第27話 初めての王都訪問
流石に王都にある冒険者ギルドだけあって中はかなり広く、また、屯している冒険者の数もモリブデンとは比べ物にならないくらいだ。
王都にある冒険者ギルドは良くは分からないが、モリブデンでも冒険者ギルドは複数存在していたことから、ここだけでは無い筈だが、ここの作りから見るとそれらをまとめるギルド本部の役割も持っているのか、とにかく調度品から違った。
後、特徴的なのが、屯している冒険者も今まで立ち寄って来たどの冒険者ギルドよりも若干ではあるが上品のように思われる。
少なくとも女連れの俺に対してあの不快になるような視線は感じないし、直接的に絡んでも来ない。
まあ、今までも絡まれたことは無いが、それでも格下を見るような目で話しかけられたくらいはモリブデンでもあった。
流石王都と云ったところか。
俺はそのまま比較的すいている受付に向かう。
「城門で、ここに報告するように言われたのだが」
俺は受付嬢に向かってそう言ってから俺とナーシャの冒険者証を受付嬢に渡した。
「Fランクの冒険者の方ですね。
王都は初めてですか」
「ええ、あいにく人里離れた村に長く暮らしておりまして、王都どころか今回初めてモリブデンから王都まで来ました」
「そうですか、お待ちください」
そう言って、受付嬢は冒険者証を確認し始めて、急に驚いたような顔をして尋ねて来た。
「レイさんでよろしいのですか」
「ええ、レイですが、それが何か」
「あの、カーポネを捕まえたレイさんですよね」
ざわざわと周りの空気が代わった。
「ええ、運が良かったんですよ。
暁さんも居たし、暁さんの功績に混ぜてもらったようなものです」
俺の返答を聞いた受付嬢も周りも元の空気に戻った。
その後事務的なやり取りの後に、俺は情報を求めるために色々と受付嬢に聞いてみた。
幸いなことに、夕方も遅くなりかけているのでここのピークも終わっており、受付嬢も嫌な顔をしないで俺に付きあってくれた。
「そうですね、塩なら一樽金貨2枚で引き取っております。
これは、商業ギルドでも変わらないかとは思いますが、いきなり冒険者が商業ギルドに行っても相手されないのがおちですかね」
「そうなんですか。
ありがとうございます。
ところで、モリブデンのフィットチーネさんから王都にある奴隷商のドースンさんを訪ねるように言われてきたのですが、ドースンさんのお店ってわかりますか」
「奴隷商のドースンさんですか。
ああ、ドースン奴隷商会のことですね。
それなら、メインストリートを城門と反対側に向かって、貴族街に入る手前にあります。
かなり大きなお店ですからすぐにわかりますよ」
俺たちはその後も、ギルドで色々と情報を仕入れてから、勧められた宿に向かい、その日を終えた。
翌日になって、昨日冒険者ギルドの受付嬢から聞いたドースン奴隷商を訪ねてみた。
目的の奴隷商はすぐに見つけることができた。
メインストリートを教えられたように城門と逆方向に歩いて行くと、周りの建物がどんどん綺麗に大きくなっていく。
王城に近づけば近づくほどいわゆる格と云うのかそういうのが上がっていくようだ。
なので、この辺りまでくると、商人としても王都に住む住人たちからは一目も二目も置かれるようないわゆる名士と呼ばれる商人が店を構えているのだろう。
そんなことを考えながら歩いて行くと、一際大きな奴隷商の店を見つけた。
城門からここまで歩いてくる途中にもいくつか奴隷商は見たが、多分その中で一番立派な店のようだ。
入り口には身なりは良いが厳ついいかつい人が店を守るように立っていた。
「いらっしゃいませ、お客様。
当店に御用ですか」
入口に立っている一人の男が俺に話しかけて来た。
まあ、フィットチーネさんに用意してもらった服は上物だが、それでも冒険者としてだ。
羽振りの良い商人には見えない。
しかも、どう良い方に見繕っても上級の冒険者には見えないが、それでも珍しい虎人族の奴隷の少女を連れていることから、怪しんだのかもしれない。
「当店は初めてのお客様とは取引はしませんが、どなたかの紹介でもありましたでしょうか」
もう一人の男が丁寧だが、歓迎していないことが分かるような口調で話しかけて来た。
「ええ、モリブデンにありますフィットチーネさんから、ここを訪ねろと言いつかってきました。
これが紹介状です。
店主の方にお見せいただけたら幸いです」
俺はそう言いながら懐からフィットチーネさんから貰った紹介状を取り出して、一人の男に渡した。
それを受け取った男は紹介状に書かれている宛名を確認して、俺たちを店の中に案内してくれた。
通された応接室で待つと、直ぐに身なりの良い初老の紳士が入ってきた。
「お待たせしております。
あいにく店主のドースンは別の商談中ですので、もうしばらく待ちください」
そう言って入ってきたのはドースン奴隷商会の支配人を務める男性だった。
俺にお茶を進めながら世間話のように話しかけて来る。
「レイ様とおっしゃいましたか。
本日は奴隷をご所望ですか、それとも御連れの奴隷の販売でも」
支配人にこの一言を聞いたナーシャが急にビクッと体を震わせて俺にしがみついてくる。
自分が売られるのではと恐怖したようだ。
俺は彼女を落ち着かせるのを最優先と、ナーシャに優しく話しかけた。
「ナーシャは売らないよ。
もう一生分の税金も納めているしね」
もう少しましなセリフを吐けばいいのに、税金を払ったから大丈夫って、誰が聞いても絶対に女を落とせそうにないことを言っている。
だが、俺の一言で支配人には俺の真意は伝わったようだ。
「奴隷のご所望でしたか」
「ええ、いずれは沢山の奴隷を所有して大きく商売をしていきたいとは考えておりますが、あいにく商売の方がまだ軌道に乗っておりませんから」
「では、本日のご訪問の目的は。
差し支えなければお教え願えませんか」
「ええ、モリブデンのフィットチーネさんから紹介がありまして、ドースンさんに王都で開かれるオークションに連れて行ってもらえないかと」
「オークションですか。
モリブデンのフィットチーネ奴隷商からのお話でしたら私程度がしゃしゃり出ることではありませんね。
失礼しました。
ただ、あいにくドースンは商談中ですので、もうしばらくお待たせすることになるかと」
「ええ、私の方がいきなり訪ねたものですから、ご迷惑をお掛けします。
お忙しいようなら出直しますが」
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