第230話 元祖と真祖の違い。あるいは五十歩百歩……。
VRゲームの今の流れを作り上げた伝説のゲーム、スペースインフィニティオーケストラにて直結厨(VR内でのR18行為の強要)をしていた変態野郎である。
当時、SIOでは『銀河の歌姫』と呼ばれていたプレイヤーがおり――このプレイヤーが現在のVラブの元祖と呼ばれているのだが――、そのプレイヤーにしつこく粘着して変態的言動を声高に叫んでいたのが斑昌だった。
全力アウトな存在ではあったが、そこまでだったら単なる変態、迷惑プレイヤーで終われた。だが、粘着行為はエスカレートを続け、結局被害を受けていたプレイヤーが運営に対応を願い出て、斑昌は永久アカウントBANを喰らい一発アウト。そこからが問題となる。
絶対に悪くない(斑昌視点では)自分が、普通に楽しんでいた(イケメンに全力で振り切ったアバターでのナンパ行為)ゲームから締め出されるなんて、絶対にあいつ(銀河の歌姫)が悪いに決まっているじゃないか! という自己弁護を行い、止せば良いのに復讐計画を練り始め、そして生み出されたのが『宇宙バカ』というウィルスであった。
まだまだVR関係の法整備が未熟であった頃に猛威を振るい、多くの犠牲を生み出し、多くの悲しみを生み出した。そして、あまりの事態に国会が動き、驚くべき速度でVR法が制定。そこから間を置かずに改定VR法いわゆる新VR法が制定されると、早速とばかりに断罪されたのが斑昌である。
つまり〇〇バカの元祖は間違い無く斑昌 時斗岐だ。
それとは別に真祖と呼ばれる宇宙バカがいる。
宇宙バカであることからも分かる通り、彼の犯罪もSIOで行われていた。その犯罪行為は主に、スタープレイヤー(トッププレイヤー)の個人情報の抜き取り、そのプレイヤーになりすます為の国民IDカード偽造などを行っていた。斑昌などとは比べ物にならないレベルの、ガチ犯罪行為である。
斑昌の荒らし行為にガッチガチなセキュリティを固めていたSIO運営と、システム『オモイカネ』によって一発確保からの逮捕。そのまま勾留所へ直送からの裁判と相成り、もちろん有罪判決を食らった。
驚くべきその賠償金額、〇〇バカ史上最高金額、堂々の六十億円也。そして副賞というかVR犯罪だけではなく、公文書偽造などの罪状も加わり、賠償だけではなく刑務所送りにもなっている。
普通ならば、人生オワタ、で悲観するところである。もしくはあまりの罪の重さに、良くない決断をしてしまいそうな罪状ではなるが、この多常呂という男は色々規格外であった。
刑期が満了すると借金返済の為に、裏の仕事をし始める。いわゆるVR関係の脅迫行為やら、VRゲームプログラムのクラッキングなどの違法行為を仕事にしたのだ。
これがとある業界の人間の目に止まり、その人物からの依頼を受けて様々な犯罪行為を繰り返しているのであった。
その金づる、最上級のお得意様に端末から連絡を入れる多常呂。心底、馬鹿にした表情を浮かべながら、わざとらしい明るい声色で陽気に話しかける。
「……あ、どーもー俺です。見てます? ド派手な火事になったでしょう?」
『茶番の間違いじゃないのか?』
ムッとした、実に陰気臭い相手の声にうんざりしながらも、今のキャラクターを貫き通す。
「はははは、こいつは手厳しい。それなら今よりもずっともっと面白くできますが?」
賠償金額が額なだけに、金はいくらあっても困らない。だからまずはそれなりの炎上を見せて、そこから更に金を引き出すのは多常呂の常套手段である。それが分かっている相手側も、面倒臭そうな溜息を吐き出しながら、もっと陰鬱とした口調で応じる。
『……お前と世間話をする暇は無い。要するに面白くするために追加で出せ、と言いたいのだろう?』
「へっへっへっへっ、KBさんは話が早くて助かるわぁ。どうします?」
別に楽しくもないのに愛想笑いをしながら、ゴマを擦るような感じに問いかけると、相手は舌打ちをしながら重々しく口を開く。
『成功したのを確認してから報酬は出す。だからまずは成功させろ』
相手の言葉に舌打ちが出そうになるのを、唇をギュッと閉じて何とか耐える。
――このクソ野郎、下手に知恵をつけやがって、お山のボス猿風情がよぉ――
心の中で思いっきり罵声を吐き出して、何とか気持ちを切り替えてから、ヘラヘラした笑い声を出す。
「確実に成功をさせるには、それなりの報酬を確約してもらわないと、こちらとしても慈善行為じゃないんで」
なら交渉で報酬をアップさせようそう切り替えた多常呂が、出す金額をケチったら分かっているよなぁ? と半ば脅すような感じに切り出す。
『確実に成功させろ。そうしたら成果に応じて三倍までは出そう』
「っ!? さっすがKBさん、分かってらっしゃるぅ」
『おべっかなんざいらん。とっととやれ』
「お任せあれ」
端末を切り、多常呂は満面な笑みを浮かべてガッツポーズをする。
「やっぱ金づるは金づるだぜ! 報酬三倍かぁっ! でっかいなぁ!」
多常呂はゲラゲラ笑いながらスキップを踏む。
しかし彼は気づいていない。成果に応じて、と言うのは相手の視点で査定されると言う事であり、多常呂の自己評価は全く加味されないと言う事を。依頼主がいつでも多常呂を切れる立場にいる、と言う事を彼は全く気づいていなかった。
「さてさて、んじゃまぁやりますか」
明るい未来、まとまった金がゲット出来るチャンス到来、多常呂は完全に頭の中桃色状態でPCルームへと入っていく。その様子やら通信の内容を、完全に警視庁特殊サイバー対策室、第一捜査課が全部記録している事すら気づかずに……。
「ゾンビ・オブ・ドライバーに新しいMODを突っ込んで。ちょうど良いからプレイヤーの情報も抜くか……リアルでせいぜい炎上してくれよ。スタープレイヤーさん」
再びの外国サーバー経由のルートを使い、エターナルリンクエンターテイメント社へアクセスする。
「ちょろいちょろい……やっぱ、SIOの時は相手が悪かったんだよ絶対」
自分の方が誰よりも上手である、そう思い込んでいる多常呂は、ニヤニヤ笑って汎用プログラムに悪意あるバグを大量に流し込み、それをゲームプログラムに反映させるMODを組み込んで送りつけた。
「よしよし、これでもっと面白くなるぞぉ! こっちはこっちでこいつらの個人情報を抜いてやる!」
多常呂はウッキウキで違法行為を加速させていく。
だが、多常呂は理解していなかった。システム『オモイカネ』が半端なシステムでは無かった事を。エターナルリンクエンターテイメント社上層部の高い能力を。
実は彼が色々やっている場所は、仮想プログラム空間で行われている隔離空間であり、やっている全てが完全なる虚無作業で、彼が自身のVRシステムで観測している事が、実は高度にシミュレートされたダミープログラム上のシミュレーションされたイメージ情報である事を。
多常呂が行っている方法をシステム『オモイカネ』が分析し、その情報を受け取ったエターナルリンクエンターテイメント社上層部が安全な形に変更して黄物へリークしているなどと、彼は理解していなかった。
だから彼は更なる暴走を開始する。脅迫に使えそうな要素、ユーヘイ達の個人情報を抜き取りにかかる。
「ちっ、やっぱ国民ID関係のセキュリティは流石にキッツいなぁ。でも、前はアクセス出来たしやれるっしょ!」
多常呂は謎のポジティブを発揮し、日本国の中枢へと大量のウィルスを投入し、国民IDを管理する新世代スーパーコンピュータ『
これを見ていたサイバー対策室の警視正が、獰猛な笑みを浮かべて『多常呂ぉ〜完全アウト』と呟き、それを聞いた部下が『ケツバットでもやるんですか?』と聞き返したとかしないとか……。
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