第94話 鋳物での挑戦

 

 そうだよね。

 初めて見せられれば難しいと言うよね。


「ああ、かまわない。

 もともと難しいことは承知の上だ。

 でも、この先の話になるが、これが成功すればの話だが、ある程度の量産性を考えないといけないと思うんだよね。

 ちょっと考えてみてくれないか」


「ハイ……」


 俺はサツキの詫びに対して一応のフォローは入れてみたが、作れないとなると問題だ。

 日本では、こういう場合にどうしていたっけな。


 そういえば営業先に、こんなものを作っていた町工場があったよな。

 あれはどこだっけかな……、確か埼玉のような……あ、そうだよ、俺の最後のお客だった川口の町工場だ。

 あそこのあの爺さん、俺が頼まなくても何度も聞かされた話では、あの辺りに昔は本当にいくつも工場があってとかで、自慢話を聞かされたっけ。

 なんでも映画の撮影の舞台にもなったとか。

 有名女優が街にきて大騒ぎなったとか。


 そうだよ、あの工場では……あ~、型を作って溶けた鉄を流し込んでいたっけか。

 確か鋳物とか言っていたよな。


 ちょっと待て、思い出そう。

 あの爺さんの話では、木型とかいうものを作り、それで、砂で木型を使って金属を流し込む型を作り、そこに鉄を流し込んでいたっけ。

 鉄が冷めれば、型が砂でできてるから簡単に鉄を取り出せる寸法だとか俺が聞かなくてもさんざん自慢されたよ。


 おかげで、鋳物についてちょっとした知識が……ごめん、今まで忘れていたよ。


 そうと決まれば、さっそく試さない手はない。

 まずは木型作りだ。


 俺はサツキのところに行って、簡単に説明した後、ガーナを呼んで木型の相談を始めた。


 ガーナは『これを木で作るのは簡単です』って、すぐに作業に取り掛かってもらえた。


 木型作りは、サツキが最後に行った、大きな塊から削り出す方法しかなさそうだが、さすがにその削り出しを青銅でさせるのには時間がかかりすぎる。


 できない話ではなさそうだったが、木で型を作ってから、砂型を作る考えはこの世界では一般的でないようで、サツキは俺の話を聞いて驚いていた。


 サツキの話では、たぶん初めての試みだそうだ。


 え、ひょっとして鋳物ってもの世界に無い。

 これも方法だけでも売れる。

 まあ、今のところ金には困っていないから、考えないが、これも俺たちの秘密ってことで。


 ガーナは翌日には一番大きな同柄の木型を持ってきた。


 次に砂型作りだが、砂は俺のアイテムボックス内にたくさんあるからいいけど、型を作っても固まらない。


 簡単に崩れてしまう。


 困っていると、外でレンガを作っている子供たちが集まってきた。


「ご主人様。

 何をしているのですか」


 子供たちは俺のことをご主人様と呼んでいる。

 まあ、彼らの面倒を見ているガーナがそう呼んでいるからやむを得ないが、彼らは奴隷ではない。

 秘密にしたいから、あまり他の作業は見せないようにしているが、外で作業をしている関係で完全には隠せていない。


 それに、子供たちを監督しているガーナも俺のところで作業をしているので、ガーナの元に子供たちが集まってくるのもある意味当たり前といえば当たり前の話だ。


 俺は、簡単に子供たちに説明すると、一人の子供が、なぜ砂で作るのかを聞いてきたから、俺は後で砂で作った型を壊して中から出来た物を取り出すからと説明すると、今度は別の子供が粘土ではだめかと聞いてきた。


 そうだよ、あの爺さんの真似をする必要はない。

 量産性とかコスト上の問題などがあり砂で型を取っているだけのようだったので、別にあとで壊せるものならば、熱で壊れない限り粘土でも問題は無いはずだ。


 子供たちからの思わぬ提案で、今抱えている懸案は片付いた。


 その後は、それこそ拍子抜けするほど順調にサツキが働いてくれたこともあり、手押しポンプは無事に完成した。


 ちょうど、ガーナが作っている娼館の別館もほとんどの作業は終了した。


 これに、完成したばかりの手押しポンプを取り付け、さっそく風呂の試運転だ。

 幸い、今日はよく晴れており、太陽熱温水器の方も十分にその性能を発揮するだろう。


 夕方になり、俺の奴隷たち全員を連れて別館に来て、さっそく風呂の具合を確かめる。


 あ、そうそう、ここで一つ報告しておかないといけないことが。

 王都から帰った翌日に、ガーナがカトリーヌと一緒に俺の寝所を訪ねてきた。


「あれ、今日は娘さんとのはずだけど」

 俺はなぜここにガーナがいることがわからなかったが、カトリーヌさん曰く、『ガーナさんがかわいそう』とのことだ。


 なんでも、あの王都での出来事以来、ついに我慢できずにガーナはカトリーヌに相談したそうだ。

「なぜ、私はご主人様に呼ばれないのか」と。

 カトリーヌも思うところがあってか、自分の番の時に娘を説得して、ガーナと代わったとのことだ。

 ガーナは乙女でないと言うこともあって、俺はそのままおいしくカトリーヌと一緒に頂いた。

 すると、それからほとんど間をあけずに、今度はサツキまでもが、ガーナだけでなくカトリーヌと一緒に俺のところにきて、自分だけが仲間外れは嫌だと、彼女は乙女であったはずなのに、そのまま三人でおいしくいただき、今では彼女たちとは何ら問題なく風呂に入れる関係になっている。


 なので、今日は全員を連れてできたばかりの娼館施設の試運転を兼ねてみんなで入浴してみた。


 結論から言うと、風呂としては問題ない。

 座位での行為も何ら問題ないが、俺としては、石鹸をつけて寝ながらサービスを受けてみたいという欲求がどうしても離れない。


 だが、風呂の床はレンガを打ちっぱなしのようなもので、そのまま裸で寝るには正直きつい。


 そこで思い出したのが、バザーで見たござだ。

 ござだけでも十分に使えそうなのだが、いっそのことござを使ってマット状のものができないか。


 いや、この場合畳もどきとでも言えないか。

 畳もどきなら何とか作れそうだと思い、さっそく翌日に商業ギルドを訪ねて、畳を売っている商店を紹介してもらった。


 すぐに商業ギルドからその足で紹介された商店に出向き、買えるだけの畳を買いあさった。


 俺の良く知るござと非常に似てはいるが、流石に新品でも、あのイグサのいい匂いはしていない。


 まあ、風呂で使うのだから臭いなど関係ないし、嫌な臭いでない限りこの世界でも受け入れられるだろう。


 ただ、ござ1枚では薄い。

 はっきり言って、何も使わない状態よりはましだが、それでも寝ながらのサービスを受けるにははっきり言って無理だ。

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