第123話 我々は一体、何を見せられているんだろうか……
YAKUZA達の作戦は実にシンプルだった。
ジン・アオヤマがネイガーのサポート部隊を引っ張り出すのは予定通り、なのでYAKUZAプレイヤーは一斉にネイトが拠点としている場所に急襲を仕掛け、ネイトのサポート部隊を引っ張り出す事にしたのだ。
無敵状態の化け物ネイガーやネイトが出現しないだろう前哨戦とあって、各ギルドの若い衆、つまりは新人初心者達が導入された訳だが……
「タマァとったらぁっ!」
「俺らを舐めてんじゃねぇぞぉ! ファッ○ン金髪野郎共がぁっ!」
「ひひひひひひひっ! 逃げるんじゃねぇ! ほら! 命を置いてけぇっ!」
「ブルってんじゃねぇっ! ビビッて逃げるくらいなら出てくんじゃねぇっ!」
「首置いてけよなぁっ! 首置いてけよなぁっ!」
完全に染まっていた。
「どんな教育したんだよ?」
その様子を近くのビルの屋上から見ていた
「普段は普通なんだけどね」
「集団心理って怖いよな」
「ロールプレイロールプレイ、アイアムYAKUZAってなっ!」
角松は『あるぅえぇ?!』という表情を浮かべ、川中は大田 ユーヘイがプリントされたユーヘイモデルのミントシガーの箱から一本取り出しながらひきつった笑みを浮かべ、内竹は完全に投げ槍に適当な事を叫んで誤魔化していた。
「頼もしいじゃないの。威勢の良い若い衆が多いのは歓迎だろ?」
ケタケタ笑いながら愛用のスナイパーライフル持ち替えながら、ゴルフの十三番が三人の大親分を指差す。
「大将達の悪癖みたいなモンが下の若い衆に感染したんじゃねぇの?」
ゲラゲラ腹を抱えて笑うゴルフに言われ、角松はクワッと強烈な眼光を彼に向けながら吠えた。
「うっせぇなぁっ! こちとら新人教育なんざしてねぇよ! 皆、楽しくゲームを遊び尽くそうぜってノリだよっ! うちのギルドはっ!」
がるるるぅっと歯を剥き出しにして怒る角松の肩をポンポンと叩きながら、川中がやれやれと首を横に振る。
「雰囲気は出してるが、別にVシネ系っぽい事をしてる訳じゃねぇんだがなぁ……マジで皆、仲良いんだぜ? ウチ」
なぁ? と内竹に話を振れば、彼は苦笑を浮かべながら肩を竦めて頷く。
「ごっこ遊び程度のロールプレイはするけどなぁ、別にそれを強要してる訳じゃねぇしなぁ……集団ヒステリーみたいなもんじゃねぇの、あれ。もちろん、うちのギルドも仲良しギルドだぞ?」
絶対嘘だ! 絶対やらせてるって! そう言って無責任に囃し立てるゴルフの後頭部に、なつめがガツンと拳銃のグリップで殴り付けた。
「……なつめきゅん、痛い」
「笑いすぎだ。それにそういう扱き下ろす感じのイジリは好かん」
「口で言おうよ」
「お前が言葉だけで止まるかよ」
「ひどない?」
「日頃の行いが悪すぎる」
いててててと後頭部をさすりながら親分達を見れば、なつめの言葉に頷いており、ゴルフはバツの悪そうな顔をして、誤魔化すように戦いの様子を伺う。
「おっと、もう一方の部隊を連れてきたぞ」
ゴルフの言葉になつめ達が彼の見ている先に視線を向ける。
「おーおー、張り切ってまぁ」
「イベントなんざ、楽しんだモン勝ちだしな」
「あっちの部隊も新人を使ったんだな。まぁ、レベル的な要素を考えれば、完全にパワーレベリングに近いし」
「数人の幹部が指揮をすりゃぁ、ある程度のバフが付与されるってのは、YAKUZAプレイの強みだよな」
親分達の言葉を聞きながら、そこがギルドに所属する最大の旨味だよなぁ、となつめが羨ましがる。
YAKUZAのギルド、いわゆる組だの会だの団だのと呼ばれる組織には、所属するだけで大きなメリットとなる要素が存在する。それはギルドの役職持ち、つまりYAKUZA組織の幹部とされているプレイヤーが、所属しているギルドメンバーに指示を出したり、命令を出したりする場合に役職に応じたバフが付与されるのだ。
一番大きな付与を与えられるのは、もちろんギルドマスター大親分である。だが今回のこの作戦には彼らはまだ後方待機が命じられていた。当たり前だが前哨戦から最大戦力を前線に出して、討ち取られちゃいましたテヘ♪ なんて事になったら洒落にならない。
では新人を引率しているのは誰か? それは各ギルドのサブギルドマスター、大親分の右腕と呼ばれる連中が出張っている。これは新人初心者プレイヤーでも、バフだけで中堅レベルのステータスが付与される事を意味し、その為に少々イッちゃってる言動をしているのだが、その事に大親分達は気づいていない。
「しっかし、良く事前にネイトのサポート部隊が着用しているスーツのメーカーとか調べられたよな」
角松がジンが引っ張り出し、そこから別動隊によってここまで引っ張って来たプレイヤーの服装を見ながら呟く。
「それを言ったらネイガーとこの連中のスーツメーカーを調べたのもそうだろ?」
川中がコリコリミントシガーをかじりながら、自分達の仲間の服装を見て呆れたように呟く。
引っ張って来た連中も、今まさにネイトの拠点を襲っている連中も、それぞれお揃いのスーツを着用している。
「そこはほら、たまっちだからね」
苦笑を浮かべて肩を竦めるゴルフに、四人は別のビルでハイテンションに跳び跳ねている、つむぎ たまきの姿を眺めて溜め息を吐き出す。
今回の作戦は本当にシンプルだ。ジンが引っ張り出したネイガーのサポート部隊を、ネイトのサポート部隊と全く同じスーツを着たYAKUZAプレイヤーが引っ張る。ネイトの拠点を、ネイガーのサポート部隊と全く同じスーツを着たYAKUZAプレイヤーが急襲し、そこへネイガーのサポート部隊を引っ張って来たプレイヤーと合流して部隊と部隊をぶつけ合う、そういう流れだ。
この作戦を立案した当初は、全員バラバラの服装でやる予定だったのだが、そこに待ったを掛けたのがたまきであった。
『どーせやるなら派手に、そして確実に。その方が撮り高もあって配信的にも美味しいからね』
そう言って両部隊で制服のような扱いを受けているスーツメーカーを割り出し、大ギルド達の
「良し良し! うまくぶつかった!」
「良いぞ! 良いぞ! プレイヤーは静かにうまい具合に距離を取れてる! うまく行ってる!」
「ヒューッ! ここ最近の救援要請のお陰で練度も上がってるからなぁ! サブマス連中も良い感じに動いてるぜ!」
作戦通りにネイガーとネイトのサポート部隊がぶつかり合い、罵り合いながらの潰し合いが始まる。
「ここまでは予定通り。やっぱり部隊が全滅とかしないと、あの化け物のバリアーは消えないのかね?」
スナイパーライフルのセーフティーを外し、スコープの調子を確認し始めたゴルフが呟くと、なつめもガンケースから取り出した巨大な拳銃を手に持ち、マガジンを突っ込みながら溜め息を吐き出す。
「あの筋肉とまた戦うのか……イヤだなぁ」
無敵仕様を全く知らずに突っ込み、真っ先に殺されたなつめである、むけつき暑苦しい筋肉ダルマの大男に殴り殺されたのは余程堪えたらしく、実にうんざりした口調なのが哀愁を誘う。
「かと言ってイベントボスだからなぁ、倒さない事にゃクエストクリアーとはならんだろうなぁ」
角松が苦笑を浮かべて、腰に差した長ドスの柄をコンコンと叩く。
「ま、前回は抜け駆け上等で行った訳だし、お前が悪い」
川中がシルバーのオートマチックを懐から抜き、マガジンに弾が入っているか確認しながら苦笑を浮かべる。
「今回は頭数がダンチだ、お前一人で対処させようとか思わんから、少しは他の奴らに活躍の場を明け渡せ」
内竹が小機関銃のベルトを肩に掛け、緩みがないか確認をしながら肩を竦めた。
「さて、どう動く? フィクサーの後ろ楯」
壮絶な潰し合いをするサポート部隊二つが、泥沼の戦いを繰り広げる様子を眺めていると、遠くの方から重低音のエンジン音が聞こえてきた。
「何だ? てか
「スキルに運転関係無いよな? YAKUZAって」
「あるのはノービスとDEKAだけのはずだが……」
何事と音がする方向を見れば、ハーレーなダビットソンにまたがる金髪サングラスな筋肉の塊が……
「あいるびー……」
「なつめきゅん! それ以上いけない!」
呆然とした様子でなつめが呟こうとして、ゴルフが慌てて止めた。しかし、なつめが言わんとしていた事を理解してしまった大親分達は、今度はそっちかい、と呆れ顔だ。
バイクが走っていく様子を伺っていると、ネイトの拠点から別の筋肉の塊が現れ、ガムか何かを噛んでいるのか、口の回りに生やした髭を大きく揺らしながらクチャクチャと口を動かしている。そしてその手には大振りのサバイバルナイフが握られており、手の中で弄びながら金髪筋肉を睨み付けていた。
「うん、確実にコマ――」
「だからなつめきゅん! それ以上はいけない!」
金髪筋肉と金髪っぽい茶髪の筋肉が向かい合い、無言で睨み合っている様子は完全に某映画のワンシーンのようだ。
『やってくれたなネイト』
「「「「なぬっ!?」」」」
唐突に声が聞こえ、それが遠くに見えるネイガーの口の動きとリンクしているのに気づき、五人は呆れた表情を浮かべた。そして、そのあまりに聞きなれたイケボに、隠す気ゼロですやん、と突っ込みをいれる。ネイガーの声が完全に専属声優さんですありがとうございました状態であった。
『それはこっちの台詞だ。やってくれたな大佐』
『お前にそう呼ばれるのは妙な気分になるな、大尉』
「「「「な、何か始まったんですけどっ?!」」」」
どうやらこの声は、この場にいる全YAKUZAプレイヤーに聞こえているらしく、別のビルで配信をしているたまきが、ゲタゲタと下品なレベルの笑い声を出しながら喜んでいるのが見えた。
『今日こそトリックが使えないように、息の根を止めてやる』
『へへへ、てめぇなんざ怖くねぇんだよ! かかって来いよぉっ!』
ちょいちょい某映画の台詞がオマージュされた感じの台詞を言い合い、ネイガーとネイトの戦いが始まった。
「我々は一体、何をみせられているんだろうか……」
角松が呟いた言葉に、その他のメンバーが『知らんわっ!』と突っ込んだとか突っ込まなかったとか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます