第291話 旋風 ①

 ワイルド・ワイルド・ウエストが切り開いてくれた道を進み、リバーサイドにたどり着いたユーヘイとヒロシは、本来とは全く違う街の雰囲気に戸惑う。


「何、これ」

「何だろう、な?」


 完全アウトローな世界、常に危険がつきまとう犯罪者の世界、まともな人間は運送業に携わっている人間NPCのみで、その他はほぼYAKUZAで生活しているのもYAKUZA、とまで言われているリバーサイド。


 本来の姿はゴーストタウンもかくやと思われる程に閑散としている。そもそも本来の役割は集荷物の集積場であり、多くは物流倉庫にコンテナヤード、セントラルから回ってくる貨物車の貨物駅などが中心である。なので人気というのは本当に少なく、肉体労働系の人間が休憩や食事などに利用する飲み屋街や屋台村にでも行かなければ、人間の気配を感じさせない場所なのだ。


 なのだが――


「すんげぇ人がいるな」

「お、おう」


 二人が見ている範囲だけでも六・七人、その他にもアチラコチラに人の気配を感じる。本来のうらびれて寂れて、イリーガルかつヘドロのような悪臭に似た犯罪臭が漂う、ザ・犯罪街という空気感を知っているだけに、ユーヘイとヒロシの動揺は大きい。


「あれ? 『第一分署』さん? え? マジで?!」

「はぁい?」

「うん?」


 あまりの事にバイクを止めて硬直していた二人に、近くをうろついていたプレイヤーが声を掛ける。


「うわっ!? 本物だぁ!」


 マジでユーヘイとヒロシだとは思っていなかったらしく、結構な野太い黄色い声を出しながら、記念に一枚だけ! とペコペコしながら写メを撮られた。


「うわぁ、真面目に黄物やってて良かったぁ」


 ゲームに真面目もクソも無いのだが、あまりに感激され喜ばれてしまい、ユーヘイもヒロシも苦笑しか浮かばない。


「あー、ちょっと聞いても良いかな?」

「あはい! 自分で答えられる事でしたら!」

「いやあの、同じプレイヤー同士だし、もっと気楽に、な?」

「無理です!」

「あー、あはははははは」


 まるで軍隊の教官と新兵のような感じに、ユーヘイは困った表情でヒロシに視線を送る。こういう手合は苦手としているユーヘイからのヘルプに、ヒロシは苦笑を浮かべながら口を開く。


「リバーサイドにプレイヤーが集まってる感じなのかな?」

「そうっす! 運営からの依頼と『親愛なる隣人の友』さんからの要請で、自分達探偵職とイリーガル探偵職のプレイヤーで、リバーサイドに入り込んだ星流会系のYAKUZAの排除をやってます!」

「「……」」


 彼の説明にヒロシはユーヘイと顔を見合わせる。ユーヘイ達はリョータとミーコのクエストに集中していたから、それ以外の状況を把握しておらず、どうしてそんな流れになったのか理解出来ず、視線でどういう事か訴える。


「えっとですね、外の事件のアホな奴らが逃げ込んだ後にですね、そいつらが外部ツールを使ってゲーム内通貨を大量に生み出したんです。んで、その金をばら撒いてチンピラとかヤンキーとかを動員して、何かをやり始めたんですよ。したら、何故か大きなYAKUZA系列の中堅どころの組織も影響を受けまして、どうやらアホな連中の金に群がったようで」

「「わぁーぉ」」


 彼の説明に二人は額を押さえて、棒読みな声を出す。そこまで大事になっているとは思っていなかった。


「星流会の大親分である星光院せいこういん 清志きよしには、水田先生が直々に凸をかまして、アホの金に群がった馬鹿達は全部潰すよ? って許可を取り付けたんです。だから俺らはその馬鹿達を狩ってます」

「「わあーおっ!?」」


 続く彼の説明で、まさかの人物とまさかのプレイヤーとのやり取りを聞き、二人は目を剥いて驚きの声を出す。


「何やってんねん! 水田先生! すっげぇなっ!」

「あの、ふわふわした感じの、ちょっと優柔不断っぽい市川映画版金田◯シリーズ風な優男が、そんな事をするとは」


 二人がひとしきり関心していると、説明をしてくれたプレイヤーがニヤリと笑って敬礼をする。


「みんな怒ってます! お二人が見つけた子供達の境遇にぶっちゃけ全員キレてます! なので星流会の馬鹿達を殺った後は、自分達も人狩り行くつもりであります!」


 彼の言葉に、周囲でこちらをチラチラ見ていたプレイヤー達が、静かに拳を握り込むポーズをし、もちろん自分達もですよ、というアピールをしてくる。


 運営に優良判定をされたギルド及びプレイヤー達は、そのプレイ内容から確かな良識と常識を備えた人間である、と見初められ、その後にシステム『オモイカネ』によりリアルの情報も加味され、全く持って問題なし! と判定された人々ばかりだ。


 そんな『善き大人』達が、情報を求めてリアルサイドのニュースを調べ、そこで知ったクズでゲスな大人の欲望丸出しな反吐が出る行いを、本来ならば守るべき子供へやったと知られたら?


「必ず、ぶっ潰します!」


 こうなるのは当たり前と言える。ましてや多かれ少なかれ、『いじめ』というのは目についたり側で行われたりする訳で、その実態を正確に理解していれば、そして助けられる場所にそういう境遇の子供がいると分かれば、色々と滾るのも当たり前と言える。なにせ『善き大人』なのだから。


「なのでこちらの事はお任せ下さい! 後、龍王会の方は『第二分署』と『第三分署』が直接対応してるので、邪魔をされる可能性は低いと思います!」

「おいおい」

「こいつはまた、失敗出来なくなったな」


 頼れるDEKA仲間の顔が思い浮かび、二人は嬉しそうに呆れるという妙な感じの声を出す。


「んじゃ、こっちはこっちの仕事をきっちりこなしましょうか? タテ様」

「へいへい、きっちりかっちり決めて差し上げましょうか、ユー様」


 なんとも気分が高揚する情報に、二人は笑みを浮かべて、説明をしてくれたプレイヤーと周囲で様子を見ているプレイヤーに敬礼をする。


「こっちはよろしく!」


 ユーヘイが気合を入れた声で言う。


「「「「はいよろこんでぇっ!」」」」


 どこの居酒屋か、そんな返事をもらいながら、ヒロシはバイクのアクセルを回す。


「このまま川上きたのコンテナヤード方面!」

「はいよ!」


 ユーヘイの指示通り、ヒロシはリバーサイドの北方にある貨物駅、コンテナヤードへ向かう。


「こいつはちょっと負ける気がしないな」


 アクセルを回し、軽くエンジンを唸らせながらヒロシが呟く。その呟きはユーヘイの耳に届かなかったが、ますます引き締まり男の色気が増したヒロシの横顔に、ある程度正確に内心を読んで、ふふふと笑う。


「気合が入るのは、やっぱ同じよな」


 気持ちはお互い同じ、そういう一体感を覚えながらユーヘイはマップに注意する。


 マップ上では、トージ達の車が危なげなく進んでる様子が確認出来、ユーヘイはへっと鼻を鳴らす。


「こんな事もあろうかと、仕込んでおいたのSA」


 トージが嫌がらない限り、ユーヘイは自分の技術をとにかく詰め込んだ。銃撃も格闘も、体の動かし方も、教えられる事は何でも惜しげも無く突っ込んだ。それがしっかり活かされている様子を見れるのは、やはり気持ちが良い。トージはワシが育てた、なんて大層な事は言わないが、それでもこうして結実したモノを見せられると喜びは強い。


「よしよし、そのままそのまま……」


 道のチョイスから相手がどこに向かっているかの予想は出来ている。コンテナヤードがある方面なのは確実だが、そこからどこへ向かうのかまでは分からない。


 このまま途中でトージ達と合流するのも有りか、そう考えていたら向かう進路がズレた。


「ん? コンテナヤード方面から……タテさん! 物流倉庫街の方へ進路が変わった!」

「了解!」


 マップを確認し、トージ達が向かった場所を素早くヒロシに伝え、向かう方向を修正する。


「あっちに何かあったか!」

「把握してない! コンテナヤードだったら隠れる場所があるし! 何ならそのままセントラルってルートもあったんだが!」

「あまり良い予感はしないなっ!」

「そういうフラグはノーサンキュー!」


 不吉な事を言いだしたヒロシに、ユーヘイはやめろよ、と軽く背中を叩き苦笑を浮かべた。なにはともあれ、このまま行けばトージ達との合流は問題なさそうだ。

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