第140話  共有ボックス

 

 病院も店も平穏というか順当に時間だけが過ぎて行った。

 その間に、病院の方で進めていた魔法の研究だが、一つ分かったことがある。

 この世界にいる人にとってはあまりに当たり前のことだったようで、誰もが知っていたようだが教えてもらえなかった事実、それは、この世界には魔法はあるが、その魔法についてまともに研究すらされていない。

 そのために魔法を教えるような機関もない。

 宗教色の強い聖アルマイト教国では、ひょっとしたらそれに近いことをしているようなのだが、どうも話に聞く限り治療魔法に特化していそうで、そういう意味では魔法についての理解度が低い。

 他の世界から来た俺と同レベルか、ひょっとしなくとも今現状では俺の方が魔法について理解していると思いたくもなる。

 少なくともモリブデンではそのようだ。


 なので、今は俺の抱えている女性たちだけだが、魔法を習得できるように色々と試行錯誤を繰り返している。

 ここ一月の成果としては生活魔法の初歩、ウォーターやプチファイヤーだけは全員が使えるようにまではできた。

 クリーンについては二人だけだが、俺が勝手に高位魔法と呼んでいるが、どうもより高位になればなるほど保有する魔力に依存してしまうのか、習得できる人が限られてしまう。

 また、どうも魔法にも系列があるようだが、これについてはまだ未知数だ。

 少なくともヒールなどの治療魔法は扱える人がいるにもかかわらず、他の人には教えることはできていない。

 まだ他がそのレベルに達していないだけかもしれないが、この辺りはパワーレベリングも考えてみる必要もありそうだ。


 俺はレベルアップの可能性を調べるために、王都への仕入れに際して、店から一人ずつ連れてレベルアップをしながら旅をしてみた。

 正直俺の先生は魔力などを調べられないのか教えてくれないので、どれくらいレベルアップが魔力の強化につながるかはいまいち分かり辛いのだが、それでもクリーンの使えなかったメイドなどが使えるようになるなどある程度の効果は期待できたので、とにかくレベルアップにつながるようなことをしていった。

 その片手間ではないが、魔法の研究も続けている。

 まずは治療魔法を習得するべく試行錯誤をしている。

 ヒールならば俺も使えるようになるまでには魔法の習得も進んでいる。

 また、病院スタッフとして購入してきた二人も診断魔法が使えるようになっていた。

 これもレベルアップの効果だと思いたい。

 まあ、診断はムーランがすでに習得はしていたのだがこの度のレベルアップのおかげか、キョウカも使えるようになっている。

 まあ、診断という魔法?スキル?は俺が勝手に呼んでいるだけで正式な名前はわからないし、何より俺も診断だとか診察だとかその都度勝手に呼んでいる。

 いい加減どこかできちんと名称などを整理しておかないとまずそうだ。

 そのあたりも含め一度マーガレットと相談しておこう。

 今のところ魔法研究はマーガレットを長として三人の魔法使いにお願いしている。


 今日は久しぶりに俺にはやることが無い。

 暇を持て増していたので、病院でゆったりとした時間を過ごしている。

「そういえばアイテムボックスって魔法は使える者が少ないと聞いたけど、魔力が増えたら使えるようになるのかな」

 俺は何気に横で文献を真剣に解読しているマーガレットに声をかけてみた。

「はい、ご主人様。

 アイテムボックスは非常に貴重なスキルと言われております。

 生まれ持った幸運なスキルと言われておりますから」

「生まれ持った?

 それなら赤ちゃんが使えるのか」

「いえ、ある程度大人になってからでないと使えないそうです。

 ですが、正直よくわかっていないものですね。

 アイテムバックなどの魔法具も稀にダンジョンなどで見つけられますから。

 そうですね、魔法の研究で一番遅れている、いや、一番わかっていない難しいジャンルになるのでしょうか。

 空間魔法などとも呼ばれておりますが、誰もが研究をしますが挫折して諦めてしまうテーマで、今ではほとんどの研究者もかかわらないテーマだと言われております」

「なんだよ、それだと俺たちは貴重種ってわけか」

「はい、ありえないくらいですかね。

 お二人もアイテムボックスが使えるなんて、研究が進んでいない理由の一つに研究者のそばに使える人がいないことが挙げられておりますから、私は恵まれているかもしれませんね」

 空間魔法か……

「あ、空間魔法って瞬間移動もできるようになるのか」

「瞬間移動ですか?

 あ、御伽噺などで出てくる移動魔法のことですか。

 大昔に大魔法使いなどが使えたという言い伝えもありますが、正直使える人がいるなんて聞いたことがありませんよ」

 マーガレットさんから聞いた話では空間魔法というジャンル扱になってはいるようなのだが、あまり研究が進んでおらず、今のところアイテムボックスや魔法具のアイテムバックくらいしか世の中にはないらしい。

 俺の知るルーラなどの移動魔法はどこにも存在しない、いや、物語や言い伝えの中に少しばかりあるようで、細々と研究を続ける変わりも者もいるらしい。

 主に長命のエルフ族に限られるようだが。

 なので、エルフであるガーネットに聞いても正直彼女は成人したて扱いでエルフの世界では若輩者になるので、エルフ界隈の常識に疎い。

 この世界というよりも人間界の常識にも疎いので、奴隷落ちした経緯もあるくらいだ。

 あまり気にはしていないらしい。

 人の一生はエルフの寿命に比べても相当に短いらしくエルフ族はいちいち奴隷落ちを気にはしないそうだ。

 少しばかり我慢をすればいずれ解放されるというのがエルフに伝わる話らしい。

 ほんとかいな。


 なので俺は今絶賛移動魔法についての研究をガーネットを交えて始めている。

 彼女は魔法全般を扱える器用さは持ってはいるが、アイテムボックスは使えないので、まずそこから始めようと俺とダーナとで、色々と試してはいるが、ガーネットはどうにもならないらしい。

 とにかく、レベルアップに期待を込めて、ガーネットにパワーレベリングに連れまわして色々と試していると、ある日急に変化が現れた。

 俺とガーネットの二人にだ。

 これは俺のレベルアップが影響しているのかわからない。

 先生もよくわからないらしい。

 しかし俺の中でアイテムボックスの中に共有空間なるものができている。

 試しに今まで拾っていた石などを入れてみても普通のアイテムボックスと変化はないのだが、ガーネットが騒ぎ出した。

「ご主人様。

 私何か使えそうです」

「何かとはなんだ」

「『共有ボックス』なるものが使えそうなのですが、急にその共有ボックスに石が現れました」

 彼女はそういうと自分のスキルで石を取り出して見せた。

 すると俺の中のアイテムボックスの中から石が一つなくなっている。

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