第225話 ゲーム性ガン無視 ③
ヒロシのバイクがウィリー走行でピラミッド君の頭部に前輪の一撃を食らわせ、そのままの速度で駆け抜ける。
『がぁっ!?』
強烈な一撃でたたらを踏んだピラミッド君へ、気配を殺して目立たないようにしていたユーヘイが勢い良く飛び蹴りを食らわせた。
『ぐがぁっ!?』
尻もちまではいかなかったが、大きく体勢を崩したピラミッド君のむき出しになっている胴体部分へ、ユーヘイがすかさずゴム弾を叩き込む。
『っ!? っ?! っ!?』
ほぼ同じ場所へ三連射を食らい、悲鳴にならないうめき声を漏らしながらピラミッド君が片膝をつく。
「よいしょっ!」
『ががぁっ!?』
前傾姿勢で膝をついたピラミッド君の後ろへ回っていたユーヘイが、軽やかに地面を蹴ってピラミッド君の延髄へ脛を叩き込む。ピラミッド君は悲鳴を出して顔面から地面に叩きつけられた。
倒れた勢いを利用して追撃を入れ、素早く距離を取りながらユーヘイは集中していく。
「確か前に倒した時は……」
集中をしながら呟いたユーヘイのセリフを聞いた、今現在ライブ配信を見ている視聴者全員が、そのセリフの内容に素っ頓狂な声を出した。
『はああぁぁぁっ!? え? あ? いやいやいやコンシューマ版だよな? あれ? コンシューマ版って倒せたっけ?』
『イベントをすれば倒せる。倒せるが、今見ているVR版のはそこまでアプデが入らなかったから、そのイベントがそもそも入って無い可能性がががががが』
『つーかサ終の間際に新規キャラで入ったプレイヤーが、その日にピラミッド君倒して話題になってなかったっけ?』
『『『『……』』』』
視聴者の沈黙が痛い。
実は、仕事で上司の無茶振りを受けてイライラし、そのイライラを解消しようと見ていたLiveCueのライブ配信で、推しが理不尽な
VR版サーフヒルでちゃっかり伝説を作っていた男、これぞユーヘイクオリティ。
『まぢで?』
『ヤツならやりかねん』
『これがそこらの凡プレイヤーだったら、ふかしやがって、で済ますところなんだけどなぁ』
『出来ない出来るで言ったら出来ちゃうだろう? ニキなら』
『『『『だよなぁ』』』』
視聴者がザワザワしている前でユーヘイが動く。
「基本は継ぎ目狙い!」
地面に倒れているピラミッド君の足、関節の膝裏めがけて踏みつける一撃を入れる。
『ぐがっ!? っ!』
その一撃を受けてくぐもった悲鳴を出したピラミッド君が、バネ仕掛けの人形の如く跳ねるように立ち上がる。
「緊急行動。そして次は――」
『ぎゃあぁああぁぁぁぁァァァァァァァっ!』
「体当たりからの抱きつき」
老若男女、様々な声色が混ざった叫び声を出し、ピラミッド君が瞬間移動でもするような勢いで突っ込んでくる。まるでハサミのような両腕を突き出し、ユーヘイを刺し貫こうと突き出す。
「しゅっ!」
鋭く早く浅く息を吐き出したユーヘイは、右手に持つ拳銃を手の中でクルンと回し、突き出されるピラミッド君の両腕を、ほぼ同時にグリップの尻部分で叩いて動きをずらす。
『っ!?』
「いらっしゃい!」
ピラミッド君は予期せぬ方向へずらされて体が泳ぎ、顔面からユーヘイに突っ込むような形になる。そこへユーヘイが素早くピラミッド君の股の間へ右足を踏み込み、体を引き絞って一直線にその顔面へ左手の掌底を叩き込んだ。
バッギィィィィッ!
三角錐が乗っかっているだけの頭部に、蜘蛛の巣のようなヒビが走り、掌底が当たった場所がメコリと凹む。
『きゃあぁアァァァァアァァあぁぁぁぁっ!』
思わぬダメージを受けたピラミッド君が、不協和音そのものの叫び声を出し、懐にいるユーヘイに抱きつこうと両腕を閉じる。
フォオオォォォォォォン!
不意にバイクの排気音が響き、ピラミッド君の動きが一瞬止まった。
「さすタテ!」
自分の懐からの声に気づいた時には、ユーヘイの拳銃の銃口が生身部分の首へと密着していた。
「Hasta la vista,baby(地獄で会おうぜ、ベイビー)」
前回イベントで通常弾丸を詰め込んだままのマガジンと素早く交換し、ゴム弾が詰め込まれたマガジンをひらひらと眼の前で振りながら、ユーヘイはマガジン内の弾を打ち尽くすまでトリガーを引き続ける。
『……』
最後の鉛弾が首を貫通し、カランコロンと音を立ててピラミッド君の頭だった物体が地面へと落ちる。そしてピラミッド君だった物体が無数のサビとなって床に崩れ落ちた。
崩れ落ちる瞬間、素早くその場から逃げたユーヘイは、ゆっくり息を吐き出して微笑む。
「前回は全部タテさんに持っていかれたからな。今回はきっちり俺が決めないと」
拳銃から空のマガジンを引き抜き、左手に持っていたマガジンを装填、スライドストップを操作してスライドを元に戻し、ハンマーを親指で押さえながらトリガーを引いて下ろす。安全装置を作動させて、くるくると回して格好良くガンベルトへ戻し、アシストしてくれたヒロシへ親指を立てる。
「ナイスアシスト!」
ユーヘイの言葉にヒロシは指鉄砲を作って、ユーヘイの心臓を撃ち抜く仕草をする。ユーヘイは弾丸を食らったフリをしてニヤリと笑い、それを見たヒロシが白い歯を見せて笑顔を作った。
「「エッモ!」」
ほぼ一瞬の攻防、神業のような身のこなし、やること成すこと何をしているか全く理解不能、気がつけば全てが終わっていた。そんなポルポル状態だったらいちとユウナであったが、イケオジ二人の最後のやり取りだけは分かったので、全く同時に同じ事を叫んでいた。
格好よっ! と大満足ではあったが、何をやっているかは全く見えてなかったし分からなかったらいちは、そっち分野でサラス・パテ随一の腕を持つユウナに聞く。
「ユウナちゃんは分かった? 何をしてるか」
「……人間ってあんな風に動けるんだねぇ」
「つまり分からなかった、と」
「Exactly(その通り)」
「格好良く格好悪い事を自慢気に言わない」
「だって分からなかったんだもん!」
「うん、凄かったねぇ」
ユーヘイを後部座席に乗せ、こちらへゆっくり戻ってくる二人を見ながら、らいちはしみじみと呟く。
「本当、フリーアクションのシューターは化け物が多いから困る」
「ねー」
心の底からのユウナのセリフに、らいちも同意するように返事を返す。
VRゲームには二つのアクションタイプがある。
一つはゲームのプログラムを使用し、そのデータ通りに体を動かすリモートアクション。この場合はプレイヤーの動きはゲームプログラムに縛られるので、どのプレイヤーも決まった動きしかする事が出来ない。だが、ゲームの方向性がリモートアクション有りきの調整なので、むしろこっちの方が動ける、というプレイヤーが多い。
もう一つはフリーアクション。つまりリアルと同じ動きしか出来ない状態。リアルと地続きな状態だからこちらの方が動けるだろう、そう思われるかもしれないが、こっちの方が動けないというプレイヤーは多い。何しろ動きがプログラムされていないから、プレイヤー自身の経験や能力、センスがモノを言う。そしてこちらをメインに使ってるプレイヤーには化け物が多い。ちなみに黄物はフリーアクションタイプのゲームである。
それと初期DEKAプレイヤーを苦しめたアシスト機能とは別物である。アシスト機能はフリーアクションにステータス分を加味して、そのステータス分を加算させるような機能だったので、プレイヤーの多くを混乱させたのだ。
「どっちにしても凄い人達とコラボしてるよね、私達」
「今更?」
「今更だけど実感した。さっきまでイケオジにお姫様だっこされて悲鳴あげてるだけだったから、こうやって客観的に見ると、ね」
「……何をやってたの? らいちっち」
何故にお姫様だっこ? そういう視線を向けられて居心地の悪さを感じていると、周囲の景色にノイズが走り出す。
「お、やっぱりピラミッド野郎がトリガーだったか」
「次はどこへ飛ばされるのやら」
「ま、何とかなるっしょ」
「それもそうね」
らいちとユウナのところへ合流をしたユーヘイが、狙い通りと胸を張り、外していたサングラスをかけ直す。そんなユーヘイに呆れた口調でツッコミを入れたヒロシだったが、あっけらかんとユーヘイに言われ、ふふっと力の抜けた笑顔を見せながら頷く。
「「エッモ!」」
何をやっても一定のムードが漂う二人に、らいちとユウナはまた同じ事を言うのであった。そして周囲の景色が溶けていき、新しい場所へと移動していく――
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