第26話 王都を見渡せる丘

 あっちこっち寄り道をしながらも、王都を見下ろすことのできる丘まで来た。

 ここは王都に住む者なら誰でもが知るちょっとした観光スポットとでも言えばいいのか。

 この世界では観光などはないようなので、そうは言われていないようだが、最後に寄った村で散々聞かされた場所だ。


「あんちゃんたち、王都に行くなら、途中の丘から王都全体を眺められる場所があるから、時間を調整してでもぜひ見てくれ。

 朝王都を見るのは最高に気分が良いが、夕方でも趣がある。

 昼なんかはっきりと王都が見渡せるから、絶対に見ないと損だ」


 こんな感じで、散々教えられた。

 要は夜以外、いつでも最高のようだというのだ。

 しかし、実際に現場に立つと、確かにここからの眺めはちょっとしたものだ。

 一大パノラマを一望できるような観光タワーなんか望めないこの世界では、十分にその役割を果たしていると言えるだろう。

 確かに、ここは朝昼夕のどの時間に来ても感動を感じられそうな場所だが、流石に夜だけは仲間外れのようだ。

 もし、王都に電灯などの夜を照らす明かりが広まれば、それこそ一大夜景スポットとして十分に金のとれるくらいになるだろう。

 実におしい限りだ。


「しかし、大きな町だな」


「ええ、最後の町のギルドで聞いたらモリブデンよりも大きいらしいですよ」


「ああ、俺も聞いたよ。

 モリブデンの人口が10万人くらいだと言ったが、王都はその3倍以上の30万人と言われているとフィットチーネさんが教えてくれた」


「へ~~、そんなに大きな町なんですか」


「だが、実際にはそれ以上らしい。

 あのギルドの受付嬢が言うには王都の城壁外で住んでいるスラムの住人や各地の貴族領から連れて来られる兵士や配下とその家族たちを入れると50万人以上になるらしい。

 本当に、商売規模はモリブデンの方が大きいと言っていたが、あの話は本当かな」


「楽しみですね」


「ああ、でも楽しみだけでは済まないようなこともあるらしい」


「え、危ないんですか」


「貴族が沢山いるからな。

 貴族の住むエリアに近づかない限りは大丈夫のようだが、どちらにしても貴族には注意しないとな」


「分かりました。

 直ぐに王都に向かいましょう」


 どこまで俺の話を聞いていたのか、ナーシャはここから見える王都に興味津々だ。

 モリブデンも今まで通ってきたどの村や町よりもはるかに大きかったが、王都は流石に比べ物にはならないくらい巨大だ。

 それに、ここから見える王都はとにかく城を中心に作られた貴族の住宅がきれいに並んでおり、とても魅力的に見える。

 だからこそ、今までここを自慢してくる人たちが、絶対にここからの王都を眺めろとしつこく勧めて来たのだ。

 何せここからの眺めでは、王都の持つ汚い部分は全く見えないのだ。

 スラムは距離がありすぎて、スラムの持つあの雑多で汚らしい部分は見えない。

 だが、実際に王都に入ると嫌でもそれらを目にしないといけないことは俺は分かっているが、それがナーシャには分からないらしい。

 今のナーシャは公園か遊園地にでも向かう子供の気分なんだろう。

 期待に胸を一杯に膨らませて、楽しみにしているようだ。

 実際に見てがっかりしないと良いんだが、まあその辺りも自分が奴隷だということを理解していれば問題ないか。

 王都を見下ろすことのできる丘から4時間くらいかけて王都の城門に到着した。

 流石に王都だけはあり、王都に出入りする人達で、夕方だというのに城門は混んでいる。


「これはちょっと待つことになりそうだな」


 俺は並んでいる人の列の一番最後にナーシャと一緒に大人しく並んだ。

 俺が並んだ後からも人が俺らの後ろに並んでくるが、集まる人と同じくらいに効率的に城門での受け入れも順調に進んでいるようだ。

 俺たちが着いた夕方はちょっとしたラッシュアワーの時間なのか、城門で受け入れをする門番たちも相当数いるようだ。


「次!」


 門番がぶっきらぼうに俺たちを呼ぶ。


「ハイ」


「どこから来た。

 そして今回訪問の目的は何か」 


「はい、モリブデンから王都にいる人の伝言を運んできました」


「え、誰から誰にだ」


「モリブデンで奴隷商をしているフィットチーネさんから、知人の奴隷商宛てに手紙を預かっております」


 俺はそう言ってから、持っている奴隷商宛ての紹介状を門番に見せた。

 門番はその手紙すら手に取ることも無く、事務的に手続きを進める。


「お前たちは冒険者なのか」


「ええ、冒険者登録をしておりますが、行商を始めたばかりの商人です」


 俺はそう言ってから冒険者証を門番に渡した。

 その冒険者証を受け取ると門番は同僚にそれを見せてから、受け取った冒険者証を俺たちに返してきた。


「冒険者なら問題なし。

 この門に入ったら暫く道なりに進むと冒険者ギルドがあるから、一度顔を出しておいてくれ。

 冒険者についてはギルドで管理しているからな」


 門番にそう言われて俺たちは無事に王都の城内に入ることができた。

 前の村で聞いた城外のスラムは、俺たちが通ってきたメイン道路からは見えない場所にあるようだ。

 とりあえず、今日はナーシャをがっかりとさせ無くて済んだようだ。

 城門から続く道はかなり広く作られており、その両側には店などが並んでいる。

 この道は王都のメインストリートのようだ。

 そのままメインストリートを歩いて行くと急に広い場所に出た。

 この辺りは広場になっているようだ。

 その広場の目立つ場所に冒険者ギルドはあった。

 その冒険者ギルドとちょうど広場を挟んだ反対側に、商業ギルドと思われる建物もある。

 冒険者ギルドは非常にわかりやすい目印が、しかも目立つ場所にあるので、間違えることは無いのだが、商業ギルドはちょっと違う。

 モリブデンにあった商業ギルドもそうだったのだが、その町のシンボルと云うか、町の特徴を表すようなモニュメントがあり、ギルド入り口には目立たないように表札のようなものが取り付けてある。

 なんだか一見さんは御断りのような対応の作りだ。

 これは途中の町にある商業ギルドでも同じようなものだった。

 尤も途中で見たのは一つだけで、ある程度大きな町にでもなければ商業ギルドは無い。

 だから、ここから見た限りでは王都の大店と見分けがつかない。

 まあ、今回は冒険者ギルドに用があるので、ギルドで聞けば良いだけの話だから、とりあえず冒険者ギルドの中に入っていった。

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