第201話 伯爵邸 訪問

 俺はそんなことを聞いていないので、絶対におかしいとなんだか腹が立ってきた。


 流行り病が峠を越えたが、それでも領地拝領も病気治療の術を持っている俺に任すので、どうにかしろと言った感じだったのだが、潰して一から作り直せって聞いていない。


 そもそも、そんな思惑があれば俺との面談の時にあの宰相から直接言ってくれればよかったのに、そんなこと一切聞いていない。

 とにかく現地の流行り病をどうにかしてくれと言ったことくらいしか言われていなかったはずだ。


「俺は何も聞いていなかったぞ。

 俺にどうしろというのだ」


「まずは、復興など考えずに、どうやって被害を減らして手仕舞いするかを考えるのが普通の貴族ならば考えるでしょうね」


「そうですね。

 過去にも何度かはやり病が原因で潰れた領地はありましたが、全て作り直した感じでしたかね」


「それこそ近くに領都も動かして、できるだけ悪い気が溜まらない場所など探して作り直していたと聞いております」


「病気で全滅ってか。

 考えただけでも恐ろしい話だな。

 それでゴーストタウンになった町を放棄して作り直しなんか、ずいぶんもったいないことをする話だな」


「ゴーストタウン?」


「もったいないって、何ですか、レイ様」


「ああ、俺のいた世界での話だ。

 でも、今の話を聞いた限りこの状況で俺が呼び出される理由にはならないよな」


「ええ、ですからレイ様が変なのですよ。

 すでに、病気については完全に抑え込んでおりますし、領都の方も少しずつではありますが動き出してきておりますから、そのあたり目ざとい商人や貴族が目を付けてきたのでしょうね」


 王都の店で聞かされた情報はあまりに俺の想像を超えていた。


 病気の蔓延なんて、それこそいつの時代でも、どの世界でも起こりえる話だろうに、それをいちいち潰していくなんて考えられない。

 まあ、これなどはあまりに極端な話らしく、多くの場合が自然に治まるのを待ってから、日常に戻っていくことらしいが、俺の拝領した領地の当時の状況が、その話に出てくる極端な例になるらしい。


 それも歴史上初めてと言ってもいいくらいの酷い有様だとか。


 まあ、歴史上と言ってもこの国の歴史なんて数百年も無いらしく、その歴史から見た話だとかだが、それでも割と簡単に降参して、町の有力者たちは率先してどんどん逃げて行ったとか。


 この街を治める領主も、王都にいたことを良しとして、その後一切戻ることなく、財産だけを王都に運んで行ったと、バトラーさんが苦々しく話してくれた。


 バトラーさんからよくよく話を聞くと、彼は先代からの家宰らしく、今代に変わった時に無理やり相談役に近いポジションに移されたらしい。


 新たに領地の屋敷を任された家宰というのが酷くて、相当街の財産を着服していたとかで、領地の流行り病騒ぎのことで、前の領主ともども没落したとか。


 噂では、平民に近かった家宰の方は、今回のヘイトを集め全ての罪を背負わされての刑罰で処刑されたとか。

 うん、この時代の命の値段は、特に平民においては相当に安い。


 前の領主は寄り親の庇護のもと、どうにか命だけは救われたとか。


 ……前にも似たような話を聞いたな。


 俺のところに来たメイドたちの元のご主人様あたりがそんな感じだったな。

 しばらくほとぼりが冷めるのを待ってから、騎士爵あたりに叙爵されるとか聞いたことがあるけど、今回も似たような感じになっているらしい。


 とりあえず、王都にいる者たちは十分に仕事をしてくれて、集められる情報は全て聞くことができた。

 しかし、聞けば聞くほど頭にくる話だった。


 翌日にはさっそく伯爵様からのお呼び出しを受け、俺はバトラーさんを連れて伯爵邸に赴いた。


 すぐに伯爵邸の家宰から歓迎のあいさつを受けたのちに伯爵の執務室に通された。


「私からの呼び出しに、すぐに応じてくれて感謝する」


「いえ、伯爵様には日ごろから庇護を受けておりますので、私の方が社交シーズンにもご挨拶に伺えなかったことをお詫び申し上げます」


 そんな感じで、挨拶から始まった伯爵との会談だが、次にバトラーさんを紹介して、やっと本題に入れた。

 そこで聞かされた話は俺が昨日聞かされた話をより相当酷いものだった。


「貴殿を呼んだのは他でもない。

 貴殿の領地の件でうちの寄子たちが少し騒がしくなっているのだ」


「は?

 どういうことですか」


 伯爵の話では社交シーズン最後に伯爵とライバル関係にある侯爵家の派閥において盛大にパーティーが開かれたのだが、そのパーティーでは、もっぱら俺の領地のことが話されたというのを、寄子たちが聞きつけて、俺という存在について騒ぎ出したとか。


 もともと俺が男爵位を賜った後では伯爵の寄子たちとは一回も合ったことが無かった。


 普通の場合、と言っても新たに男爵位を賜う貴族が誕生した場合などが、そもそも珍しく、ほとんどの場合が有力貴族の分家が生まれるくらいしかなく、俺の場合があまりに稀だったとか。


 分家以外でも戦争時の功績などにより騎士爵家が昇進して男爵になる場合もあるが、その場合でも派閥内では知れた存在の者しかないが、俺の場合、社交シーズンの始まり以前に伯爵の嫡男の快気祝いの席で紹介されたくらいで、その後一切関係者にはあっていないことが、騒ぎを大きくしたらしい。


 というのも、伯爵とライバル関係にある侯爵家のパーティーの席で俺から領地を取り上げろと気勢を上げていたとか。

 それを風のうわさで聞いた伯爵の寄子たちが、訳も分からず騒ぎだしたらしく、一度俺を紹介する場を持ちたいというのだ。


「すまんな。

 貴殿の場合、あまりに特殊なケースでの叙爵と領地拝領だったこともあり、私の仲間たちにも貴殿を紹介する機会を持てなくて、騒ぎが大きくなったようなのだ」


「いえ、私のせいで、伯爵様にご迷惑をおかけしたことを詫びします。

 何分、貴族の生活など一切知らないものだったこともあり、ご挨拶もせずに領地入りしたのは私ですから」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る