第205話 クエストとは複雑に変化するのが当たり前(第一分署視点だと)

 村松とらいちのコンビは完全に混ぜるな危険であった。本当に混ぜたらアカン奴だった。


 どうやら自分達が受けたクエストは、未成年者、高校生くらいの少年少女が起こした軽犯罪であるらしく、聞き込み対象が色々と思春期真っ只中な子供達で、混ぜるな危険の二人に任せると実にヤバい光景になる。思わずカニ谷が配信カメラを強制停止するくらいには破壊力が高すぎた。


 具体的には、胸部装甲の暴力であった、とだけ記載しておく。(村松もキャラクターはともかく、中の人は完全にグラマラスの範疇に入るボディの持ち主ではあるので)


「なるほど。じゃあ、ベイサイドを中心とした学校の、いわゆるヤンキーな学生達がグループを作って?」

「うん、犯罪をしてるって噂だよ」

「ありがとう。すごく助かったよ」

「はい、じゃ塾に遅れちゃうから」

「ごめんね、もう大丈夫だから」

「はい、さようなら」

「はい、さようなら」


 なので配信カメラを止めてから再開してからは、全部カニ谷が聞き込みを担当していた。


「聞いてた通りだ」


 スマートに確実に情報を引き出したカニ谷へ、二人が不満たらたらの視線を向ける。だが、カニ谷は完全にスルーして、ユーヘイから渡されたベイサイド区の観光マップを広げた。


「スキルのマップを取る余裕は無かったから、こう言うのは本当に助かる」


 まさか別ゲー(スペースインフィニティオーケストラ)のように、近未来的ぱうわーを持つ端末を起動して3Dマップを表示する、何て便利機能はないからなー、と呟き紙のマップに得られた情報を書き込んでいく。


「子供達から聞き出した情報を……それとクエスト詳細の内容も加味して」

「「おおー」」


 ぶすっとしていた村松・らいち組も、カニ谷が書き込んでいるマップを覗き込み、その法則性を具体的に見て感動の声を出す。


「確か、ベイサイドでも底辺を争うヤンキー……ヤンキーって今じゃ死語よね、時代を感じるわ……いやそうじゃなくて、ヤンキー学校があって、そこの大きなグループが色々な事をやり始めたって話だったわよね?」

「うんうん。確か……ここ!」


 村松のブツブツと独り言のような言葉にらいちが反応し、書き込みが終わったマップの、ベイサイドでも北側を指差す。


「そう、まさにそこ近辺から今回のクエストの軽犯罪が開始された」


 被害届けが出された、一番最初の場所を指差しながらカニ谷が頷く。


「って事は、そのヤンキー学校に行くの?」


 村松に聞かれてカニ谷は唸りながら天を見上げる。


「どう、だろう」

「え? だってそこの学校のグループが犯人でふぁいなるあんさーなんですよね?」


 歯切れの悪い否定の言葉に、らいちがきょとんと首を傾げながら聞く。


「そこのグループが中心、って感じではないっぽい気がしてるんだよなぁ」


 犯罪マップを指先でなぞりながら、カニ谷が最新の軽犯罪が起こった場所をトントンと叩く。それを覗き込んだ村松がなるほどと声を出す。


「ああ、最初の方のまだ笑って許せる、いわゆる『いたずら』の範囲で終わるような感じから、今はがっつり軽犯罪と呼べる感じへ変化してるってところに違和感を覚えてるのかしら?」


 村松の言葉にらいちがマップを覗き込んで、最初の方から最近の方へ視線を動かし、おお~と声を出す。


「確かに、最初の方と比較すれば最近のは暴力的って言うか、『いたずら』の範疇を越えてますね」


 マップの最初の方は、グループの縄張りを主張するようなスプレーでの落書き。それが徐々に南下していき、落書きプラス破壊行為に変化していき、最近のモノになるとひったっくりや置き引きと完全に『犯罪です』というレベルへグレードアップしていく。(落書きも、もちろん犯罪です)


「何となく……本当に何となく、色々な思惑と言うか、複数のグループが関わっているような感じがしてるんだよなぁ」


 カニ谷はそう呟きながら、マップ北側の、ヤンキー学校とは別の場所を指差す。それはヤンキー学校とは別の、そこそこ悪い奴らが集まる学校で、その近辺も結構な被害届が出されている。


「……つまり、少なく見ても三つの学校の不良グループが関わっている?」


 カニ谷の説明に、村松も別の場所を指差して呟く。彼女が指差した場所にもヤンキー学校と呼べる学校が存在し、その近辺も被害届が集中していた。


「……うわ、これって……この学校のグループが、競って犯罪をしてるって事?」

「「あ、なるほどそういう!」」


 らいちの素直な感想に、二人は納得したように手を叩く。


「始めは縄張りを誇示するような落書きで――」

「そこから自分達の力を示すような破壊活動。そしてより悪い事をしているんだぞ、って感じに変化していった」


 カニ谷と村松がマップの書き込みをなぞりながら、でかしたとらいちを見る。


「って事は、三つの学校のグループをどうにかしないとダメって感じかしらね?」


 マップから顔をあげた村松が、耳につけている大きなピアスを指先でいじりながら唸った。そんな村松をチラ見しつつ、カニ谷も体を引き起こして腰を伸ばす。


「あーっ! はぁ……もしくはもう少し情報を集めるか、逆に情報をばら蒔いて一ヶ所に誘き出すか」


 カニ谷の方針を聞いて、らいちはうーむとマップを睨み付ける。


「これってそんな事しなくても、ここに来ませんか?」

「「え?」」


 マップを睨んでいたらいちが、とある地点を指先で叩く。それを見た二人は、彼女が言わんとしている事を理解する。


「安直ですかね?」


 らいちが指差す先、それは三つの学校から始まった犯罪ラインがちょうど交差する地点で、お誂え向きに操業を停止した大きな廃工場の跡地でもあった。


「いや、確かにこのクエストってイージーだったわ。らいちちゃんくらいに素直に『ゲーム』として捉えている方が正解かもしれないわ」

「あー、どうもユーヘイ君達の大活躍を意識しすぎたのかもしれない」


 不安そうならいちの頭に手を置いて、よーしよしよしよしと頭を撫でる村松。そんな二人を眺めながらカニ谷も苦笑を浮かべて頭を掻く。


「それじゃそこへ向かいましょうか? らいちちゃんの読み通りに来ればラッキー、もしも来なくてもそこら辺で情報収集すれば、何らかのフラグを拾いそうだし」

「そうだね、そうしよう」

「了解です、かっちょー!」


 方針が決まった三人は、急いで自分達の車へと戻り、また来た時と同じ場所に座る。


「はぁ、ダメねぇ。ちょっと難しく考えすぎてたかもしれないわ」


 車のキーを回しながら村松が苦笑を浮かべ、そんな彼女の言葉にカニ谷が両手を挙げておどけるように肩を竦める。


「まぁ、VRプレイヤーなんて多かれ少なかれ、物事をちょっと盛ってから対応しようとする部分はあるから仕方ないよ」

「そうなんですか?」


 二人のやり取りに、シートベルトを閉めていたらいちが、不思議そうな顔を向ける。


「まぁ、色々あったんだよ。マジでとね……」

「は、はぁ……」


 どこぞの宇宙猫を思わせる、物凄く遠くを見ているような目付きでカニ谷が呟く。


 とある宇宙を舞台にしていたゲームでは、初心者クエストが壮大な宇宙旅に変貌し、気がついたら中級者レベルまで技量及びプレイヤースキルが鍛え上げられ、終わる頃には完全なるベテランプレイヤーに強制的に引き上げられる、何て事は日常茶飯事だったりしたので……そしてその因子は、宇宙キターなゲームをお手本にした後発組が多いので、まぁ、お察しと言う感じである。


「まぁまぁ、早速向かいましょ」

「了解」

「わっかりました! かっ――」


 シフトレバーを操作し、車を動かし始めると、元気に返事をしていたらいちの姿が突然消え、まるで虚空からストンと落ちてきたようにサマーが助手席に現れた。


「ちょちょちょちょ! ユーヘイさんタテさん……ってあら?」


 慣れない手付きでリボルバーを構えようと、あたふたしたサマーが周囲の状況に気づき、どうなってるの? と困惑した表情を村松とカニ谷へと向けた。


「え?! え?! どうなってるのー?!」


 困惑マックスなサマーが叫ぶ。そしてそれを知りたいのは村松もカニ谷も同じであった。

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