第147話 ゲットレディ、トージ

「浅島先輩……立派に人外になられて……」


 ダディ達が守備に回っている地点を、高台に隠れていたトージが上から覗き込めるに様子が見え、そこで展開されている摩訶不思議アドベンチャーをやっているアツミの姿を見て、無感情で平坦な口調で呟く。


 ゴム弾の跳弾で三次元的な狙撃をしているアツミ。そのあり得ない光景を見て、彼女もすっかりユーヘイカラーになってしまった、とトージは思った。


 そもそもだがゴム弾で跳弾って言うのが色々おかしいのだ。いやゴム弾だから跳ねるやん? と思われそうだが、山さん印の『特殊ゴム弾』はある程度のストッピングパワー(※1)を担保する為、命中した瞬間に弾頭がハジけ、そのパワーを命中した相手に効率良く浸透させるような工夫がなされている。


 そう、何かにぶつかれば使用しているゴム弾の弾頭はハジけるのだ。跳弾などするハズがないのだ。決して今見えているように、バカスカとコンテナにぶつけて、パッコンパッコン跳弾しているのがおかしいのだ。


「超常現象にしか見えない……うん、あれは先輩の色に染まったって事で無理矢理納得しとこう、うん」


 考え始めるとド壺にハマりそうなので、トージは無理矢理強引に納得して、自分の状況に集中する。


 今現在、ユーヘイが思い浮かべた通りの展開に持っていけている。だが、ユーヘイの予想とは違って、相手の連携がかなり高い上に、戦闘の練度も高めだ。


「気づいているっぽいんだよなぁ、動き的に」


 首をコキコキ鳴らし、使ったリローダーに弾込めを行いながら、周辺の気配が動く様子を感じてぼやく。


 ノンさんのグレネードランチャーによる初手爆発から、奇襲的な突撃、それによりフィクサー側が動揺し混乱していたのだが、今では冷静にこちらへ対応しているように感じる。


 伝わってくる熱気というか感情というか、そう言った見えない感触が冷え込んでいくのを感じ、それはまるで戦っている時のユーヘイを相手にしているような感触で、実に嫌な予感を覚えずにいられない。


「さすがに先輩レベルの熟達した腕はないけど……」


 射撃、移動、カバーリング、そういった全体的な能力を見れば、まだまだ素人レベルだが、普通のクエストで相手をしているYAKUZA達と比較すれば訓練はされている。


「訓練を受けてるってのは、怖いんだよなぁ。時に訓練以上の実力を発揮したりするから怖いんだよなぁ」


 手持ちのリローダー全てに弾を込め終り、トージは自分のリボルバーをチェックして溜め息を吐き出す。


「毎回毎回、どーして第一分署うちは難易度が天元突破するんだろう。もう何だろう、憑かれてる?」


 きっと本人は全く相手をしてないが、配信関係の神様、撮れ高の女神とかが先輩をお気に入りにしてるんだ、そんな事をブツブツ呟きながら気配を感じている方向へ銃口を向ける。


 パン!


 悲鳴は聞こえず、ただ重い物体が地面に落ちたような音が聞こえ、トージは肩から力を抜く。


「クエストを受ける度に思うけど、本当、大変だよなぁ第一分署うちって」


 クエストの難易度もそうだが、難解さもピカイチで、全てが綱渡り状態。正直、ゲームで何でこんな苦行をしてるんだろう、と思わなくはない。


「ぷっ」


 だがそこまで否定してみて、実は自分がこの状況を楽しんでいる事に気づいて吹き出した。


「これが毒されたっちゅうんだろうか」


 いやぁ参ったなぁ、そんな言葉を口に出しながら、トージはよっこらせと立ち上がる。


「なんだかんだ、僕も単純だからなぁ」


 クエストをクリアーすれば誉められ、頑張ればその分を評価され、生意気な言葉を吐いてもちゃんと拾って付き合ってくれる。やっぱり第一分署なんだよなぁと、自分の居場所はここなんだよなぁと、何度も再確認させれれば毒されるのも仕方がない。


「じゃ、誉められる為に頑張りますか。初心者なりに」


 トージは猫のように足音を消しながら、静かに気配を感じる方向に向かって走る。この段階で初心者とか、実に色々とおかしい事を、トージは全く気づいていない。


 トージの配信を見ていた視聴者の心は一つ。コメント欄には『お前のような初心者がいてたまるか!』であった。


 初心者は走る足音を消すなんて事は出来ないし、気配を感じてそこへ射撃して更に当てるなんて芸当も出来ない。そもそもベテランVRゲーマーでもそれが出来るのは一握りである事にトージは気づいていない。


 それこそユーヘイレベルの腕前が必要なのだが、良い事か悪い事か第一分署ではこれがデフォルトなので、トージとしては初心者でもこれくらいは出来るよね? という認識なのだ。


 手遅れというかやっちまったというか……そう既に、トージは完全にアツミと同じ枠、ユーヘイ達の色に染められた人外であった。


 自称初心者トージは忍者のように走り、ダディ達にヘイトが向かっているのを良い事に、敵の背後を取って次々に倒していく。


 六発撃ち終り、シリンダーを操作して薬莢を捨て、ガンベルトに付けているリローダーを取り出す。


「死ね!」

「よっと」

「がぁっ!?」


 隙をうかがい、死角になる場所から飛び出して殴りかかって来たフィクサーの兵士を、分かってるけど? と体を入れ替えるようにして回避し背中に蹴りを入れ、リロードの終ったリボルバーで後頭部へゴム弾を撃ち込む。


「ビックリするからやめてね?」


 あービックリした、と本当に驚いているか判別のつかない表情で呟き、こちらの音に気づいて近づいてくる気配を感じ、その場から走り去る。


「おし、先輩達も頑張ってるから、僕も頑張ろう、うし!」


 周囲から聞こえてくる呻き声やら悲鳴を聞いて、トージは気合いを入れながら、自分の気配を薄めて遮蔽物を駆け抜けた。




ーーーーーーーーーーーーーーーー


 ゲーム内掲示板スレッド


【正直】第一分署プレイヤースキル観察スレッド Vol.89【参考にならん】


・正直DEKA

このスレッドは第一分署の面々が所有しているだろうスキルを検証するスレッドです。雑談枠ではありませんのでご注意ください。

我々は自分のプレイヤースキルを磨きたくてこのスレッドを立ち上げております、なので第一分署に対する誹謗中傷は受け付けておりません。またそれによって運営から厳しいペナルティを受けたとしても、こちらは関知しませんのでご注意下さい。

スレッド書き込みは運営が決めた利用規約が存在してますので、それを守った上で書き込みをするようにお願いします。



・正直YAKUZA

トージ君の配信を見てるんだけど、あれどうやってんの? いきなり敵の居場所を感知するみたいなアレ


・正直イリーガル探偵

あ! それ自分も気になった。DEKAのスキルにそんなのがあるのかな? スキルが判明してるなら教えて欲しい。もしかしたら将来的に使えるようになるかもしれないし


・正直YAKUZA

あ! こっちも是非! スキルの熟練度を伸ばしたら最終的にゲットできるかもしれないから! 名前だけでも教えてください!


・正直DEKA

こっちが知りたい


・正直DEKA

以下同文


・正直DEKA

以(略


・正直DEKA

あー、あれな……一緒に同時視聴してたギルドの古株、それなりに長くVRゲーマーしてる人に聞いたんだけど、スキルじゃなくてプレイヤーの技能らしい


・正直YAKUZA

は?


・正直イリーガル探偵

あんだって?!


・正直DEKA

その人が言うには、殺気を飛ばせるプレイヤーに攻撃を何度もしてもらって、その気配を感じられるようにする、らしい


・正直YAKUZA

え? ギャグ?


・正直YAKUZA

あー、確かに殺気というか、物凄い怖い圧力を出せるプレイヤーっているわ。あれを受け続けるってキチーな


・正直イリーガル探偵

マ?


・正直DEKA

マ。俺も教えてくれた仲間プレイヤーに同じリアクションした。したらその人も、信じられんだろうけどマジやで? と真顔で言われた


・正直DEKA

つーかさ、その気配? を感じるプレイング。第一分署のほぼ全員がやってるよね? つーか普通人枠だったあっちゃんさんまで妙な技能を使い始めてるんですが……あれって何? もちろんスキルにんなもんは無かった事は確認した


・正直YAKUZA

スキルじゃないんだ……


・正直イリーガル探偵

他のスキルは名前が判明してるって事は、マジなんだろうなぁ……


・正直DEKA

特にトージ君は暇さえあれば訓練してる子だからなぁ、出来て当然だとは思うけどな


・正直DEKA

出来ればスキルで欲しかったよ。つーか、俺ら零細ギルドだと、射撃場をあそこまで改造するポイントゲット出来ん


・正直DEKA

あっちゃんのアレも摩訶不思議現象だけどなぁ……試しに配給されたゴム弾を壁に向かって撃ち込んだけど、一発で破裂したぞあの弾


・正直YAKUZA

マ?


・正直DEKA


・正直DEKA

これでますます第一分署に加入するハードルが上がったと


・正直DEKA

やっぱり、アップデート前のチュートリアルクリアー出来なきゃ無理なんだろうなぁ


・正直DEKA

かなり彼らのスキル構成は判明したけど、遊びの部分が多いからなぁ


・正直DEKA

ユーヘイニキとタテさんに関しては、ゲットしているスキルの九割がリスペクトスキルという、クエストクリアーには全く関係無いお遊びスキルだしなぁ


・正直DEKA

DEKAなのに鍵開けとかコメディアンだとか、挙げ句には元ネタの口癖だった「育ちが悪い」から悪童なんつーポイント泥棒スキルまで網羅してるからなぁ、ニキ


・正直DEKA

ヒロシニキも似た感じだしなぁ。潤沢なポイントがあるから出来る事だよなぁ


・正直YAKUZA

もう恒例だもんな、クエストクリアーへのポイント連打


・正直イリーガル探偵

あれ、裏山


・正直YAKUZA

わかるー


・正直DEKA

でさ、今、普通に隣接している相手に察知されずに走ってるんだけど、トージ君。あれもスキルが見当たらないんですが……


・正直DEKA

それを言ったら動いている最中、ずっと足音とか聞こえませんでしたが?


・正直YAKUZA

アイエー!?


・正直イリーガル探偵

ニンジャ?! ニンジャなんで?!


・正直DEKA

マジで忍者すぐる


・正直DEKA

忍び足とか消音とかねーか?


・正直DEKA

無いねー。ギリ「体さばき」がそれっぽいけど。持ってる奴に言わせると、単純に身体能力、普段の体の動かし方が滑らかになる程度だって言ってたしな


・正直DEKA

どんだけー


・正直DEKA

こんだけー


・正直DEKA

言うてる場合か


・正直DEKA

これはあれやね。プレイング関係もウォッチングして自分達で身に付けるしかないね


・正直YAKUZA

あー、それならYAKUZAだとかノービスだからとかで区別しないで、自力ゲット出来るのか


・正直イリーガル探偵

魅力的だけど茨の道だよな、それ


・正直DEKA

ユーヘイニキ「こっちの色に染まろうZE!」


・正直DEKA

ヒロシニキ「大変なのは最初だけだZE!」


・正直DEKA

結局、最後に笑うのは努力ってが?


・正直DEKA

いっしょに沼ろうか?


・正直DEKA

好きだろう? 修行


・正直DEKA

うん、大好きSA


・正直DEKA

よーし、アーカイブからさらうぞ。手伝ってくれ


・正直DEKA

へーい


・正直DEKA

了解ー




※1 拳銃や小銃から撃たれた弾丸が、命中した際に生物を行動不能に至らしめるかの指数的概念である。

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