第197話 爆走

 クエスト名『爆走』

 難易度 イージー

 推奨レベル レベル1~


 クエスト詳細

 主要道路で暴走行為を繰り返す若者達のせいで、交通ルールが乱されている。

 どうやら四つの暴走行為を繰り返す団体がおり、それぞれが張り合ってどんどん行為がエスカレートしているようだ。

 暴走行為を繰り返す若者達をタイホし、乱された交通ルールを正すのだ。




「ようはヤンチャしてる未成年者を取り締まれ、って事ですよね?」


 クエスト詳細を斜め読みしながら、トージが正面に座っているダディに聞くと、ダディは頷く。


「そう言う事。昔は暴走族で、ちょっと前までは珍走団。この世界だとまだ暴走族かな?」


 懐かしいねぇ、そう呟くダディ。


 そもそも現在の交通事情だと、車もバイクも交通AIによって制御管理運営されている。つまり暴走行為をするための前提として、金持ちの道楽と呼ばれる、通称ゴールデンカードと称される免許証をゲットしなければならない。


 免許証をゲットするためには、二ヶ月みっちり自動車学校に通わなければならず、その料金は適性検査含めうん百万円必要である。それだけでも相当ハードルが高いのに、自動車やバイクをゲットするのもほぼオーダーメイドの高級品。せこせこバイトをしてどうこう出来る代物ではない。


 ましてや交通ルールを管理しているのは警視庁と連動している超AI『オモイカネ』である。ありとあらゆる監視カメラに、ありとあらゆるセンサーを統括している日本が誇る超AIに死角があろうはずもなく、若者達のパッションのままに暴走行為など出来ようもない訳だ。


 なので現在では暴走族という言葉自体が『それなに?』状態であり、漫画やアニメ、映画の世界の話となっている。


 ただし、海外では普通に人間が運転しているので、本当に車やバイクを運転したい趣味人などは、それ目的で海外旅行をしたりしている。


 そんな現在の交通事情に思いをはせていると、ダディの想像を断ち切るようにユウナ・リモーナが叫ぶ。


「このラーメンうまっ!」

「「でしょ?」」


 トージとダディ、そしてユウナは一番大きな道路が交差する地点、セントラルステーションに来ていた。


 ユーヘイとヒロシがそうしているように、チュートリアルスキップをして、余剰功績ポイントなどゲットしていないユウナの為に、食事バフを入れようと馴染みの店でラーメンをすすっていた。


 ユウナが無類のラーメン好きである、と言うトージの情報からダディが通っているラーメン店に案内したのだが、彼女は実に美味そうに幸せそうにラーメンを食している。


「うぅ~ん! リアルでも是非に食べたい!」


 モグモグ口を動かし、まるでハムスターのように頬を膨らませながら、ユウナは幸せそうに膨れた頬をさする。そんな彼女の様子に店主は嬉しそうに笑いながら、サービスだと味玉が入った小皿をテーブルに置く。


「大将ありがとう!」

「いやいや、そうやって美味い美味いって食ってくれるのが一番嬉しいよ」


 大将はちょっと照れたように頬を赤く染めながら、ヒラヒラと手を振って厨房へ戻っていった。


「VRなら体重とか健康を気にしなくていいから、毎日食べても安心安全とか……天国かっ?!」


 味玉をかじりながら、クワッと金色の瞳を見開き、ラーメンを見つめる。


 ユウナはレオポンの獣人と言う設定で、猫科特有の身体的特徴を持っていて、その金色の毛並みを逆立てながら、ケモミミとケモ尻尾を激しく動かして感情を表現していた。


「喜んでもらえて嬉しいよ。この店は自分のお気に入りでね。自分が子供の頃に近所にあったお店の、引退した店主さんが趣味でやってる店なんだよ」

「うわぁ……こんなに美味しいのに引退しちゃったんだぁ……」


 ダディの言葉に、ユウナは心底残念そうに呟く。そんなユウナの前に細切れのチャーシューに白髪ネギをのせた小皿を出して、店主が嬉しそうに微笑む。


「もう体がついていかなくてね。でも、ぶいあーる、っちゅう世界だったら体が動くから、こっちで好きなように作ってるんだ」


 良かったら贔屓にしてくれや、そう言って厨房に戻っていく大将を見送り、ユウナはなるほどなぁと頷く。


「VRならでは、かなぁ」

「そうだね」

「結構多いですよ? 現実では思うように料理が出来なくなった料理人が、VR世界でもう一度お店を持つって」

「そうなの?! じ、じゃぁ、もしかして――」


 ユウナが今は廃業してしまった有名ラーメン店の店名をトージに聞き、それにトージが答える様子を横目に見ながら、ダディはSYOKATSUのデータベースに目を通す。


「四つの団体、ええっとストレンジャー、ゼロファンタム、ワイルドキャット、アナザー、ねぇ」


 SYOKATSUのデータベースでは棲斗恋邪悪(ストレンジャー)、是露腐暗斗無(ゼロファントム)、猥留怒猫(ワイルドキャット)、悪那挫悪(アナザー)というヤンキー風漢字が並びダディの失笑を誘う。


 中二病の感性と言うか、男児が一定期間何故か『格好良い』と感じる当て字である。


「大きな団体なんですか?」


 ユウナの質問に答えきったトージが、麺に息を吹き掛けながら、データベースを睨んでいるダディに聞く。


「そこまでの情報は無いな。でもちょっとした抗争っぽい形にはなってるようだから、それなりの規模であるって前提で動いた方が良いかもね」


 いくらイージーの低レベルクエストでもね、そう苦笑を浮かべながら言うダディに、トージはそうですよねぇ、などと呟き何となく、ダンディな背中を見せてサムズアップをする二人の偉大なる先輩達を思い浮かべながら、何が起こるか分からないぞっ! と気合いを入れつつ麺をすする。トージも薄々ながら嫌々ながら、『類友』という単語を認識しつつあった。


「警察車両一台で対応出来ますか?」


 トージとダディの会話を聞きながら、ラーメンを楽しんでいたユウナが確認してくる。その言葉に、ダディは分からんと肩を竦めた。


「とりあえず状況を確認して、自分達だけで対応出来るようだったら対応して、難しそうならユーヘイ達に応援を頼めばいいさ」


 別のクエストを受注していたとしても手伝いは出来るからね、そう微笑むダディにユウナも安心して納得する。


 せっかくのコラボであるし、有名な『第一分署』と遊べるのだ、出来ればクエストクリアーでコラボを終らせたい。


「クリアー出来ると良いですね」


 実感がこもったユウナの呟きに、トージとダディはお互いに顔を見合わせて、ぶふぅっ! と吹き出す。


「え?!」


 二人の反応にユウナがキョトンとしていると、クスクス笑いながらダディがすまんすまんと謝る。


「大丈夫だよ。こっちには大田とタテさんがいるんだよ? 絶対、君達を仲間認定してるはずだから張り切るよ」

「仲間、認定ですか?」

「そうですね。もう身内って思ってるんじゃないですかね? 大田先輩だし」

「は、はぁ」


 同じゲームで同じグループで遊んだら、『貴様はもう我が身内』みたいなノリがあるユーヘイの生態というか習性というか、そんなゲーム馬鹿の笑顔を思い浮かべながら二人が言うと、ユウナは曖昧な表情でチャーシューを口に運ぶ。


「何はともあれ、安心して良いって事だよ」

「は、はぁ、何となく分かりました」


 本当は良く分かってないが、分かった風に頷く。


「知らないって幸せだなぁー」


 そんなユウナのぽけらぁとした表情を見ながら、トージは乾いた笑いを浮かべる。


 きっと大田先輩だし、色々と、本当に! やらかしてきっと一生の記憶に残るようなコラボにしちゃうんだろうなぁ……などと妙なフラグを立てる出来た後輩であった。

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