第143話 進め! 第一分署!

「もういい加減、無限弾倉はお腹一杯なんだが?」


 壁を抜いて廃工場から飛び出したユーヘイ達であったが、ダディの車を停めている場所へ向かおうとして、待ち構えていたフィクサーの兵隊に包囲されてしまった。


 幸いな事に放置されたコンテナやらパレット(※1)が多く、フィクサーの兵隊達の猛攻から何とか身を隠している状態に今いる。


 そんな状況でユーヘイがトージに向かって愚痴を言う。


「自分に言われましても……それにそんな無駄にキリリとした表情を向けられましても」


 リボルバーを構えて、困惑した表情を浮かべるトージに苦笑を向けながら、ヒロシがユーヘイの胸を軽く拳で叩く。


「ユーヘイ君、今日もダンディだぜ?」

「だろ?」


 何やら急に『ヤベェDEKA』風味のシーンを産み出す二人に、ちょいちょい待って今状況的に差し迫った感じなんですけどっ!? とトージが突っ込みを入れる。


「いやいや! 先輩方! 今! かなーりヤベェ状況なんですけど!?」


 そんな三人に呆れた視線を向けながら、ダディがやれやれと頭を掻く。


「しかし、実にみっちり集まってるなぁ」


 先程から激しくコンテナの鉄板を叩く鉛弾の、けたたましい騒音に顔をしかめつつ、ダディは注意深く物陰から顔を出しながら、敵の姿を確認する。


 見えている範囲には、バリエーション豊かな銃器を構えてヒャッハーしている、どんだけいるんだよと突っ込みを禁じ得ない人数のフェクサー連中の姿が見え、ダディは心底うんざりした様子で顔を戻す。


「これ、切り抜けられる?」


 ダディの右肩に顎を乗せながら、ノンさんが面倒臭そうな表情で問い掛ける。聞かれたダディは妻の頭をポンポンと軽く宥めるように叩いて苦笑を浮かべた。


「ま、何とかするんじゃない? 大田が」

「うおーい!? 無茶振りかよっ!」


 ダディが良案でも出すのかと思って耳を傾けていたら、まさかのこちらへの丸投げにユーヘイがギョッとした表情で突っ込む。


「いや、この手の大多数VS少数って十八番でしょ?」

「……」


 ニヤニヤと笑いながら言われ、ユーヘイはじっとりとした目をダディに向けつつ、ナビゲーションマップを拡大しながら周囲を素早く見回す。


「……やりようは、なくはないが……」


 唸りながらナビゲーションマップの詳細を弄くり回し、色々な機能を活用してマップをカスタマイズしながらユーヘイは腕を組む。


 拡大した廃工場のマップを三分割にし、それを色分けしたモノを見て、ユーヘイはイメージを脳内に浮かべてシミュレートする。


 そしてそのシミュレートした事を現実にするためにはどうすれば良いかを計算して、顔から表情が抜け落ちた。


「……はぁ……トージ、タテさん、頑張ろうな?」

「「はい?」」


 ストンと表情が抜け落ちたユーヘイに唐突な事を言われた二人は、壮絶に嫌な予感を感じながら首を傾げる。そんな反応を気にせず、ユーヘイが口を開く。


「俺が今言う通りにナビのマップをカスタマイズしてくれ」


 ユーヘイが淡々とした口調で言うと、全員が自分のナビゲーションマップを彼の言うとおりにカスタマイズする。変更されたマップを見た各々は、少し感動したような声を出しながらそれを見つめる。


「赤い区画は俺が担当、青い区画はタテさん、緑の区画はトージ」

「「え゛?!」」


 色で区別されたマップを見ていた二人は、ユーヘイの言葉にギョッとした表情を彼に向けるが、それをさっくり無視しダディとノンさんに視線を向ける。


「ダディ、スナイパーライフル持ってたよね?」

「あ、うん。嫁にねだられた」


 ユーヘイの確認に、自分のインベトリを覗き込みながらダディが頷く。


「ここに向かってるヘイトが分散すれば狙えるな?」

「お、押忍」


 確認というよりかは、出来ないとは言わせないよ? という気配を感じ、物凄く珍しい返事を返すダディ。その様子に満足そうに頷くと、ユーヘイは周囲を指鉄砲を向ける。


「ならここから適宜狙撃な」

「へいへい」


 ダディはインベトリからスナイパーライフルを出し、スキル一覧をチェックしてライフル関係のスキルをポイントでゲットする。


 ユーヘイは次にノンさんとアツミに視線を向けると、トントンと今いる場所を手で叩く。


「そしてノンさんとあっちゃんは狙撃手のダディをカバーして。ノンさんはショットガン使っていいから。確か山さんがショットガン用のスラッグゴム弾渡してたよな?」

「サーイエッサー!」

「ならそれで」


 妙に迫力のあるユーヘイに、誰も何も言えず、その指示に従う。


「タテさんとトージは引っ掻き回す事を目的に動いてくれ。欲を掻かず、撹乱だけを目的にしてくれれば良い。後ろからダディが数を減らしてくれる。それまで頑張って耐えような」


 ユーヘイはそう言い、トージとヒロシにマップを指し示しながら、こうやってこんな風に動いて撹乱してくれると助かると、具体的な動きを指示する。


 その指示が終わると、ショットガンをインベトリから出しているノンさんに、追加でオーダーを出す。


「ノンさん、グレポンも出して。適当に赤と青と緑の、マップのここら辺に飛ばしてくれ」


 ノンさんのナビゲーションマップを指差して具体的な指示を出し、自分も拳銃を構える。


「はいはい!」


 ショットガンを地面に置き、グレネードランチャーをインベトリから出したノンさんが、ユーヘイから指示を受けた場所に向けて銃口を向ける。


「爆発した瞬間に動けよ? 準備」


 ノンさんの動きを横目で見ながら、トージとヒロシに指を指しながら言えば、二人は力強く頷き、それぞれの拳銃のグリップを握りしめる。


「行っくわよぉーっ!」


 ポシュ! ポシュ! ポシュ! とテンポ良く三回榴弾(※2)が射出され、ユーヘイのオーダー通りの場所に着弾して爆発を引き起こした。


「行け行け行け行け行け!」


 ユーヘイの吠えるような叫び声を受けた二人は、地面が弾けるような蹴り足を決め、素晴らしいスピードで指示された方向へ走り出す。


「任せたっ!」


 ユーヘイが走り出しながらダディに向かって叫ぶと、ダディはスナイパーライフルをチェックしながら片手を挙げるのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーー


 ユーヘイの区分した青い部分に入ったヒロシは、コンテナやパレット、放置されたダンボール等を上手く活用し、ユーヘイのオーダー通りに動きながら、ノンさんの一発で浮き足立っているフィクサー達にゴム弾を叩き込む。


「ぐがぁっ!?」

「があっ!?」

「突っ込んできたぞ! 潰せっ!」


 簡単に釣られたフィクサー達がヒロシに向かって殺到し、それを横目に確認しながら、少し酔っぱらいの千鳥足に似た動き方で走る。


『体幹をブレさせずに、足の使い方で体を揺らす感じに走るんだ』


 ユーヘイから教えられた時は『お前は何を言ってるんだ?』と思ったモノだが、実際にこの走り方をマスターしてみると、なるほど狙う側からしたらこんな変態的な動きをしている相手に当てるとかムリゲーだと分かる。


 そんな変態的な動きで走って行くと、人の気配が寄ってくるのを感じ、チラリとナビゲーションマップを確認する。先程の指示で隠れる場所、移動しやすいルート、相手を撹乱出来るやり方などを教えられていたヒロシは、即座に移動しやすいルートを選んで走る速度を上げた。


「クソがっ! くたばれ星流会のクソ野郎!」


 先程からこちらを星流会の人間だと思い込んでいるようだが、実に良い迷惑だ。


「これ、星流会の奴らにハメられたって事か? 面倒臭いな」


 第一分署は運営が公開した動画を見ていない。だがこれだけ連呼されれば、嫌でも理解出来る。つまり自分達は星流会の誰かに今の状況へ追い込まれたのだろう。実に腹立たしいが、それは天晴れと言える。


「こりゃ、一度にお伺いした方がよろしいのかしら?」


 だがそれはそれとして、やはりムカつく事はムカつく。そんな感情を胸に宿しながら、ヒロシにしては珍しく目付きを尖らせて、物凄い低い声色で呟く。

 

「何だったら潰してくれようかしら?」


 まるでYAKUZA組織大嫌いで、常々劇中でYAKUZAを殲滅する事に情熱を燃やしていた元ネタの人物のような言葉を吐き捨てながら、ヒロシは肩越しに拳銃を構えて適当に発砲する。


「ぐがぁっ!?」

「がはぁっ!?」

「ぶぼぉっ?!」

「こっちだ! こっちに来い!」


 ユーヘイの思い描いた通りに翻弄されるフィクサーの道化振りに口許を歪ませ、ヒロシは弾倉を取り出し、ジャケットのポケットに突っ込み、新しい弾倉をガンベルトから抜いて装填する。


「おらぁっ!」


 待ち伏せしていたフィクサーが、鉄パイプのような物で殴りかかって来た。それを軽々受け流し、顔面に拳を叩き込んで地面へ沈める。


「甘い」


 その一瞬で落ちたスピードを好機と見たフィクサー達が、足を止めて銃を乱射する。


「それも甘い」


 すぐ近くのコンテナの影に入り、コンテナを盾にして銃弾を防ぎ、チラリとナビゲーションマップに目をやり、次のルートを決めてコースを変える。


「ふぅ、ふぅ、ふぅ……ユーヘイ。これ、結構キツいぞ?」


 徐々に周囲からの圧が強くなるのを感じ、ヒロシは拳銃を持つ手に力を入れ、グリップを思いっきり握り込む。


「こっちだ! こっちに人を回せっ!」

「相手は一人だぞ! 何を手間取ってやがる! とっとと潰せぇっ!」


 緊張感半端ない鬼ごっこに、ヒロシはやれやれと溜め息を吐き出しながら、包囲されないように注意しながら、気持ち悪い動きで障害物を走り抜けるのであった。


 


※1 フォークリフトという荷物を移動させる乗り物で、多くの荷物を移動させやすくする木製とかプラスチックの板状の物体。物流倉庫などには大量に外で野晒しになっていたりするので、見た事ある人は多いかもしれない。

※2 ノンさんが持つグレポンは、あれです、リボルバー式の連発して発射出来るタイプの種類に改造されました。

「出来るかなって思ったら出来たぜ! キリッ!」by.鑑識の山さん

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