第203話 急ぎのモリブデン帰郷

 伯爵との面会を終え店に戻ると、今度は店長のカトリーヌから報告を受けた。


「レイ様。

 モリブデンから、急ぎでお話があるようです」


 彼女はそう言って一通の手紙を差し出してきた。

 俺は、それを貰い読んでみるとモリブデンに俺を訪ねてきた商人がいるらしい。


「これって、急ぎということは……」


「ええ、一度モリブデンにお戻りになられた方が」


「店長、レイ様は伯爵家からパーティーに招待されておりますが」


「あ、そうでしたね」


「それは大丈夫だろう。

 往復でも10日もかからないし、パーティーは30日後だしな」


「なら、モリブデンにお戻りになられますか」


「ああ、明日戻ろうかと思う……あ、そう言えば先の伯爵との会談で、今度のパーティーにはうちからも料理を提供することになったから。

 店で扱っている料理を数品向こうに教えることになった」


「え、料理のレシピをお譲りになられたと」


「ああ、そう言うことになるかな」


 俺の会話を聞いたメイドたちは複雑そうな顔をしている。

 ちょうど、バトラーさんも戻ってきたので、そのあたりについて教えてもらうと、貴族にとっておもてなし料理は非常に大切だと教えられる。

 この辺りも俺の知る物語の通りで、俺がレシピの譲渡についても判断の分かれることのようだ。


 別に俺が 苦労して生み出したレシピではないので、それほど思い入れが無い。

 そんな気持ちがあったのか、俺の態度にでも出たのだろう。

 ややもすると、ぞんざいに扱っていたように見えたのかもしれない。

 そのために王都の店では、俺のことを危なっかしい奴だと見られていたようだ。


「ここに通う貴族たちは、いずれは真似をするものも出るだろう。

 真似されるようならレシピの価値は下がるのだろう」


「ええ、今よりは下がるかと思います」


「ですが、レイ様。

 まったく無価値という訳ではありませんよ」


「ああ、でも伯爵家や、寄子たちのうちで真似されたら伯爵にも伝わることを考えないとな……あ、俺も寄子だったか」


「そうですね。

 それなら、レシピの一つくらいは」


「ああ、から揚げくらいは渡しておくか」


「そうですね。

 それよりも、モリブデンですが、いかがしますか」


「明日向かうつもりだ。

 急ぎ戻るから、10日もかからずに王都に戻る。

 それに何かあれば連絡してくれるのだろう」


「ええ、それでしたら今回は、私はここに残ります」


 王都まで付いてきてくれたエリーさんが王都に残ると言ってくれた。


「私は、ご一緒しても良いですか」


 王都まで一緒に来てくれたサリーさんは、俺と一緒にモリブデンに戻りたいようだ。


「ええ、良いですが急ぎますので、来る時と同じようにジャングルの中を歩きますよ」


「ええ、帰りもあのパワーなんとかというのをしてくださるのですよね」


「ええ、パワーレベリングのことですね。

 急ぎますので、結果的にそうなるかと思いますが」


「なら、ご一緒させてください」


「レイ様、サリーがモリブデンに戻るのならば安心できますので、私からもお願いできますか。

 王都は私だけでもどうにかできそうですので」


 エリーさんはモリブデンにサリーさんが戻るのを賛成している。

 今回の件で、モリブデン領主までかかわりそうなので、少し心配しているようだ。


「わかりました、では明日ご一緒しましょう」


 ということで、モリブデンに向かうのはいつものダーナとサーシャに加えサリーさんというこじんまりしたパーティーで向かうことになった。

 どんなに急いでも王都からだと、流石にまだレベルが上がり切っていないサリーさんが一緒なので、2日での移動は難しいが、それでも3日もあれば帰れそうだ。


 王都に着いてもゆっくりとはできずに急ぎモリブデンに戻ることになったので、その日の夜はみんなで福利厚生のための会を開いた。

 流石に、人数が人数だったこともあり全員を満足させるまでには至らなかったが、エリーさんやサリーさんなどはかなり遠慮してくれたので、少なくとも店を任せている母娘だけは満足させることに成功はしたので、良しとしよう。


 翌朝、早いうちに俺たちは王都を離れた。


 俺の予測通り急ぎ帰ってきたのだが、3日もかかり、夕方にどうにかモリブデンの店に入った。


「おかえりなさい、レイ様」


 現在モリブデンの店を任せているマイが言葉を掛けてきた。


「ああ、ただいま。

 なんでも、商人が俺を訪ねてきたとか聞いたが」


「ええ、商業連合の大店であるペンネ様がレイ様を訪ねてまいりました」


「それで、ペンネさんはどこに」


「さあ、商業ギルドにお尋ねになればわかるかと思いますが」


「ああ、明日にでも訪ねてみるが、何か聞いて無いか」


「はい、ペンネ様がおっしゃるにはレイ様のご領地がどうとかと申しておりました。

 モリブデンとの交易ができるのかともおっしゃっていたような。

 これだけですが、レイ様にはわかりますか」


「ああ、ありがとう。

 大体理解したが、それにしても話が早いな」


「レイ様。

 どういうことなのですか」


「たぶんだが、侯爵家から伯爵の派閥相手に喧嘩を仕掛けてくるようなのだ。

 そのやり玉に俺の領地が上がっているらしい。

 だから今回王都に呼ばれたのだが」


「王都の方は大丈夫なのですか」


「ああ、すぐに戻るが、問題は無さそうだ。

 伯爵に任せておけば大丈夫らしい。

 念のためにお姉さん方が王都でも頑張ってくれている」


「はい、私たちに任せてください。

 エリーが王都に残っておりますので、侯爵くらいどうとでもできますわ」


 サリーさんが何やら物騒なことを言い始めたのだが、それにしても心強い。

 まあ、伊達に王族相手に筆おろしをしていたわけでもないだろうし、本当にサリーさんだけでも大丈夫な気がしてきた。


 翌日に、さっそくサリーさんを伴って商業ギルドを訪ねると、すぐにギルド長の部屋に通された。


「レイ男爵。

 やっとお会いできましたね」


「やっと……ああ、そういえばあの事件以来だから叙爵後初めてかもしれないな」


「ええ、ですのでまずは事務的なことからお伺いします」


 そう言われて、ギルド長から聞かれたのは、俺の商業ギルドの扱いについてだった。


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