第126話 我々は一体、何を見せられているんだろうか……パート2

『コングラッチュレーション! クエスト「粉砕」がクリアーされました。ネイガーとネイト及び両者のサポート部隊が撤退を開始します。セントラルアンダーグランドにおけるフィクサーの影響が払拭されます。クエスト「粉砕」のクリアー状況からリンクしている三つのクエストの調整が入ります。クエストクリアー状況から、三つのクエストに修正が入ります』


 そのクエストインフォメーションを聞いた全てのYAKUZAプレイヤーが、歓喜に沸かず、膝から崩れ落ちるようにして脱力したとう言う……




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 ゲーム内掲示板スレッド


【我々は】イベント速報 Vol.4【見てしまった】


・我々一般人

このスレッドは現在行われているイベントの情報をわちゃわちゃ発信するだけのスレッドです。雑談多め。

攻略情報をお求めの方は、別のスレッドがありますので、そちらで情報をゲットしましょう。

ネチケットとルールを守り、楽しく雑談しましょう!



・我々DEKA

……俺らも、やるの? このクソイベント……


・我々YAKUZA

はーはっはっはっはっはっはっ! 是非やりたまえ! 我々は乗り越えてみせたぞ!(吐血)


・我々一般人

お、お疲れさまです


・我々一般人

すぐに戻ってくるぜ、ベイベー


・我々YAKUZA

やーめーれーっ!


・我々DEKA

ドッロドロの泥試合繰り広げて、最終的には強制イベントが入って――


ネイガー「見事だジャパニーズ、だがすぐに戻ってくるぜ、ベイベー……」

ネイト「これで終わったと思うなよぉっ!」


で消えると言う……


・我々一般人

オヤジ「我々は一体、何を見せられているんだろうか……」

すっごい共感してしまった……


・我々DEKA

タテさん「ベイビー」

ネイガー「ベイベー」


・我々一般人

タテさんはそれを言いつつどこか照れてる感じがあるから尊いんだよ! 溶鉱炉で溶けて、再び未来から来るようなのと一緒にすんじゃねぇっ!


・我々DEKA

運営「他人の空似。ほら世界には自分と似た人が七人いるって言うし」


・我々YAKUZA

ここの運営ならマジで言いそうだが……さすがに海外スターだし、そこらへんはきっちりかっちり許諾取ってるだろ? そっくりさんにしなかったのは色々と配慮した結果だとは思うけども


・我々一般人

でも凄かったね。ネイガー相手に拳で戦ったギルマスとサブマスの皆さん、本当にお疲れさまでした


・我々YAKUZA

ギルマス達がノックアウトされた瞬間オワタって思った。颯爽とそこへ突っ込んだサブマス達の背中に惚れた。そして最終的に物量で押せ押せってなって、ベテランだろうが新人だろうが突撃したのは正直死ぬかと思った……へへ、格闘スキルが物凄い勢いで伸びやがったぜ……


・我々DEKA

そりゃそうでしょうよ。でも、今回のたまっちの配信はファインプレイだな。つまりはあの時にたまっちが言ってたように、DEKAだろうがノービスだろうがYAKUZAだろうが、このゲームを楽しむために一緒に頑張ろうぜ、っていうのがデフォルトになるんだろうな


・我々YAKUZA

完全にネイガーとネイトはDEKAプレイヤーが相手をするのが基準になってたしな。ありゃ、スキルポイントでぽこじゃかスキルを生やせる、スキルレベルを上げられるDEKAが対応すべき化け物だったしよ


・我々一般人

案外、運営からのメッセージだったりして


運営「引き込もってねーで、ノービスとかDEKAプレイヤーとも交流せぇよ、おら?」


とか?


・我々DEKA

YAKUZAとDEKAが仲良くとは、うごごごごごごごご……


・我々YAKUZA

まぁ、YAKUZAとは名乗っているけど、俺らはアウトロー風味が強いだけのダンジョン探索専門冒険者みたいなもんだし。鬼皇会打倒ったって具体的な事は分かってないまま潜ってるだけだしな


・我々一般人

同じゲームやってる隣人同士、仲良くしましょ♪ っていうのが正しいんだろうね、きっと


・我々DEKA

そう考えると第一分署ってすげぇよな、最後までミントたっぷりだし


・我々一般人

どこのお菓子のCMだよ


・我々YAKUZA

さてはて、地上の四天王はどうなるんだろうなぁ


・我々一般人

何を他人面してるんです?


・我々YAKUZA

え? はい?


・我々DEKA

お前も手伝うんだよぉぉぉぉぉぉっ!


・我々一般人

もちろん、さっきも言った通り、協力してくれるんですよね? アンダーグランドはフェイクサーの影響が払拭されたってアナウンスされましたよね?


・我々YAKUZA

はいぃぃぃぃぃぃっ?!


・我々YAKUZA

ああ、そうか、そうだよなぁ……願わくば、あの筋肉祭、ボンバイエ! ボンバイエ! 状態は回避してもらいたいところなんだが


・我々DEKA

何事も諦める事って重要だと思わない?


・我々一般人

ウェルカムとぅーマッスルかーにばる!


・我々YAKUZA

いやだー! もう筋肉はいやだー!


・我々一般人

もう免疫出来てるんじゃないの? 大丈夫だよ、きっと、多分、恐らく……


・我々YAKUZA

そんな免疫はイヤなんだよなぁー……




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 第一分署のオフィスに何故か角松かどまつ けんと、川中かわなか ショウと、内竹うちたけ アニぃ、そして此花このはな なつめがぐったりした様子で応接スペースにあるソファに座り込んでいた。


 それの様子を見てユーヘイ達は、実に微妙な表情で苦笑を向けていた。彼らがどうしてここまで疲弊しているか、ギルドのメンバー全員で参考になるかもと、たまっちの野次馬ちゃんねるを視聴していたから知っている。


 実に酷い絵面の配信であった……


「いや、お疲れ?」


 苦笑のままユーヘイが言えば、なつめが力無く片手を挙げる。ネイトに光りモノ、刃物の攻撃が有効である、その発見をしたなつめであったが、その後、ナイフ持ってるなら参加するよね? と無理矢理筋肉バトル祭に参加させられ、結構なダメージを食らっていた。肉体的にも精神的にも……


「んで、YAKUZAの大親分さん達が、警察署に来るなんて……出頭? 何かヤッた? タイホされに来たのかしらね?」


 これは徹底的にからかう材料が向こうからやって来た、そんな表情を浮かべたノンさんが、ニヤニヤ笑いながら言えば、三人の大親分達は面倒臭そうな表情を浮かべる。


「タイホされるような事はしてねぇよ。そもそも俺らが相手にしている鬼皇会の下っ端なんてモンスター扱いだぞ? あれをブチ転がしてもモンスター討伐した扱いにしかならねぇよ」

「色町だとか賭け事とかもやれっけどよ、どっちかつぅと職業斡旋ってか会社経営シミュレーターゲームやってるようなもんだしな。ボッタくりなんざしようモンなら、一発でレッドネーム(プレイヤーからの討伐対象)の仲間入りだぜ? 健全、健全」

「そもそも、ヤバイクスリだとかヤバイ金貸しだとかやれねぇもんな……一応YAKUZAっぽい恫喝やら恐喝なんて要素もあるにはあるけど、相当マイルドでボカされてるし……あれ? YAKUZAって何だろう?」

「知らねぇよ! 黄物のYAKUZAプレイヤーなんて、んなモンだろうが! それでも結構攻めてる所は攻めてるだろうがよっ!」


 ぐったりしながら軽口を叩き合う三人に、トージが『粗茶ですが』と紙コップの日本茶を差し出す。


「「「ありがとう」」」

「いえいえ」


 紙コップを受け取った三人が茶をすすり、その様子を見ながらヒロシが近づく。


「それで、冗談抜きにして用件はなんだい?」


 ヒロシの問い掛けに、三人の動きがピシリと固まり、お互いにお互いを肘でつつき合いながら、お前が言えよ、いやいやお前が言い出しっぺだろうが、お前がお前が、みたいなやり取りをする。それを呆れた感じに見ていたなつめが、トージから受け取った紅茶入りの紙コップを口に運びながら切り出す。


「ギルド『第一分署』と同盟を結びたいんだと」


 紅茶をすするなつめに、三人があうあう口を閉じ開きしつつ情けない表情を向ける。そんな四人の様子を見ながら、苦笑を浮かべてダディが口を開いた。


「唐突だけど、何か思うところでもあった?」


 ダディの問い掛けに角松が表情を取り繕いながら、コホンと咳払いをする。


「はっきり言って、YAKUZAプレイヤーオンリープレイは限界が見えた。まだまだここの運営の底意地の悪さを理解していなかった……それをネイガーとネイトと戦っている時に思い知った感じだ」


 角松の言い分に、川中がトンボの複眼のようなサングラスを外しつつ、苦笑を浮かべて頷く。


「YAKUZAはYAKUZA一強って本気で思ってたけどな、ネイガーとやりあっている時に、あ、こりゃダメだ、って思っちまったんだよ。これからのYAKUZAプレイヤーは知らんけど、古参のYAKUZAプレイヤーには戦い方の幅が無い。それと今更ながらに取りこぼして来たクエストがあったんじゃねぇかって気づいた」


 内竹も間が抜けた表情で茶をすすりながら、うんうんとリーゼントを揺らしながら頷く。


「知ってるか? YAKUZAプレイヤーでユニークジョブって三人しか確認されてないんだぜ? なつめとゴルフのヤツとたまき。こいつらに共通してるのは、ちょくちょく地上に出て他のプレイヤーと交流してるってトコだ。つまり、俺達は自分達で自分達の可能性を狭くしてる可能性大って事になってんじゃねぇかって思ったんだわ」


 三人の言い分になるほどねと頷くユーヘイ達。


「それと、このイベントを成功させたいって気持ちももちろんあるぜ? せっかく全プレイヤーで協力しようぜ、って気づきがあったんだから、その気持ちが冷める前に行動に移そうって事にしたんだ」

「ギルド『第一分署』と同盟をすれば、イヤでもデカいクエストに参加出来そうだしな」

「ちょくちょく地上に出るにしても、大きなギルドと仲良くしとけば、色々と面白い情報を聞けるだろうしな。アンタ達のトコだったら横の繋がりもあるだろ?」


 ニヤリと笑って打算的な事をいう彼らに、ちゃっかりしてらぁとユーヘイが苦笑を向ける。


「そういう事なら同盟を受け入れましょう。お互い楽しくゲームをやりましょうね」


 ダディが手を差し出すと、三人は代わる代わるその手を握って握手をする。その様子を少し羨ましそうに見ていたなつめにユーヘイが近づき、ほれ、と手を差し出した。


「え?」

「お前も同盟入れや。個人でも入れんだろ?」


 ビックリした表情を浮かべるなつめに、当たり前の事を言うようにユーヘイが切り出す。


「……良いの?」


 ユーヘイの手を見て、少し信じられないような表情を浮かべているなつめに、呆れた表情を向ける。


「良いも悪いも、お前、もう俺らのダチ認定受けてんぞ?」

「……」


 ユーヘイの言葉を聞いたなつめは、一瞬泣き出しそうな表情を浮かべ、慌てて俯き顔を伏せ、小さく鼻をすすると顔を上げて美しい笑顔を浮かべた。


「意地でも同盟解除しないぜ?」

「んなコトすっかってぇの、ほれ、とっとと受け入れろ」


 なつめは何回か手を服で拭い、まるで宝物でも受け取るようにユーヘイの手を両手で握り返した。


「何かあったら呼べよ?」

「それはこっちの台詞だよ、ユーヘイ兄さん」

「へっ、そうかよ」


 素直じゃねぇなぁ、そう言って苦笑を浮かべるユーヘイを、なつめはありがたい気持ちで見つめる。


 ずっと憧れていたやり取り、色眼鏡無しでの男らしいワンシーン。外見に激しいコンプレックスを持つなつめの夢。自分の外見に騙されずに、お前はお前、とごくごく自然に接してくれるユーヘイに、なつめは心からの笑顔を向けるのであった。

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