第283話 逆風 ②
ノンさん達と合流する為、馴染の駄菓子屋に向かい、定位置となっている場所へレオパルドを止める。
「まだ、来てない、か? なら丁度良いか」
ユーヘイは周囲を見回し、ダディのピックアップトラックが無いのを確認して、トージとリョータに外へ出るよう促す。
「あ、あの?」
一人残される形になるミーコが不安そうに声をあげれば、素早くドアを開けたヒロシが笑顔で、彼女を駄菓子屋にエスコートしていく。
「ああいうのをサラリと出来る縦山先輩が凄い」
「全部がイケメン、それが俺のバディ、タテさん!」
「先輩には無理ですもんね」
「うっせぇなぁ、こっちはしょうゆ顔通り越して塩なんだよ」
ヒロシとミーコの背中を見送りながら、そんな軽口を叩き合っていると、ミーコから引き離されたリョータがイライラした感じに口を開く。
「今度は何だよ」
刺々しいリョータの言葉に、ユーヘイはコリコリとこめかみを指先で掻きながら、少し躊躇してから説明をする。
「お前達の、と言うかミーコの方の問題にメスが入ってな。学校方面の問題だけじゃなくて、お前達が生活している地方全体の問題が表面化した」
「……は?」
「何かやたらと力を持ってるデカイ会社の一族が、お前達の地方を牛耳ってるんだろ? そこの奴らがやらかした犯罪行為が、ミーコの調査で暴露された」
「はぁっ?! な、な?! なぁっ!?」
「うん、そうなるよな。俺もメールを見た時は同じような心境だったわ……で、問題は、その犯罪行為を行った奴等が、このゲームに逃げ込んだんだってよ」
「ちょ、は、え、えぇぇぇぇっ!?」
「うん、気持ちはすんごい分かる」
あまりの事に百面相で叫び散らかすリョータに、ユーヘイは同情する視線を向ける。
「ああ、お前とミーコのリアルの体は天照正教の人と、東京から事件調査に来てる警視庁の人間が保護してるから安心して良いぞ」
「いや、その、なんだよそれ」
リョータはあまりの情報量に気持ちが追いつけず、へたり込むように座ってしまった。その様子を横目で見ながら、トージがユーヘイに不思議そうな視線を向ける。
「でも先輩、そんな袋のネズミ状態の人間が、何でVR世界に逃げたんです? 運営に見つかって強制ログアウトして終わりじゃ?」
「そうだな、VR初期の頃に不正行為が見つかった政府高官が、VRに逃げ込んで時間稼ぎやら情報隠滅、情報改竄、証拠隠滅、弁護士との口裏合わせ何かに使われていた時期つうのがあってな。今じゃ諸々の対応策盛々で、大体はお前が言ったように早期に見つかって強制ログアウトかBAN食らう、んだが……」
「だが?」
「どうやら不正なツールを使ってそこらをクリアーしてるらしくてな、そのやり口が素人仕事で強制ログアウトでもしようもんなら、そいつらの脳に直接ダメージが入るかも、って運営が手を出せない状態なんだと」
「えぇぇぇぇぇぇ……ダサい上にアホな事に自分の体を使ってるとか」
「そもそも犯罪すんじゃねぇぞ、って話なんだけどな」
苦笑を浮かべるユーヘイに、トージは仕方がないなぁという表情を向け、おもむろに懐からリボルバーを取り出して、拳銃のチェックを始める。
「いやいや、今回はそれの出番はねぇだろ」
リョータ達が相手にしようとしているのは、あくまで中学生から高校生くらいのヤンチャしている学生だ。そんなのを相手に拳銃でドンパチする事はない、はず。
「いえ、山さんに新しい拳銃の調整をお願いしてたので、その最終確認をしてるだけです」
ここのところ妙な感じの事件に巻き込まれているので、威力と命中精度、それと射程が長い拳銃を新しく購入したのだ。前のは現実世界の警察でも使用実績がある実銃モデルだったが、新しく購入したのは怪盗三世の相棒が使用しているリボルバーである。
それと妙な気配というか、厄介事の焦げ臭さというか、なんというか絶対すんなり終わらない予感のようなモノを感じて、最終的に頼ることになるだろう相棒をチェックせよと本能が言っているので従っただけだ。
表情とセリフが全くマッチしてないトージに、ユーヘイはなんとも言えない表情を向けていると、すぐ近くにダディのピックアップトラックが止まった。
「お待たせしました!」
トラックからアツミが元気よく飛び出し、ユーヘイの横にぴょんと着地する。
「いや、俺らも今来たところだし、待ってすらいないんだが……用事は大丈夫なのか?」
「あ、はい。むしろこっちは良いから行けって言われました」
あっけらかんと言うアツミの背後に、パルティが高笑いしている姿を幻視し、ユーヘイはアツミに聞こえない小声で呟く。
「……あの馬鹿なら言いそうだよなぁ、それ」
げんなりした様子のユーヘイに、トラックの助手席から身を乗り出したノンさんが声を掛ける。
「じゃ、あっちゃんも合流出来たし、アタシ達は人狩り行ってくるわ」
「ヒューマンハンターハンターってが」
「まぁ、そんな感じよ。そこの少年!」
「っ!? え! あ、は、はい!」
「好きなだけ遊びなさい。自分達が納得するまで悩みなさい。大丈夫、いくらでもアタシ達は付き合うし、いくらでも振り回されてあげる。だから真っ直ぐ進め、少年」
「……」
ノンさんの力強い目に射抜かれ、リョータは顔を真赤にして口をパクパクさせる。
「おーおー、人妻の色気にメロメロか?」
「っ!? ち、ちがっ!」
「分かる分かる。何気にノンさん相当美人だもんな。あんだけ真っ直ぐに気持ちを伝えられたら、告白すら出来ない坊也じゃ抗えないわな」
「は、はぁっ!? ち、ちっげーし! み、ミーコとはその、そういうんじゃ……ね、ねーし」
リョータをからかってユーヘイが茶化すのを見たノンさんは、少し呆れた目を向けながら、手をひらひらと振る。
「なーにを言ってるんだか。じゃ、ユーヘイ、そっちはお願いね」
「おう任せろ。そっちも頼むわ」
「こっちはほぼオールスター状態よ? 万が一どころか億が一すらないわよ」
ノンさんが『ニカッ!』と笑って吐いた言葉に、あれ? それフラグじゃね? と不吉な気配を感じてユーヘイがツッコミを入れようとしたが、そのままトラックは走り去ってしまった。
「おーぅ」
これってフラグ立った? ユーヘイがたらりと冷や汗を一筋流していると、横に立つアツミがちょいちょい袖を引っ張る。
「それで、どんな事をするんです?」
「あ、ああ」
多分気の所為、うん、ちょっと風邪気味で妙な寒気を背中に感じただけ、そんな誤魔化しを全力でしながら、ユーヘイはアツミに体を向ける。
「基本はここにいるリョータと、今はタテさんが連れて行ってるミーコの二人の思うままに進める。俺らはそのサポート要員だな。助言とか多少の口出しはするけど、基本的には二人に全部選択してもらう形」
「ふむふむ。で、今はどんな感じで?」
「商店街の方で聞き込みをして、商店街の皆さんが困っている事、中学生から高校生くらいのヤンチャしてる奴らをどうにかしようか? って感じに動いてる」
「なるほど」
ユーヘイの説明にアツミは頷き、チラリと頭を抱えてブツブツ言っているリョータを見る。
「大丈夫なんですか? あの子」
「うん?」
ユーヘイがリョータの方を見れば、彼は『違う違う、違うんだよ、そうじゃないんだって』みたいな事を呟いていた。どうやらミーコに対する気持ちが暴走してしまって、一人身悶えているご様子。
青いな、そんな苦笑を浮かべつつ、ユーヘイはアツミに良い笑顔を見せながら説明する。
「思春期特有の難しい心理って奴だな、うん。もしくは恋煩いか」
「ほっほぉーぅ」
キュピーンと目を輝かせリョータを見るアツミに、『男性恐怖症でも恋バナってのは別腹なんかね?』と微笑ましい目を彼女に向ける。
「お待た……どうしたよ?」
「来須君?」
しゃがみ込んで唸るリョータの姿に、ヒロシとミーコが不思議そうな視線を向ける。
「マジでどうしたよ?」
ヒロシがユーヘイに聞くと、ユーヘイはサングラスをかけて、カウンターに寄り掛かるような姿勢で、片手にグラスを持っているようなジェスチャーをしながらのたまわった。
「ふ、坊也だからさ」
「「「「……」」」」
そら寒々しい空気がピューと吹き抜けていった。
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