第202話 レシピの扱い

 伯爵との話し合いで、来月に王都にいる伯爵の寄子を集めてパーティーを開くことで、今回の王都訪問の目的は済んだ形になるが、伯爵から俺の領地について詳しく聞かれた。


「それで、領地の方はどんな感じなのだ」


「はい、私が領地入りした時は酷い有様で、領都の住人も病気が蔓延する前と比べても半分以下、多く見積もっても3分の1以下くらいでしたか」


「現在はどんな感じなのだ」


「はい、領都以外の村が3つあり、そちらも酷い状況でしたので村の人たちを一度領都に集めましたが、それでも領都の最盛期と比べても半分にもなっていないでしょう。

 うちの家宰の見立てではやっと3分の1くらいまでになったくらいかと言っておりましたが」


「うちの連中が集めてきた情報では、と言っても先のパーティーで話されたことらしいが、住民のほとんどが相当回復して活気を取り戻しているとか聞いたらしいぞ」


「活気ですか……町の活気でしたらもしかしたらそうかもしれませんね。

 あそこは、かなり前から港が寂れていたと私も聞いておりましたので」


「港が寂れていたとは?」


「はい、先代、先々代の御当主様の時代では相当活気のあった街らしかったのですが、今代……いや今は私が今代になりますね。

 私が拝領する直前までは相当に寂れていたとのことでしたが、私がモリブデンとの行き来することもあり、また、領内の食料状況も悪いために船で食料を運ばせているものですから、港だけは活気が出てきましたかね」


「それはどういうことだ……」


 そこから俺は簡単に今までの経緯を伯爵に説明していった。

 とにかく領内の食料状況が悪かったことを自分が知る限り正確に伝えたのちに、伝手の合った商業連合の商人に連絡を取ったことを話した。


「すると、今もその商業連合から船は来ているのか」


「はい、まだ自領だけでは領民に十分な食料をまわすことができませんので」


「費用は大丈夫なのか」


「はい、最初は持ち出しでしたが、先方の協力もあり、付近の森から討伐している魔物の素材を引き取ってもらうことで現在はどうにかなっております」


「魔物の素材だと、それはどういうことだ」


「はい、付近に出没する魔物には相当に強いものがおりますのもので」


「それを討伐しているのか」


「はい、仲間に恵まれておりますものですから」


「それで、話の筋が見えてきた」


 伯爵がそう言って話してくれたのは、俺が魔物の素材を船でモリブデンなどに出すものだから、一部では噂に上っているらしく、眼鼻の利く貴族から狙われ始めたらしい。


 確かに、俺たちが外に出している魔物の素材は高値で取引されているらしい。

 らしいと表現しているのは、それらをまだ食料に変えてもらっているので、一切の現金を貰っていないためだ。

 確かに今考えると、扱う食糧の量が尋常ではなかったな。


 伯爵の話は続き、そんな噂が出始めた時に俺と領地を接する貴族、伯爵から聞く限り子爵だということで、俺からすれば上位貴族になるらしいのだが、俺が挨拶に伺っていないことが不服らしい。


 俺の挨拶が無いどころか、一切の行き来が無いことが不思議だったらしく、かなり詳しく俺のことを調べているようで、俺に従わなかった村長達を引き入れて、伯爵と敵対する派閥に協力を依頼したらしい。


 さらに厄介なことに、俺の領地から逃げ出していった商人の元締めは元の領主の伝手を頼りに王都で商売を始めているようなのだが、その領主が伯爵とライバル関係にある侯爵らしく、地元近くの領主からの訴えと噂に、抱えている寄子の復権を狙って俺を追い出す運動を始めたとかで、最初に伯爵が話していたパーティーに繋がるとか。


 俺からすれば、いい加減に放っておいて欲しかったのだが、何か仕掛けてくるらしい。


「何かを仕掛けるとは?」


「まずは荷留めだな」


「荷留めとは、なんですか」


「ここ王都から貴殿の領地までは一本しか道は無い。

 その道を止めるのだな。

 他の領地から荷が届かないようにな……あ、それは意味無いな」


「はい、私たちは、その道は使っておりませんので」


「それもそうだな、船でモリブデンとつながっていたな」


「ひょっとしてモリブデンで船留めでも……」


「さすがにそれはできないな。

 それにモリブデンの領主はあの侯爵家とは仲が良くない。

 ああ、そうだなぁ。

 今度のパーティーにゲストとしてモリブデンの領主を招待してある」


「は?」


 「貴殿はモリブデンでも活動しているのだろう。

 私は知らなかったと言え、モリブデンの商人でもある貴殿を推薦してしまったこともあるので、一応詫びなければならなくてな」


「あ、それは大変申し訳ありませんでした。

 私のための伯爵様にご迷惑をおかけして」


 そういえば、何度か領主との面会を打診されていたかな。

 商業ギルドから、闇ギルドだっけか、ギルドがらみのごたごたがあって、すっかり忘れていたよ。

 しかし、今更挨拶するのも機会を失うと本当に敷居が高くなる。

 そういう意味ではひょっとしなくとも今度のパーティーは俺にはメリットしかなくないか。

 ならば、こちらからも色々と協力しておくか。


「伯爵様には、本当にご面倒をおかけして申し訳ない」


「いや、気にするな。

 嫡男の治療の件でわしも少しおかしかったやも知れぬ。

 普通ならば、こんな失態はせぬのにな。

 だが気にするな。

 それほどのことでもないし、今度のパーティーでモリブデンの領主か、その代理にでも会えば済むだけの話だ」


「それでもです。

 そうです、今度のパーティーではうちからも料理を出させてください。

 レシピを伯爵にはこっそりとお教えしますから」


「え?

 レシピを教えるだと。

 確か貴殿は王都でも有名は店を営んでいなかったかな」


「ええ、領地にお出しする店に、石鹸なども売っておりますが」


「おお、そうだったな。

 そこの料理を提供するとな。

 しかも、そのレシピまで……それはかえってこちらが借りを作る格好になるな」


「それでしたら、今後ともに私の至らないところを補ってください。

 一応、今回連れてきた家宰を王都に残して、屋敷の面倒を見させることにしておりますが、何分彼も王都での付き合いもなく」


「それなら気にするな。 

 うちから人を出してでも面倒を見よう」


 どうも店のレシピはかなり効いたようだ。

 別に俺が考えたわけでもないが、それが役立つのなんかそれこそ転生物アリアリだな。


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