第135話 スキル?の進化

 

 俺はメモを取るキョウカとムーランに声をかける。

「もし、鑑定が使えるようならばもう一度見てみてほしい。

 使えなくとも、患者さんをよく観察してみて」

 俺は魔法については全くの素人なのでよくわからないが、なんとなくだが、観察中に魔力を込めると何かが変わるような気がしたので、観察する際に魔力を込めたらどうなるか気になるとか言ってみたら、さっそく二人は実行してみるようだ。


 たしかムーランには鑑定が使えたはずだったのだが、それでも俺の指示通り観察をしてみる。


 すると、前には見えていなかった情報が見てきたと喜んでいた。

 よくよく聞くと生き腐れ病の他に、よくわからないけど何かあるというが、それがよくわからないという。

 ああ、これはあれだな。

 脚気と壊血病の違いだな。

 その場では簡単に話しておいたが、俺の知る簡単な家庭の医学知識でも教えておくだけで、多分この世界ならば画期的までとも言えないだろうが、それでもこの世界標準で考えれば相当すごい診察ができそうだ。

 うん、これもチートだ。


 とりあえず二度目の診察を終えて、俺たちはそのまま食事のための食堂に案内された。


 食事の席で今後について簡単に話し合った。

 フィットチーネさんは二三日この町で奴隷を仕入れてから帰るというが、俺は患者を放っておくこともできないので、しばらくこの場に残り様子を見ることになった。

 幸いというか、宿も食事もこの屋敷で面倒を見てくれるというが、ペンネさんは食事の後は自分の店に帰っていった。

 一応毎日様子を見に来るというらしいが、本人が来るとも言っていないのでどうなのだろうか。

 彼にも自分の仕事がある。

 フィットチーネさんと同じ奴隷商らしいのだが、ここ最近は俺につきっきりだったこともあり仕事がおろそかになっているらしい。


 当分はデスマーチだな。

 そういう意味では俺もそうなのだが、王都に仕入れに行くと思えばさほどのことはないが、フィットチーネさんは王都に仕入れに行くこともないことはないのだが、それくらい稀なために、今回はだいぶ仕事もためていることだろう。

 まあ、その代わりにかなり良い取引ができているらしいのだが、そこは先輩商人のことだ、問題はあるまい。

 それよりも俺たちだ。

 幸い患者は食事もきちんととれているし、何より日ごろから体を鍛えていたらしく基礎体力はあるようだ。

 そのお陰もあるのか翌日にはかなり状態がよくなっている。


 これは先生の見立てだから間違えはないだろう。

 キョウカさんも、患者をよく観察させていると三日目には鑑定というよりも診察といった感じのスキルが身についたのか、なんだか見えると言っている。

 ひょっとして鍛えればスキルというか魔法のようなものは身につくのかもしれない。

 これは帰ってから検証の必要がありそうだ。

 しかし、俺たちはとにかく暇なのだ。

 患者が金持ちだから許される話なのだが、俺たちも三度の食事の世話になっているので、とにかくやることが無い。

 日に三度患者を診察するくらいしかやることが無いのだが、空き時間に町を散策するもすぐに飽きる。

 なので、診察以外には俺は主にキョウカやムーラン相手に家庭の医学知識を披露している。

 俺でも魔法のようなものが使えるので、多分人の体の中は俺とキョウカたちとは変わらないという前提で、話をしている。

 魔法のための臓器なんか有ったら話が違ってくるが、多分問題はないだろう。

 その他は二人に魔法について色々と教わって時間をつぶす。

 この時ばかりはキョウカたちは先生で、俺の他に暇そうにしているダーナたちも生徒として魔法を教わる。

 その甲斐あってダーナは生活魔法のいくつかをマスターできた。

 ナーシャはいまだにコツがつかめていないので、魔法が使えていない。

 それでも一生懸命な姿には共感が持てる。


 まあ、それだけで暇がつぶせるはずもなく、人間最大の娯楽を楽しんでいる。

 流石に毎日4人相手では俺の方が参ってしまうが、ここでは順番に分けるわけにもいかず俺は頑張っている。

 一部屋にしてくれと俺の方から最初に頼んでいたので、今更順番に楽しみたいので、部屋を用意してくれとは言えなかった。


 結局、患者のいるお屋敷に1週間お世話になった。

 その間宿泊費に食事代は一切かからない、非常にお得な旅行……間違い、出張治療だ。

 その間、毎日診察を往診で行えば、自ずと経験を積むことができる。

 鑑定のスキルを持つムーランは完全に生き腐れ病の他に海人病というのがあるようだ。

 どうも長期航海にはつきものの病らしくって、俺のいた世界でもそうだった。

 長らく航海に出る人にとっては恐ろしい病気だったはずだ。

 ムーランは完全に生き腐れ病のうち壊血病の診察をマスターしたようだ。

 また経験を積んだことで、キョウカも診察?のスキルを身に着けたようだ。

 なぜ診察かというと、病気以外にはわからないらしい。

 正直俺にはよくわからないのだが、ひょっとしてヒールの魔法が使える人には練習すれば診察魔法も習得ができるとか…なんちゃって。


 まあ、よくわからないことをいつまでも考えても意味ないので、患者を診ていく。


 一週間もあれば流石に患者も良くなった。

 いまでは起き上がることもでき、一日数回庭を散歩している。

 先生鑑定スキルが許可を出していたので、俺もそれに従った。


 まだ完治とまではいかないが、もう俺はいらないくらいまでは回復している。

 後は体力をつけるなど、日常生活に気を付ければ問題ない。


「まだ完治とまではいきませんが、もう大丈夫ですね」

「ありがとうございました、先生俺のこと

 今日は珍しくペンネさんも屋敷に来ていたので、報告会を患者交えてしている。


「先生。本当にありがとうございました。

 正直もうだめかと思っていましたが、先生の自分が治りたいという気持ちが無ければのお言葉を頂いたこともあり、頑張った甲斐があります」


「ええ、基本病気に限らずケガもそうですが、人の体には自分で治ろうとする機能があります。

 普段何気なくケガなどしてもすぐに治るように、どんな病気にも同じ効果はあるのですが、ダメな時との差は、治ろうとする機能が病気やケガが体をむしばんでいく速さに追いつかない結果なのでしょうね。

 人の体にはわからないことがたくさんありますから、あくまで推測の域は出ませんが」


「先生のおっしゃる通りかと。今回ばかりは実感しました」


「もう私の手はいりませんね。

 後は体力がつけば大丈夫です。

 とにかくしばらくは無茶さえしなければ日常生活に戻っても良いですよ」


 そう宣言してこの地での治療を終えた。

 屋敷の主人から、考えられないくらいのお礼をお貰った。

 それに、ペンネさんからも奴隷の二人についての所有権を頂いた。

 尤も主人として登録は俺になるのであくまで気持ちの問題だが、それでも今回ばかりは相当な利益になった。

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