第28話 王都の奴隷商

「レイ様にお時間がないようでしたら、こちらから日程をご連絡しますが、もし時間に余裕があるようでしたら、当店をご見学なさいませんか。

 モリブデンのフィットチーネ奴隷商とも負けないものを揃えていると自負しております」


「え、冷やかしになりますが、見せて頂けるのですか」


「ええ、こちらこそお待たせしますし、これから見学に参りますか」


 奴隷商の支配人に連れられて、店内を案内してもらった。

 ドースン奴隷商もモリブデンにあるフィットチーネ奴隷商と同じように店内は清潔でとてもきれいになっていた。


「うちにくるお客様はいわゆる上流階級に属する方たちばかりですので、店内は清潔になるよう十分に気を付けております」 


 支配人は案内をしながら俺にこう言ってきた。


「ええ、奴隷を見るのに汚い所や、汚い身なりの奴隷は見ていても気持ちの良いものではありませんしね。

 そのお考えには私も共感を覚えます」


 奴隷など社畜しかいなかった社会からの転移では、この世界の奴隷にも何かシンパシーを感じているので、できればきつい思いなどしないで生活できれば良いなくらいには俺の良心もそう訴えてくる。


「そうですか、でもこのような店は少ないと聞いております。

 綺麗に維持するだけでもコストがかかりますからね。

 うちのような高額の奴隷しか扱わないところ以外では難しいようです」


「え、値段の安い奴隷などいるのですか」


「奴隷の値段だけですと犯罪奴隷、特に主殺しの犯罪奴隷などは安いようですが、流石に買い手も少ないようです。

 何より、犯罪奴隷は税金がとても高価になりますので、町に住む人はまず買いませんね」


「どういった人が買うのですか」


「城郭の外でなら税金はかかりませんから、大規模な農業を城郭外で営んでいる地主階級か、鉱山経営者ですかね。

 尤も王国所有でない鉱山は少ないですから、ほとんどが売れずに王国内のどこかの鉱山で働かされますよ」


 色々と案内してもらいながら奴隷について教えてもらった。

 この世界では一口に奴隷と云っても大きくは3つに分かれるのだそうだ。

 一つは借金奴隷。

 これは、事業の失敗や貧農が口減らしのために売られるなどした人たちで、任期がある。

 借金相当期間働いたら奴隷から解放されるのだそうだ。

 これは元の俺のような社畜に一番近い形態のようだ。

 次に犯罪奴隷。

 これはその名が示すように悪事を働いて捕まったやつで、ほとんどが解放される見込みのない人だ。

 軽犯罪で捕まった場合などは罰金刑になるので、その多くが借金奴隷扱いで犯罪奴隷にはならない。

 この犯罪奴隷になるのは殺人等の凶悪犯罪などを犯したやつだ。

 俺が捕まえたカーポネ一味などはこれに当たる。

 最後に、戦争奴隷を含む一般奴隷。

 戦争奴隷とは敵対する者たちで戦に敗れて連れて来られた人だ。

 最初は人質扱いで、身代金を収めさえすれば解放されるが、一般の兵士などはまず身代金は支払われることなどないから、これに落ちると聞いた。

 そう言う戦争奴隷などの一般奴隷の子供も含め一般奴隷と言われる。

 区分的にはこの3つしかないそうで、ナーシャのような違法奴隷については本当に一部の人しか知らないそうだ。

 次にどこまでが奴隷にしても良いかの話になるが、犯罪奴隷については人権そのものが無いので、まず何をしても問題ない。

 なので、街中で性奴隷としてや、それこそストレスの発散のための虐待しても何のお咎めを受けることが無い分、いわゆる贅沢品ぜいたくひん扱いで毎年収めないといけない税金がバカ高い。

 だからなのだろう、街中で暮らす人はまず犯罪奴隷を買う人は居ないそうだ。

 維持するのにコストがかかりすぎるのだとか。

 と云っても、普通に奴隷を持つことのできる裕福な人から見たら払えない額ではない。

 だが、他の奴隷と比べるとどうしても割高に見える分だけよほど気に入らない限り買われないから、ドースン奴隷商では最低限の数しか扱っていないとか。

 奴隷商に、この犯罪奴隷の最低扱い量がどうもあるようだ。

 次に戦争奴隷を含む一般奴隷についてだが、まず、任期に期限が無い。

 なので、いつまでも持ち主が解放しない限り奴隷のままだそうだ。 

 だが、人権と呼べるほどではないが一応の物はあり、いわゆる性奴隷扱いには本人の承諾が無い限りできないのだとか。

 後、故意に殺すことは罪に問われるのだそうだ。 

 だが、この場合に扱いは殺人罪ではないそうだから、重罪はならないのだとか。

 奴隷が広く使われだした当時には、奴隷と言えばこの一般奴隷のことだったそうだが、犯罪者も奴隷に落とされたりして、今では一般奴隷と言われる奴隷たちは少数派になるという。

 街中で一番よくみるのが。借金奴隷。

 これが最もポピュラーな存在で、奴隷の値段も税金等のコストも一番優れた存在だ。

 だが、任期は先に説明したように借金に相当する期間になっておりその任期の残り時間によって値段に差が出るのだとか。

 だが、この借金奴隷の内、少なくない人たちは商売などの仕事をしていた経験を持つ者がいるので、商家などではほとんどの奴隷がこれになる。

 ここドースン奴隷商でも一番の売れ筋が元商人やその家族の奴隷だそうだ。

 直ぐにでも仕事につかえるのが重宝しているのだとか。

 娼館などでは逆にこの借金奴隷は娼婦出身で無い限りまず買わないとも教えてくれた。

 強制的に行為を要求できないのが理由だそうだ。

 だいたいが、戦争奴隷で敵国から連れて来られた町人女性が説得されて娼婦になるのが多いとも教えてくれた。

 俺は売れ筋の借金奴隷たちが居る部屋から順番に見せてもらい、最後に犯罪奴隷の部屋に連れて行かれた。

 ここだけは、他と違い、まず座敷牢の様な造りとなっている。

 これは王都の決まりで、奴隷商で犯罪奴隷を扱う際には牢に入れて管理することになっている。

 理由はいくつも考えられるが、要は犯罪者を優遇しては治安上良く無いのだとか。

 または、そう思う人たちがいるからだとか言っていたが、町のルールだからここでも従っている。

 まあ、座敷牢内の状態はできる限り清潔に保たれているので、変なにおいはここにもない。

 支配人の言うには、デメリットしかない不潔状態にする必要がないとか。

 掃除の手間なども、本人たち犯罪奴隷にさせればよいだけな話で、場末の奴隷商のように不潔であることが信じられないとか。

 まあ、とにかくここでは奴隷はきちんと人として扱われていることが分かった。

 下手をすると俺が元居た会社よりもホワイトではとすら思えた位だ。

 一通り説明を受けながら見学させてもらったが、一言で言えばここの奴隷は凄い。

 美人やイケメンばかりで、品があるのがほとんどだ。

 幼い子もいたが、例外なく美少女や美少年ばかりだった。

 俺が今回買うことが無いこともあってか、奴隷ごとの説明は受けなかったが、おおよその相場を聞いたが、うん、まだ買えないとだけは分かった。


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