぽい感じに対応を始めた。
そんな山さんの様子に、カテリーナは申し訳なさそうな苦笑を向ける。
今現在の『第一分署』は山さんしか署にいない。どうやらユーヘイ達は大きな山場を乗り越え、なんだか大きな事をやり始めているらしいのだが、どうもそこが色々と忙しいらしくまだ署に戻ってこれてないのだ。
ユーヘイ達の事を把握はしているカテリーナ達だったが、今回の修羅場の完全なるMVPである山さんに感謝を伝える為に訪れていた。
こう言うのはユーヘイとかダディ、もしくはノンさんの担当だろに、山さんはそんな事を考えながら、自分用のマグカップを手に取りコーヒーを口に運ぶ。
「あーそれで、なんですけど……」
「はい?」
物凄くチープなインスタントコーヒーの風味を楽しんでいる山さんに、紅茶の入ったカップを所在無さげに揺らしながら、カテリーナがおずおずと切り出す。
「『第一分署』の皆さんが使ってる無線機なんですけど、あれを我々が使えるように出来ませんか?」
「んん? ノービス・探偵でも無線は使えるんじゃ?」
「そうなんですけど……前に『第一分署』の皆さんが受けたクエストで、警察無線を敵側が傍受していた、という事例があったように、我々が使う民間の無線は簡単に傍受出来てしまうので、情報のやり取りに向かないんですの」
「ああ、なるほど」
カテリーナの言葉に山さんは、彼女が言わんとする事を理解する。
山さんも懸念している部分ではなるのだが、黄物世界の敵側、そいつらの手口というかやり口というか、それらが常にこちらの予想を軽々越えて行く感じが強い。その片棒を担いでいる一因が、情報伝達の不具合だろう。
世界観が八十年代九十年代なので、携帯電話の登場はしている。いわゆる『ショルダーバック』とか呼ばれている馬鹿デカい電話機その物を持ち歩くような物だ。だが黄物世界にはその現物は存在していない、あるのはフレーバーデータのみである。だからプレイヤー達は公衆電話に、ニッチかつマイナーな無線機を使うしか出先で会話をする方法がないのだ。
これで二千年代に世界観が入っていれば状況は違ったのだろうが、それは無い物ねだりでしかない。
運営がグループチャットかギルドチャットなどの便利機能を実装してくれれば違うのだろうが、多分ここの運営はその方針を曲げないだろう。そこを曲げるのだったら、ここまで鬼畜なクエストでがんがんプレイヤーを阿鼻叫喚の底へ落とすような事に全力を尽くさないだろう。
「小型の携帯電話でも作れと?」
山さんが苦笑を浮かべてカテリーナに言うと、彼女はそこが最上でしょうけども、と言葉を濁してカップに口をつける。
「まぁ、ハードとソフト、両面でハードルが高いし、さすがにそれはDEKA関連の生産では難しいなぁ。やれるとするなら、ノービスの電話通信関係の生産職か、電気関係の技術者系の生産職だろうなぁ……ああ、SEも必要か。それとそれなりのスペックのPCも必要……」
「……現実的ではありませんね」
「うちのギルメン達が使ってる無線は、一応、ホストがDEKA関連の施設という扱いだったから、自分の改造を受け入れてくれたという背景があるけども……さすがに民間施設にDEKAの技術をぶちこむのは許されんだろうなぁ」
「……やっぱり難しいですよね」
カテリーナは困ったように溜め息を吐き出す。
黄物で現状最大の問題は、一度でも外に出たら、奇跡でも起こらなければフィールド上で出会う事は不可能である、という点だ。
DEKAプレイヤーならば無線とナビゲーションマップのコンボという、ユーヘイ達が見つけ出した方法を駆使すれば何とかなるが……
そもそも問題の根っこは黄物のクエストで引き起こされるとある現象にある。
黄物ではクエストの途中にかなりの頻度で『転調』と呼ばれる現象を引き起こす。『第一分署』風に言うならば、ユーヘイ引き当て現象だろうか。つまり難易度『優しい』だったはずが、気がつけば色々な要素が融合合体して難易度『難しい』に強制進化する現象だ。
これを食らったのがDEKAプレイヤーならまだ良い。携帯用の無線に、車両に必ず装備されている無線などを使って救援を求めて集合し、協力してクエストに対応出来る。だがノービス・探偵だったらどうだろうか。『転調』を食らった瞬間、多くのノービス・探偵プレイヤーはオワタと心が折れるのがほとんどだったりするのだ。
YAKUZAの場合は、基本、彼らは完全に冒険者のダンジョンアタックと同じ事をやっているから、完全パーティープレイが必須なので、例え『転調』を食らったとしても対処出来るので優遇されていると言える。
それはさておき、今回の阿鼻叫喚イベント状態でカテリーナはしみじみと思った。これは通信する方法が絶対に必要である、と。
前線で戦うイリーガル探偵達への指示だったり、DEKAプレイヤーへの通信だったりと、ああここでチャットが! 通信がぁ! と思う事が多々ありすぎたのだ。しかもこのまま行けば、『終局』『集結』『結集』の最終フェーズに入る訳で……想像するだけで恐ろしい地獄が待っているような気がしてならない。
「さすがに携帯は無理だなぁ」
「ですよわね……」
「リーナ、リーナ、山さんは『携帯は』って言ってるわよ?」
「え?」
ガックリとしているカテリーナに、光輝が苦笑を浮かべて言うと、彼女は顔を上げて山さんを見る。彼は不敵な感じに笑って、トントントンと指先で自分の太ももを叩く。
「さすがにまるまる自分が手を加えるのは不可能だけど……そこは技術指導という形で絡んで……やれそうだな……でゅふっ、でゅふふふふふふ……」
かなりヤバい感じの表情を浮かべ、山さんが今にもヨダレを垂らしそうな感じに口許を歪め、怪しい薬でもキメたような感じにブツブツ呟き始める。
「つまりはギルド専用の特定暗号コードのようなモンを作り出せれば良い訳だ。したら、それを判別する装置のようなモンを作って……ああ! そうか! それもDEKAの方で使って、同盟相手に直接無線を飛ばせるようにすれば! おおおおおおおおお! 夢がひろがりんぐぅ!」
完全に
「そうなると材料が足りない? いやいやいや、そこはやっぱり大田達に出させればいいんや! あいつら無駄に金持ってるわけだし! あいつらも便利になるって分かれば出し惜しみしねぇだろうしなぁ! あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
完全に山さん主演の変態劇場が始まってしまい、三人は取り残されてしまった。そして山さんの暴走を止められず、退出する機会も完全に失い、彼の絶好調状態を永遠と見せられるという罰ゲームのような状況を耐えなければならなかった。
その後、この時のカテリーナの配信を見たユーヘイに、全く愛の無い、完全ガチな本気モードの説教を食らったのも、当然の結果だったかもしれない……
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