第194話 殴っていいか?
『はぁーい♪ 貴方の心の恋人、パルティ・司波でぇすぅ♪』
「「「……」」」
ゲームのプライバシー空間を起動させて、ダディの助言通りに、社長パルティ・司波に連絡を取ったのだが……
アイドルっぽいポーズで、無駄にクオリテイの高い『きゃぴるん』とした表情を浮かべ、イラッとするのだが妙にキマっているのがムカつく感じにパルティ・司波が登場した。
「とりあえず、旦那に報告な」
言葉を失うノンさんとダディだったが、かなり予想通りな感じの登場だったので、動揺も無く冷静冷徹にユーヘイが抉る言葉を投げ掛ける。
『それマジで勘弁してください! 最近、旦那様が段々私の扱い雑になってきてるんで、これ以上は私のメンタルが保てない!』
それはそれは見事な土下座だったという。
ピョン! と跳び跳ねるようにして、綺麗に土下座した状態で着地し、ヘコヘコと頭を下げるパルティに、ユーヘイは『けっ!』と鼻で笑いながら叫ぶ。
「知るかボケ! この地雷女かストーカー嫁がよぉ!」
『否定出来ない!?』
そんな二人の寸劇を、ノンさんとダディは白けた目で見ていた。
「これが本当に株式会社サラス・パテの敏腕社長なの?」
「残念ながら」
「ええぇぇぇぇ……」
サラス・パテの社長と言えば、Vラブを世間一般に広めた敏腕経営者として、経済関係の雑誌やら新聞で常に露出してるような現代の偉人である。
彼女が暴虐の鮮血女王、戦場で躍り狂う鬼女、ブラッディ・ブラッド・クイーンなんつうそれはそれは立派にサイコパスな通り名を持っていたとしても、ゲームとリアルではまるで別人、何て事は当たり前にある訳だが……目の前の女性の雰囲気を見れば、ゲームとの差がほぼ無いように見受けられるのが何ともまぁ……
「話が進まないから、ジャレつくのは後にしてくれる?」
ノンさんが呆れ果てながら、白けた口調で言うと、楚々とした感じに立ち上がり、パンパンとズボンのホコリを払いながら、パルティがニコリと微笑む。
『はいはい。ごめんなさいね、ええっと?』
「黄物ではノンさんか中野 GALよ。アンタ的には閃光の剣姫とか、フォースブレイドマスターだとか、宇宙十剣匠とか言えば通じる?」
『あらまぁ、お久し振り。貴女は二度と戦いたくないって思わされたわ』
「良く言うわよ。こっちは一方的にボコされたっていうのに」
『たまたまよ、たまたま。最初の一手がハマり過ぎただけで、二手目があったら逆に私の方がボコボコにされてたわ、あの戦いは』
「どーだか」
かつての仇敵(という程敵愾心バリバリではないが何となくムカつく相手)の言葉に、どこかわざとらしい不機嫌さを見せながら、ノンさんがパルティを睨み付ける。
そんなノンさんの睨みを笑顔で受け流しながら、パルティはダディに視線を向けた。
『貴女がそこにいて、ユーヘイじゃない男性が横に居るって事は、「悟り」妖怪かしら?』
「あまり好きな異名じゃないんだそれ。自分の事はダディか吉田 ケージで頼むよ」
『あらそうだったの? うちの旦那様が貴方にボコボコにされたって、いつかリベンジしたいって言ってたわ』
「……大田君?」
「ああっと、うん、デストロイ」
「……なんちゅう迷惑な夫婦なんだよそりゃぁっ!?」
パルティの旦那って誰? とユーヘイに確認し、デストロイという異名を聞いたダディは、うわぁっ! と頭を抱える。
SIOで『デストロイ』の名を冠するプレイヤーと言えば、アシヴ。ひたすら犯罪系のプレイヤーやらNPCやらを狩り続けていた化け物。そしてそのプレイは必ず大破壊がつきまとうお人である。嫁が鬼女で旦那が破壊魔、ある意味お似合いだが、やってはいけないカップリングであろう。
たまたま犯罪系プレイヤークラウンとの抗争に巻き込まれて、必死で抵抗していた時に乱入されて、滅茶苦茶にされたのにキレたダディがボコった事があり、どうやら相手はそれを覚えていて、『次、再会したら体育館裏な』みたいな事を嫁から言われてダディは聞きたくなかった、と頭を抱え続ける。
「はいはい、頭を抱えるのは後にして。それよりコラボってどう言う事よ? しかも拒否権無しみたいな感じじゃないのさ」
ぬおぉ……と悶絶する旦那様の背中をポンポンと叩きながら、ノンさんが切り出すとパルティが上品に笑う。
『拒否権無しって訳じゃないんだけどね……こほん、弊社としては現在LiveCueでもっとも影響力を持つ「第一分署」の皆様方に、是非に弊社タレントとコラボという形で共演してもらえればありがたい、という事ですわ』
急に営業モードに入ったパルティが、それはそれはお手本のような対応をするのだが、ユーヘイが気持ち悪そうに二の腕をさすり、物凄く嫌そうな表情を浮かべて吐き捨てる。
「やめろお前、マジで気持ち悪い」
『酷くないっ!?』
「酷くねぇよ! 何なら最初からそれで来いや!」
『うぐぅっ』
「だからやめろお前。汚すな汚すな」
『しくしく』
どこまでも漫才のような事を繰り広げる戦友二人に、ノンさんがパンパンと手を叩く。
「はいはい、だから話を進めなさいっての。それで? 拒否権はあるみたいだけど」
『くすん、そりゃそうでしょ、こっちはお願いしている側なんだし』
「お前……返事は『はい』か『イエス』かみたいな事書いてたじゃねぇか」
『あれはノリよノリ。もちろん、「イヤです」って断ってもらっても構わないわ。でも出来れば、お互いの為にもコラボして欲しいとは思ってるわ』
「ん? お互いの為に?」
「どー言う事よ。説明しなさい説明を」
パルティが少し神妙な表情を浮かべて、形の良い顎先に指を当てる。
『妙な動きというか、流れがあるのは知ってる?』
「「ん?」」
「……最近のSNSとかの流れ?」
『さすがダディさん、どこぞのゲーム馬鹿と違って、ちゃんと世間の事に興味を持ってるわね』
フフンと少し勝ち誇ったような表情で、イラッとする口調でユーヘイを見下すように言う。
ユーヘイとノンさん(ゲーム馬鹿は否定出来なかった)は、少しコメカミをビキビキさせながら、ダディの方に顔を向ける。
「「ダディ(ダーリン)?」」
「ええっと、ぼんやりとした感じでいつもの事って言えばいつもの事なんだけども……妙に黄物とLiveCueを目の敵にしているSNSの発信が多いんだよ、最近」
『正確には今回のイベント、更に言えば「第一分署」を中心にした公式編集動画が全世界を席巻してたタイミングね。しかもLiveCueで活動している全てのVの所に、大量のお気持ちメールが来たわよ。企業の枠組みを越えて対応しましょう、って感じに動いたんだけども、綺麗に痕跡が消えててね』
「「「……」」」
本当、どうしてくれようかしら……そう呟いて暗い表情で微笑むパルティに、思わずユーヘイ達は喧嘩をふっかけたであろう相手の冥福をお祈りした。
そんな暗い表情を浮かべてブツブツ呟き続けているパルティに、ユーヘイが切り出す。
「それで、コラボがどう影響するんだ?」
『さぁ?』
あまりにあんまりな返事に、ユーヘイが呆れた表情を向ける。
「さぁってお前」
『だって、どう影響するかなんて貴方次第よ? ユーヘイ君』
「「……ああぁ」」
「ああ、って何だよああって」
パルティの説明になるほどと頷く夫妻。ユーヘイはそんな反応にムカついた表情を向ける。
『冗談はさておき、メッセージにはなるでしょ? あんたらのやってる事は無駄よって』
「なるほど。まぁ、せっかく盛り上がってきた黄物を馬鹿にされるのは、最初期からプレイしている自分達もムカつくからコラボはしても良いかな。ただね、不安要素があるでしょって二人が」
『不安要素?』
「「らいちちゃん」」
『……あ』
「「あ、じゃねぇよ! あ、じゃ!」」
『やっべ、忘れてた!』
「忘れてたじゃねぇよ! てめぇトコのタレントだろうが!」
「しかもサラス・パテの稼ぎ頭でしょうがっ! 大丈夫なの社長さんさぁ」
あまりにあんまりなパルティの様子に、ユーヘイとノンさんが突っ込みを入れる。
「はいはい、その相談をしよう?」
再び話が脱線しそうになるのをダディが止めて、コラボをする前提での相談を開始するのであった。
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