第113話 さぁ! お祭りだ! ④
ゲーム内掲示板スレッド
【正直……】初心者のつどい Vol.5【やっぱ、ツレェわ……】
・正直な一般市民
このスレッドはこのゲームを始めたばかりの初心者応援スレッドです。
分からない事の方が多いですが、分かっている部分は答えられるので、遠慮せず何でも質問して下さい。
皆で黄物世界を盛り上げて行きましょう!
・正直なDEKA
やっぱ、ソロってキツいんですか? さっき団長とかっていうプレイヤーとユーヘイニキの配信見たんですけど……
・正直なDEKA
基本的にDEKAってパーティーかレイド推奨なクエストが多いんだよ。そこが黄物運営クオリティなんだがな、クエスト詳細にそんなん書いとらんのよ迷惑な話でな。難易度やさしいで二人以上、普通で五人以上、難しいで十五人以上っていうのが目安。まぁ、第一分署が華々しく活躍しすぎて、物凄く簡単にクエストをクリアーしてるように見える罠のせいで誤解するDEKAが量産されておりまする
・正直なDEKA
マジですか……
・正直なDEKA
マジです。それとまだまだポイントが充実してないからレベルは上げてないと思うが、真っ先にスキルを充実させるんだ! ここマジで重要だからな!
・正直なDEKA
あ、それはちゃんとGMちゃんに確認して伸ばしてます
・正直なDEKA
あ、そこらへんは第一分署関連でしっかり予習してるか、なら安全だな
・正直なYAKUZA
話題に出たが、あの団長ってワイルドワイルドウェストの元ギルマスだったんだな。転生(※1)したのか
・正直な一般人
ユーヘイニキじゃないけどさ、今時のMMORPG系なんて相身互いじゃん? 誰かのせいでとか、誰かのお陰で、っていう感じに色々と派生していく訳だしさ、あっこまで気にするもんか?
・正直な探偵
ああ、知らないんだ。ワイルドワイルドウェストを攻撃したバカンナーがいたんだよ
・正直な一般人
げっ!? どこのバカンナーだよ
・正直な探偵
キリツギ
・正直な一般人
ド外道じゃねぇか!
・正直な探偵
確かに揉めたらしいし、ギルドの方針としてブレブレな対応したけど、結局、キリツギが有る事無い事、いや無い事無い事言いふらしたんだ
・正直な一般人
あちゃぁー……
・正直なDEKA
あ、あのー
・正直なYAKUZA
どうした?
・正直なDEKA
あのーバカンナーとは?
・正直なYAKUZA
ああ、暴露系Vランナーっているだろ? その中でも一番質の悪い奴らを、バカなランナーを縮めてバカンナーと呼ぶんだ。まぁネットスラングのようなもんだ
・正直なDEKA
なるほど……でも暴露系Vランナーってちゃんと取材してるって言ってるような?
・正直な探偵
まともな奴はね。いや、まともな暴露系ってほぼいないんだけど……
・正直なDEKA
え!
・正直なYAKUZA
まともなのがいねぇから、バカンナーっていう蔑称が生まれたんだけどな。大体、あいつらって余計な火種を自分達で作り上げて、そこに自分からガソリンを注いで炎上させるっていう手法しかしねぇからよ。だからワイルドワイルドウェストの連中に、ほとんどのプレイヤーは同情的なんだよ
・正直なDEKA
実は、ワイルドワイルドウェストに入りたかったんです……復活しそうで嬉しいです
・正直なDEKA
お! そうなんだ! ええやんええやん! 大騒ぎを引き起こしたけど、一時はDEKAプレイヤーの中で最大規模のギルドだったし、ノウハウもあるだろうし、色々教えてもらいなよ
・正直なDEKA
はい! ありがとうございます!
・正直なYAKUZA
あ、あの! 教えてもらいたい事が
・正直なYAKUZA
お、いらっしゃい後輩ちゃん。どんな事を聞きたいんだ?
・正直なYAKUZA
あの、このクエストなんですけど――
ーーーーーーーーーーーーーーーー
イエローウッド区の通学路。小学生達が歩いている横断歩道にトージは立っていた。
「慌てずにねー、足元に注意して歩いてねー」
「「「「はーい!」」」」
婦警系のロールプレイをしているDEKAギルド、『タイホするぞ♪』からの救援要請を受け、トージは交通誘導を手伝っていた。
「まさか第一分署の町村 トージさんが手伝って下さるなんて」
「感激です!」
「あは、あははははは……」
婦警をロールプレイしているだけあり、きっちりと婦警さんの制服を着たプレイヤー、
「こっちとしても、DEKAのクエストにこんな地域密着系のクエストがあったなんて、知らなかったから楽しいですよ」
「そうですよねぇ、第一分署さんはバリバリ最前線で凶悪犯罪を相手にしてる印象ですもんね」
キラキラキラキラと輝く瞳で、まるでアイドルでも見ているかのような視線を向けられ、トージは乾いた笑いを浮かべる。
そもそもの話、こっちとしてはありふれたDEKAの日常的なクエストを受けているだけで、凶悪犯罪を専門にしてる訳じゃない。気がつけば話が大きくなって、気がつけば難易度が馬鹿馬鹿しい上昇率を記録しているだけであって、トッププレイヤーでもなければ最前線で攻略プレイをしている訳でもない。その点では、トージも認識はユーヘイ寄りである。
「ほらほら貴女達! しゃべってないで
「「は、はい!」」
「あ、ごめんなさい」
ギルドマスターをしている
「全く、もうすぐ登校時間も終わるんだから、終わってから話しなさい!」
「「はい!」」
「……あれー? 終わったら解散の流れじゃないのー?」
トージがあれれれー? と首を傾げていると、唐突に誰かに肩を叩かれた。
「はい?」
返事をして振り返ると、そこには一人の男性プレイヤーが立っていた。
「……」
胡散臭そうに微笑む顔に、このゲームでは珍しくリアルの流行を取り入れた服装、髪型も今時の若者風のこざっぱりした茶髪と、黄物の世界ではかなり浮いたアバターをしている。
「君、――でしょ?」
「……」
そのプレイヤーは未成年保護システムが発動する何かを口に出し、トージは少し青い顔をしながら男性から距離を取る。
「ああ、やっぱり。俺の事は分かるだろ? ごめんごめん、あの頃はちょっとヤンチャでさ、ずっと謝りたかったんだよ」
ヘラヘラとふざけた表情を浮かべ、全く反省などしていない、うすっぺらな謝罪をしながら距離を取るトージに近づく。
「随分と凄いじゃないか。今じゃLiveCueランキングで十位圏内に必ずランクインするなんて羨ましい」
男とトージのやり取りに気づいたアスカが、ツカツカと二人に近づき、トージの怯えた表情を見た彼女は、さっとトージを庇うように男の前に立つ。
「どちら様ですか?」
アスカが目付きを鋭くして聞くと、男は小馬鹿にしたようにフンと鼻を鳴らす。
「彼とは友人だよ。邪魔をしないでくれないか? それとも貴女が私のインタビューに応じてくれるのか?」
「インタビュー? 何を言ってるの?」
「俺の名前はキリツギ。ゲーム情報発信チャンネルを運営している配信者だ」
ニヤリと笑ってそんな事を言う男キリツギに、アスカは氷点下の視線を向ける。
キリツギ。最近LiveCueで悪名を高めている暴露系Vランナーだ。バカンナーというネットスラングを拡散した人物でもある。
「黄物ではアンタみたいなの、存在そのモノを禁止してるわよ」
「でも俺はこうしてログイン出来ている。インタビューも出来ている。俺はただ正当な事をして報酬をちゃんと受け取っている。何も問題はない」
「そう思っているのはアンタだけでしょ?」
「言ってろ。俺はそっちの、第一分署に所属している――君に取材を申し込んでいる」
「お前ぇっ!?」
リップシンク、唇の動きはするのに音声が不自然に途切れる、それを行ったキリツギにアスカが信じられないという表情を浮かべながら吠えた。
未成年保護システム。これは時々、未成年が友達と遊んでいる時に、癖で自然とリアルの名前を言ってしまう事を防ぐシステムだ。もしくは、特殊な事情で保護されている未成年者のプライバシーを保護する為にも使用される。つまり、キリツギはトージのリアルの名前を何度も口に出して呼んでいるという事だ。
「同じ学校で学んだクラスメイトじゃないか、あの頃の事でも話しながら、君の第一分署の情報を提供してくれないか?」
アスカの存在をさっくり無視し、キリツギがそんな事をのたまう。
トージは自然と荒くなる呼吸に苦しみながら、どうしてこいつがここにいるのか、どうしてこいつは訳の分からない事をいっているのか、そんな混乱した頭で必死に色々考えるが、全くまとまらず、ただただ青い顔で荒くなる呼吸を繰り返す。
「なぁなぁ、あの頃の事は謝るさ、許してくれよ。悪かった、あれは一方的に俺が悪かった。だから情報をくれよ、君と俺との仲じゃないか」
全く笑ってない目で、あの頃と全く変わってない態度で、馬鹿にして見下して、そんな気配を隠しもしない昔のままの元クラスメイトの言葉に、トージは吐きそうになる。
もう嫌だ、逃げ出したい、そう考えた時、耳に付けた無線機から声が聞こえてきた。
『おうこらトージ。なぁーに舐められてんだ? お前は俺の後輩だろ? なぁーに青い顔してやがる。んなクズに口で負けてんじゃねぇよ。言い返せ言い返せ』
いつもの調子でユーヘイから通信が届き、トージの呼吸から荒さが引いていく。
『OK! OK! 今、運営に通報した。あと天照正教のトージの保護責任の人にも連絡しといた。もう大丈夫。こっちはちょっとインスタントダンジョンにいるから行けないけど、タテさんとうちの嫁と浅島さんが行ったから安心して』
ダディの通信に呼吸が完全に正常に戻る。
『言ったれ言ったれ! このクソ野郎って! 馬鹿な事してないで、とっとと家帰ってママに泣きついて寝ろって言ったれ!』
ノンさんの怒声に無表情だったトージの顔に薄い笑顔が浮かぶ。その様子を見たキリツギが、少しムカついたような表情を浮かべた。
「何笑ってんだよ?」
キリツギがイラついた口調で言うと、トージは大きく深呼吸をすると、ガラリと雰囲気を一変させた。
「許せ? 許す訳ねぇだろ? お前は馬鹿か? それとも底抜けの阿呆か?」
「なっ?!」
突然豹変したトージに、キリツギが驚きの表情を浮かべる。しかし、その様子を見ていた仲間達は笑った。トージのその口調、その姿、その仕草は完全にユーヘイそのモノだったから。
「馬鹿だ馬鹿だとは思ってたが、本当に馬鹿だな。許す許さないの話しじゃねぇんだよ。お前は一生消える事のない
「……」
トージの言葉にキリツギが暗い瞳を向ける。しかしトージは一切怯まず、その様子に『はん!』と鼻で笑った。
「ハイエナがうろちょろと目障りなんだよ。今なら見逃してやるからとっとと失せな」
完全にユーヘイソウルをインストールした状態で、トージがしっしとハエを払うような仕草で手を振る。
「良いのか? ここだったらシステムに守られているがLiveCueではどうかな?」
お前の本名から家族構成、お前のプライベート情報を知っているんだぞ、そう言外に含ませるキリツギに、トージはつまらなそうに鼻を鳴らした。
「お前、本当に馬鹿だな」
「てめぇっ!?」
キレ気味に叫びながらトージに近寄ろうとすると、いきなり自分の周辺に無表情の男性キャラクターが壁になるように現れた。
「エナーナルリンクエンターテイメント社法務部の人間です。少しお時間いただきますね?」
「え?」
無表情男性の一人が、冷たい瞳をキリツギに向け、そんな言葉を投げ掛けた。
「君にはこのゲームの利用規約に反した行いを繰り返していた事実と、未成年者なのに保護者の同意を得ていない、保護者同意を偽造した疑いがある。それと他プレイヤーに対する粘着行為もこれが初めてではないね?」
「え? え? え?」
「詳しく事情を聞かせてもらうよ」
淡々と事実を並べ、キリツギが困惑している間に、彼は法務部を名乗るキャラクターと一緒に消えていった。
「……」
『トージ、お前、後で覚えておけよ? この野郎』
「は、はは、ははははは……先輩、許して下さいよ……」
キリツギが消えた事で力が抜けたトージは座り込み、そんなトージにどこか面白がっている口調でユーヘイが脅し文句を言い、それがどこか嬉しくてトージは力無く笑いながら、何とか軽口を返した。
「トージ君、大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込んでくるアスカに、トージは弱々しく微笑みながら、震える指先で親指を立てた。
「もちろんです、僕、第一分署の一員ですから」
トージの強がりにアスカは眩しそうな表情を浮かべ、無線からは仲間達のからかう声が聞こえてくる。
ああ、やっぱり僕の居場所はここだなぁ、そう改めて実感しながら、トージは今回の事は絶対に父親に報告しようと決めるのだった。
※1 元のアバターを一旦消して、新しくアバターを製作する事を意味する。ちなみに元のゲームを引退して別のゲームデビューする事を異世界転生とも言う。
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